5-1 実験プロトコル
生体組織を測定する上で、より簡単かつ明確に異なる検査者が測定を行う際、再現性・定量 性の高い実験システムが必要になる。
そこで本章では生体測定時の測定プロトコルを明確に示し、より高い再現性・定量性を得ら れる実験システムを提案する。
実験プロトコルを確立せずに異なる検査者で同一の被験者を測定した結果をFig.5-1-1に示 す。
[実験条件]
・加振周波数 276.5Hz
・推定振動振幅 1200um
・測定部位 二頭筋と上腕二頭筋
・被験者 20代男性
Fig.5-1-1 プロトコルを確定せずに測定を行った結果
このときのROI 内の平均伝播速度はそれぞれ 3.30[m/s]、2.73[m/s]となり伝播速度の差は 0.66[m/s]という値になった。
またBモード画像から測定している部位も異なると判断できる。
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
34 5-2 生体測定時の誤差要因
生体において再現性の高い測定を行うための実験プロトコルを作るうえで、問題となる誤 差要因を示す。
① プローブでの圧迫による影響
本手法では被測定部に対する超音波プローブの圧は小さいほうが望ましい。
これは圧迫による被測定部の硬直が原因であり、こういった誤差を小さくするために本 手法では被測定部に対するプローブの圧を可能な限り小さくする必要がある。
プローブによる圧迫があるときとないときの波の伝播の違いを以下に示す。
[実験条件]
・加振周波数 276.5Hz
・推定振動振幅 1200um
・測定部位 二頭筋と上腕二頭筋
・被験者 20代男性
[実験方法]
Ⅰ 加振器先端を生体表面で振動させ、生体内部にせん断波を励起させる。
Ⅱ 超音波プローブによって被測定部に圧を加える、加えないの二通り実験。
Ⅲ 伝播速度マップ、推定伝播速度を得る。
35 実験結果を以下に示す。
プローブによる圧迫がないとき
Fig.5-2-1 プローブによる圧迫がないときのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は2.59[m/s]となった。
プローブによる圧迫があるとき
Fig.5-2-2 プローブによる圧迫があるときのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は8.23[m/s]となった。
二頭筋と上腕二頭筋を測定する上でプローブによって圧を加えると厚みは 9.1[mm](56%) 減少、伝播速度は5.64[m/s](218%)増加した。
0.5 10 [m/s]
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
0.5 10 [m/s]
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また Fig.5-2-3 の組織による応力-歪関係の非線形性、ヒステリシスの変化から応力が大き
くなると歪み率は小さくなる。よって応力が加わることによって非測定部位の組織は硬く なることがわかる。
Fig.5-2-3 組織による応力-歪関係の非線形性、ヒステリシスの変化
以上の結果により本手法では被測定部位に対するプローブでの圧は小さいほうが望ましい ことがわかる。
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② 超音波プローブと加振器の位置
本手法では伝播するせん断波の波面間隔によって伝播速度の推定を行っている。
そのため正確な波面間隔を映像化するためにプローブと加振器を一直線上に置き測定 を行う必要がある。
超音波プローブと加振位置による波面間隔の違いを簡単に表したものをFig.5-2-4に示 す。
Fig.5-2-4 超音波プローブと加振位置による波面間隔の違い
以上から本手法ではプローブと加振器を直線上に置き測定を行うことが望ましいことがわ かる。
③ 筋組織の硬直による影響
本手法では筋繊維を測定する場合、測定部位が脱力した常態で測定することが望ましい。
筋肉の硬直によって測定部位の硬さが変わってしまい、被測定部の正確な伝播速度を測 定することができなくなってしまう。
そのため被験者は被測定部の力を入れていない状態で測定する必要がある。
被測定部の筋組織に力を入れたときと入れないときの波の伝播の違いを以下に示す。
[実験条件]
・加振周波数 276.5Hz
・推定振動振幅 1200um
・測定部位 二頭筋と上腕二頭筋
・被験者 20代男性
38 [実験方法]
Ⅰ 加振器先端を生体表面で振動させ、生体内部にせん断波を励起させる。
Ⅱ 被測定部の筋組織に力を入れる、入れないの二通り実験。
Ⅲ 伝播速度マップ、推定伝播速度を得る。
実験結果を以下に示す。
被測定部位に力を入れていない状態
