LKnl
SiO 2 :F1粒子
3.00 mW/mK 熱処理粉
図 3-43 熱処理(メチル基除去)した多孔質 SiO2粒子への人造グラファイト添加による熱伝導率の変化
この熱処理後の多孔質
SiO
2粒子は人造グラファイトを添加しない状況でも低い熱伝導率を示し、固体 伝熱が低減していることを裏付けている。さらに、2.5 wt.%
という僅かなグラファイト添加に対して熱伝 導率を3.43mW/mK
にまで低減し、添加割合を10 wt.%
にまで高めることで3.00mW/mK
という本研究内 で最も低い熱伝導率を達成することに成功した。図
3-44
に真空パッキングした断熱パネル(大気圧下にて圧縮された状態)において3.00mW/mK
とい う熱伝導率の最低値が得られたサンプルについて、熱処理(メチル基除去)した多孔質SiO
2粒子+10 wt.%
人造グラファイトを内包する不織布を取り出し、真空圧力と熱伝導率の関係を評価した結果を示す。
大気圧縮されていない状態では、真空圧力を
10Pa
とすることで1.94mW/mK
という熱伝導率が得られ、さらに
1Pa
まで減圧した場合には熱伝導率1.73mW/mK
という極めて低い値を得ることができた。なお、比較のために図
1.1-3
などに示した本研究開発の当初得られていたSiO
2粒子S1
(平均粒子径5m
、 グラファイト無添加)における真空圧力と熱伝導率の関係も併せて示した。44
0.1 1 10 100 1000 10000 100000 0
5 10 15 20 25
Pressure (Pa)
T hermal c onductiv ity (mW/mK)
SiO
2粒子:S1粒子+
多孔質SiO2粒子 ナノ気孔構造制御 気流粉砕(粒子径制御)
熱処理(表面メチル基除去)
輻射抑制粒子 人造グラファイト
SGP-5 1.73 mW/mK
1.94 mW/mK
(不織布中)における熱伝導率の真空圧力依存性
図 3-44 熱処理(メチル基除去)した多孔質 SiO2粒子+10 wt.%人造グラファイト添加混合粉
真空圧力の増加(実環境での真空リーク)に対する熱伝導率の増大する幅は、
100Pa
以下の低い圧力 範囲ではS1
粒子のみでも最終的に得られた多孔質SiO
2粒子でも差がない。しかしながら、1000Pa
以上 の領域においてS1
粒子の熱伝導率の上昇が顕著である。ここで、例えば、真空パッキングした断熱パネ ルの熱伝導率として5mW/mK
を許容できる上限とした場合、従来のS1
粒子のみでは100Pa
までの真空 リークしか許容できないのに対して、グラファイト添加した多孔質SiO
2粒子では1000Pa
までの真空リ ークが許容できる。この差はきわめて大きく、例えば真空リークによる断熱パネルの初期内部圧力を1Pa
としてその内部圧力の年間上昇を20Pa
と設定した場合、S1
粒子のみでは5
年で交換が必要になるのに 対して、グラファイト添加した多孔質SiO
2粒子では50
年間も交換不要となる。したがって、住宅など の耐用年数に対して十分な耐久性を提供するためには、真空圧力の増加に対して熱伝導率上昇の小さい、グラファイト添加した多孔質
SiO
2粒子が必須となる。以上の輻射抑制による熱伝導率の低減に関する成果をまとめと次のようになる。多孔質
SiO
2粒子にお けるミクロ・マクロ構造の制御を通じて固体伝導や気体伝導の抑制により熱伝導率の低減を進める中で、輻射伝熱を抑えることを目的として主にカーボン材料の添加効果を検討した。多孔質
SiO
2粒子のパッキ ング密度が低い場合に、人造グラファイト粒子を添加することで熱伝導率を大幅に低減できる効果を見 出した。この添加による低熱伝導率化の効果の要因を検討し、輻射抑制粒子としては赤外光に対して反 射よりも吸収効果の大きい粒子が効果的であった。さらに、多孔質SiO
