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3.2 技術ロードマップ

3.2.1 目指す姿

ける日本の風力発電機メーカの存在感は小さく、国内市場においても、欧米企業にシェアの大 半を握られているのが現状である。

3) 世界に誇る日本企業の技術力

ただし、日本の風力発電機メーカの技術力は決して海外メーカに劣るものではない。近年三 菱重工業が米国市場において受注数を伸ばしている他、国内市場に占める国内メーカシェアも 上昇している。ものづくりにおける日本メーカの技術力は世界が認めるところであり、今後の 技術開発、実績の積み上げによる信頼の獲得、販売網の強化等を図ることにより、市場シェア を拡大させることは可能である。

また、風力発電機レベルでの世界市場シェアは小さいが、風力関連部材では、軸受の分野で 世界的に活躍するジェイテクト、日本精工、NTN、あるいは、風車の大型化に伴い、世界的に 需要が増加する可能性の高い炭素繊維の分野で東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンなどが競 争力を有している。

また政策面では、全量固定価格買取制度の導入が検討されるなど、風力発電を取りまく環境 も変わりつつあり、国内風力産業の伸張と、その後の海外市場への展開も充分に期待できる状 況となりつつある。

(2) 我が国の風力発電の目指す姿

以上の状況を整理すると、我が国の風力発電の目指す姿は以下に集約される。

世界の風力市場が拡大し、陸上から洋上までそのビジネスチャンスが広がる中、日本企業の 世界市場シェアを拡大するためには、海外企業に勝る性能およびコスト競争力を持つ風力発電 機の開発が必要となる。

日本においては、山岳地形や複雑な風況が導入障壁となり、国内市場は低迷しているが、逆 に日本で問題なく運転できる風力発電機は、世界の全地域で通用する性能を持つと考えられる。

従って、国内市場をターゲットに技術開発を進めることは、海外市場における競争力を高める ことと同義である。また、日本のものづくり技術は世界トップクラスであり、今後の技術開発 による巻き返しは可能である。

従って、まずは風力発電を取りまく様々な立地制約を克服する技術的対策を推進し、国内導 入量の拡大を図ることにより、国内企業の技術を確立することが第一の課題となる。また、国 内市場で培った技術力を背景に、海外市場で競争力を有する国内企業を育成することが第二の 課題となる。日本企業の世界シェアの拡大は、国内の風力発電関連産業全体の育成につながる ものであり、その経済波及効果は高い。産業全体を見据えた、戦略的な技術開発が重要である。

なお、我が国の風力発電の目指す姿を追求していく上で、不可欠となるのが、再生可能エネル ギー推進に対する国としての確固たる姿勢である。諸外国が戦略的に再生可能エネルギーへの 投資を行っている現状において、新成長戦略やエネルギー基本計画等に基づく国による強力な 後押しが不可欠であることは言うまでもない。

図表 3.71 風力発電の目指す姿

○風力発電を取りまく様々な立地制約を克服する技術的対策を推進し、国内導入量の拡大を図る。

○国内市場で培った技術力を背景として海外市場で競争力を有する国内企業を育成する。

3.2.2 目指す姿の実現に向けた課題と対応

前項に掲げた風力発電の目指す姿を実現するために、技術開発、普及拡大のそれぞれにおいて、

以下に示す課題へ対応していく必要がある。

(1) 低コスト化の追及

2009 年 8 月、総合資源エネルギー調査会 新エネルギー部会が発表した「新エネルギー部会 中間報告」によると、大規模風力発電の発電コストは、9~14円/kWhと試算されている。一方、

システム価格は1997年~2008年の間20~30万円/kWで推移、2003年度までは低下傾向にあっ たが、2004年度以降、世界的な風車需要の増加に伴う売り手市場の形成、鋼材の値上がり等に より上昇に転じている。風力発電設備を設置しやすい平地部への展開は今後も続くことが予想 されるが、風力発電の導入をさらに促進するには、山間部へ、あるいは、洋上へと設置場所を 求めていく必要がある。しかし、こうした場所への設置はこれまで以上に設置に係るコストの 上昇につながる恐れがある。一方、風車の大型化や、風車が大量導入されることによるスケー ルメリットは期待されることから、設置に係るコストの上昇分を相殺し、さらに発電コストを 低減させる努力は継続的に取組むべき重要な課題である。アプローチとしては、日本の場合、

