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4. ヒ素の毒性

4.4 生殖・発生毒性

(1)ヒトへの影響

ヒ素は容易に胎盤を通過し、胎児を暴露することが示されている(Concha et al. 1998 18)。

バングラデシュおよびチリにおいて、高濃度のヒ素を含む井戸水を飲んでいた母親の出産 への影響が調べられた。

Ahmad et al.(2001 3)はバングラデシュにおいて、ヒ素濃度の高い飲料水(>0.05 mg/L、

平均 0.24 mg/L)を5年以上飲用していた15-49歳までの経産婦96 人、および年齢、社会

経済的状況、教育、結婚年齢をマッチさせたヒ素濃度の低い飲料水(<0.02 mg/L)を飲用 していた経産婦96人の妊娠結果について後ろ向き研究を行った。暴露群の98%は>0.1 mg/L のヒ素を含む飲料水を飲用しており、43.8%はこのような水を5-10年以上、飲用していた。

自然流産、死産、早産の割合は、暴露群で対照群と比較して有意に高く、また、15 年超暴 露群で 15年未満暴露群に比較して、有意に高かった(Ahmad et al. 2001 3)。

Hopenhayn-Rich et al.(2000 45)はチリの飲料水中のヒ素濃度が高い地域(Antofagasta、>

約 50 µg/L)と低い地域(Valparaiso、<約5 µg/L)で、人口統計に基づき胎児、新生児、お よ び 乳 児 の 死 亡 率 を 比 較 し た 。 胎 児 死 亡 率 、 新 生 児 死 亡 率 、 乳 児 死 亡 率 は い ず れ も 、

Antofagasta で Valparaisoより有意に高かった。また、人為的理由により飲料水中のヒ素濃

度が高くなった時期には胎児死亡率も上昇したが、ヒ素濃度が低くなると胎児死亡率も低 下した(Hopenhayn-Rich et al. 2000 45)。

Hopenhayn-Rich et al.(2003 43)はさらにAntofagastaおよび Valparaisoで前向きコホート 研究を行った。両地域の飲料水中のヒ素濃度はそれぞれ、約 40 µg/L、1 µg/Lであった。1998 年 12月から2002年 2月に生まれた単生児、それぞれ 424人および420人の出生時体重を 比較したところ、交絡因子を調整後、前者では後者より、出生時体重が 57 g軽かった(95%

(2)実験動物データ

動物を用いた無機ヒ素化合物に関する催奇形性試験は多くの研究が実施されており、高 濃度暴露による重篤な例では、外脳症などが報告されている。

無機ヒ素化合物についての生殖・発生影響に関するレビュー(Golub et al. 1998 33)から、

経口暴露における母動物または胎児への影響データを表 25に、雄動物の生殖影響について のデータを表 26に示す。また、WHO飲料水質ガイドライン第 3版の基準値設定根拠文書

(WHO 2003 116)に引用されている生殖影響を次の段落に示す。

Swiss-Websterマウスにおいて、ヒ酸ナトリウム 45 mg/kgを妊娠6~11日のうち1日に腹 腔内単回投与した結果、催奇形性が報告されている(Hood & Bishop 1972 40)。また、シリ アンハムスター(LVG)の妊娠4~7日にヒ酸ナトリウム(5.2~9.0 mg As/kg/day)を、皮 下 に ミ ニ ポ ン プ を 埋 植 し て 投 与 し た 結 果 、 出 生 児 に 対 し て 催 奇 形 性 を 示 し た (Ferm &

Hanlon 1985 25)。奇形発生の原因となるヒ素の具体的な形態は分かっていないが、亜ヒ酸

塩である可能性がある(Hanlon & Ferm 1986 37)。別の研究者は、妊娠 6~15 日のCD-1マ ウスに 0~48 mg/kg/day、妊娠6~18日のNZWウサギに 0~3 mg/kg/dayのヒ酸をそれぞれ 経口投与したが、これらの試験では催奇形性は観察されなかった(Nemec et al. 1998 85)。

仁藤ら(2000 150)は、妊娠Wistarラット(1群3匹)の妊娠17 日に、三酸化二ヒ素(亜 ヒ酸)水溶液(三酸化二ヒ素として 8.5 mg/kg)を単回強制経口投与し、投与後 12、24、

