第 5 章 連携及び解除の比較実験
5.1 目的
複数の既存の携帯情報端末の連携手法を被験者に体験してもらい,これらの手法と比較し た提案手法の特徴を知る.この実験の結果から提案手法における連携及び解除の方法の長所 及び短所を発見することが本実験の目的である.
さらに,携帯情報端末の連携だけでなく,従来の研究では評価されることが少なかった連 携の解除まで被験者に行って貰った上でその手法の評価を行う.ユーザが実際に携帯情報端 末を連携させる際には端末を連携させ,そして解除させる操作まで行うため,本実験では実 際の利用環境に即した評価方法として,連携から解除までの一連の流れを行う.
5.2 評価手法
Umarらの実験[RQ09]に用いられた携帯情報端末の連携手法である5種類の操作手法に本
研究の提案手法を加えて実験を行う.評価にはUmarらが纏めた6つの評価項目に対する 5-リッカート尺度を用いる.なお,Umarらは携帯情報端末の連携のみの評価を行っていたが,
提案手法は連携に加えて解除まで行った場合の評価を行う.被験者には全ての操作手法を行っ た後に,評価に加えて被験者自身が使用したい順に順番を付けて貰う.また被験者に,各手 法についてコメントがあれば記入してもらう.
5.2.1 評価項目
評価項目は以下の6つである.
使いやすさ この連携手法は使いやすかった 即時性 連携及び解除に時間はかからなかった 見た目 提案手法は魅力的であった
オリジナリティ 提案手法は独創的であった
確実性 連携・解除の動作を行った時,誤動作は発生しにくい
セキュリティ 連携を行った端末間において重要なデータを送信することに抵抗は無い これらの各項目について,各操作手法を5-リッカート尺度により評価してもらう.また、そ の尺度を選択した理由や意見があればコメントとして書いて貰う.
5.2.2 操作手法 連携手法
本実験において用いる携帯情報端末の連携手法は以下に示す6通りである.これらの手法 はUmarらの実験に用いられた手法に本提案手法を加えたものである.表現を統一するため,
提案手法の名称をPilingとして被験者に説明を行った.以降,Pilingは提案手法による連携と 解除の手法を表す.また,6通りの連携手法を図5.1に示す.
Shaking 端末を合わせて振り同様の加速度を与える
Bumping 端末同士を接触させる
Simultaneous Button Pressing 同じ位置にあるボタンを同時に押し,離す
Stitching 端末を並べ,接する辺を横切るようにスワイプ操作を行う
Touching 端末を持った手(人体)を媒体にして接触させる
Piling 端末同士を重ねる
解除手法
また,それぞれの手法において,連携の解除手法は以下とする.
Shaking 一定距離(10m)だけ端末同士を離す
Bumping 端末同士が接触している辺から切り離す
Simultaneous Button Pressing 片方の端末のメニューから「disconnect」を選択する
図5.1:連携手法([RQ09]より転載した画像を含む)
図5.2:連携及び解除の比較実験の実験環境 Stitching 片方の端末のメニューから「disconnect」を選択する
Touching 両方の端末の解除ボタンの同じタイミングで押す
Piling 接触している端末同士を離す
これらの解除手法は,先行研究[MG09, Hin03a, Rek04, HRG+04a, PKS+06]における解除 手法を参考に,新たに設定した.Simultaneous Button Pressingについては連携の解除手法が 記述されていなかったため,片方の端末のメニューから「disconnect」を選択する方法を解除 手法とした.この理由は,両方の端末の解除ボタンを押す操作よりも手軽に行うことができ,
一定距離だけ端末を離す手法はユーザが即座に解除を行うことができないためである.
5.3 実験環境
本実験に用いた端末はREGZA Tablet AT830(以降,大端末)及びGalaxy S II(以降,小端 末)である.
被験者には椅子に座ってもらい,机の上に置いた大端末と小端末を操作してもらう.なお,
Shakingにおいて連携の解除を行うときのみ,小端末を持って立ち上がり,机上の端末から
10m離れるまで歩いて貰った.実際に実験を行っている様子を図5.2に示す.
表5.1:連携と解除の方法
手法 連携手法 解除手法
Shaking 端末を合わせて振る 端末を10m以上離す
Bumping 端末の辺同士を接触させる 端末同士を離す
Simultaneous
Button Pressing ボタンを同時に押し,離す メニューから「disconnection」を選択 Stitching
横に並べた端末を横切るように
スワイプ操作を行う メニューから「disconnection」を選択 Touching
端末を片手ずつで持ち、
持った手を接触させる
「disconnection」ボタンを 同じタイミングで押し、離す
Piling 端末同士を重ねる 端末同士を離す
5.4 実験方法
被験者にはまず,実験手順書に沿って実験の説明を行った.次に,操作手法について,そ れぞれの操作手法における連携と解除の方法の表と図5.1を見せて説明を行い,実験者が手本 として各操作手法につき1度ずつ連携と解除を行って見せた.この時被験者に見せた表を表 5.1に示す.
