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取締役等責任調査委員会調査報告書によれば、スルガ銀行の取締役について、内部 統制シムテムの構築等に関する善管注意義務違反が認められている。その内容は次の とおりである。

(1)喜之助氏について

代表取締役副社長(COO)であった喜之助氏は、遅くとも2016年1月末時点 では、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営 業部門の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、

又は認識し得たといえる。

よって、喜之助氏については、2016年1月末時点において、債権保全措置に 関する内部統制システムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が生じてお り、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認められるものと判断する。

(2)光喜氏について

光喜氏は、代表取締役かつ CEO として、遅くとも第4回サクト会議の時点にお いて、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営 業部門の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、

又は認識し得たといえる。

よって、光喜氏については、第4回サクト会議(2017年7月5日)の時点に おいて、債権保全措置に関する内部統制システムを構築するために適切な措置を講 ずべき義務が生じており、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認めら れるものと判断する。

(3)岡崎氏について

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営業部管掌の取締役であった岡崎氏は、遅くとも2016年12月末時点では、

シェアハウスローンのリスク分析体制が機能しておらず、審査部門が独立性をもっ てチェックするという債権保全措置の根幹となる体制が機能不全に陥り、さらに営 業部門の債権保全措置に関わる業務フローにも機能不全が生じていることを認識 し、又は認識し得たといえる。

よって、岡崎氏については、2016年12月末の時点において、債権保全措置 に関する内部統制システムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が生じて おり、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認められるものと判断する。

(4)八木氏について

審査部管掌の取締役であった八木氏は、遅くとも2016年12月末時点では、

シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営業部門 の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、又は認 識し得たといえる。

よって、八木氏については、2016年12月末の時点において、債権保全措置 に関する内部統制システムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が生じて おり、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認められるものと判断する。

(5)柳沢氏について

柳沢氏は、審査部執行役員として実務を行っていた間(2013年4月から20 17年6月まで)においても、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の 独立性・審査の機能、営業部門の業務フローにおける機能に機能不全が生じている こと、すなわち債権保全措置に関する内部統制システムの機能不全を認識し、又は 認識し得たといえる。

柳沢氏が取締役に就任したのは、2017年6月21日であるが、第4回サクト 会議において内部統制システムの機能不全について柳沢氏と同程度の認識を共有 するに至った他の取締役と同様に、2017年7月5日時点以降、内部統制システ ムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が生じ、これを怠ったことについて、

善管注意義務違反が認められるものとする。

(6)白井氏について

白井氏は、第4回サクト会議において、喜之助氏の指示に反して、ダミー会社を 通じてスマートライフとの取引が継続されていたことや、「シェアハウスの疑問点」

に記載された各リスクを認識するに至った。したがって、白井氏は、当該時点にお いて、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営

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業部門の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、

又は認識し得たといえる。

よって、白井氏については、第4回サクト会議(2017年7月5日)の時点に おいて、債権保全措置に関する内部統制システムを構築するために適切な措置を講 ずべき義務が生じており、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認めら れるものと判断する。

(7)米山氏について

米山氏は、第4回サクト会議において、喜之助氏の指示に反して、ダミー会社を 通じてスマートライフとの取引が継続されていたことや、「シェアハウスの疑問点」

に記載された各リスクを認識するに至った。したがって、米山氏は、当該時点にお いて、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営 業部門の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、

又は認識し得たといえる。

よって、米山氏については、第4回サクト会議(2017年7月5日)の時点に おいて、債権保全措置に関する内部統制システムの機能不全を認識し、又は認識し 得たといえ、内部統制システムを構築するために適切な措置を講ずべき義務が生じ ており、これを怠ったことについて、善管注意義務違反が認められるものと判断す る。

(8)望月氏について

望月氏は、第4回サクト会議において、喜之助氏の指示に反して、ダミー会社を 通じてスマートライフとの取引が継続されていたことや、「シェアハウスの疑問点」

に記載された各リスクを認識するに至った。したがって、望月氏は、当該時点にお いて、シェアハウスローンのリスク分析体制、審査部門の独立性・審査の機能、営 業部門の業務フローにおける機能について、機能不全が生じていることを認識し、