2粒子としては、ナノ気孔・骨格 構造の制御による低密度化に加えて、ミクロンサイズの粒子径に依存するかさ密度によって輻射制御の 効果が異なり、かさ密度の低い多孔質SiO
2粒子において熱伝導率の低減効果が高いことを見出した。さ らに、多孔質SiO
2粒子への熱処理により表面官能基を除去することでさらなる低熱伝導率化を図ること ができ、真空パッキングした断熱パネルの状態にて3.00mW/mK
にまで熱伝導率を低減させることに成 功した。45
(2) ナノ構造セラミックス膜コーティング技術の開発
(2-1)透明導電性酸化物セラミックス膜による輻射抑制の考え方
熱伝導の三要素のいずれも抑えるマルチセラミックス膜の開発に必要な第二の材料開発は、ナノ 構造を有するセラミックス膜のコーティング技術の開発である。ナノ構造セラミックス膜は、柱状 かつ羽毛状といった特異なナノ多孔構造を有することから、熱伝導の三要素をすべて抑えることが 期待できる。羽毛状構造は、セラミックス結晶の反射板がナノオーダーで多層化された構造となっ ているため、輻射による伝熱を抑えるのに最も効果的な構造であることが期待できる。したがって、
ナノ構造セラミックス膜は、超断熱壁および超断熱窓における輻射を抑えるために必要な材料であ るということができる。
この輻射を抑制する素材として、従来の
Low-E
膜においては極めて膜厚の小さい金属系薄膜が 主に採用されている。この金属系Low-E
膜は、高真空環境下や不活性雰囲気下では性能を保持で きるものの、本研究では中真空において高断熱を目指すことから様々な活性ガス分子が存在する環 境下を想定する必要があり酸化等による劣化が懸念される。また膜強度という観点より、エアロゲ ルとの接触による膜の損傷なども問題となる危険性がある。一方、透明導電性酸化物などもLow-E
膜としての応用が期待され、金属系Low-E
膜に対して現状では赤外反射性能という点で劣ってい るものの可視光透過性には優れており、この赤外反射性能を向上できれば上記の耐環境性や膜強度 の課題を払拭できるだけでなく、可視光の透明性に優れた遮熱膜として有望となる。本研究項目で は、この透明導電性酸化物をベースとしたLow-E
膜について、その導電性制御および材料構造制 御などにより遠赤外領域の輻射だけでなく、太陽光スペクトル分布において熱線となる近赤外線の 遮蔽も可能とするレベルにまで赤外反射性能を高めることを目的とする。その透明導電酸化物の候 補としては、希少元素を含むSn
添加In
2O
3や有毒元素を含むSnO
2:Sb、CdO
などを除くと、F添加SnO
2、Nb
添加TiO
2、Nb
添加SrTiO
3、Al
添加もしくはGa
添加ZnO
などが挙げられる。これらの 中で一般的にSnO
2系はキャリア濃度が低く(10
20cm
-3台)、TiO
2系およびSrTiO
3系は屈折率が高い(
2.3
~2.6
)ため、プラズマ波長(
p:この波長以上の光を反射する)を低下させて可視光に近い 近赤外光を反射させる上で不利となる。一方、ZnO
系はキャリア濃度(1
×10
21cm
-3以上)も高く、屈折率も
1.9
~2.0
と高くないことから、
pの低減によって近赤外の反射に有利となる。そこで、本 研究項目では、主にZnO
系の透明導電膜を対象とした。この透明導電性酸化物を遮熱膜として合成する手法として、膜のナノ構造制御が期待できる電子 ビーム物理蒸着(
EB-PVD
)法、新規な透明導電膜合成法としての通電加熱法、一般的なスパッタ リング法による熱線反射性向上のための材料設計指針の探求、という3
つのアプローチを試みる。スパッタリング法では、ZnO:Al 系透明導電膜において高い熱線(近赤外光)反射性能を得るた め材料設計指針の探求を目指す。具体的には、
ZnO:Al
