3. 流通のメカニズムと設定価格の分析
3.1 流通のメカニズム
インドの農業機械市場は、トラクタ、収穫機、ディーゼルエンジン、電気モーター、灌漑ポ ンプ、噴霧機などを製造する、大規模かつ安定した大手メーカーと、シャベルや鎌などを製造 する小規模メーカーから成る。
小規模メーカーは独自の経験や、ユーザーのフィードバック、国有研究開発機関に、技術支 援をゆだねる。また大部分は自宅などで操業するため通常の公共サービスを十分に受けていな いことが多い。一方中規模および大規模メーカーは、組織化された流通業者や販売業者を全国 に置き、各担当地域での販促活動や見込み顧客への製品認知度向上プログラムを実施するほか、
無料サービスや修理、メンテナンス、部品の提供を始めとする製品のアフターサービスを行っ ている。
図 15 :流通のメカニズム
出所: IMaCS Analysis
中規模・大規模メーカーはその幅広い流通網で全国の市場を網羅し、高い売買高をあげてい る。また、製品の動作状況や、必要とされる設計の改良、加工、品質、農家からの新たな要望 などについて、幅広いフィードバックを受けている。
小規模メーカー
農家
メーカー、農家共に 村レベル
地域単位の流通網
村単位の代理店
農家
フィードバック:
製品要求
技術向上
アフターサー ビス
需要など , .
中・大規模メーカー
一方、小規模メーカーの中で広範な流通網を確立しているメーカーはほとんどなく、そのた め自身の店舗でのみサポートサービスを提供するにとどまる。また、こうした小規模メーカー の部品は標準化に欠けているため、農家は部品の修理や交換の際、機械そのものを持って行か なければならない。こうした要因により、市場規模は近隣に限定され、事業拡大の可能性も制 限されてしまう。
広範なネットワークを持つメーカーは、地域レベル、さらに村レベルで代理店を置くため、
近隣農家のニーズに即座に対応することができる。販売業者は定期的に農家の要望を聞いてメ ーカーに伝え、通常は製品別に在庫維持を行う。これはメーカーにとって販売業者を決定する のに不可欠な要素である。
マーケティングおよび広告戦略に関しては、メーカーは通常、印刷物やテレビ、ラジオなど、
多額の費用がかかる宣伝広告を避ける。多くは展示会や販売店会議、その他農村で開催される 小規模のイベントなどで既存製品または新製品の展示を行う。また、定期的に人員を派遣して 新技術を展示するとともに、現在そして今後の要求の把握に努める。
ケーススタディ: Mahindra & Mahindra Limited
Mahindra & Mahindra Limited(以下M&MまたはMahindraとする)は、Mahindra Groupの主力 企業であり、主に自動車および農業機械部門で事業を展開している。多目的車(UV)、トラ クタ、三輪自動車、軽商業車(LCV)部門に強く、中でもUVに関しては、2011年度の市場シ ェアが52%と、部門最大シェアを占める。
同社の取扱製品はトラクタや農業機械で、全国に点在する販売業者ネットワークにより、効率 的な流通を行っている。M&Mでは、サプライチェーン・マネジメントや、供給業者や販売業 者間の全国規模の連結、部門間のシナジーの模索など、効率改善を通じたコストリーダーシッ プを達成することに重点を置いている。また、キャパシティ・プランニングや長期ベースの契 約や能力強化を通じて、供給上の制約を最小化するために、主要供給業者と密接に連携してい る。こうした連携供給プランニングの下、M&Mと供給業者は要求事項を互いに交換し、より 正確な供給ネットワークと生産プランを構築する。過去2年間、M&Mは自動車および農業機械 の両部門において、共同供給業者会議を開き、インドの自動車業界が直面する課題と、新技術 および工程の分野においてコスト優位性の高い分野を的確に選ぶ可能性について、話し合った。
同社は1,300を超えるトラクタ販売業者ネットワークと、2,200を超えるサービス拠点を活用 し、インド国内の大規模農村コミュニティーにアクセスしている。販売拠点のある全国75カ所
にSamriddhi centerを置き、技術やノウハウ、ハイブリッドの種子の提供、土壌・灌漑水試験、
デモ農場、金融・保険、インターネットサービス、トラクタの販売およびサービス、中古トラ クタの販売などを行っている。
