• 検索結果がありません。

疫学研究者の関与について

NIPPON DATA2010 村上 慶子 帝京大学

J- MICC Study徳島地区調査

2. 疫学研究者の関与について

 災害が発生したら、当該地域の疫学研究者は、本人の意思とは関わらず、疫学調査の企画、運営、評価に従

事しなければならなくなる状況が発生する可能性があると認識すべきであろう。特に、原子力発電所の立地道

県ではもちろん、近隣の都府県でも無縁ではないことは、今回の原発事故からの学びである。少なくとも、放

射線の健康影響に関しては、常に関心を持っておく必要が、疫学研究者にはあるという認識を共有したい。

特別講演   SL-02

Communicating in Times of Disaster: 

Insights from Health Literacy Studies

Rima E. Rudd

Harvard T.H. Chan School of Public Health

Public health communication is based on the premise that the public needs to be aware, assured, informed, and provided with tools for action – both under normal circumstances and most certainly in face of emergencies and disasters. To serve this end, information must be accessible. This calls for attention to equitable dissemination of information but also for assurances that the information itself is accurate, clear, and usable. Faulty or limited communication curtails knowledge, minimizes awareness, and hampers action. When words get in the way , adults may get lost, limit their engagement, lack an understanding of their rights, experience poor health consequences, and/or endanger their lives.

Health literacy studies have, over the past quarter of a century, established a clear link between literacy/numeracy skills and health outcomes. The literacy and numeracy skills individuals bring to their health activities and tasks have a determining influence on their ability to manage a chronic disease as well as on their participation in health promotion and disease prevention activities. At the same time, the tools and materials provided to the public are of essential concern as well. The complexity of tools and materials designed for patients and the public, the communication skills of health professionals, as well as the norms and policies of government and health sector institutions all influence health literacy and shape people’s knowledge, skills, and ability to take healthful action. Insights from health literacy studies are currently shaping reforms in the health care sector and have wider implications for public health.

The focus here is on public health communication related to community and national preparedness

and on the prevention and mitigation of disasters. The premise of this essay is that literacy issues must be

considered in all health communication efforts and for all levels of dissemination. Respectful attention to

the importance of the word is essential. This calls for rigorous formative research at all levels of

dissemination and the application of health literacy insights to the design and development of important

messages. This is needed for communication between and among scientists, policy makers, and health

professionals as well as for communications with the public. Health literacy work in Fukushima provides

an example of the importance of translating scientific jargon so that other professionals can make use of

scientific wisdom and pass on critical facts and advice to members of the community. While emergency

situations call for swift responses, scientific rigor cannot be abandoned. Health literacy studies provide

insights and recommendations for preparedness and as well as for action in the wake of disaster events.

S P

特別プログラム   SP-01

がん検診の不利益 −過剰診断を中心に−

祖父江 友孝

大阪大学大学院医学系研究科 環境医学

 近年、がん検診の政策導入にあたっては、がん検診がもたらす利益と不利益を勘案して、利益が不利益を上 回る場合にのみ導入するという考えが定着しつつあるが、がん検診がもたらす不利益に関しては、まだ理解が 十分とは言えない。特に、過剰診断については、一般国民はもとより、医療関係者の間でも正しく理解してい る人はむしろ少数派のように思われる。

 過剰診断は、放置しても当該個人が他因死するまでに症状を呈さないがんを検診で発見することであり、が ん検診の主要な不利益の 1 つである。他の不利益と異なり、検診の過程で間違った判断がなされた結果生じるわ けではないので、受診者側も医療者側も、不利益とは認識しにくい。

 過剰診断は、前立腺がん検診 (PSA)、肺がん検診 (低線量CT) に対するランダム割り付け比較試験や、がん検 診の導入にともなうがん罹患率の動向 (導入後に増加) により、前立腺がん、乳がん、甲状腺がん (成人女性) で 確認されている。また、我が国における小児神経芽細胞腫マススクリーニングの中止後の罹患率の動向 (中止 後に減少) のからも強く示唆されている。

 過剰診断を防ぐには、がん検診を行わないことが一番である。スクリーニングや精密検査の陽性判断基準を 緩和する、診断したがんを経過観察する、などの対応は現実にはかなり難しい。がんという呼び名をやめて、

