イ ギ リ ス 政 府 に よ っ て ベ タ ー ・ レギ ュ レ ー シ ョ ン計 画 が 提 唱 さ れ て 以 降, イ ン グ ラ ン ドと ス コ ッ トラ ン ドに お け る 環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 制 度 に は 大 き な 違 い が 生 じ る こ と と な っ た 。 しか しな が ら,た と え ス コ ッ ト ラ ン ドの よ う に 市 民 参 加 制 度 を 充 実 さ せ た と して も,そ れ が 市 民 に 周 知 さ れ,利 用 さ れ な け れ ば 意 味 は な い 。 本 章 で は,意 義 の あ る 市 民 参 加 の 在 り 方 を 検 討 す る た め,イ ン グ ラ ン ド及 び ス コ ッ トラ ン ドに お け る 市 民 参 加 の
(1⑤Ibid.
(M①Ibid.
利 用 率 や その 形 態 の 妥 当性 な ど, 考 察 す る。
両 地 域 に お け る市 民 参 加 の 実 態 につ いて
第1節 市 民 参 加 の 利 用 率
先 述 した よ う に,イ ン グ ラ ン ドに お け る 「標 準 許 可 」 制 度 の 導 入 と広 範 囲 にわ た る環 境 関 連 事 業 へ の 同許 可 の 適 用 は,個 々の 環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 の 機 会 を 大 幅 に減 少 させ る結 果 とな って い る。2010年 イ ン グ ラ ン ド規 則 の 下 に お いて は,市 民 参 加 の 機 会 は焼 却 施 設 の 操 業 な ど比 較 的 環 境 へ の 影 響 が 大 きな 「特 注 許 可 」 が 適 用 され る事 業 に お け る許 可 決 定 過 程 と,「 標 準 許 可 」 基 準 の 策 定 ・改 正 に つ いて の み提 供 され る こ と とな るの で あ る。
「標 準 許 可 」 に関 す る市 民 参 加 が,基 準 の策 定 ・改 正 に対 す る もの に限 定 さ れ て い る こ と につ い て,ElizabethA.Kirk&KirstyLBIackstock
は 「市 民 は 自身 の 生 命 に対 す る影 響 を 理 解 して い る時 にの み 意 思 決 定 に参 加 しよ う とす る傾 向 が あ り,政 策 や 計 画 の 策 定 段 階 よ りもむ しろ実 施 段 階 にお い て参 加 しよ う とす る」櫛 と言 及 し,市 民 は基 準 の策 定 ・改 正 と い っ た 段 階 よ りも,む しろ許 可 決 定 過 程 と い っ た 自身 の 生 命 ・身 体 に直 接 的 にか か わ るで あ ろ う個 別 的 な 実 施 段 階 で の 市 民 参 加 を 好 む 傾 向 が あ る と指 摘 し て い る。
環 境 庁 の 統 計 に よ る と,イ ン グ ラ ン ドに お いて2007年 規 則 の 下 で 行 わ れ た計10種 類 の 基 準 策 定 ・改 正 につ いて,環 境 庁 は ホー ムペ ー ジ上 で 公 告 を した後,800も の 利 害 関 係 者 及 び 団 体 に対 して意 見 提 出を 呼 び掛 け る電 子 メ ール を直 接 送 付 した。 この 意 見 提 出 は2008年8月22日 か ら11月14日 まで の12週 間 受 け付 け られ たが,最 終 的 に意 見 提 出 はわ ず か24件 に と ど ま り,
q⑦Ibid.,p.107.
