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経時変化における各群の自己評価の比較

第 3 章 演奏本番時におけるリラクセーション技法の有効性と効果

第 2 節 ジョイント・コンサートにおける AT・IT の効果

2 経時変化における各群の自己評価の比較

(1) 心理的緊張の本番時までの各群の変化の比較

各群の心理的緊張の変化を図3-2-5に示した。緊張度は、本番時に全員がもっとも高 い値を示したが、個人差が認められた。

1群のAは本番当日まで1と緊張は見られなかったが、本番で2に上昇した。2群のB は7日前に1であったものが前日に2に上昇し、本番終了まで軽減されなかった。1・2群 とも7日前から本番時までの緊張度の変化の幅は1と低かったが、変化の時期が異なった。

3群の1週間の数値の変化は、C・E・Hは本番時まで上昇を続け、F・Dは一旦下降した ものの本番時に再び上昇し、本番時は3から5に達し、緊張度は本番時にもっとも高いこ とが認められた。7日前からの緊張度の変化の幅は2群のBは1から2、3群のHは2か ら3と変化の幅は同様であったが、2群の方が緊張度は低かった。

本番時までの1週間を比較してみると、

1群―緊張度は低く、本番時のみわずかな緊張が見られた。

2群―緊張度は低かったが、前日よりわずかな緊張が見られ、本番時まで続いた。

3 群―緊張度は高く、本番時まで上昇を続けた。とくに、本番前に緊張度が高まり、本番 時がもっとも高かった。これは、Steptor(1983)の結果を支持するものであった。

したがって、本番時までの緊張度の変化は、条件群<対照群、1群<2群<3群の順で低 かった。

図3-2-5 心理的緊張(新山 2006)

3群:実施しなかったグループ

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

C D E F G H

(点)

(時期)

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番 1 群:訓練によるAT・ITを実施したグループ

A

(点)

(時期)

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番 2 群:訓練によらないITを実施したグループ

F

(点)

(時期)

B

(2) 心理的緊張の本番時までの各調査時期における各群の比較 どの時期においても、条件群の方が対照群より緊張度は低かった。

1) 7日前

1群のA、B群のBともに1で緊張度は低かった。3群のFは1、その他は2で、わ ずかな緊張が見られた。

2) 3日前

1群のA、2群のBともに変化はなく1で、緊張度は低かった。3群のDだけが1に 下降したが、その他は2で変化なく、わずかな緊張が見られた。

3) 前日

1群のAは変化なく1で、緊張度は低かった。2群のFは2に上昇し、わずかな緊張 が見られた。3群は1から4で、緊張度の上昇が顕著になった。とくにEは4に上昇し、

3日前からの変化の幅は2と、この時点でもっとも緊張度は高かった。

4) 当日

1群のAは1で緊張度は低かった。B群のBは2と変化はなく、わずかな緊張が見ら れた。3群は2から4で、緊張度はさらに高まった。とくにCは4に上昇し、前日から の変化の幅は2と、この時点でEとともにもっとも緊張度は高かった。

5) 本番時

1群のA、2群のBは2とわずかな緊張が見られた。しかし、1群はATにより演奏会 という場面で過度の緊張ではなく、演奏に必要な緊張が2という数値に表れている。こ のことは、前節と同様に坂入(1993)の指摘と一致した。それに対して2群は前日から 同レベルの緊張が続いた。3群は3から5で、本番時にもっとも緊張度は高かった。と くにEは5に上昇し、8名の中でもっとも緊張度は高かった。

したがって、1群(本番時のみ)<2群(前日)<3群(前日・当日・本番時)という 順で緊張度が上昇した。すなわち、ITを実施している条件群の方が対照群より、緊張度 は本番時の直前まで低かった。

(3) 本番当日までの心理的不安の変化における各群の比較 1) 暗譜不安

各群の暗譜不安の変化を図3-2-6に示した。

どの時期においても、条件群の方が対照群より不安度は低かった。

1群のAの変化の幅は0で、本番時も1で不安は見られなかった。2群のBの変化の 幅は1で、本番時は2と不安度は低かった。3群のC・Dの変化の幅は2で、本番時は 4と不安度は高かった。

① 1群と2・3群の比較

1群は暗譜に対してまったく不安を感じていないのに対し、2群の変化の幅は1と 本番時に少し不安が見られた。したがって、訓練による「ステージ・フライト」対策 を実施している1群の方が自己流で実施している2群より、暗譜不安が低かった。こ れはITだけではなく、ATを併用することにより、ITによって頭の中で描いた楽譜そ のもののイメージが、そのまま現実に音符として再現でき、前節の結果と一致した。

3群は変化の幅は2とかなり不安が高まった。

したがって、ITを実施している条件群の方が、本番当日の暗譜不安は低かった。緊 張度の条件群<対照群、1群<2群<3群と一致した。

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

1群:訓練によるAT・ITを実施したグループ

(点)