系透明導電膜において効果的にAl
をドーピ ングする成膜プロセスを構築することで、高い熱線反射性能を示すZnO:Al
単層膜を実現させる。さらに、ドーピングする
Al
の組成分布を周期的に制御するという新規なアプローチにより赤外線 46および輻射をコントロールする、という新たな発想に基づき熱線反射性能への効果を実証する。こ れらのアプローチにより赤外反射性能が向上できれば、このスパッタリング法だけでなく、上記の
2
つの方法やそれ以外の成膜プロセスにも応用できる発展性も期待できる。ここでは、一般的なス パッタリング法により得られるセラミックス膜について、成膜プロセスの最適化によるAl
添加効 果の制御、構造解析、光学特性(透過・反射スペクトル、遠赤外放射率)評価を実施する。電子ビーム物理蒸着(
PVD
)法によるセラミックスコーティングは、強力な電子ビームによって セラミックスの原料(インゴット)を溶解させ、そこから蒸発した原子・分子状のセラミックスク ラスターが基板上に堆積する際に、ナノオーダーの気孔(ポア)や隙間(ギャップ)を有する構造(柱状・羽毛状)を呈するといったメカニズムによって合成される。
ZnO
などの透明導電性酸化物 系セラミックスの原料を用いて、そのようなナノ構造膜が形成される合成条件(電子ビーム出力、基材の温度や回転等)を詳細に調べる。このナノ構造を制御できれば、羽毛状構造の周期をコント ロールすることである波長領域を選択的に反射して、導電性(自由電子)による赤外反射と併せて 遮熱効果の向上が期待できる。そこで、得られたセラミックス膜の構造解析、熱伝導率と真空度の 関係曲線、圧縮特性等の測定を行うとともに、赤外線吸収率や光透過性などの光学的特性も検討す る。
通電加熱法は、透明導電性酸化物の焼結体に電流を流して通電加熱させ、その蒸気により近傍に 設置した基板上に酸化物の膜を堆積させる方法である。高い平坦性を有する緻密膜から様々な形態 のナノ構造膜まで合成できる可能性を秘めている。これまでにこの抵抗加熱法によって透明導電膜 やフォトクロミック材料を作製した研究例はなく、新規な手法として、導電性の向上および高い赤 外反射性の実現可能性、さらにはナノ構造制御について検討する。材料系としては、酸化タングス テンおよび酸化亜鉛を対象とした。酸化タングステンはフォトクロミック現象を示すことから、表 示素子1)や光記録材料2)などへの応用が進められている。我々は、通電加熱法により酸化タングス テンナノ粒子膜の作製に成功し、また、その膜が近赤外域でフォトクロミック現象を示すことを見
出した3, 4)。この現象を利用することにより、輻射熱の要因である近赤外線の反射率のコントロー
ルが可能となり、断熱窓用薄膜としての応用が期待出来る。タングステン線材を通電加熱すること により、線材近傍に配置したガラス基板上に堆積した酸化タングステンの膜は、まるで波のような 膜厚分布をもつ興味ある形状であった。また、この膜は球状や八面体のナノ粒子から成り、場所に よってそれらの分布が異なっていることを突き止めた。粒子の形態やサイズが異なれば、粒子から 発現するフォトクロミック特性(=近赤外線反射率)にも違いが出ることが予想される。そこで本 研究では、線材-基板間距離が基板上の膜の形状や粒子の形態に及ぼす影響、および近赤外線反射 特性との関連について調査を行った。酸化亜鉛
(ZnO)
はワイドバンドギャップを有し、室温でも励 起子が安定に存在し得るため、室温紫外発光材料として注目されている。また、種々のドーピング を行うことによりn
タイプの電気伝導性を付与することが可能であることから、ITO
に代わる透明 導電膜としての応用も期待されている。十分にドーピングされた酸化亜鉛は、電気伝導性の発現と 同時に自由電子による近赤外線の反射率が高くなることから、断熱材料としての応用が期待できる。47