その 全 て が 利 害 関 係 を 有 す る産 業 団 体 あ る い は公 的 機 関 か らの もの で あ っ た㈹。 ま た 同様 に2007年 規 則 の下 で 行 わ れ た 計6種 類 の基 準 の 策 定 ・改 正 につ いて,2009年9月4日 か ら11月27日 まで の12週 間 受 け付 け られ た 市 民 参 加 手 続 に お いて も,環 境 庁 は ホー ム ペ ー ジで 公 告 す るだ けで な く,1,400 以 上 の 利 害 関 係 者 及 び団 体 に対 して 電 子 メー ル を 直 接 送 付 した に もか か わ
らず,32件 の 意 見 提 出 に と ど ま り,そ の 内2件 が 公 益 団 体,16件 が 産 業 団 体,残 りは全 て公 的機 関 か らで あ った㈹。 これ を見 て も,「標 準 許 可 」 基 準 の 策 定 や 改 正 につ いて 意 見 を 提 出 しよ う とす る市 民 は ほ とん ど存 在 せ ず, イ ン グ ラ ン ドに お け る この よ うな タ イ プの 市 民 参 加 制 度 は完 全 に機 能 不 全 に陥 って い る と言 え る。 これ は 「も し市 民 の 意 見 が(基 準 策 定 の)質 の 改 善 に必 要 で あ るな らば,こ の 市 民 参 加 手 続 に は不 備 な 点 が あ る と言 わ ざ る を 得 な い」(11①と批 判 さ れ る と こ ろ で あ る㈹。
一 方,ス コ ッ トラ ン ドに お いて は,イ ン グ ラ ン ドと比 較 して も環 境 許 可 決 定 へ の 市 民 参 加 の 機 会 を 広 く提 供 して い るわ けで あ るが,こ こで も市 民 に よ る関 わ りの 程 度 は非 常 に限 られ た もの に過 ぎな い。SEPAの 統 計 に よ る と,2000年 ス コ ッ トラ ン ド規 則 に基 づ き2008年12月5日 か ら2010年8月 17日 の 間 にSEPAに よ って ホ ー ム ペ ー ジ上 で 公告 され た 計26件 の許 可 決 定
㈹EnvironmentAgency,SummaryofResponsestoourSecondCon‑
sultation"StandardRulesfortheEnvironmentalPermittingRegulations"
(March2009),p.2.〈http://www.environment‑agency.gov.uk/static/
documents/Research/SR ̲Cons̲No̲2̲Response̲document̲final.pdf>
㈹EnvironmentAgency,SummaryofResponsestoourfourthconsultation
"St
andardrulesfortheEnvironmentalPermittingRegulations"(March 2010),p.3.〈http://www,environment‑agency.gov.uk/static/documents/
Research/SR ̲Cons̲No̲4̲Response̲documentv1̲0.pdf>
⑳ElizabethA.Kirk&KirstyL.Blackstock,op.cit.,[2011]23Journal ofEnvironmentalLaw,p.108.
ω な お,「 特 注 許 可 」 決 定 過 程 に 対 す る 意 見 提 出 に 関 し て,イ ギ リ ス 環 境 庁 は 現
在 の と こ ろ 統 計 を 公 表 し て お ら ず,検 討 す る こ と は 不 可 能 で あ る 。
過 程 へ の 市 民 参 加 につ いて,一 般 市 民 か らの 意 見 提 出が 行 わ れ たの は その 内わ ず か3件 に と ど ま って い たの で あ る(11カ。
イ ング ラ ン ドに お いて は公 的 機 関 に よ る意 思 決 定 の 迅 速 性 と一 貫 性 の 確 保 を重 視 して お り,ス コ ッ トラ ン ドに お いて は意 思 決 定 の 正 当性 や 民 主 性 の 確 保 に重 点 を 置 いて い るわ けで あ るが,ど ち らの 制 度 も統 計 上 は利 用 の 程 度 に大 きな 差 異 はな く,先 述 した よ う に 「政 策 や 計 画 の 策 定 段 階 よ りも む しろ実 施 段 階 にお い て参 加 しよ う とす る傾 向が あ る」㈹ とい う指摘 もあ る が,統 計 だ けを 見 る と これ も妥 当 しな い と考 え られ る。2010年 イ ン グ ラ ン ド規 則 が 基 準 作 成 につ いて の,2000年 ス コ ッ トラ ン ド規 則 が 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 制 度 を それ ぞ れ 構 築 して いて も市 民 が それ を 利 用 しな けれ ば 意 味 はな く,市 民 の 権 利 利 益 の 保 護 や 意 思 決 定 の 正 当性 の 確 保 に はつ な が らな い。 統 計 を 見 る限 り,イ ギ リスで は環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 制 度 は ほ ぼ機 能 して いな い と言 え よ う。
第2節 市 民 参 加 の 形 態 (1)市 民 参 加 の 梯 子
イ ギ リ ス に お い て 環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 が 機 能 して い な い 理 由 の1つ に,市 民 参 加 の 形 態 の 不 完 全 さ が 挙 げ られ る 。
行 政 意 思 決 定 に 対 す る 市 民 参 加 に は 様 々 な 形 態 が あ り,例 え ば ア メ リ カ の 社 会 学 者 で あ るSherryR.Arnsteinは 市 民 参 加 の 形 態 を 梯 子 に 見 立 て た 「市 民 参 加 の 梯 子(ALadderofCitizenParticipation)」q5Φ と い う 概 念
㈹ 市 民 参 加 の 統 計 に つ い て はSEPAホ ー ム ペ ー ジ を 参 照 。 〈http://www.sepa.
