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(1) 日常の監査業務に関する善管注意義務違反の有無

ア 監査活動全般について

本件一連の問題が発生した当時におけるスルガ銀行の監査役監査の体制及び 監査役が行っていた日常的な監査活動は前記第3.1(2)のとおりである。

監査方針・監査計画の策定・作成状況やその内容、取締役会その他重要会議へ の出席状況、監査役の職務の分担、会計監査人との連携の状況、実地調査(往査)

の手順・実施内容等は、スルガ銀行の監査役監査基準に則ったものであり、日本 監査役協会の監査役監査実施要領に照らしても、銀行の監査役が実施すべき監査 の方法として特に不相当な点は認められない。往査がヒアリング中心であった点 についても、監査役監査に充てられる人員等や時間が限られていることからする と不合理とは認められない15し、同じテーマについて複数の者に対してヒアリン グを実施する等、ヒアリングの信頼性を高める方策も採られていた。

イ 融資に関する稟議書・審査資料の調査について

シェアハウスローンに関する稟議書の中には、補足説明として「パーソナル・

バンク協議済み」と記載されているものが多数あった。仮に、常勤監査役が往査 の際にこれらの稟議書を閲覧していれば、営業部から審査部に圧力が掛けられて おり、適正な審査がなされていないことを知り得た可能性がある。

しかし、内部監査において監査証拠資料の検証が詳細に行われるため、監査役 による監査は往査先による提出資料の確認とヒアリングを中心に行われており、

営業店等への往査の際に稟議書を閲覧することはなかった。スルガ銀行の監査役 監査基準37条1項において、監査役は、主要な稟議書その他業務執行に関する

15 監査役監査実施要領においても、監査役による実地調査は主に報告聴取により行い、必要に応じて記 録の閲覧を行うこととされている。

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重要な書類を閲覧する旨が規定されているが、監査役が閲覧する「主要な稟議書」

とは、代表取締役その他取締役・執行役員等が決裁する書類と解される16ところ、

本件一連の問題が生じた当時、個別のシェアハウスローンの融資は基本的に取締 役・執行役員等の決裁事項には該当せずシェアハウスローンの融資に関する稟議 書は監査役が閲覧する「主要な稟議書」には当たらなかった。また、融資に関す る稟議書や契約関係書類は、融資実行後速やかに営業店からスルガ平本部に送付 されることとされていたため、営業店の往査において監査役が稟議書を閲覧する ことは事実上不可能であった。したがって、常勤監査役が融資に関する稟議書を 閲覧しなかったことについては、監査役の職務を怠ったとは認められない。

ウ まとめ

以上によれば、監査役の日常の監査活動に不相当な点は認められず、取締役の 違法行為等の兆候が認められない限り、監査役としての善管注意義務違反があっ たとは認められない。

(2)認識の対象となる違法行為等の兆候

ア 審査の実質的な形骸化

銀行において、適正な融資を行うためには、営業部門からは独立した審査部門 による審査体制が整備され、審査が有効に機能していることが必要不可欠である。

したがって、審査部による審査が有効に機能しておらず、実質的に形骸化してい ることを放置する行為は、取締役の違法行為等に該当する。監査役としては審査 が実質的に形骸化していることを疑うべき事情を認識し、また認識し得たのであ れば、少なくとも、取締役会に対しその旨を報告し、実態の調査を行うよう勧告 すべき義務があるというべきである。

イ 融資関係書類等についての改ざん・偽装のまん延

融資関係書類等の改ざん・偽装に行員が関与していれば、これは業務執行に係 る法令違反である。行員の関与を疑うに足りる理由がある場合には、監査役とし て、少なくとも、取締役会に対しその旨を報告し、直ちに調査を行うよう勧告す べき義務があるというべきである。

他方、行員による改ざん・偽装への関与が認められない場合、すなわち、チャ

16 監査役監査実施要領71頁を参照。

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ネル等による改ざん・偽装の場合については、それ自体が業務執行に係る法令違 反に該当するわけではない。改ざん・偽装を全て防止することは不可能であるか ら、一部の案件についてチャネル等による融資関係書類等の改ざん・偽装が行わ れていたことを認識したとしても、それだけで、直ちに審査機能の有効性が害さ れていることを認識し得たとはいえない。

