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産業・企業立ち上げに関する一般事例

ドキュメント内 2 (ページ 50-59)

第10章 起業に際するビジョンについて   

10−1 ビジョンは事業の道標   

 新しいビジネスを始めようと思うとき、まず考えるのは経営戦略面の計画だ ろう。どのような市場を狙ってどのような製品を作ろうか、どのようなルート で売ろうか、などに思いを巡らすはずである。また、経営戦略を数字に落とし 込んだ財務計画にも、当然関心は向くはずだ。売上げはいくらになるのか、費 用はどのくらいかかるのか、いったい利益は生み出せるのだろうか‥‥‥。 

 言うまでもなく、これらは非常に重要なポイントである。ビジネスプランを 書くにあたっても戦略をよく練り上げ、数字をよく検討したうえで書き始めな ければ、説得力のあるビジネスプランはできないだろう。だがもう 1 つ、見逃 されがちではあるが、実はビジネスプランに欠かせないポイントがある。それ は「ビジョン」である。 

 ビジョンとは「創業者や経営者が考える理想の企業の姿」であり、平たく言 えば「将来的にどんな会社にしたいか」を言葉で表したものである。長期の事 業目標と言い換えてもいいだろう。ビジョンなどは前からわかっている、あら ためて書き表す必要もないと思っている人もいるかもしれないが、ビジョンを 言葉として表すのは意外に難しい作業である。なせなら、多くの場合ビジョン は、たとえ頭の中にあっても、漠然としていることが多いからだ。 

 漠然としたものを表に出しはっきりさせることで、自分が目指す事業の目的 地がはっきりしてくる。目的地が決まれば、それに向けて経営戦略も立てやす くなる。ビジョンをビジネスプランの中に書き表すのは、戦略的にも非常に重 要な作業である。 

 知的産業分野やサービス分野の産業が新規事業の中心になってきている現在、

ビジョンが事業展開の方向性を決め、ひいては企業活力の源泉となる場合も増 えている。 

 

10−2 成功する事業を導くビジョンの作り方   

ビジネスプラン全体の中で「ビジョン」が占めるページ数は少ない。しかし ビジョンには重要な役割がある。ビジョンは事業の道標となり、社員や取引先 などのステークホルダーを動かす原動力となるのである。したがって、どのよ うなビジョンを作り、それをどのようにステークホルダーに浸透させるかによ り、ビジネスの成否が左右されるといっても過言ではない。 

   

10−2−1 出井SONYのビジョン   

ビデオカメラ、ミニディスク、ゲーム機「プレイステーション」、デジタル放 送対応テレビ‥‥‥。 

出井伸之氏が1995年に社長に就任して以来、ソニーは以前にも増して、

エレクトロニクス商品のデジタル化を進めてきた。その多くは総じて2001 年まで好調であった。97年に出井氏は、アメリカの経済誌「フオーチュン」

アジア版で、初めての「Asian Businessman of the year」に選ばれた。同年ア ジア経済が停滞するなか、デジタル商品で飛び抜けた好業績を上げたというの がその理由だ。 

 得意とするAV(オーディオ・ビジュアル)商品のデジタル化を進める一方 で、ソニーはコンピュータ関連の事業にも積極的に取り組んでいる。95年   11月には半導体製造メーカーのインテルと、長期にわたる協力関係を結んだ。

情報技術分野を担当する専門の部門として、インフォメーションテクノロジー カンパニーも設立した。AV技術を活かしたコンピュータ周辺機器などを開発 している。 

 他方では、まったく新しい事業にも進出し始めた。その 1 つが放送事業だ。

ソニーは前社長の大賀典雄氏の時代から、放送事業への興味を示していたが、

出井社長の時代に、パーフェク TV、J スカイ B に相次いで出資した。当時の出 井社長は出資を発表した会見の席上で、「音楽、映画、ゲームソフトをはじめ、

ソニーグループの総力を挙げて積極的に参加していく」と語り、放送事業に本 格的に取り組む決意を示した。 

 新しい事業分野へ次々に進出していくソニー。「いったいどこに向かっている のだろう」との疑問を抱かせなくはないが、ソニーにはしっかりとした方向性 がある。言い換えるならば「ビジョン」に基づいた経営がなされているという ことだ。 

 

 ソニーのビジョンは   

■デジタル・ドリーム・キッズ   

■エレクトロニクスとエンタテインメントの融合   

■リ・ジェネレーション   

 の 3 つの言葉に集約されているといえる。 

「デジタル・ドリーム・キッズ」は、出井会長が社長就任以来提唱している 言葉である。 

この言葉には、「デジタル時代に育った顧客に対し、彼らの夢をかなえるよう な商品を開発していこう」「人を楽しませる何かを根底に持った商品を開発しよ

う」との思いが込められている。「ソニーと触れ合えば自分の夢が実現できそう だと思うから、人は集まってくるし、お客様は喜んでくれる」出井会長はそう 考えているのである。衛星放送や情報技術関連事業を通じて、ソニーはデジタ ルで夢をかなえる商品を開発しようとしているのだ。 

「デジタル・ドリーム・キッズ」はいわば商品開発の上でのキーワードだが、

社内だけでなく社外に対しても発信されている。現在(1997年末時点)放 映されているソニーのCMの最後、わずか1,5秒の問に、コンピュータ・グ ラフィックスを使った画像が次々に現れる。注意深く見ていると、その画像の 中に、SONY のロゴと Digital Dream Kids の文字が繰り返し現れるのがわかる。 