org.uk/air/process ̲industry̲regulation/pollution̲prevention̲̲control /public̲participation̲directive/PPd̲consultations/closed.aspx>
㈹ 前 掲 注 ㈲ 参 照 。
㈹ 「市 民 参 加 の 梯 子 」 に つ い て は,世 古 一 穂 「協 働 の デ ザ イ ン パ ー トナ ー シ ッ プ を 拓 く仕 組 み づ く り,人 づ く り 」(学 芸 出 版 社,2001年)39頁 以 下 参 照 。
を 提 言 して い る ㈲。
SherryRArnsteinに よ る と,市 民 参 加 は,市 民 の 関 与 の 程 度 に よ っ て,第1段 階 「世 論 操 作(Manipulation)」,第2段 階 「セ ラ ピ ー (Therapy)」,第3段 階 「情 報 提 供(lnforming)」,第4段 階 「意 見 聴 取 (Consultation)」,第5段 階 「懐 柔(Placation)」,第6段 階 「パ ー トナ ー シ ッ プ(Partnership)」,第7段 階 「権 限 委 譲(DelegatedPower)」,第8
段 階 「市 民 に よ る コ ン ト ロ ー ル(CitizenControl)」 に 分 類 す る こ と が で き,市 民 に よ る 関 与 の 程 度 が 低 い 第1段 階 及 び 第2段 階 は 「市 民 参 加 と は 言 え な い(Nonparticipation)」 段 階,第3段 階 か ら 第5段 階 は 「形 式 だ け の 参 加 に 過 ぎ な い(Tokenism)」 段 階,市 民 の 関 与 の 程 度 が 高 い 第6段 階 か ら第8段 階 は 「市 民 の 力 が 生 か さ れ る(CitizenPower)」 段 階 で あ る ㈹。
こ れ を 見 て も,市 民 参 加 に は,市 民 が 単 に 公 的 機 関 か ら意 思 決 定 に 関 す る 情 報 を 提 供 さ れ る だ け の 場 合(第3段 階)か ら,市 民 が 意 見 を 提 出 し,規 制 当 局 が そ れ を 参 考 に 意 思 決 定 を 行 う と い う い わ ゆ る 「意 見 聴 取 」 が 行 な わ れ る 場 合(第4段 階),決 定 権 限 が 完 全 に 市 民 に 委 ね ら れ る場 合(第8 段 階)な ど 様 々 な 形 態 が あ る と 考 え られ る 。
「情 報 提 供 」 や 「意 見 聴 取 」 と い っ た 比 較 的 「市 民 参 加 の 梯 子 」 の 底 辺 に 近 い 形 態 に お い て は,公 的 機 関 の 行 う 意 思 決 定 の 迅 速 性 や 一 貫 性 を 確 保 す る こ と が で き る 一 方 で,意 思 決 定 の 正 当 性 や 民 主 性 は 低 くな る 。 ま た,
「権 限 委 譲 」 や 「市 民 に よ る コ ン ト ロ ー ル 」 な ど 梯 子 の 頂 点 に 近 い 形 態 に お い て は,意 思 決 定 が 行 わ れ る ま で に 過 度 に 時 間 が か か る こ と や,個 々 の 決 定 に お い て 多 種 多 様 な 価 値 観,専 門 知 識,市 民 の 思 考 傾 向 が 反 映 さ れ る
㈲SherryR.Arnstein,"LadderofCitizenParticipation",(1969)35 JournaloftheAmericanInstituteofPlanners216.