「上皮由来の緩徐に増殖する病変 (indolent lesion of epithelial origin; IDLEs)」と呼んではどうかという提案 もある。

 イギリスの乳がん検診では、これまでのランダム割り付け比較試験の結果から、乳がん検診における乳がん 死亡減少数と過剰診断数を定量的に推定し、1人の乳がん死亡を減らすのと同時に約3人が過剰診断されると、

乳がん検診対象者に対して情報提供されているが、一般の対象者が正しく過剰診断を理解することは、かなり 困難であることも報告されている。

 過剰診断は、受診者の余命が短い場合に生じやすいので、高齢者のがん検診においては特に問題となる。米 国においては、高齢者において、不利益が利益を上回る年齢をシミュレーションで推定することにより、適切 な検診中止年齢についての議論が始まっている。一方で、がん検診に対する好意的な態度は、対象者が高齢に なっても変わらないとの報告がある。

 東日本大震災後の福島の18歳以下の県民に対する甲状腺超音波検査の結果を解釈し、放射線との関連を検討

する際には、まず、がん検診としてのこうした特性を理解した上で進めることが必須である。

シンポジウム1   S-01

岩手県における東日本大震災の健康課題とエビデンス

坂田 清美

岩手医科大学 衛生学公衆衛生学講座

 2011年3月11日の東日本大震災からすでに7年が経過しようとしている。岩手県では、死者4,672人、行方不明

者 1,151 人と合計で 5,823 人が犠牲になった。負傷者を含めた人的被害の人口割合は、岩手県の人口の 0.5% 、沿岸

人口の2.1%に及んだ。家屋被害は全壊・半壊が24,916棟に上り、津波によって浸水した地域の人口は沿岸市町 村の人口の約 3 割を占めた。当然のことながら、大震災による被災は心身に種々の影響を与えることとなった。

 厚生労働省は、2011年に直ちに厚生労働科学特別研究事業として「東日本大震災被災者の健康状態等に関す る調査」研究班 ( 研究代表者 林謙治 ) を立ち上げた。私は、東北大学辻教授とともに分担研究者として研究班に 参加した。翌年からは、健康安全・危機管理対策総合研究事業として「岩手県における東日本大震災被災者の 支援を目的とした大規模コホート研究」研究班 (研究代表者 小林誠一郎) として岩手県独自の研究班として生 まれ変わった。

 岩手県の研究班では、被害の甚大であった大槌町、陸前高田市、山田町、釜石市下平田地区にて被災者健診 を実施した。2011年度に10,475人から研究の同意 (同意率94.2%) を得ることができ、現在も追跡しているとこ ろである。しかしながら受診者は、2012年7,616人、2013年7,136人、2014年6,720人、2015年6,507人、 2016年 6,157人と年々減少している。この理由としては、沿岸での居住地の確保の困難さや仕事を見つけることの困難 さなどが影響しているものと考えられている。また、受診者は毎年 1年ずつ年を取ることになる。元々 60代、

70代の高齢者が多い集団のため、病気、死亡等の理由で受診ができなくなるという影響も考えられる。 6年間毎

年受診した者は、4,622人であった。本シンポジウムではこの、毎年受診者のデータをお示しする。

 BMI25kg/m

2

以上の肥満有病率は、男女とも4市町とも全国平均を上回っており、山田町、大槌町では男女と も、釜石市の男性、陸前高田市の女性では高いままで、釜石市の女性は2012 年まで上昇を続け以後減少、陸前 高田市の男性では増加傾向で推移していた。もともと岩手県は肥満者が多くこれをベースとしてさらに震災の 影響を受けて、運動不足等により肥満の有病率に影響を与えていると考えられる。高血圧の有病率はむしろ全 国平均よりも低い傾向がみられた。岩手県では被災地域の医療費自己負担の無料政策を現在も継続しており、

治療率が上昇したことが影響していると考えられる。また、 6年間毎年健診を受診した人は健康意識が高い偏っ た集団である可能性も考えられる。糖尿病、脂質異常症の有病率も全国平均よりも低い傾向がみられ同様の理 由によると考えられた。また、糖尿病と脂質異常症は増加傾向を示しており、運動不足や高齢化の影響がある ものと考えられる。生活習慣では多量飲酒者は全国平均よりも多く、喫煙者は全国平均よりも低い傾向がみら れた。国民健康・栄養調査での岩手県のデータでは、全国平均よりも喫煙者の割合が高いため、集団の偏りに よる影響と考えられた。週 23 メッツ・時以上の運動習慣のある者の割合は、増加傾向がみられていたが、最近 また減少傾向に転じている。 K6が5点以上のこころの健康に問題のある者やアテネ不眠尺度6点以上の睡眠障害 のある者の割合は、全体では順調に回復していた。