「ソニーはデジタル・ドリーム・キッスをキーワードに、新しい方向に進ん でいくのだ」という決意を社外に向けても発信しようとしているのだ。 

 だがなぜ、「放送事業」や「情報技術事業」なのだろうか。「デジタル」で「夢 をもたらす」事業はほかにもあるのではないのか。そもそも、順調なAV事業 を地道に展開していくだけでも、発展は望めるのではないだろうか。 

その答えはやはりビジョンを表した言葉「エレクトロニクスとエンタテイン メントの融合」と「リ・ジェネレーション」から見てとれる。 

 ソニーは世界でも珍しくハードとソフトの両方に事業展開している会社であ る。ハ−ドではAV機器で有名なのは言うまでもない。ソフトでも音楽、映画、

ゲームなどエンタティンメントの分野で、業界トップクラスの子会社を抱えて いる。今度はさらに両者の強みを融合させようというのだ。放送事業では、音 響や放送機器の製造といったハ−ドの強みと、音楽、映像などエンタテインメ ント分野の強みが両方とも活かせるのである。情報技術事業でも、エンタティ ンメント的な要素が加われば、従来のコンピュータ関連商品とは違った特色の ある商品が作れる可能性がある。 

 エレクトロニクスとエンタテインメントを融合することによって可能になる のが「リ・ジェネレーション」だ。リ・ジェネレーションとは、新しい生命を 得る、再び成長するという意味で、やはり出井会長が社長就任時から提唱して いる言葉である。出井会長はインタビューに答えて次のように語っている。 

「ソニーは日本の復興の先頭に立って、消費者向けのエレクトロニクス製品 で産業革命のようなことをやって、大きくなった会社だ。次の50年で日本は、

工業立国から情報やサービスを軸にした国に変わっていく。そこでもソニーは 先頭を走る企業にならなくてはいけない」「いつまでもウォークマンをたくさん 売るだけではダメだ。もちろん柱として大事だけれど、それ以外で引っ張って いく企業にトランスフオーメーション(変身)を図らないとね。衛星デジタル 放送の J スカイ B への出資はその第一歩だ」(日経産業新聞 1997 年 2 用 24 日) 

 ここで注目されるのは、出井会長が時代の先を読んだうえで、先手を打って 方針を打ち出そうとする姿勢だ。さらにソニーでは、それをビジョンという形 で社内外に表明し、確実に 1 歩 1 歩実現していこうとしているのである。日本 の企業でもビジョンという言葉がときどき使われる。ビジョンを社内外に表明 している会社もある。しかし、ここまではっきりと会社の変革を言葉に表し、

その言葉を使って社内外を動かそうとしている企業は数少ない。 

 

10−2−2 SONY創業の精神   

もう 1 つ注目されるのは、ソニーがいまだに創業の精神を意識し、それに基 づいて現在のビジョンを形づくっていることである。ソニーの創業の精神は、

ソニーの前身である東京通信工業が創業したときに作られた「設立趣意書」に 見ることができる(参考10−2−1)。 

設立趣意書はかなり長いものである。その中には創業の時代ならではのビジ ョンも含まれていれば、ソニーという企業の根幹をなす経営理念的なものも含 まれている。 

その設立趣意書の中で現在まで引き継がれているのは「技術を進歩させ、革 新的な製品を生み出す」という開拓者精神であろう。ソニーは創業以来、消費 者向けエレクトロニクス製品で革新的なものを出して成長してきた。時代が変 わっても革命的なことをやることによりトップを走ろうとしているのである。 

 創業の精神を守るという姿勢は、ソニーが本業のAVを大切に育てていこう としている姿にも見てとれる。新事業を次々と展開していく一方で、出井社長 は「いまいちばん大切なのは、本業のAVをしっかりやっていくことだ」と語 っている。新事業も柱となる事業がしっかりしていなければ、展開できないと いうわけだ。 

 ソニーの業績は2001年位までは好調であった。1997年3月期は円安 の恩恵やゲーム機プレイステーションの好調などを受け大幅増益となった。日 本経済が停滞するなか、国際的に事業を展開し業績を伸ばしている「国際優良 株」の代表挌ともなっている。この好調ぶりとビジョンがどのように結びつい ているのか、成功の何%がビジョンからもたらされているのか、明言すること はできない。また、しっかりしたビジョンを持っているからといって、新たに 進出した放送事業やIT事業が成功するとも限らない。しかし、もし仮に、ソ ニーがビジョンをまったく持たない企業であったら、この90年代後半から2 000年にかけて、ここまでの成功はなかったと思われる。 

 

(参考 10‑2‑1) ソニー設立趣意書(抜粋)   

会社創立ノ目的 

一、真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度二発揮セシムベキ自由闊達ニシテ愉快 ナル 

  理想工場ノ建設 

一、日本再建、文化向上二対スル技術面、生産面ヨリノ活発ナル活動  一、戦時中、各方面二非常二進歩シタル技術ノ国民生活内ヘノ即時応用 

一、諸大学、研究所等ノ研究成果ノ内最モ国民生活二応用価値ヲ有スル優秀ナ ルモ 

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