48 時間後(妊娠 17~19 日)に剖検した。胎児と母動物の脳中ヒ素濃度を、形態別に測定 した(水酸化ナトリウム加熱処理した試料を超低温捕集-還元気化-原子吸光光度計で測定)

ところ、母動物と胎児の両方の脳で無機ヒ素 iAs、メチル化ヒ素 MA、ジメチル化ヒ素 DMA が検出された〔iAs+MA+DMA最大:胎児(n=6)24.0 ng As/g wet wt(無処置群 7.94)、母 動物 20.0 ng As/g wet wt(無処置群12.7)〕。母動物の脳に病理組織学的変化は認められなか ったが、投与群の胎児の脳にはアポトーシス細胞が認められ、投与後12 時間に剖検した群 に顕著であった。

表 25 無機ヒ素の暴露(妊娠動物)による生殖発生影響(経口暴露のみ)

動物種・

系統・性

投与物質, 期間, 用量(単位記載なしは

mg/kg/day

影響[影響が認められた用量] LOAEL* NOAEL* 出典 Golub et al. 1998

33

ハ ム ス タ LVG 妊娠雌

亜ヒ酸ナトリウム gd9 / gd10: 20 gd8 / gd11 / gd12: 25 単回経口投与

[20]:母動物死亡 1/20 (5%), 児への影響なし

[25]: 母 動物 死亡 6/36 (16.7%), gd8, gd12 投与群胎 児死亡 率増加, gd12投与群胎児体重減少

20 mg/kg/day (母動物) 25 mg/kg/day (胎児)

20 mg/kg/day (胎児)

Hood &

Harrison 1982

マウス CD-1 妊娠雌

亜ヒ酸ナトリウム gd1, gd8-15 単回経口投与 0, 20, 40, 45

[40]:母動物死亡 19%, 胎児死亡/

吸収胚増加

[45]:母動物死亡 36%, 胎児死亡/ 吸収胚増加, 胎児体重減少

Baxley et

al. 1981

マウス CD-1 妊娠雌

亜ヒ酸ナトリウム

gd1-1717日間)経口投

0, 5

[5]: 出 生 後 生 存 率 減 少, 迷 路 検 査 でのエラー増加(出生児は生後40 日まで観察)

5

mg/kg/day

Earnest &

Hood 1981 マウス

妊娠雌

亜ヒ酸ナトリウム gd9 / gd10 単回経口投与 0, 120

(統計学的分析は未実施)

胎 児 死 亡 の わ ず か な 増 加, 低 頻 度 の 奇 形, 母 動 物 死 亡 (gd9 投 与 群 18%, gd10投与群11%

120 mg/kg/day

Hood et

al. 1977

マウス CD-1 妊娠雌

亜ヒ酸ナトリウム gd1, gd7-15 単回経口投与

0, 40, 50, 60, 80, 100, 120

[0-100]:影響なし [120]:胎児体重減少

gd11 投与群の胎児死亡, 吸収胚増 , gd9投与群の骨格奇形増加

120 mg/kg/day

100 mg/kg/day

Hood et al. 1978

マウス CD-1, ICR-BR 妊娠雌

75%ヒ酸(AsV

gd6-159 日 間 ) 経 口 投

0, 3.96, 12.67, 25.34 mg As/kg/day

[25.34]: 母 動 物 体 重 減 少, 吸 収 胚 増 加, 着 床 後 胚 損 失 増 加, 出 生 後 生 存 率 減 少, 黄 体 数 減 少, 外 脳 症 2/146, 臍帯ヘルニア1/146 [12.67]: 母 動 物 体 重 減 少, 胸 腹 壁 破 裂 2/263 , 胸 骨 核 分 離 2/263 , 全胎児吸収1

[3.96]:母動物体重減少, 顔面裂を 伴う外脳症 1/231 , 小~無眼球 1/231

WIL 1988a

ウサギ NZW

75%ヒ酸(AsV

gd6-1813日間)経口投

0, 0.10, 0.40, 1.58 mg As/kg/day

[1.58]: 母動 物 死亡, 流 産, 全胎 児 吸収, 腎・尿管無形成(1例)