人件費では発展途上国のコストと勝負はできないことから、製造の機械化・自動化を図り、コ ストを構成する各要素のいずれにおいても、最大限削減の努力を図っていくとともに、設備の 耐久性の向上や、発電量の増加、あるいは、高性能風車・要素の開発といった新たなコンセプ トの追求など多様な取組みが重要である。

(2) 設置可能地域の拡大

前項のとおり、これからの風力発電設備の立地は、山間部や洋上あるいは、これまで風況が 悪いことから立地を見送っていた弱風地域への展開、さらには、これまで小型風力発電が導入 されていた地域・分野への導入拡大などが必要となってくる。こうした新しい地域への設置に は、場所特有の自然条件への対応が求められる。例えば、山間部における複雑な地形の影響に よる大きな乱れを含む風の特性や、台風による強風の影響などがある。当該地域の事業性を評 価するためには、複雑地形における風モデルや高精度な風況予測モデルの確立、台風による強 風の影響評価の高度化などが必要となる。洋上は国土の四方を海に囲まれている我が国にとっ て、残されたフロンティアと考えられるが、気象条件だけではなく、海象条件をも想定した風 力発電設備の設計が必要となる。着床式については、既存の陸上風車技術に近く、既に欧州で は導入が進んでおり、今後も市場の拡大が見込まれている。一方、浮体式については、未だ世 界的には実証研究の段階であり、着床式に比べ技術課題も残されている技術開発競争の段階と

いえる。

このように山間部や洋上への展開は、発展途上の段階にあり、それぞれの地域特有の課題を 克服することにより、設置可能地域を拡大していくことが今後の日本の風力発電の導入推進に は不可欠であるばかりか、海外進出の突破口ともなりうると考えられる。ここでは、これまで 我が国の風力発電の発展の阻害と考えられてきた自然条件を克服して、我が国固有の技術力を 高め、海外進出の切り札とする、弱みを強みに変える戦略が求められる。

(3)環境適合性の強化

わが国において風力発電の普及が進展しない理由の一つに環境問題に対する懸念が挙げられ る。風力発電設備に隣接する地域の住民から風車音に対する苦情、バードストライクによる被 害、あるいは、洋上風力発電による海生生物への影響の懸念などである。これらの懸念事項に 対して技術的対策を施すことにより、影響の解消あるいは緩和をはかり、風力発電装置の環境 適合性を高めることが今後ますます求められている。

またソフト面の対応として、リスクコミュニケーションの強化と、サイエンスコミュニケー タの育成も今後は重要となる。リスクコミュニケーションは、事業者が地域の行政や住民と情 報を共有し、事業リスクに関するコミュニケーションを行うことである。事業を進めるに当た り、早い段階でわかりやすい情報を提供し、利害関係者の要望にこたえることが重要となる。

技術革新は我々に様々な恩恵をもたらすが、技術の先鋭・細分化は一般国民との距離を遠ざけ る方向に働く場合がある。専門家から説明を聞いたとしても住民の理解を遥かに超えているこ とがあり、そのことが相互の理解に微妙な影響をもたらすことがある。サイエンスコミュニケ ータは専門家と一般国民との科学技術に関する意見交換を促進するファシリテータである。サ イエンスコミュニケータの養成は、風力発電の分野でも重要となってくると考えられる。

(4)系統連系対策

風力発電は風をエネルギー変換して利用する発電システムである。風は一様ではなく常に変 動するため、風力発電の出力は安定していないのが普通である。風力発電をはじめとする再生 可能エネルギーの普及が進展するにつれ、系統電力へ接続した際の、系統側の電圧、周波数等 の電力品質に与える影響がますます懸念されるようになって来た。系統連系対策として電力の 安定化を図るアプローチには、系統側で行うものと、発電側で行いうるものとがある。両者が 連携して対策を実施することが重要である。

図表 3.72に発電側において想定される時間的・空間的スケールから見た主な制御方法を示す。

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