(時期)

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

(点)

(時期)

2群:訓練によらないITを実施したグループ

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

(点)

(時期)

3群:実施しなかったグループ

図3-2-6 暗譜不安(新山 2006)

2) ミスタッチ不安

各群のミスタッチ不安の変化を図3-2-7に示した。

どの時期においても、条件群の方が対照群より不安度は低かった。

1群のA、2群のBとも本番当日から本番時までの変化の幅は1と少なく、本番時は 2と不安度は低かった。3群のCの当日の変化の幅は2で、本番時は4と不安度は高か った。また、他も本番時は4と高かった。

① 1群と2群の比較

1群は本番時に1から2に上昇し、2群は本番当日に3から2下降した。したがっ て、2群は当日までミスタッチ不安があった。1群のAのミスタッチ不安は、緊張度 の変化と一致した。

② 2群と3群の比較

2群のBと3群のE・Hは本番時までの変化の幅は-1(下降)であったが、Eは5か ら4、Hは4から3と本番時の不安度は高かった。したがって、自己流でもITを実 施している2群の方が実施していない3群より、本番時に至るミスタッチ不安は低か った。

③ 1群と2・3群の比較

7日前から3日前を比較すると、1群は1、2・3群は2から5で、ミスタッチ不安 は高かったが、ITを実施している条件群の方が、本番当日のミスタッチ不安は低かっ た。3群のGは2群のBと同様に変化の幅は-1であったが、Gは暗譜ではなかった。

したがって、条件群<対照群でミスタッチ不安度は低く、緊張度の条件群<対照群と 一致した。

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

1群:訓練によるAT・ITを実施したグループ

(点)

(時期)

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

2群:訓練によらないITを実施したグループ

(点)

(時期)

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

(時期)

3群:実施しなかったグループ

(点)

図3-2-7 ミスタッチ不安(新山 2006)

(4) 本番当日までの身体的な心拍数の増加における各群の比較 各群の心拍数の増加を図3-2-8に示した。

条件群、対照群とも本番当日まで有意差は見られなかったが、本番においては条件群の 方が対照群より心拍数の変化は低かった。

1群のAは変化なく、本番で1と不安度はほとんどなかった。2群のBは当日3まで上 昇したが、本番は2に減少した。3群のFは2から4、Eは3から5、Hは2から3に上 昇した。またDは上昇しなかったが、本番の数値は3と不安度は高かった。

1群:訓練によるAT・ITを実施したグループ

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

A

(点)

(時期)

2群:訓練によらないITを実施したグループ

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

B

(点)

(時期)

3群:実施しなかったグループ

0 1 2 3 4 5

7日前 3日前 1日前 当日 本番

C D E F G H

(点)

(時期)

図3-2-8 身体的心拍数の増加(新山 2006)

1群:訓練によるAT・ITを実施したグループ

(点)

2群:訓練によらないITを実施したグループ

(点)

3群:実施しなかったグループ

(点)

1) 1群と2群の比較

本番時に1群は1に対し、2群では2であった。したがって、本番の数値の差は1と 少ないが、2群の本番時までの数値の変化は激しく、訓練によるITを実施している方が、

不安度が低く安定していた。

2) 2群と3群の比較

本番時に2群は2に対し、3群では3・4・5と不安度は高かったが、3群の中でもD は2、Cは1と不安度は低かった。2群は本番時に2に下降しているのに対し、3群では 変化がないか、または上昇を続けて不安度は高かった。したがって、ITを実施している 方が、本番時に不安度は低かった。

3) 1群と2・3群の比較

1群は1、2群は2、3群は3と、ITを実施している1群が実施していない3群より 不安度は低かった。1群のAと3群のCは1週間を通して1と同様であったが、Aは暗 譜で独奏したのに対しCは楽譜を伴った室内楽であった。

したがって、ITを実施している条件群の方が不安度は低く、緊張度の条件群<対照群、

1群<2群<3群と一致した。すなわち、心理的不安が高まると、身体的不安もそれに伴い 高まった。

(5) 本番の成功度と不安度における各群の比較 演奏者の成功度の自己評価を表3-2-3に示した。

A、Bの成功度4.2とCからHの成功度2.9の間には、一元配置分散分析の結果、P値

が0.064であり、5%レベルでは有意差がなかったものの、A、B群がCからH群よりも

成功度が高い傾向にあった。1群のAの本番時の集中度5、出来栄え4、聴衆との一体感5 と成功度は高かった。2群のBは集中度5、出来栄え3、聴衆との一体感4で成功度は高 かった。3群のDは集中度2、出来栄え1、聴衆との一体感2に留まっており、成功度は 低かった。

1) 1群と2群の比較

集中度は5と同様であるが、出来栄えも聴衆との一体感も2群の方が低かった。この 聴衆との一体感は、前述どおり、ATにより不安が解消できた。

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