[0.10, 0.40]:胸骨分節癒合(1例), 母動物影響なし

WIL 1988b

ラット 亜ヒ酸

妊 娠 期間 ~ 授 乳 期 間混 餌 投与

0.5, 2.5, 5.0 mg As/kg/day

影響なし(母動物毒性データなし) 5.0 mg As/kg/day Kojima

1974

ヒツジ 妊娠雌 11

ヒ酸カリウム

0.5 mg/kg/day:妊娠期間 のうち45, 140, 147日間 経口(カプセル)投与, 0.75 mg/kg/day:妊娠期間のう 18日間経口(カプセル)

投与

[0.75]:母動物の歯肉・舌の変色(黒 色), 児は小型で密毛

[0.5]:影響なし

James et

al. 1966

gd:妊娠後日数, *NOAELまたはLOAELは編者判断による値(単位がAs換算表示でないもの

はヒ素化合物としての用量).

表 26 無機ヒ素の暴露(雄動物)による生殖発生影響(経口暴露のみ)

動物種・

系統・性

投与物質, 期間, 用量(単位記載なしは

mg/kg/day

影響[影響が認められた用量] LOAEL* NOAEL* 出典 Golub et al.

1998 33 マウス

亜ヒ酸 5, 50 mg As/L 飲水投与

[5, 50] 精 巣 生 殖 上 皮 の 重 度 変

5 mg As/L Bencko et al. 1968 マウス

亜ヒ酸ナトリウム 経口投与 0.25, 0.5, 1.0

優性致死影響なし 1.0

mg/kg/day

Gencik et al. 1977 マウス

ヒ酸 混餌投与

0.53, 2.65, 13.25 mg As/kg/day

雄の授胎率への影響なし 13.25 mg

As/kg/day Hazelton Laboratories 1990 マウス

亜ヒ酸ナトリウム

250 mg/kg単回経口投与 10, 100 mg As/L飲水投与 8週間

単回投与:優性致死影響なし 飲水投与:4 世代まで優性致死 影響なし

Sram &

Bencko 1974

*NOAEL または LOAEL は編者判断による値(単位が As 換算表示でないものはヒ素化合物と

しての用量).

Irvine et al.(2006 51)は、MMA及びDMAの発生毒性についてレビューした。SDラッ ト及び NZW ウサギを用いて 1980 年代後半の GLP に従って、受託研究機関が MMAVと DMAVについて実施したものである。MMA については、ラットでの用量を 0、10、100、

500 mg/kg/day、ウサギの用量を 0、1、3、7、12 mg/kg/day、DMAについては、ラットでの 用量を 0、4、12、36 mg/kg/day、ウサギの用量を 0、3、12、48 mg/kg/dayとし、いずれも 強制経口投与した。結果として、MMAでは、ラットの母動物において、100 mg/kg/day以 上で生殖器周囲の被毛の汚れ、軟便が、胎児において 500 mg/kg/day において胎児体重の 減少がみられたが、催奇形性は認められなかった。MMA投与のウサギの母動物において、

12 mg/kg/dayで流産、軟便/下痢が見られたが、胎児に対する影響は全く認められなかっ

た。DMAでは、ラットの母動物において、36 mg/kg/dayで体重増加抑制および摂餌量の減 少が、胎児において、36 mg/kg dayで着床後死亡の増加、胎盤重量及び胎児重量の低下が 見られ、さらに奇形として横隔膜ヘルニアが、変異として骨化進行度の遅れ及び未熟な第 13 肋骨が認められた。ウサギの母動物において、48 mg/kg/dayで流産、摂餌量減少、体重 減少、下痢、死亡/切迫殺、剖検時に流動性胃内容、胃出血が見られたが、12 mg/kg/day 以下では変化はみとめられなかった。胎児においては、48 mg/kg/dayについては評価を実 施しなかったが、12 mg/kg/day以下では特に異常は認められなかった。NOAELはMMAで は、ラットで 100 mg/kg/day、ウサギで 7 mg/kg/day、DMA ではラット及びウサギとも 12 mg/kg/day であった。

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