― 軽快退所者の実態とその管理 ―
国立多摩研究所 前 田 道 明
1.
まえがき
1967
年
5月
31日現在で判明しうる収容患者および未収容患者の実態を 調査し、その成績はさきに沖縄におけるらい調査報告書に述べた通りであ る。しかしこの報告書の中で取り扱った未収容患者は現在沖縄にある数カ 所の外来施設を訪れる患者と療養所からの逃亡患者とを対象としたのみで あった。一方らいと言う慢性疾患を考える場合に、療養所からの軽快退所 者(以下軽退者と略称する)については或る期間の観察管理を行うべきで あることは論をまたないことである。そこで軽症患者の多い沖縄において らいの管理を行う場合の参考資料となると考え、愛楽園および南静園にお ける最近
7年間の軽快退所者について調査を行い、併せて全未収容者のら い管理について検討を加えた。
2.
調査成績
1
) 調査した
1961年
1月以降
1967年
5月末日までの軽退者は表1に示
す通り、男
235名、女
115名、計
350名であり、男:女はほぼ2:1
であった。
27
表1 収容施設別 性別軽退者
性 愛楽園 南静園 計 外来受診者
男
164 71 235 16 ( 6.8% )女
88 27 115 12 (10.4〃
)計
252 98 350 28 ( 8.0〃
)特に注目すべきことは、これら軽退者のうち現在外来施設で観察中のも の(外来受診者)は
28名(
8.0%)にすぎなかったことである。
2
) 軽退者の退所年をしらべると、表2に示す通り、
1962年より
1964年にかけて他の暦年よりも多かったが、年間平均数は
54.5名(男
36.6名、女
17.9名)であった。
表2 退所暦年別・性別軽退者
暦年 男 女 計 外来受診者 愛楽園 南静園
1961年
1962
〃
1963〃
1964〃
1965〃
1966〃
1967〃
19 47 42 53 28 30 16
9 20 23 25 18 13 7
28 67 65 78 46 43 23
2 ( 3.0 % ) 2 ( 3.1
〃
) 6 ( 7.7〃
) 4 ( 8.7〃
) 10 (23.3〃
) 4 (17.4〃
)17 41 48 58 36 31 21
11 26 17 20 10 12 2
計
235 115 350 28 ( 8.0〃
) 252 98また現在外来施設に受診中のものは
1966年以後に退所したものが
28名中
14名(
50%)、
1964年以後に退所したものが
24名(
85.7%)に達 していた。従って退所後1年半以内のものでは
66名の軽退者中
14名
(
21.2%)が、また退所後3年半以内のものでは軽退者
190名中
24名
(
12.6%)が外来施設を訪れているものであった。
3
) 軽退者の病型をみると表3に示す如く、
L型は
206名(
58.9%)、
TM型は
76名(
21.7%)、
TN型は
67名(
19.1%)、
Bまたは
I型は1名
(
0.3%)であった。すなわち、
L型は収容患者の病型比にほぼ匹敵す るが、
TMおよび
TN型は全患者(収容および未収容患者)の病型比に ほぼ近いものであった。
表3 病型別・性別軽退者
性
L型
TM型
TN型
B・
I型 計
男 女
135 71
49 27
50 17
1 0
235
名
115〃 計
(%)
206 (58.9)
76 (21.7)
67 (21.7)
1 (0.3)
350
〃
(100.0)外来受診者
(%)
21 (10.2)
4 (5.3)
3 (4.5)
0 28
(8.0)
また現在外来施設で観察中のものは
T型に比し
L型に高いのは當然 であるが、
L型でも軽退者
206名中
21名(
10.2%)にすぎなかった。
4
) 年令階級別に軽退者をしらべると、表4に示す通りであった。その年
令分布は収容患者と未収容患者との中間の様相を示していると言いえ
よう。
29
表4 年令階級別軽退者および全患者
年 令 男 女 計 外来受診者 収容者 未収容者 0
~才
10
~
20~
30~
40~
50~
60~
70~
80~
不 明
25 33 77 43 26 19 5 6 1
1 10 23 40 13 9 5 11 1 2
1 35 56 117 56 35 24 16 7 3
3 4 10 3 2 1 4 1
2 56 102 198 297 245 109 48 15 17
28 148 181 132 65 45 34 25 5 20
計
235 115 350 28 1,089 6835
) 軽退者の在園期間を病型別にみると、表5に示す通りである。在園2年
未満のものは
L型
8.2%、
TM型
19.2%、
TN型
7.1%であり、4年未満のも
