国道 58 号線方面
6. 独居老年者が構成する社会関係
前章では、新しい社会的老いへの老年者のかかわりについて、辻地域に居住する老年者 を対象とした参加型サービスを取り上げ、参加型サービスに自由な選択を通して関与する 老年者の様子を記述した。
本章では、参加型サービスに参加していない、辻地域と若狭地域に単身で居住する老年 者5名の事例を取り上げる。彼らを2つの居住パターンに分類し、社会関係構築のきっか けとその過程で行われる対応を記述することで、福祉制度がかかわることのない個人の社 会的役割や社会的居場所、生活の場面に現れる老いに合わせた「選択」を示すことが、本 章の目的である。
また、記述にあたって強調しておきたいことがふたつある。
ひとつは、若狭地域の独居老年者を取り上げるのは、辻地域に独居する老年者との地域 間比較を想定したためではないことである。彼らは辻地域を対象とした調査の過程で徐々 に分析対象として浮かび上がってきた人びとであり、パターン分類を行う目的も、辻地域 と若狭地域との比較ではなく、居住条件の比較にある。本章の要点は、福祉サービスを利 用しない老年者全体の記述をとおして、彼らがどのように「選択」を行っているのかを示 すことにあるからである。
もうひとつは、「選択」についての姿勢である。本研究では、「選択」は、肯定的な結果 となるものとは限定しない。たとえば交友関係をもたない、ひきこもる、選択をしない、
などの、通常否定的な意味合いをもつ行為であっても、選択のひとつとして捉えるという ことを、ここで示しておく。
6-1.独居老年者の生活状況
現在、地域の過疎化や移住の増加による地縁の崩壊、子世代の沖縄県外等への移住によ る別居傾向など、地域から家族、個人にわたる数々なレベルで、老年者が地域や家族に支 えられて生活するための環境が失われつつあるといわれる。とりわけ、独居老年者世帯・
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老夫婦世帯という老年者への扶助機能をもつ社会関係が欠如しがちな居住形態の増加が社 会問題として取り上げられて久しい。
3 章で述べたように、辻地域は戦後歓楽街の中心として発展し、現在も多くの風俗店が 経営されている。辻地域を中心とした歓楽街の周辺部に位置する若狭地域も、同様にホテ ルが多く経営されていた。したがって両地域とも全体として住宅は少なく、商業地しての 性質が強くみられる141。また、両地域に共通して問題とされるのが、地域の高齢化に加え て、独居老年者世帯・老夫婦世帯の増加傾向である。本章で取り上げるインフォーマント たちはこの当事者でもある。
議論に入る前に、沖縄県および那覇市の独居老年者の状況を簡単にまとめておく。
独居老年者世帯は2000年で全国3,032,000世帯であるのに対し、2005年で3,865,000 世帯、うち女性が3分の2を占める[内閣府2011]。沖縄県では2002年時点で35,000世帯
[沖縄タイムス「長寿」取材班編2004]、2011年度で55,562世帯、那覇市では2002年度
で9,301世帯、2011年度で14,659世帯と、全国同様増加の傾向にある[沖縄県企画部統計
課 :2012.3.1取得]。
居住形態は、経済面だけでなく老年者の実生活面・精神面にも影響する。たとえば一軒 家に居住する独居老年者の場合、介護保険による健康管理サービス以外に配食サービスを 利用するケースが多い142。調理が困難であるというよりは、病気や身体機能の低下により 食材の買い出しに不便を感じる場合が多いためと考えられる。生活面での困難に不安を感 じる老年者は多く、内閣府が 2002 年に実施した「一人暮らし高齢者に関する意識調査」
では、全国において現在の日常生活への不安を抱える高齢者は4割、将来の日常生活に不 安を抱える老年者は6割以上である[内閣府2002]。日常生活への不安の解決にあたってま ず想定されるのは子による援助であるが143、2010 年の「高齢者の生活と意識に対する国 際比較調査」によると、週1回以上別居の子と接触する割合は51.9%、月1~2回以下の 頻度で接触する割合は48.1%と、独居老年者宅への子による訪問は低頻度とされている144。
141 2011年からは港湾開発が進められ、新築のアパートや福祉法人・医療法人による施設の建
設が急速に進められている。
142 配食サービスが多く利用されるか否かは地域によって大きな偏差がある可能性があること を付記しておく。
143 広島県広島市の独居老年者に対して行われた調査では、独居老年者は子に次いで直接の親 戚、近所の人に援助を求める傾向があることが示された[藤原、来嶋、神山、黒川1987]。
144 この分析結果はあくまで調査側によるものであり、この割合を低いとするかどうかは、判 断する立場によって異なるだろう。
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家族の訪問、友人との交流がほとんどない世帯も多い[内閣府2010]。
