3 復興再開発事業における溜池除染による放射性物質の流出防止
3.2 溜池の放射性物質汚染に関する対策
3.2.2 溜池の放射性物質汚染に関する対策の現状と課題
3.2.2.1 溜池における放射性物質の沈着傾向
溜池の放射性物質による汚染は,事故当初の降下物質による 1 次汚染と森林域やその 他周辺部からの放射性セシウムの流出に伴う 2 次汚染によって引き起こされている。東 北農政局と福島県は,事故当初,農業用溜池に流れ込んで蓄積している放射性物質につ いて 12-37 ヵ所で底泥の調査を実施したが 3-15) , 3-16) , 2013 年度より,県内の全域的な蓄 積状況を把握するため, 福島県内の溜池全 3730 箇所の約半数にあたる 1939 箇所 (県 1639 , 国 300 )の溜池を対象に放射性物質のモニタリングを実施した 3-16) , 3-17) 。放射性物質のモ ニタリング調査の結果,以下のことが分かった。
( 1 ) 溜池によって底質の放射性セシウム汚染濃度は様々であったが,ほとんどの溜池 の底質から放射性セシウムが検出された。
( 2 ) 溜池底質の放射性セシウム汚染濃度は,均一ではなく,凹部や集水域からの流入 部等において高い傾向がある。また,底質の深さ 20cm 以浅の上層部では高く,下 層になるほど低くなる傾向もみられた。
( 3 ) 溜池によっては,原発事故直後よりも溜池内の放射性セシウムの沈着量が高いと ころも確認され,溜池からの放射性セシウムの流出よりも集水域からの流入が多 く,その結果,池内の放射性セシウム沈着量が上昇したところもあると推測され る。
( 4 ) 一部の溜池については,貯留水から放射性セシウムが検出された。また,検出さ れた放射性セシウムは,主に土粒子の浮遊物質(濁り成分)に吸着・固定されて いる懸濁態の放射性セシウムであった。
さらに,溜池底泥の放射性セシウムによる汚染は,溜池の立地や構造・機能等の影響
によって,その汚染度にばらつきが多いことが報告されている。例えば, 「流域内の森林
面積率が放射性セシウム流出に影響を与える」 3-17) ,「放射性セシウムの水系への流出は 森林からではなく,アスファルトや建物で被覆された市街地から生じた」 3-18) ,「山頂汚 染を伴う沢の出口付近で放射性セシウム汚染が改善していない」 3-19) ,「溜池底質におい て,放射性セシウムは平面方向,鉛直方向のいずれにも不均一に存在していた」 3-20) ,と いうように溜池における放射性セシウムの分布と動態に関する様々な知見が述べられて いる。
3.2.2.2 溜池の除染における底泥固化の位置づけ
溜池の除染方法については,農林水産省により公開されている溜池の放射性物質対策 技術マニュアに即して実施される 3-21) 。このマニュアルの中では,溜池の放射性物質対 策に関する詳細な選定フローが決められており,表 -3.2 のとおり,対策の目的を 4 つに 分け,それに応じた対策の分類を 7 つ設けたうえで, 10 の対策区分を明示している。
表 -3.2 溜池における放射性物質対策区分の一覧
具体的な対策の内容については,懸濁態放射性セシウムの取水を抑制するためのゲー ト操作や取水口の変更といった取組み,底質の放射性セシウムからの影響を抑制するた めの底質の被覆や除去といった取組み,管理範囲の空間線量を低減させるための表土の 被覆や堆積有機物等の除去といった取組みを紹介している。
本章における,溜池の底泥固化という方法は表 -3.2 では,底質の原位置固定という対 策区分に該当される。まず,底質も原位置固定による対策は,溜池からの取底水後の施 設管理への影響を低減する目的とかんがい水による作物への影響を低減する目的に実施 される。前者の目的では,特に放射性物質を含む底質の巻上がり抑制に効果を発揮し,
ゲ
ー
ト 操 作 に よ る 濁 水 を 避 け た 取 水
取 水 工 の 変 更
水 塊 隔 離
吸 着 除 去
流 入 抑 止 工
他 水 源 へ の 転 換
底 質 被 覆
底 質 の 原 位 置 固 定
底 質 除 去
汚 染 源 と な る 場 の 被 覆
、
除 草 等
濁水の取水抑制 ○ ○ ○ ○ 集水域から流入する
濁水対策 ○ ○ ○
底質の巻き上がり抑制 ○ ○ ○ ○
(
2
)池底の土砂上げ作業等への影響を
低減する
底質の
放射性セシウム対策 ○
集水域からの流入対策 ○ ○ ○ ○
底質からの溶出対策 ○ ○ ○ ○ ○
(
4
)溜池の日常管理の影響を低減する対策
管理範囲の
空間線量の低減 ○
(
3
)かんがい水による 作物への影響を低減対策の目的 対策の分類
対策区分
(
1
)溜池からの取水後の施設管理への影響を
低減する
に依存する負電荷には, Cs + よりも Ca 2 + などのほうが吸着されやすい。さらに Ca 2 + は,
腐植物質のもつカルボキシル基と親和性が高く,腐植物質と比較的安定な複合体を形成 する。 Cs + も腐植物質のカルボキシル基に吸着はするが,安定な複合体は形成しない。
したがって, pH に依存する土粒子の負電荷は, pH が高くなるほど Ca 2 + などを吸着し やすく,土壌にとどめておく機能を発揮するが, Cs + を土壌にとどめる力はそれほど強 くないといえる。さらに, Ca 2 + が多量に存在する場合は Cs + の吸着が妨害され, Cs + が 一度吸着したとしても容易に他の陽イオンによって追い出されてしまうと考えられる。