のは
L型
29.1%、
TM型
49.3%、
TN型
27.1%であり、在園6年未満のもの
は
L型
50.9%、
TM型
67.1%、
TN型
41.4%であった。すなわち軽退者の約
半数が占める在園期間は、
L型では6年未満、
TM型では4年未満、
TN型で
は8年未満であった。
表5 軽退者の性・病型別在園期間 期 間
(年)
L
型
TM型
TN型
男 女 計 男 女 計 男 女 計
0~
1
~
2~
3~
4~
5~
6~
7~
8~
9~
10~
20~
4 7 13 12 19 12 6 15 3 2 36 6
4 2 5 13 7 7 6 3 2 2 12 8
8 9 18 25 26 19 12 18 5 4 48 14
7 5 7 9 3 5 3 1
1 6 1
1 1 2 4 3 2
1 1 8 2
8 6 9 13 6 7 3 1 1 2 14 3
1 1 7 4 8 2 1 3 3 2 15 4
2 1 2 1
1 1 9 2
3 2 9 5 8 2 1 3 4 3 24 6
計
135 71 206 48 25 73 51 19 70考 察
1966
年8月らい研究協議会は最近7年間に日本本土の療養所を軽快退所し た患者の実態について調査を行ったが、私はその成績と上述の沖縄における軽 退者の実態との比較を行い、沖縄のらい管理について考察を加えてみたいと考 える。
沖縄では軽退者のうち現在外来施設で観察中のものは
8.0%にすぎなかった が、本土の場合には軽退者
859名のうち観察可能なものは、表6に示す如く
588
名(
68.5%)であった。本土の場合に病型別にこれを較べると、
L型では
64.8%
、
TM型では
47.8%、
TN型では
35.6%であって、病状の重い
L型患者に
観察可能者が多かったことは、極めてらい再燃防止上幸なことであった。これ
31
表6 本土の軽退者中観察可能なものの出現率
病 型
L型
TM型
TN型
B・
I型 計 軽 退 者
観察可能
(%)
386 250 (64.8)
316 151 (47.8)
146 52 (35.6)
11 11 (100.0)
859 588 (68.5)
合に観察可能と言われるものは、療養所へ受診にくるもの以外に訪問・通信な どによって医師の指導をうけているものも加わっているので、沖縄の場合との 直接の比較は無理である。しかし沖縄では観察中のものが極めて低率であり、
私は沖縄の軽退者についても退所後一定期間の観察管理は是非必要であると 考える。
次に、軽退者の病型比をみると、本土の場合には表6にみられる如く、
L型
44.9%、
TM型
36.8%、
TN型
17.0%、
B・
I型
1.3%であったが、沖縄の場合には
L型が全軽退者の
58.9%と言う過半数を占めており、沖縄では本土の場合より
L型患者の軽退者の多いことが窺われた。
表7 本土の軽退者の病型別在園期間
期 間
(年)
L
型
TM型
TN型
男 女 計 男 女 計 男 女 計
0~
1
~
2~
3~
4~
5~
6~
7~
8~
9~
10~
20~
8 9 15 28 28 22 15 27 17 8 91 12
2 6 3 12 15 4 14 6 4 4 31 5
10 15 18 40 43 26 29 33 21 12 122 17
9 22 21 34 14 15 9 15 7 5 34 10
2 17 11 14 10 9 5 9 7 3 28 6
11 39 32 48 24 24 14 24 14 8 62 16
6 14 12 14 6 4 6 7 4 4 26 3
5 4 4 2 4 5 3 4
1 8
11 18 16 16 10 9 9 11 4 5 34 3
計
280 106 386 195 121 316 106 40 146さて、軽退者について特に注目すべきことは、その治療状況を推定しうる在 園期間であろう。本土の軽退者について在園期間を病型別に示すと、表7の如 くであった。在園2年未満のものは
L型
6.5%、
TM型
15.8%、
TN型
19.8%で あり、4年未満のものは
L型
21.5%、
TM型
41.1%、
TN型
41.7%であり、6年 未満のものは
L型
39.4%、
TM型
56.3%、
TN型
54.7%であった。すなわち軽退 者の約
50%が在園していた期間は
L型では8年未満、
TM型および
TN型では
6年未満であった。これを沖縄の軽退者の在園期間(表5参照)と比較すると、
TM
型および
TN型患では本土の場合と大差はないが、
L型患者では本土の場合
より沖縄の軽退者の方が在園期間が短かかった。らいの再燃を考慮すると、沖
縄でもらいの軽快退所の基準について早急に検討決定すべきであると考える。