しかし、

・融資関係書類等の改ざん・偽装が、一部の案件に限って生じているものではな く、一定程度広くまん延している可能性があると認められる場合

・改ざん・偽装が、一部の案件に限って発生しているとしても、その案件に関係 している業者が取り扱った案件に対する融資件数・金額が大きく、その業者が 他の案件でも同様の手法で改ざん・偽装を行っている可能性がある場合 には、審査が有効に機能していない等の理由により、不適切な融資が広く行われ ている疑いがあり、これを放置すれば銀行に多大な損害が生じるおそれがある。

したがって、これらの事情を認識した場合には、監査役としては、取締役会に 対しその旨を報告し、直ちに違法行為等の有無について調査を行うよう勧告すべ き義務があるというべきである。

ウ 取扱いを停止したチャネルとの迂回取引

不良チャネルの排除を目的としてチャネルの取扱いを中止とする処分をした にもかかわらず、営業本部の各支店において、別の法人を介することにより当該 チャネルの取扱いを実質的に継続することは、取扱中止の処分を無効化し、不良 チャネルの排除をなし得ない事態に陥らせる行為であり、これを放置する行為は、

取締役の違法行為等に該当する。したがって、監査役としては、チャネルの取扱 いが中止されたこと、かつ、それにもかかわらず、実際には別の業者を介して当 該チャネル関係の案件に対する取引を継続する行為(迂回取引)が行われている ことを疑うべき事情を認識し、また認識し得たのであれば、取締役会に対しその 旨を報告し、実態の調査を行うよう勧告すべき義務があったというべきである。

エ シェアハウスローンのリスク分析及び対応の不備

スルガ銀行が行っていたシェアハウスローンには、前記第3.3に記載した各 リスクがあった。

もっとも、これらのリスクの程度は、債務者の資力、物件の立地環境、設定家 賃の水準、サブリース料の金額(入居者からの賃料収入額との乖離の有無・程度)、 家賃保証・サブリースの期間、家賃保証・サブリース会社の信用力、入居者を募 集する業者の営業力等によって個々の案件ごとに異なっていた。シェアハウスロ ーンは、新しい商品であり、市場規模が不明である上、将来の賃料収入の予測が

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困難であるという点で従来スルガ銀行が取り扱ってきた他の収益不動産ローンに 比べると不確実性が高いが、シェアハウス自体がビジネスモデルとして成り立た ないとまではいえず、シェアハウスローンの融資件数や融資総額の多寡によって もリスクの程度(スルガ銀行が被るおそれがある損害の大きさ)は異なるもので あった。したがって、「シェアハウスローンを実行している」という事実のみを認 識したとしても、取締役の違法行為等の兆候を認識したとは認められない。

しかし、シェアハウスローンについて、

・空室率が高い物件や、サブリース賃料よりも実際の賃料が低い物件が、他の収 益不動産ローンよりも多い、

・多数のシェアハウスを管理しているサブリース業者の信用力が低い、

・特定の業者が同様の手法でシェアハウスを多数取り扱っており、その業者が取 り扱った物件について、看過しがたい問題がある、

等の事実が認められて、これによってシェアハウスローン全体の回収可能性が従 来スルガ銀行が取り扱ってきた他の収益不動産ローンに比べて低くなるおそれが あり、その程度が金融機関の経営判断として許容できる範囲を越えることを窺わ せる兆候を認識した場合に、取締役の違法行為等の兆候を認識したと認めるのが 相当である。

(3)違法行為等の兆候についての各監査役の認識・認識可能性及び善管注意義務違反 の有無

ア 廣瀬氏について

(ア)審査の実質的な形骸化に関する兆候の認識・認識可能性について

廣瀬氏が出席した取締役会、経営会議等の会議において、審査の実質的な形 骸化を窺わせる事実が報告されたことは認められない。

審査部に対する往査に係る業務監査調書及びその添付資料によっても、廣瀬 氏が審査の実質的な形骸化を窺わせるような情報に接したことは認められない。

また、廣瀬氏は、当委員会のヒアリングにおいて、往査の際に、審査部担当者 に営業の圧力に負けて審査基準を緩めるようなことはないか尋ねたところ、審 査を適切に行っているとの回答を得た旨説明している。

また、廣瀬氏は、資産形成ローンの半期毎の承認率の平均が2015年の取 扱開始以降2017年上期に至るまで常に99.0%を超えて推移していたこ とについて、承認率が経営会議等において報告されていなかったこともあり、

認識し得なかった。さらに、廣瀬氏は、審査部の人事に対する営業の介入、麻 生氏と柳沢氏の協議によって担保評価額の120%までの融資が事実上可能と なったこと、稟議書に「パーソナル・バンク協議済み」と記載されたものが存