ケーススタディ:TRACTOR & FARM EQUIPMENT LIMITED
TAFEのトラクタ・エンジン部門は、全国に広がる広範な販売ネットワークを通じて、製品 のマーケティングを行っている。同社のトラクタは、800を超えるディーラー、そしてそれを
補完する2,000を超える販売店から成る国内ネットワークを通じてインド国内の顧客に販売さ
れる。トラクタの流通および販売は、完璧な販売教育を受けた同社の販売スタッフ、そしてデ ィーラーの販売員が受け持つ。
トラクタ部門では、数多くの販売店を持つことにより、国内市場におけるプレゼンスを拡大 し続けることを戦略としている。主要市場の全てに地域事務所を戦略的に配置し、あらゆる販 売努力の展開をサポートする。また、販売チームが銀行やその他の金融機関とのネットワーク を通じ、トラクタ購入を資金面でサポートする。
製品サポートについては、部品流通業者のスペシャリストの他、国内のディーラーが、主要 市場の顧客に向け、確実な製品サポートを提供している。また、地域事務所にサービスチーム を置き、必要な時に、必要な場所に、追加のサービス支援を提供している。
請負農業の流通メカニズム
請負農業制度とは、買い手(多くの場合,大企業)との先渡契約の下、農作物の生産および 供給を行うシステムで、農家は特定の農作物を、取り決めの時期と価格、品質で提携バイヤー に提供する。契約に関わる者に明らかに大きな利益をもたらすことから、政府は過去数年にわ たり、請負農業を推進している。また、農家は農作物に関わるリスクを抑えるため、提携企業 から技術的助言を受けるため、農業機械の需要にもプラスに作用すると期待されている。さら に、前金保証を行うため、農家のリスク管理能力が高まるだけでなく、農業技術の機械化傾向 がより強まる。
契約農家の流通メカニズムは、農業機械のそれと根本的には同じである。農家は先渡契約を 担保として、農業機械購入のためのローンを組む。多くの場合、購入は販売業者または製造元 から直接行われる。また、提携先から直接機械が提供される場合もある。
以下に、インドにおける請負農業の流通モデルの例を示す。
2者間請負農業モデル
2者間の請負農業モデルにおいては、特定の農作物の生産に使用される農業機械を含む農業 資材は、契約バイヤーから提供される。一方農家はバイヤーに対し、事前に合意した価格で生 産物を提供する。
3者間請負農業モデル
この請負システムにおいては、契約上の農作物バイヤーは銀行と提携し、農業機械を含む必 要な資材を購入するための資金を調達する。農家は必要な機械や設備を契約バイヤーから入手
Company (Contractual
Buyer)
Farmers
Agri inputs
Produce
Company (Contractual
Buyer)
Bank
Payment for produce
Payment for inputs
Farmers
Payments and credit in some cases Supply of
inputs
し、契約に基づき農作物を提供する。しかし、このモデルでは、農家は銀行から事前に合意し た価格で支払いを受ける。また、追加資金が必要な場合、銀行は信用枠の提供も行う。
4者間請負農業モデル
4者間モデルを取る請負農業もある。この場合、銀行、契約バイヤー、農家の他に、農業機 械提供者が加わる。農業機械が機械メーカーから直接提供されることが、3者間モデルとは異 なる点である。銀行はメーカーと契約バイヤーとの仲介役となり、全ての支払いは銀行のみを 通じて行われる。農家は銀行より支払いを受け、農作物を直接契約バイヤーに供給する。
輸入農業機械の流通メカニズム
インドの農業機械市場は近年、強い国内需要を受け、多くの海外投資を呼び込んでいる。イ ンドでは、回転式耕耘機やトラクタなどの農業機械は国内自給型であるが、田植え機、噴霧機、
動力式耕耘機、作物残渣管理ツールなどの輸入は近年増加している。
インドに進出する海外メーカーは通常、機械の流通のみに関わる貿易会社または有効なアフ ターサービスを提供することができる、地元の販売業者およびメーカーのいずれかと契約を結 ぶ。メーカーは時に、海外で部品の一部を製造し、その他の部品を国内のメーカーに委ねるこ ともある。この場合、組立や流通販売、アフターサービスの責任は地元のメーカーが持つこと になる。