㈹ 「市 民 参 加 の 梯 子 」 そ れ ぞ れ の 段 階 に 関 す る 詳 細 は,世 古 ・前 掲 注(15040頁 参
照 。
こ とか ら決 定 の 一 貫 性 が 欠 如 す る可 能 性 を 指 摘 す る こ と はで き るが,意 思 決 定 の 正 当性 や 民 主 性 の 向 上 につ な が るで あ ろ う。
(2)「 意 見 聴 取 」 に よ る市 民 参 加 (a)「 意 見 聴 取 」 型 の正 当化 理 由
イ ング ラ ン ド,ス コ ッ トラ ン ド共 に環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 制 度 の 大 部 分 は規 制 当局 に対 す る文 書 に よ る意 見 提 出 と い う手 法 を 採 用 して お り,公 的 機 関 は提 出 され た意 見 を 考 慮 した上 で 何 らか の 判 断 を 行 う よ う要 求 され て い る。 しか しな が ら,こ こで は最 終 的 な 意 思 決 定 の 理 由 は提 示 さ れ る もの の,市 民 の 提 出 した意 見 が どの よ う に判 断 に影 響 を 与 え たか につ いて は 明 らか に され な い 場 合 が 多 い㈹。 こ の よ うな市 民 参 加 の 形 態 は 「市 民参加 の梯子 」 の第4段 階で ある 「意 見聴 取 」に該 当 し,SherryR.Arnstein の い う 「形 式 だ けの 参 加 に過 ぎな い」 もの で あ る と言 う こ とが で き る。
この よ う に環 境 許 可 決 定 過 程 へ の 市 民 参 加 手 法 と して 「意 見 聴 取 」 が 採 用 され る こ と につ いて,イ ギ リスで は い くつ か の 理 由が 挙 げ られ て い る。
第1に,環 境 許 可 決 定 の持 つ 技 術 的 ・専 門 的性 質 で あ る㈹。DEFRAの 報 告 書 に よ る と,環 境 汚 染 規 制 に関 す る意 思 決 定 は,「 ① 特 定 の場 所 で 事 業 を行 う こ との 妥 当 性 を検 討 す る段 階 」 と,「 ② 事 業 に つ いて 制 約 を課 す べ きか ど うか を 検 討 す る段 階 」 に分 類 す る こ とが で き,環 境 許 可 は その 第2 段 階 に該 当す る㈹。 そ して この 第2段 階 は市 民 の多 くが知 識 を 持 た な い技 術 的 ・専 門 的 な 問 題 に依 拠 して 判 断 され る もの で あ り,専 門 家 の 判 断 の 範
㈹ElizabethA.Kirk&KirstyL.Blackstock,op.cit.,[2011]23Journal ofEnvironmentalLaw,p.109.
q5ゆIbid.,p.llO.
㈹DepartmentofEnvironment,FoodandRuralAffairs,"Planning andPollutionControl:Improvingthewaytheregimesworktogether indeliveringnewdepartment"(September2007),p.4.
疇 に あ る と考 え られ るの で あ る㈹。 この 点 か ら,環 境 許 可 につ い て は 「意 見聴 取 」 とい う形 態 の市 民参 加 で十 分 だ とみな されて い た㈹。
第2に,規 制 当 局 に対 す る負 担 の 軽 減 が 挙 げ られ る㈹。 規 制 当 局 は,環 境 許 可 の 付 与 に先 立 って 様 々な 要 素 を 検 討 す る よ う要 求 され て い る場 合 が あ る。 例 え ば,環 境 庁 は,2010年 イ ン グ ラ ン ド規 則 に よ って,地 下 水 へ の 排 出許 可 に関 す る判 断 に お いて,土 壌 の 汚 染 物 質 浄 化 能 力 や 汚 染 活 動 か ら 生 じる地 下 水 へ の リス ク とい った 要 素 の 分 析 を㈹,ま た放 射 性 廃 棄 物 の 排 出許 可 に関 す る判 断 に お いて,市 民 が 一 定 基 準 以 上 の 放 射 線 に さ ら され な い よ う確 保 す る こ とを それ ぞ れ 要 求 され て い る(1 。 同様 にSEPAも,2005 年 ス コ ッ トラ ン ド規 則 に よ って,排 水 許 可 の 判 断 に関 して,水 環 境 の リス ク アセ ス メ ン ト㈹や 関連 法 規 の要 件 の 考 慮 ㈹を,ま た2000年 ス コ ッ トラ ン ド 規則 の下 での許 可判断 に関 して は,環 境影 響評 価 につ い て定 め た85/337/EEC 指 令 ㈹ の5条 か ら7条 の 下 で の 決 定 の考 慮 を そ れ ぞ れ 要 求 さ れ て い る㈹。
そ れ以 外 に も,廃 棄 物 処 理 に 関 す る許 可 の よ う に,環 境 許 可 の 付 与 に 先
q6①ElizabethA.Kirk&KirstyL.Blackstock,op.cit.,[2011]23Journal ofEnvironmentalLaw,p.110.
q6D一 方,施 設 設 置 な ど に 必 要 な 「開 発 許 可 」 はDEFRAの い う 第1段 階 に 該
当 し,こ こ で は よ り 「政 治 的 な 決 定 」 が 行 わ れ る こ と と な り,広 く 公 開 討 論 が
行 わ れ る べ き で あ る と 考 え ら れ て い る 。Ibid.
(16麟Ibid.
㈲EnvironmentalPermitting(EnglandandWales)Regulation2010,sch.22, para.7.
G601bid.,sch.23,pt.3,para.1.
㈹WaterEnvironment(ControlledActivities)(Scotland)Regulations 2005,reg.15(1)(a).
q6①Ibid.,sch.4.
㈲ 前 掲 注 ㈲ 参 照 。
㈹Pollution,PreventionandControl(Scotland)Regulations2000, sch.4,pt.2,para.13.