33
であった患者よりの再燃者が
T型であった患者のそれよりも高率であったこ とはらいの性格より考えて當然であるが、
T型であったものからもかなりの再 燃者が認められたことは注目すべきことであった。さらに再燃者の年令階級別 出現率をしらべると、いずれの年齢層にも認められるが、特に
20才代の
15.5%が最も高く、次いで
40才代、
30才代のものであり、退所後の労働と関係のあ ることが窺われた。この点も軽退者に対して退所後の管理の重要性を示唆する ものである。
本土の軽退者中再燃は
L型患者では退所後6年以内に、
T型患者では退所後 4年以内に大多数が起っており、その平均年数は
L型患者では退所後3年、
T型患者では退所後2年であった。従って退所後4~7年経過したもののみにつ いて再燃者の出現率を求めると、
447名中
56名(
12.5%)に達し、男
14.5%の 方が女
8.4%より高率であった。また再燃者の出現率を療養所に収容されてい た在園期間別にしらべると、表8に示す通りであった。
L型患者では在園
20年 未満のものに特に在園期間とは関係なくいずれの期間にもほぼ同率に認めら れたが、
TM型患者では在園期間の短いものに再燃者が多発する傾向が窺われ た。再燃者の最高在園期間は
L型では
19年、
TM型では
12年であったが、再 燃者の
67%は
L型では在園
10年未満、
TM型では在園6年未満の経験を有す る者であった。なお退所後一定期間
DDSなどの薬剤を服用したものからの再 燃者の出現率は、服用しなかったものからのそれよりも低率であった事実は、
軽退者に対し一定期間退所後にも服薬を実施させることが軽退者の管理上極
めて重要であることを示していよう。
表8 本土の軽退者の病型別、在所期間別再燃率
在園
期間
(年
)L
型
TM型
軽退者 再燃者
(%)軽退者 再燃者
(%) 0~
2
~
4~
6~
8~
10~
12~
15~
20~
25 58 69 62 33 42 45 35 17
3 (12.0) 8 (13.8) 6 ( 8.7) 11 (17.8)
2 ( 6.1) 8 (19.1) 5 (11.1) 2 ( 5.7)
50 80 48 38 22 27 20 15 16
3 (6.0) 5 (6.3) 2 (4.2) 2 (5.3) 1 (4.6) 1 (3.7) 1 (5.0)
計
386 45 (11.7) 316 15 (4.8)私は沖縄の軽退者の実態を本土の場合のそれと比較検討し、さらに沖縄では 未だ調査されていない軽退者のらい再燃について本土における調査成績を述 べた。これらの成績かららい軽退者に対する管理については、次の3点を基本 方針におくべきであると考える。
1
) らい退所基準は軽退者に起るらい再燃を考慮に入れて設定する必要が ある。
2
) らい軽退者は退所後一定期間らい専門医師の観察指導を受けさせる必 要がある。その期間は
L型患者では退所後6年、
T型患者では退所後 4年が適當であると考えている。
3
) らい軽退者はその病型に応じて退所後一定期間の服薬が必要である。
さて沖縄では本土と異りらい患者を観察指導しうる外来施設を有するが、こ
の活躍はらい対策にとって極めて重要であり且つ期待される所である。しかし
35
らの点を知る一助として、現在沖縄で外来施設に登録されている患者について、
入所経験の有無とその在園期間とを調査してみた。
沖縄の未収容患者のうち療養所を逃亡したものを除いた患者
603名につい て、療養所に入所したことのあるもの(入所経験者)を病型別にしらべると、
表9に示す通りであった。
L型では
54.5%、
TM型では
13.0%、
TN型では
8.3%、
B
或は
I型では
27.6%のものが入所経験者であり、それは全未収容患者
603名
中
160名(
26.5%)を占めていた。特にらい菌陽性者が大多数を占める
L型患
者の約半数が入所未経験者であった事実は、らい治療および予防の面から考え て注意すべき問題であろう。また、これら入所経験者の在園期間をしらべてみ ると、
L型では在園4年未満、
TM型では在園3年未満のものが全体の約
50%表9 未収容患者中の入所経験者
病 型
L型
TM型
TN型
B・
I型 不明 計
男 未収容 入所経験
113 63
144 19
28 2
41 13
32 7
358 104
女 未収容
入所経験
67 35
110 14
20 2
17 3
31 2
245 56
計
未収容 入所経験
(%)
180 98 (54.5)
254 33 (13.0)
48 4 (8.3)
58 16 (27.6)
63 9 (14.3)
603 160 (26.5)