実験者が手本を見せた後,被験者に携帯情報端末の連携と解除を行って貰った.本実験に おいて,被験者が行う手順を以下に示す.
1. 被験者の目の前に大端末と小端末の2つの端末が置かれる.
この2つの端末には図5.3 (1)に示すように別々の画像が表示されている.
2. 被験者はこの2つの端末を実験者が指定した手法により連携させる.
2つの端末が連携されると,図5.3 (2)に示すようにスマートフォンの画像がタブレット に表示されている画像と同一のものとなる.
3. 端末を連携した後,実験者が指定した手法により連携の解除を行う.
連携が解除されると,図5.3 (1)に示したように再び別々の画像が表示される.
4. 手順1〜3を一つの操作手法につき,3回繰り返す.
5. この3回の繰り返しをそれぞれ6通りの操作手法において行う.
つまり,被験者1名あたり計18回の連携と解除を行う.操作手法の順序は,5.2.2節に おいて述べた順に行った.
6. 全ての操作手法において3回ずつの連携と解除が終了した後,アンケートを記入する.
実験には,操作手法以外の環境を統一するため,Wizard of Oz法[DJA93]を用いた.Wizard
of Oz法とは,実験者がシステムの代わりにその処理を行うことにより,あたかもそのシステ
ムが存在しているように見せかける手法である.実験者は被験者が連携を行う様子を観察し,
(1)連携前 (2) 連携後
図5.3:端末同士の距離による大端末の表示の違い
(1)タップ前 (2)タップ後
図5.4: Wizard of Oz法を行うアプリケーションの様子
被験者が連携を行ったタイミングにおいて被験者に見えない所から遠隔操作を行い,小端末 の画面を大端末と同一の画面に変化させる.また,被験者が解除を行ったタイミングにおい て同様に遠隔操作を行い,小端末の画面を大端末と別々のものに変化させる.この遠隔操作 を行う端末として,LifeTouch LT-TLX5W1Aを使用した.
Wizard of Oz法を実現するため,端末の画面上をタップすると指定された端末に表示される
画像が切り替わり,もう一度タップすると指定された端末の表示が元に戻るアプリケーション を作成した.通信方法はBluetooth通信を使用した.アプリケーションの様子を図5.4に示す.
また、実験中の実験者の様子を図5.5に示す.図5.5内の右側の人物が実験者である.実験 者は長机を挟んで被験者の対面に座り,遠隔操作を行う端末を被験者の死角である実験者の 膝の上に乗せて操作した.
5.5 実験結果
5-リッカート尺度による評価の結果のリストを付録B.1.1に添付する.
各操作手法における各評価の平均値と,全ての評価項目の平均値を表5.2に示す.また、こ の平均値を纏めたグラフを図5.6,5.7に示す.図5.6のグラフは評価項目毎に纏めたグラフ であり,図5.7のグラフは操作手法毎に纏めたグラフである.図5.7の黒い円は各手法におけ
図5.5:連携及び解除の比較実験における実験者の様子
る全ての評価項目の平均値である.提案手法は全ての評価項目においてShaking,Touching, Simultaneous Button Pressingの評価を上回っていた.また,全ての評価項目の平均は提案手法 が最も高かった.
被験者自身が使用したい順に付けた順位の表を付録B.1.2に添付する.また,この順位の 平均を表5.3に示し,グラフに纏めたものを図5.8に示す.全ての操作手法の内,提案手法と
Stitchingが被験者に最も好まれた操作手法であった.
また,各操作手法における各評価のコメントと,順位付けの理由を付録B.1.3に添付する.
表5.2:各操作手法の評価の平均値
手法 使いやすさ 即時性 見た目 オリジナリティ 確実性 セキュリティ
Shaking 2.125 2.125 2.125 3.125 3.375 3.750
Bumping 4.500 5.000 3.875 3.000 2.375 4.000
Simultaneous
Button Pressing 2.625 2.750 2.250 2.000 3.750 3.625
Stitching 4.250 4.375 4.250 4.375 4.375 4.125
Touching 3.000 3.750 3.625 3.875 3.625 4.000
Piling 4.375 4.375 4.375 4.375 4.000 4.375
図5.6:評価項目毎の評価の平均値
図5.7:操作手法毎の評価の平均値
表5.3:各操作手法の平均順位 操作手法 平均順位
Shaking 5.75
Bumping 3.00
Simultaneous
Button Pressing 4.50 Stitching 2.00
Touching 3.75
Piling 2.00
図5.8:各操作手法の平均順位