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dθ f (cos θ, sin θ) の計算

6.1 特異積分

孤立した1位の特異点がちょうど積分路上にあることが往々にしてある.たと えば実軸上での積分 Z

−∞

dx f(x) x−x0

.

f(x0)6= 0のときこのような積分は通常の意味では積分不可能である.しかし物理 の問題では往々にして,このような場合でもともかく強引に?結果を得たい場合 が多々ある.次の2とおりの対処方法がある:

1. 積分路の変形:x0を中心とする無限小の半径δをもつ半円の迂回路を積分径 路に含めることによって,特異点x0を囲い込むなり,締め出すなりして積 分路を変形する.

2. 特異点をずらす:x0のかわりに²を無限小量としてx0x0+またはx0−i² に置き換える(²&0).

6.1.1 コーシーの主値

この節では対処法1について議論する.対処法2については次節で論じる.

f(z)は複素平面の上半面で解析的かつ|z| → ∞のとき十分はやくゼロに近づく 関数とする.

1. 実軸−∞< x <∞

2. 原点を中心とする半径R → ∞の上半面の半円

からなる径路(1) + (2)を想定する.特異点x0を囲い込む径路Cδ+または締め出す 径路Cδをとる(図参照)と,δ→0でこの径路からの積分への寄与はそれぞれ

Z

Cδ±

dz f(z) z−x0 =

(iπf(x0) (Cδ+:反時計回り)

−iπf(x0) (Cδ:時計回り) (6.1) となる.ここで図の閉径路Cδ+に沿った次の積分を考える:

I

C

dz f(z) z−x0 =

Z x0δ

−∞

dx f(x) x−x0 +

Z

Cδ±

dz f(z) z−x0 +

Z

x0

dx f(x) x−x0 +

Z

CR

dz f(z)

z−x00, R→ ∞).

f(z)は半円径路(2)上でR → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数であるから,

径路(2)に沿った積分はゼロとした.

右辺においてCδ+の径路をとるとき,閉径路Cに囲まれた領域でintegrand は z = x0に1位の極をもつ.そこでの留数はf(x0)に等しいから,左辺の積分値 は2πif(x0)となる.一方,右辺第2項は(6.1)よりiπf(x0)に等しい.これに対し て右辺においてCδの径路をとるとき,閉径路Cに囲まれた領域でintegrand は 解析的である.よって左辺はゼロである.一方,右辺第2項は−iπf(x0)に等し い.したがって,いずれにせよf(z)が複素平面の上半面で解析的かつ|z| → ∞ (0 argz π)のとき十分はやくゼロに近づくとき

P Z

−∞

dx f(x)

x−x0 −iπf(x0) = 0 (6.2) となる.ここで

P Z

−∞

dx f(x)

x−x0 = lim

δ→0

µZ x0δ

−∞

dx f(x) x−x0 +

Z

x0

dx f(x) x−x0

0) (6.3) である.この積分はコーシーの主値(principal value)と呼ばれる.実軸上の特異点 に左右から同じ距離を保ちつつδ 0の極限をとることがポイントである.これ は微妙な平衡を保つちょうど相殺する方法であることに注意しよう.

同様に,f(z)が複素平面の下半面で解析的かつ|z| → ∞ (−π < argz < 2π)の とき十分はやくゼロに近づくとき

P Z

−∞

dx f(x)

x−x0 +iπf(x0) = 0 (6.4) となる.

主値積分の区間は−∞< x <∞と限る必要はない.例えば積分 Z b

a

dx

x−x0 (a < x0 < b) ではδ,δ0を微小量として

ÃZ x0δ0 a

dx+ Z b

x0

dx

! 1

x−x0 = [ln(−δ0)ln(a−x0)] + [ln(b−x0)lnδ]

= ln b−x0

a−x0 + ln−δ0 δ

δ0δが勝手な値をとるときはその値が定まらない.しかし主値をとってδ0 =δ とするとln(−δ0/δ) = ln(−1) =となって

µZ x0δ a

dx+ Z b

x0

dx

¶ 1

x−x0 =P Z b

a

dx

x−x0 = ln b−x0 a−x0 +

2009-0120 2009120(山本哲生)

となって積分値が一意的に定まる7

同じ極限操作の手法が積分限界±∞に対しても適用される.すなわち P

Z

−∞

dx f(x) lim

a→∞

Z a

a

dx f(x) (6.5)

である.

7lnzも主値をとった.すなわち0argz <に限った.

6.1.2 ヒルベルトの公式

径路上に特異点を含む積分 Z

dx f(x) x−x0.

に対する前節の対処法として「2.特異点をずらす方法」ではどのような結果が得 られるだろうか?前節と同様に,とりあえずf(z)は複素平面の上半面で解析的で あり,|z| → ∞のとき十分はやくゼロに近づく関数であると仮定する.積分径路

C として,

1. 実軸の−∞< x <∞

2. 原点を中心とした半径R → ∞の上半面の半円

からなる径路(1) + (2)をとる.径路(2)上での積分はゼロである.よって留数定 理(5.3)から,x0x0 ±i²&0)にずらす場合に対応して

I

C

dz f(z) z−x0∓i² =

Z

−∞

dx f(x) x−x0 ∓i² =

(2πif(x0) (x0 →x0+i²)

0 (x0 →x0−i²) (6.6) となる.これから

1 2

µZ

−∞

dx f(x) x−x0−i² +

Z

−∞

dx f(x) x−x0+

=iπf(z) =P Z

−∞

dx f(x) x−x0.

(6.7) つまり,主値積分は特異点x0x0+にずらした場合とx0−i²にずらした場合 の積分の相加平均である.

(6.2)と(6.6)は Z

−∞

dx f(x)

x−x0∓i² =P Z

−∞

dx f(x)

x−x0 ±iπf(x0) (6.8) とまとめられる.これはヒルベルトの公式と呼ばれることがある.この式は実は f(z)が複素平面の上半面または下半面のどちらかで解析的であり,かつ|z| → ∞ のとき十分はやくゼロに近づく関数であるとき成立する.ヒルベルトの公式の簡 潔な表現は

1

x−x0∓i² =P 1

x−x0 ±iπδ(x−x0) (6.9) である.ここでδ(x−x0)は

Z b

a

dx f(x)δ(x−x0) =f(x0) (a < x0 < b), (6.10) Z

−∞

dx δ(x−x0) = 1, δ(x) = 0 (x6= 0) (6.11)

2009-0120 2009120(山本哲生)

で定義されるデルタ関数である.(6.9)は両辺の左から演算子 Z

−∞

dx f(x)

を作用させると解釈する.(6.9)からδ関数の表式として δ(x−x0) = 1

2πi

µ 1

x−x0−i² 1 x−x0+

= 1

π · ²

(x−x0)2+²2 (6.12) が得られる.実際,右辺の関数はδ関数の要件

δ(x−x0) = 0 (x6=x0, ²→0), Z

−∞

dx δ(x−x0) = 1 π

Z

−∞

dx ²

(x−x0)2+²2 = 1 π

Z

−∞

dy

y2+ 1 = 1 (²y=x−x0).

を満たす.ここで Z

−∞

dx

x2+ 1 =π (5.14)

を使った.

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