第 3 章 実験の方法 25
3.2 測定系
測定はトップローディング式希釈冷凍機中で行った。希釈冷凍機で用いる3He-4He混 合液(Mixtureと呼ぶ)は、0.87K以下の温度で3Heがほぼ100%の濃厚相(Concentrated phase)と約6.5%の希薄相(Dilute phase)に分離する。実際には、図3.4のようにMixing
chambarと呼ばれる空間にMixtureが溜まり、重さの関係から上に濃厚相、下に希薄相
という形で相分離する。希薄相の液面はStillと呼ばれる空間に達しており、Stillが0.7K から 1K程度に保たれていれば3Heのみが選択的に気化する。Mixtureが平行状態にあ るときに希薄相の3He の濃度が下がると、濃厚相からの蒸発が起こり、この時の潜熱に より、Mixing chambarは100mK以下まで冷却される。Stillで蒸発した3Heを1Kpot で再び液化し、濃厚相に戻し続けることで、低温を連続的に生成できる。トップローディ ング式の場合、プローブをMixing chambar上方から挿入し、試料を Mixtureに直接漬 けることで冷却する。そのメリットは、循環を保ったままでもプローブの出し入れができ るため試料交換が容易であること、また直接漬けるためにMixtureと試料の熱的接触が 良いことが挙げられる。本研究で用いた冷凍機では、ロータリーポンプを用いてStillか ら1Kポットへ3Heを循環させており、それだけで100mKから250mK程度の低温が得 られるが、さらにターボ分子ポンプを用いてStillを減圧し、循環の効率を上げることで 20mKから80mK程度の極低温が得られる。
図3.4 希釈冷凍機の概念図(オックスフォード・インストラメンツのマニュアルより転載)
図3.5 線型電気伝導度測定の回路図
図3.6 直流バイアス印加時の回路図 ゲート電圧は省いてある
3.2.2 電気伝導測定
線型電気伝導度の測定は、ロックイン法を用いた四端子測定により行った。回路図を図 3.5に示す。10nA以下の微小電流での定電流測定を行うため、分圧用抵抗100MΩ及び 電流測定用の標準抵抗100kΩをデバイスのドレイン端子に直列につなぐ。分圧器に十分 に大きな抵抗を用いたことで、ポイントコンタクトのチャネルが閉じ切る直前、すなわち 量子化抵抗一単位の約13k Ωよりも大きな抵抗まで測定することができる。交流発信は 周波数 13.3Hz、振幅は0.1〜1Vrmsの正弦波を用い、標準抵抗と試料の縦抵抗にかかる 電圧をロックインアンプを用いて検出、電気伝導度を求めた。各ゲート電極にはバイアス 電圧を印加するが、そのときに電極に流れる電流、いわゆるリーク電流を同時にモニター している。左右のスプリットゲート、センターゲート、バックゲートに印加する電圧をそ
れぞれ VsgL, VsgR, Vcg, Vbg と呼ぶこととする。各ゲート電極に電圧を印加することの意 味をもう一度まとめる。
VsgL ソース端子から見て左側に空乏層を形成する。
VsgR ソース端子から見て右側に空乏層を形成する。
Vcg QPC 内のキャリア密度を増減する。上層にキャリアが存在するときには、スク リーニングのため主に上層にのみ効果がある。
Vbg 二次元電子系のキャリア密度を増減する。下層にキャリアが存在するときには、ス クリーニングのため主に下層にのみ効果がある。
エネルギーギャップを見積もるためのバイアススペクトロスコピーを行うときには、図 3.6の回路を用いる。デバイスのソース・ドレイン電極間に数 meVの直流バイアス電圧 を印加するために、直流電源に10k Ωの抵抗を接続し、ドレイン電極に接続する手前で 10Ωを挟んで接地している。試料にかかる電圧はこの10Ω抵抗と同程度になるため、直 流電源からは数 Vの電圧を出力すればよい。この直流バイアスに加えて1M Ωの抵抗に より十分に減圧した交流電圧を乗せ、試料の縦抵抗にかかる電圧とソース電極に接続され た電流アンプからの出力をロックイン検出し、電気伝導度を求めた。
第 4 章
実験結果
本研究では数回のプロセスの結果得られた二種類のデバイスについて測定を行った。一 方は左右のスプリットゲートがほぼ対称に二次元系を空乏化しており、もう一方は著し く非対称に空乏層を形成した。前者をデバイスA、後者をデバイスBと呼ぶこととする。
デバイスAについては、センターゲートに加えてバックゲートを用いることで、二つのポ イントコンタクトの電子密度を様々に変化させ、結合特性を観測できることを示す。さら に、詳細な測定によって観測された結合領域に特徴的な非整数構造を示し、単一のポイン トコンタクトでよく知られる0.7構造も考慮して考察する。デバイスBについては、ま ず各スプリットゲート電極によりどのように空乏領域ができるのか、次に、その非対称性 が結合に及ぼす影響について、磁場による結合の変化と比較することによって論ずる。な お、バイアススペクトロスコピーを行った4.3.5節以外では、線型電気伝導度を測定して いる。