Fig.5-2-5 筋組織に力を入れていない状態でのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は2.75[m/s]となった。
被測定部位に力を入れた状態
Fig.5-2-6 筋組織に力を入れた状態でのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は6.93[m/s]となった。
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
0.5 10 [m/s]
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
0.5 10 [m/s]
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二頭筋と上腕二頭筋を測定する上で被測定部に力を入れ筋組織を硬直させると伝播速度は 4.18[m/s](152%)増加した。
以上の結果により本手法では被測定部位の力を抜き、脱力した状態で測定を行うことが望 ましいことがわかる。
④ 筋繊維の方向による影響
本手法では筋繊維方向によって同一の被測定部でも伝播速度が異なる。
そのため超音波プローブと筋繊維の方向を平行にして測定を行う必要がある。
超音波プローブと加振位置と筋繊維方向との関係を表したものをFig.5-2-7に示す。
Fig.5-2-7 プローブと加振点と筋繊維方向の関係
また繊維方向による波の伝播の違いを以下に示す。
[実験条件]
・加振周波数 276.5Hz
・推定振動振幅 1200um
・測定部位 二頭筋と上腕二頭筋
・被験者 20代男性
[実験方法]
Ⅰ 加振器先端を生体表面で振動させ、生体内部にせん断波を励起させる。
Ⅱ 被測定部の筋組織方向に対し平行方向と垂直方向の二通り実験。
Ⅲ 伝播速度マップ、推定伝播速度を得る。
40 実験結果を以下に示す。
筋繊維に平行する方向
Fig.5-2-8 筋繊維に平行する方向でのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は2.69[m/s]となった。
筋繊維に垂直する方向
Fig.5-2-8 筋繊維に垂直する方向でのCFI画像と伝播速度画像
ROI内の平均伝播速度は25.83[m/s]となった。
以上の結果により超音波プローブと筋繊維の方向を平行にして測定を行うことが望ましい ことがわかる。
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
0.5 10 [m/s]
+2.3
−2.3 𝑐𝑚/𝑠
0.5 10 [m/s]
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5-3 乳腺ファントム、骨格筋での実験プロトコルの確立
前頁までに示した誤差要因を考慮し乳腺ファントム、骨格筋における実験プロトコルを確 立する。
・乳腺ファントムについて
乳腺をターゲットとしたとき、乳腺の構造の複雑さ、また臨床実験の難しさから、まず乳 腺のファントムでの実験プロトコルを確立するする必要がある。
・骨格筋について
実験プロトコルを確立する上で筋組織の構造の簡単さ、臨床実験の簡単さ、また骨格筋で の実験プロトコルは乳腺においても適用できるため骨格筋を対象とした。
前項までに示した誤差要因と測定時に注意する点まとめると以下のようになる。
① プローブでの圧迫による影響
→プローブでの圧迫を可能な限り小さくし測定を行う。
② プローブと加振器の位置
→測定部表面をマークし測定を行う。
③ 筋組織の硬直による影響
→測定部位に力が入らない姿勢で測定を行う。
④ 筋組織の方向による影響
→測定対象の筋組織の構造を考慮し測定を行う。
これらを考慮し実験プロトコルを確立する。
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再現性の高い測定を行うために以下の方法で測定、解析を行う。
ROI 内の測定対象部位の左側面の厚みを𝐷𝐿、右側面の厚みを𝐷𝑅とする。
Fig.5-3-1 測定部位の厚み
複数回測定を行う際、基準となるデータからの差を∆𝐷𝐿, ∆𝐷𝑅とし、これらが以下の条件の場 合のデータを取り扱う。
|∆𝐷𝐿| ≤ 2[𝑚𝑚] かつ |∆𝐷𝑅| ≤ 2[𝑚𝑚] (5-3-1)
厚みを指標とすることによって前頁で示した誤差要因
・プローブでの圧迫による影響
・プローブと加振器の位置
・組 織の硬直による影響
それぞれの誤差の指標とすることができる。
以上で示したプロトコルに従い、実験を行うことで∆𝐷𝐿, ∆𝐷𝑅の指標により複数回での同一測 定部位の測定を行うことができる。
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