本節では、評価期間中(1950年代後半~現在)の沿岸・海洋生態系における生物多様 性の損失の大きさと傾向を3つの指標を用いて評価し、あわせて対策についても評価す る。
1.沿岸・海洋生態系における損失の評価
○沿岸・海洋生態系の状態は、1950年代後半から現在に至る評価期間において大きく 損なわれており、長期的に悪化する傾向で推移している。
○特に評価期間前半の開発や改変によって、干潟や自然海岸など一部の沿岸生態系の 規模が全国規模で大幅に縮小した(第1の危機)。
○現在、社会経済状況の変化によって、沿岸域の埋立等の開発・改変の圧力は低下し ているが、継続的な影響が懸念される。これに加えて、海岸侵食の激化や外来種の 侵入、地球温暖化の影響が新たに懸念されている(第3の危機、地球温暖化の危機)。
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2.評価の理由
本評価において、沿岸・海洋生態系における生物多様性の損失の状態を示す指標と、
指標別の評価は以下のとおりである。
表 III-5 沿岸・海洋生態系における生物多様性の損失の状態を示す指標と評価
指 標
評 価
長期的推移 現在の 状態と 傾向 評価
期間 前半
評価 期間 後半
沿 岸 ・ 海 洋 生 態 系 の指標
指標27 沿岸生態系の規模・質
指標28 浅海域を利用する種の個体
数・分布
指標29 有用魚種の資源の状態
?
注:評価期間当初(1950 年代後半)の生態系の状態を基本として評価した。
凡例
評価対象 凡 例
損失の大きさ
損なわれていない やや
損なわれている 損なわれている 大きく 損なわれている
状態の傾向
回復 横ばい 損失 急速な損失
注:視覚記号による表記にあたり捨象される要素があることに注意が必要である。
注:損失の大きさの評価の破線表示は情報が十分ではないことを示す。
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○生活排水、産業排水等による沿岸海域の水質悪化は生態系の質を低下させる。
○外来種の侵入(第3の危機)や地球温暖化(地球温暖化の危機)によっても、今後、
これらと同様の損失を生じさせる可能性がある。
指標別の評価
○評価期間前半の高度経済成長期などに、全国の浅海域において埋立等の開発や改変 が進行し、干潟、藻場、サンゴ礁、砂浜、岩礁や砂堆などの浅海域の生態系の大幅 な縮小をもたらした。
○社会経済状況の変化により、現在、沿岸生態系に対する開発・改変の圧力は低下し ているが、継続的な影響が懸念される。また、海岸侵食の加速や地球温暖化の影響 が懸念されている。
評価の理由
<埋立などの開発>
評価期間の前半の高度経済成長期における埋立・浚渫(しゅんせつ)、海砂利(海 砂等)の採取、人工構造物の設置などの開発・改変によって、浅海域の生態系の要素 である干潟、藻場、サンゴ礁、自然の砂浜などの規模は大幅に縮小した(データ27-
④:表III-6,巻末、 27-⑤:巻末、 27-⑥:表III-6,巻末、 27-⑦:同、 27-⑧:同)。わ
が国では平地の沿岸部に人口や産業が集中しており、沿岸の生態系に環境負荷がかか りやすいとされ1)、高度経済成長期の1950年代後半から1980年頃まで毎年40km2前後 の浅海域が埋め立てられた(データ27-①:図III-20)。埋立面積は次第に減少し、1990 年以降は年間10km2前後に低下し、影響は継続しているものの、新たな損失の要因と してはやや軽減した可能性がある。同様に、海砂利(海砂等)の採取については、1960 年代に採取量が増加し、1970年代から1990年代後半までは毎年約7,000万t~9,000万 t以上の量が採取されていた。その後、瀬戸内海では規制が進むなどして近年は全国で
年間4,000万tを下回って推移しているが、それ以外の海域では現在も採取が継続して
いる(データ27-②:図III-21)。
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注1:埋立面積は、地方自治法の規定により都道府県等が公示(新たに生じた土地)するものを集計。
出典:国土地理院, 国土面積調.