 居住形態別にみると、仮設住宅居住者では、肥満、糖尿病、脂質異常症、多量飲酒者、こころの健康に問題

のある者、睡眠障害者、主観的健康観が不良な者が多い傾向がみられた。特に、被害の大きかった者では心身

の不調を抱え、回復が遷延している傾向がみられることから、さらなる継続的な支援が必要である。

S

シンポジウム1   S-02

宮城県における東日本大震災の健康課題とエビデンス

辻  一郎

東北大学大学院医学系研究科 公衆衛生学専攻 公衆衛生学分野

【はじめに】

 演者らは、厚生労働科学研究費補助金「宮城県における東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査」に より、宮城県内3自治体 (仙台市若林区・石巻市3地区・七ヶ浜町) の被災者約8千名を対象に、アンケート調査 ( 居住場所・主観的健康感・睡眠・こころの健康・社会的要因など ) を年 2 回 ( 七ヶ浜町は年 1 回 ) 実施し、平成 22 年 以降の健診データを入手するとともに、生存状況・医療受療状況・介護保険認定などを追跡している。これま でに得られた知見について紹介する。

【自覚症状の変遷】

 発災半年後の自覚症状は、いらいらしやすい、月経不順・月経痛、頭痛、腹痛・胃痛、便秘、手足の関節が 痛む、腰痛などが (平成22 年国民生活基礎調査の全国値より) 有意に高かった (渡邉・他:厚生の指標 2013;60 (13):1-6)。一方、発災4年半後では、いらいらしやすい、めまいが有意に減少し、腰痛、尿失禁が有意に増加し た ( 関口・他:厚生の指標 2017;64(4):15-21)。腰痛の新規発生には、飲酒習慣・主観的経済状況の苦しさが関 与していた (Yabe Y, et al: J Orthop Sci. 2017;22:43-9)。

【被災者のメンタルヘルス】

 睡眠障害や抑うつ・不安が被災者で多いことは発災直後から多数報告されている。その要因として、 PTSDの 有無・程度、仕事や収入、ソーシャル・キャピタルやソーシャル・サポートなどが指摘されている。

 発災半年後と3 年後とを比較して、社会的な孤立が軽減された者では心理的苦痛 (K6得点) が有意に改善し、

社会的な孤立が強まった者では心理的苦痛が有意に悪化したことより、被災者の社会的孤立を防ぐ ( 軽減する ) ことの必要性が示唆された (Sone T, et al: Soc Sci Med. 2016 Mar;152:96-101)。

【居住の種類・機関が被災者の健康に及ぼす影響】

 プレハブ仮設入居者に比べて民賃みなし仮設入居者では、生活習慣・健康状態・心理社会の各面でリスクを 抱える者が多かった。仮設入居者は、飲酒量が多くてγ-GTP が増加するリスクが有意に高く (Murakami A, et al: Soc Sci Med. 2017 Sep;189:76-85)、運動機能低下リスク (高齢者) も有意に高かった (Ito K, et al: BMJ Open. 2016 Nov 3;6(11):e012760) 。

 プレハブ仮設の入居期間が長い者ほど、心理的苦痛 (K6得点) 改善のオッズ比は有意に低下し、悪化のオッズ 比は有意に増加した (Tanji F, et al: submitted) 。

【要介護高齢者の増加】

  2011 年 1 月に比べて 2014 年 1 月の要介護認定率は、被災 3 県沿岸部で 14.7% 増加 ( 震災前の 1.147 倍 ) 、被災 3 県 内陸部で10.0% 増加、被災県以外で6.2% 増加と、被災県 ( 特に沿岸部) で高かった (Tomata Y, et al: Soc Sci

Med. 2015 Dec;147:296-9) 。要介護発生には、発災後の生活環境変化・失職などによる生活不活発化と心理的

苦痛 (K6高得点) が有意に関連していた (Tanji F, et al: J Affect Disord. 2017 Oct 15;221:145-150)。