第 3 章 すざくによる TonS180 の観測
3.1 狭輝線セイファート 1 型銀河 TonS180
TonS180は赤方偏移z=0.062にある狭輝線セイファート1型銀河である。Hβ 輝線の
FWHMは900 km s−1と狭輝線セイファート1型の中でも比較的狭い。X線帯域では、軟
X線超過成分がある、2 keV以上のべき関数成分の勾配が急である、激しい時間変動を示 すという点で、狭輝線セイファート1型銀河に特徴的な性質を示す。ROSAT全天探査で 観測された系外X線源としてもExtreme Ultra Violet Explorer (EUVE)衛星で検出され た系外X線源としても、最も明るい天体の一つであり、極紫外線-軟X線超過の研究対象 として重要なソースである。これには、TonS180方向の銀河吸収が1.55×1020 cm−2[9]と 小さいことも寄与しているが 、0.01−0.1 keVの光度が2.9×1045 erg s−1 0.1−1 keVの光 度が8.9×1044 erg s−1 [56]と大きいことも効いている。
TonS180の中心の ブラックホール質量に関してReverberation Mappingや水メーザー 観測などの手法による値は報告されてていない。しかし 、Wang & Lu et al. 2001[60]は、
Narrow Line Regionから放出される可視光の禁制線[OIII]の幅からブラックホール質量
を推定する経験式を用いて、1.16×107M(Mは太陽質量)という推定値をだしている。
Turner et al. 2002[56]では、Broad Lineに関する経験式を用いて、Broad Line Regionの 距離が約100 light days、ブラックホール質量は2×107Mと見積もっている。Tuner et al. 2002[56]による広帯域5×10−4 −10 keV での光度5.4×1045 erg s−1 を参照すると、
ほぼエディントン限界あるいはそれを越える光度を示していることがわかる。狭輝線セイ ファート1型銀河はエディントン限界に近い状態で光っている、したがって高い質量降着 率のセイファート銀河であるという推測はあるが、TonS180はまさにそのような天体かも しれない。
3.1.1 X 線による観測
TonS180は1996年と1999年の2回に渡ってASCAによって観測されている。特に、1999 年の観測では12月3日から12日間に渡る長期観測が行われた。Romano et al. 2002[46]は ASCAによる観測で、べきΓhard = 2.44のPower Law成分に対して軟X線超過成分がみら れること、6-7 keVに鉄輝線によるスペクトル構造がみられることを示した(図3.1)。この 軟X線超過成分を黒体放射モデルで近似すると黒体放射温度は153 eVであった。6-7 keV の構造に関しては 、この構造が6.58 keVにピークエネルギーを持つ広がったガウシアン モデルと、6.81 keVにピークを持つ幅の狭いガウシアンモデルの足し合わせで最も良く再 現できることを示し 、幅の狭い鉄輝線が電離した物質を起源にしていることを示唆してい
図 3.1: TonS180のASCAの X線スペクトルとモデルpowerlaw)の比(Romano et al.
2002[46])。黒丸と白抜きの丸は1999年のASCAの観測データ(白抜きのデータはフィッ
ティングに含まれない)。赤の十字は1996年のASCAの観測によるもの。右上の小さな 枠内でROSATPSPCのデータも比較してある。
る。
1999年にはChandra衛星のグレーティング (LETG/ACIS)による観測も行われ、1 keV 以下で軟X線超過が輝線の重ねあわせではないことが確認された。Ton S180は他のAGN に比べて、Warm Absorber と呼ばれる吸収構造が非常に弱いことも分かった(Turner et al. 2001 [55])。図3.2にChandraのLETGによるX線スペクトルを示した。図中の点線 は、Γ = 2.44のpower-lawモデルで、1 keV 以下で超過成分が見られる以外は、構造のな い滑らかなスペクトル形状であることが分かる(1−2 keVで残差が見られるのは、検出器 較正の問題である)。高電離した酸素の視線方向吸収を水素の柱密度に換算した時の上限 値が7×1017[cm−2]である。このことから、(1) 視線方向の吸収体が少ない、(2) 高階(完 全)電離している、または、(3) 数千km/sにも及ぶ速さで吸収体が運動していることが 示唆されている。
XMM-Newtonは 2000年12月にこの天体を観測している(Vaughan et al. 2002[59])。
XMM-Newtonのデータでも2 keV以下で軟X線超過成分と7 keV付近の輝線構造、及び
Warm Absroberによる吸収が弱いことが確認された。ただし 、XMM-Newtonのデータで
は、軟X線超過成分は黒体放射モデルよりべき関数モデルで近似した方がより良くデー タを再現できると主張されている(図3.3)。Vaughan et al. 2002では、XMM-Mewtonの
0.3-10 keVのX線スペクトルを最も良く再現するのはベキの値がそれぞれ3.11、1.49の2
つのベキ関数モデルであるとしている。ベキ関数で近似できる軟X線超過成分としては、
降着円盤からの紫外線光子がコロナにひろがる高速電子と逆コンプトン散乱を起こしたモ デルなどが考えられる。一方7 keV付近の輝線については、ピークエネルギーが7.01 keV、
σが0.55 keVでモデル化している。彼らはこの輝線がHe様に電離した物質からの蛍光X
線であると推測している。
Murashima et al. 2005[33]では、ASCAとXMM-NewtonのTonS180の観測データに対
図 3.2: Chandra LETG/ACIS観測による TonS180の X 線スペクトル(Turner et al.
2001[55])。点線は 、銀河吸収を含めたΓ = 2.44の power-lawモデル。1−2 keVのデー タの不一致は、検出器の較正の不定性によるもので、リアルな構造ではない。
して様々なモデルをためし 、最終的に軟X線超過成分が光学的に厚い降着円盤から出た 光子が 、T = 0.4 keVの電子雲にコンプトン散乱された放射であるというモデルを提案し ている。
図 3.3: 0.35-1.5 keVのXMM-NewtonのRGSスペクトルとそれを再現するモデル。モデ ルは銀河吸収だけを考慮した、Γ = 2.77のベキ関数型モデルである。上のパネルはデー タとモデルを表し 、下のパネルはデータとモデルとの残差を表している。Vaughan et al.
2002[59]
図 3.4: XMM-Newtonの0.3-10 keVのX線スペクトルをベキ関数モデルとカットオフを 掛けたベキ関数でfittingしたときの、データとモデル、及びその残差。Murashima et al.
2005[33]