図 III-20 浅海域の埋立面積の推移 (データ 27-①)
1,000 1,500 2,000 2,500 3,000
300 400 500 600 700 800 900 1,000
累計(百万t)
砂利等の採取量(百万t)
海 陸 山 河川 砕石 その他 1973年以降の海からの累計
0 20 40 60 80 100 120
0 200 400 600 800 1,000 1,200
1956-65 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005
埋立面積(km2)
累計(km2)
(年) 埋立面積(km2)
累計(km2)
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<海岸の人工化>
主に評価期間の前半において高潮・津波などの災害防止等のための海岸の人工化(汀 線とそれに隣接する陸や海における人工構造物の設置)が進み、自然の海岸の規模が 縮小するとともに、海岸-海浜域-沿海域といった陸と海との連続性が低下した2)。堤 防・護岸等が整備された海岸線の延長は、特に1960年代から1970年代にかけて急速 に増加し、現在では約1万kmに及び全海岸延長の約30%を占めている(データ27-
③:巻末)。また、汀線に人工構造物がない海岸を自然海岸とした場合、海岸の人工化 によって、その延長は、評価期間半ばに位置する1978年には既に全海岸延長の約60%
に低下し、さらに20年後の1998年には約50%に低下している。自然海岸の延長は特 に岩礁海岸よりも砂浜海岸において減少している傾向がある(データ27-④:表III-6, 巻末)。自然海岸が少ない地域としては瀬戸内海(中国側)、大阪湾、富山湾、伊勢 湾、東京湾などで、多いのは日本海(山陰)、三陸などである。汀線以外の後背地ま で含めて自然の状態にある海岸はさらに少なくなっているとされている。
<干潟の縮小>
干潟は、内湾に立地することが多く、開発されやすいため、主に評価期間前半の高 度経済成長期における埋立・干拓によって大幅に縮小した3)。多くの干潟は後背地の陸 域が改変されたことを通して、海岸同様、陸と分断される傾向にある4), 5), 6)。全国の干 潟の面積は、評価期間前の1945年から1970年代後半までの約30年間に35%減少し、
その後の約20年間でも1945年比で6%減少した(データ27-⑤:表III-6,巻末)。例え ば瀬戸内海では、1945年から1990年頃の間の約50年間で、干潟は約210km2から約
120km2に半減し、東京湾では、同様の50年間の間に干潟の面積は約100km2から約
20km2と約80%減少した(データ27-⑥:巻末)。
<藻場の縮小>
藻場は、潮下帯にあって海草や海藻から形成され、産卵や仔稚魚の生息の場所とな り、内湾の生物だけではなく外海の生物や時には外洋の生物にも利用されている。藻 場の分布は、北海道、青森、石川、静岡、長崎の5道県で全国の50%以上を占め、特 に海草藻場の約30%が北海道に分布する。全国的に、海草藻場は埋立等の改変や水質 汚濁などにより、また海藻藻場はこれらに加えて磯焼けなどによって大きく縮小した
7), 8)
。評価期間半ばの1970年代前半の全国の藻場面積が約2,100km2であったのに対し、
評価期間後半の1990年頃には約2,010km2と4%ほど減少した(データ27-⑦:表III-6, 巻末)。1990年代から2000年代にかけて、さらに減少したと推計されている9)。なお、
藻場の減少要因の一つとして、海水温の上昇による亜熱帯性の植食性の魚類等の冬季 の滞留が指摘されている10)。また、一部の海域ではガラモ場の種組成が温帯性のホン
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ダワラ類から亜熱帯性のホンダワラ類へ変化しており、地球温暖化の影響が指摘され ている。
<サンゴの減少>
南西諸島等にみられるサンゴ礁の礁地内におけるサンゴ群集の面積は、1970年代後 半から1990年頃までの約15年間に4%ほど減少し、沖縄島では15%が減少した(デー
タ27-⑧:表III-6,巻末)。また、1970年代、南西諸島等におけるサンゴの被度はほぼ
100%であったとされるが、1990年頃のサンゴ群集では、約60%が被度5%未満、約90%
が被度50%未満であり、全体としてサンゴの被度が低い状態であることが指摘されて
いる(データ27-⑧:巻末)。
このようなサンゴの規模の縮小や質の低下の要因としては、まずは埋立などの開発 が挙げられるほか3), 11)、赤土の流入12),13) 、その他オニヒトデの食害、サンゴの白化、
海洋の酸性化などが指摘されている。南西諸島では、評価期間の当初からサンゴ食生 物のオニヒトデが大発生した記録があるが、1970年代から80年代にかけての大発生は 大きな被害を及ぼした14)。2000年代にも再び大発生して被害を及ぼしている(データ 27-⑨:巻末)。また、因果関係に議論はあるものの、地球温暖化との関係が指摘され ている現象として、異常高水温等にともなうサンゴの白化が1980年代から確認されて
おり15)(データ12-②:図II-19)、また近年ではサンゴの分布の北上などが報告され
ている16)。海洋の酸性化により(データ27-⑩:巻末)、炭酸カルシウムの殻や骨格を 作る貝やサンゴ、円石藻類などの生物群の生存に影響があるといわれている17)。
<砂浜や砂堆の縮小>
全国の各地で海岸侵食が進んで砂浜が縮小しており、その速度を増している。海岸 侵食の背景として、海砂利(海砂等)の採取、川砂利の採取、ダムなどの河川の整備 にともなって土砂供給が減少していること18), 19)、陸から海に突き出た構造物などによ って漂砂システムが変化することで砂浜環境が影響を受けたことが指摘されている19),
20), 21), 22), 23)
。例えば全国の砂礫海岸の侵食速度は、20世紀初頭(明治中期)から1970 年代後半までは年間約0.7km2であったが、1970年代後半から1990年代前半までは年
間約1.6km2であり、砂浜への影響も著しく増加した可能性がある(データ27-⑪:巻末)。