つまり,土壌中の pH がアルカリ性を示すことも好ましくないため,効果的に放射性セ シウムを安定させるには,土壌を中性域( pH5.8 ~ 8.6 )に保持することが望ましいと考 えられる。
3.2.2 溜池の放射性物質汚染に関する対策の現状と課題
3.2.2.1 溜池における放射性物質の沈着傾向
溜池の放射性物質による汚染は,事故当初の降下物質による 1 次汚染と森林域やその 他周辺部からの放射性セシウムの流出に伴う 2 次汚染によって引き起こされている。東 北農政局と福島県は,事故当初,農業用溜池に流れ込んで蓄積している放射性物質につ いて 12-37 ヵ所で底泥の調査を実施したが 3-15) , 3-16) , 2013 年度より,県内の全域的な蓄 積状況を把握するため, 福島県内の溜池全 3730 箇所の約半数にあたる 1939 箇所 (県 1639 , 国 300 )の溜池を対象に放射性物質のモニタリングを実施した 3-16) , 3-17) 。放射性物質のモ ニタリング調査の結果,以下のことが分かった。
( 1 ) 溜池によって底質の放射性セシウム汚染濃度は様々であったが,ほとんどの溜池 の底質から放射性セシウムが検出された。
( 2 ) 溜池底質の放射性セシウム汚染濃度は,均一ではなく,凹部や集水域からの流入 部等において高い傾向がある。また,底質の深さ 20cm 以浅の上層部では高く,下 層になるほど低くなる傾向もみられた。
( 3 ) 溜池によっては,原発事故直後よりも溜池内の放射性セシウムの沈着量が高いと ころも確認され,溜池からの放射性セシウムの流出よりも集水域からの流入が多 く,その結果,池内の放射性セシウム沈着量が上昇したところもあると推測され る。
( 4 ) 一部の溜池については,貯留水から放射性セシウムが検出された。また,検出さ れた放射性セシウムは,主に土粒子の浮遊物質(濁り成分)に吸着・固定されて いる懸濁態の放射性セシウムであった。
さらに,溜池底泥の放射性セシウムによる汚染は,溜池の立地や構造・機能等の影響
によって,その汚染度にばらつきが多いことが報告されている。例えば, 「流域内の森林
図 -3.7 固化反転工法の施工イメージ
図 -3.8 集積反転工法の施工イメージ
① 表層5~15cmを剥ぎ取り
セメント系固化材で改良する
② 改良土を集積場に埋め戻し 覆土する
表層改良土
表層 5〜15cm 覆土 20cm
後者の目的では,底質からの放射性物質の溶出を抑制する効果を発揮する。さらに底質 の原位置固定の対策は,底質固化工法,底質反転工法,集積反転工法に細分化される。
底質固化工法は,原位置の底質に固化材を添加し,放射性セシウム濃度が比較的高い表 層と低い下層をバックホウ等の掘削・混合機械により一体的に攪拌する。そして底質を 固化することで,底質からの放射性セシウムの溶出抑制や,池底への被覆層(固化層)
形成による高濃度底質の巻上がり抑制を図ることが可能な工法である。また,底質反転 工法は,図 -3.7 に示す工法である。この工法は放射性セシウムで汚染された底質の深さ が 10cm を超える範囲は,上層 30cm を重機で剥ぎ取り,セメント系固化材で改良する。
さらに覆土材として下層 20cm を重機で剥ぎ取り,中性固化材で改良し,セメント系固 化材で改良した上層を先に埋め戻し,続いて中性固化材で改良した下層を埋め戻し反転 させる工法である。集積反転工法は,図 -3.8 に示す工法である。放射性セシウム汚染の 深さが 10cm 以下の範囲において実施される。表層 5 ~ 15cm を重機で剥ぎ取り,セメン ト系固化材で改良し,集積場に埋めて中性固化材で改良した覆土材にて覆土し埋め戻す 工法である。いずれの工法を用いたとしても,必ず用いられる材料として固化材が挙げ られる。例えば,平成 24 年度の実施工例 3-22) を参照すると,固化材の種類は放射性セシ ウムを含む上層土及び表層土は改良効果が高く経済的なセメント系固化材,下層土は覆 土材として転用し,工事完了後は溜池の底質となるため,水質に影響が出にくい中性固 化材が使用されていることがわかった。またそれぞれの固化材の添加量は,改良後のバッ クホウによる池敷き内作業を想定して,トラフィカビリティ確保に必要な強度を得るた めにセメント系固化材は 120kg/m 3 ,中性固化材は 210kg/m 3 としていた。この工事では,
対策工法の効果を把握するために,工事期間中,施行範囲の測点ごとに空間線量率を測 定した。図 -3.9 に固化反転工法の空間線量率測定結果を示す。施行開始前の空間線量率
は 0.6 ~ 1.0μSv/h であったが,剥取り,埋戻しを順次行うことにより,空間線量率は徐々
に低減し,施工完了時には 0.4μSv/h まで低減していることが図 -3.10 から読み取れる。測 定結果より,汚染土を固化・反転して覆土する固化・反転工法は,空間線量率を 30 ~ 60 % でき,対策工法として有効であるといえる。
高濃度の上層
高濃度の上層 低濃度の下層
低濃度の下層
①
②
③
①表層 5 ~ 15cm を剥ぎ取り
セメント系固化材で改良する
②改良土を集積場に埋め戻し 覆土する
表層改良土
表層 5 〜 15cm 覆土 20cm
ドキュメント内
災害復興に資する地盤環境マネジメントに関する研究
(ページ 50-56)