又は認識し得たといえる。

よって、望月氏については、第4回サクト会議(2017年7月5日)の時点に おいて、取締役会や監査役に対し、内部統制システムの機能不全を報告した上で、

それを構築するよう求める義務が生じており、これを怠ったことについて、善管注 意義務違反が認められるものと判断する。

3 各監査役の善管注意義務違反について

(1)監査役の認識の対象となる事実

105 前記第4.4のとおり、監査役は、

① 内部統制システムに係る取締役会決議の内容が相当でないと認めたとき

② 内部統制システムに関する事業報告の記載内容が著しく不適切と認めたとき

③ 内部統制システムの構築・運用の状況において取締役の善管注意義務に違反す る重大な事実があると認めたとき

には、監査報告にその旨を記載するほか、取締役会等にこれを報告して内部統制シ ステムの不備を是正するように勧告する等の適切な措置を講じる義務があると解 される。

なお、スルガ銀行の事業報告の記載(上記②)のうち、本件一連の問題における 監査役の善管注意義務違反の有無についての判断において特に重要と認められる のは「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」であるところ、第204期か ら第206期の各事業年度(2015年3月期から2017年3月期)の各事業報 告書には、この点について、以下のとおり記載されていた。

【第204期(2014年4月1日から2015年3月31日)】 7 業務の適正を確保する体制

(3)損失の危険の管理に関する規程その他の体制

① 当社は、「統合的リスク管理規程」その他の社内規程等を定め、信用リスク、

システムリスク等の様々なリスクに対処するための各種リスク委員会を設置 して、リスクの個別管理を行なうとともに、これらの委員会を統括する統合リ スク管理委員会を設けて、各種リスクを総括的に管理する体制を構築しており ます。

② 不測の事態が発生したときは、社内規程等に基づき社長を本部長とする緊 急対策本部を設置し、迅速な対応を行なう危機管理体制を確立しております。

【第205期(2015年4月1日から2016年3月31日)】 7 業務の適正を確保する体制

(3)損失の危険の管理に関する規程その他の体制 (※第204期とほぼ同じ。)

8 業務の適正を確保する体制の運用状況の概要

(3)損失の危険の管理に関する規程その他の体制

「統合的リスク管理規程」その他の社内規程等に基づき、信用リスク、シス テムリスク等の様々なリスクに対処しております。当期は、各種リスク委員会 を随時開催し、リスクの個別管理を行なうとともに、統括する統合リスク管理 委員会を毎回開催し、各種リスクの総括的な管理を行いました。

【第206期(2016年4月1日から2017年3月31日)】

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第205期と同様の記載に加えて、「8 業務の適正を確保する体制の運用状 況の概要」に関して、「また、自然災害等の不測の事態に備え、各種訓練を継続 的に行ない、業務継続体制の向上に努めました。」と記載されていた。

スルガ銀行における内部統制システムの実際の運用状況が上記の事業報告中の

「業務の適正を確保する体制の運用状況の概要」の記載内容と著しく異なる場合に は、上記②の「内部統制システムに関する事業報告の記載内容が著しく不適切」な 場合に該当すると解される。

(2)(1)の事実に関する監査役の認識・認識可能性と善管注意義務違反

前記第6.1(1)のとおり、スルガ銀行の取締役会において決議された「業務 の適正を確保するための体制」(内部統制の基本方針)の内容自体は相当であった。

また、前記第5.3(3)のとおり、各監査役(廣瀬氏、土屋氏、灰原氏、木下 氏、島田氏、伊東氏)は、前記第6.1(2)イの審査部門の独立性の欠如・審査 の機能不全、同ウの営業部門の業務フローにおける機能不全、同エの情報の断絶の 各事実を認識し、又は認識し得たとは認められない。

また、前記第6.1(2)アのシェアハウスローンのリスク分析・管理体制の不 備に関しては、各監査役は、シェアハウスについては入居状況の確認が困難である ことは認識し、又は認識し得たと認められ、また、商品開発時のリスク分析がなさ れていなかったことについては認識し得たと認める余地がある。しかし、これらの 事実のみを認識し、又は認識し得たとしても、スルガ銀行の内部統制システムが実 質的に機能不全に陥っていると疑うことは困難であった。

したがって、各監査役は、「内部統制システムに関する事業報告の記載内容が著 しく不適切であったこと」あるいは「内部統制システムの構築・運用の状況におい て取締役の善管注意義務に違反する重大な事実があること」を認識し、又は認識し 得たとは認められず、監査役の善管注意義務に違反したとは認められない。