もちろん、独居=孤独という通説は必ずしも当てはまるわけではなく、独居老齢者は家 族と同居する老齢者に比べて近隣関係が親密であるという研究[金子1993]や、近隣との交 流の中での役割関係の補完を通して、住縁による「地域家族」を形成する可能性について の研究もある[金子1998]。石嶺による沖縄県大宜味村での研究、當山・戸田・田場による 三重県過疎山村での単身世帯高齢者の研究からは、適度な近隣関係による生活モラールの 向上が指摘されており[石嶺 1989、當山、戸田、田場 2003]、独居老年者の生活を支える 上での孤立の解消や精神的扶助等において、近隣・友人関係によるインフォーマルなサポ ートの重要性が示されている。
独居老年者の生活において起こりうる困難にはこうした「慢性疾患に対する日常生活の 不十分さ」「経済条件の不安定さ」に加えて「精神的扶養が得られにくい」[須田 1986]こ とが想定され、総じて老年期は社会的孤立に陥りやすい時期であるとされる[永田、原、萩
原、井上1981]。地域との接触がないひきこもり老年者についてみると、2008年に沖縄市
が独居の老年者に対して行ったアンケートでは「外出が一週間に一回程度」が単身世帯全
体の23%であり、2006年調査時の15%から大幅な増加を迎えている[沖縄市2008]。独居
であることがひきこもりや社会的孤立へとつながる事例は、沖縄県や那覇市についても多 く報告されている[沖縄タイムス「長寿」取材班編2004]。集合住宅についてもこのような 孤立傾向はみられ、「団地など密閉性の高い住居では、なかから鍵をかけて顔すら見せない お年寄りもいる」[沖縄タイムス「長寿」取材班編2004 :139]など、地域福祉における昨今 の課題となっている。また、独居に限らず老年者の孤立は女性よりも社会ネットワークが 狭い男性に特徴的とされる[Kahn1983]。
このように、全国的にみても沖縄県内を見ても独居老年者世帯の増加は急速であり、社 会問題のひとつとして論じられている。しかしながら、このような社会問題への志向にも とづき独居老年者の生活を記述することは本研究の目的ではない。本章の主題は、独居で あり、老年であるがゆえに感じるとまどいとままならなさに直面したとき、彼らがとる対 応を分析することである。
6-2.低家賃アパートの概要
これまで述べてきたとおり、調査地である辻地域と若狭地域は戦後居住者の属性が大き
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く変化した地域である。現在の居住者であり福祉サービスの対象である老年者の多くは、
米軍兵士向けの飲食店やホテルを一家で経営するために、宮古を主とした沖縄各地から移
住し、40~50年ほどをこの地域で過ごしている。彼らが形成してきた郷友会は現在形骸化
しているものの、長年の居住という個々人同士の関係によって地域全体で日常生活の各場 面に現れる関係性はいまだ維持されており、前章でふれた参加型福祉サービスの場でもそ れはあらわれている。
それに対して本章で取り上げるインフォーマントは、宮古出身ではなく老後に単身で移 住した独居者である。このような老年者は、そのほとんどが、何らかの事情で出身地を離 れ、身寄りがないか子や親族への遠慮から独居を選択した老年者である。
本章では、まず辻地域の低宿泊費のマンスリー契約式宿泊施設(以下低家賃アパート)
に居住する独居老年者(以下、低家賃アパート独居老年者)について記述する。彼らはい ずれも地域との接点をもちにくく、またもたないことを選択した人々であり、非常に特殊 な居住形態をとる。次に、通常想定されるようなアパートや一軒家に居住する老年者(以 下、単独独居老年者)について記述する。彼らは、地域に居住してきた経験の長短に限ら ず、地域社会内に社会関係を構築している人々である。
このうち、低家賃アパート居住の形態の特殊性について概要を以下に示しておく。
低家賃アパート居住の独居老年者への聞き取りは2008年から2012年までの断続的な滞在 のなかで行った。このアパートは 1970 年代初頭に建築されたホテルをもとに、現経営者 が改築、2003年に開業したものである。台湾出身の経営者、経営者の家族(妻子)、沖縄 出身の事務員、作業員 2 名、パート清掃員によって運営されている。2012 年現在は沖縄 県外出身の作業員を数名加え、カプセルルームを中心として客室数、レンタルバイク台数 の増強に力を入れている。沖縄県内での就労・移住を目的としその足掛かりとして入居す る若者層・中年層が多い。入居に際して前金や保証人が不要であるという点も含めて、那 覇市内の他のマンスリーマンションおよび宿泊施設とは規模・形態ともに一線を画した営 業形態をとっている(写真 35)。本章で扱う事例の中心となる 2009 年当時の概要は以下 のとおりである。
6階建の建物のなかに約130室が設置されており、炊事場・風呂等が共有であるカプセ ルホテル形式のカプセルルーム(2007 年ごろより開始、その後増築が繰り返され、2011