(窃)〉言
5. 求愛・交尾行動 ( 1 )求愛行動と交尾行動
縄張り内に雌が来遊した時には, 縄張り雄は求愛するのが普通であった。
交尾は一連の求愛行動の後に観察された。 本研究ではOlder雄とYOY雄の両 方の求愛, 交尾行動が観察されたので, 両者を比較しながら本種の求愛・交 尾行動を述べる。
(a )倒立誇示行動(head standing display)
雄は雌が縄張り内に移動して来ると, 雌の前方で倒立誇示行動(head
standing display)を行なう。 head standing displayは, 雄が体軸を海底に対 して約45度ー75度の角度で倒立の姿勢をとり, 雌の前方で静止する求愛行動 である(Fig. 15-1, 16)
0head standing displayを行う時には雄の体色は黒っ ぽくなり, 体側に大きな2つの白色斑紋と腎鰭付け根に小さな白色斑紋1つが 浮き出る(Fig.
16) 0head standing displayは雌が縄張りに滞在する間は継 続され, 1時間以上連続する例もあった。 YOY雄も縄張りに雌が来遊した場 合にはhead standing displayを行った。 この時のYOY維の体色もOlder雄同 様に変化したが, 体色の黒ずみは弱く体側の白色斑紋はOlder雄に比ベて不 明瞭であった。
(b)ジグザグ遊泳 ( zigzagswimming)
雄はhead standing displayにより雌を縄張り中心付近のmatingsiteへと 誘導した。 matingsite にくると雌雄は次にジグザク遊泳( zigzag swimming )
Female
2
3
Fig.16. Head standing display of an Older male in Ditrema temmincki.
Left: male, right: female.
を行った , これは, 雌雄が平行に 並んで速度 を上げ, Olderのベアでは半径 約2・3 m , YOYのベアでは半径約1・2mの円を描くように遊泳する 行動であ
る(Fig.15・2, 1 7) 0 zigzag swimming の途中では, 雄が雌の5・10cm前方で静 止し , 孝子鰭付近を小刻みに震わせる行動が時々見られた(Fig.15・2)。
zigzag swimmingは約10秒ー10分以上継続した。 この聞の雄の体色は, head
standing displayの時ほど顕著で、はないがまだ黒褐色を呈しており白色斑紋 が認められ た。 YOY雄もOlder 雄同様のzigzag swimmingを行ったが, 体色 変化はOlder雄ほど著しくなかった。
(c)交尾(copulation)
zigzag swimmingの後, 雌雄は mating site で遊泳を止めて静止 する。 する と直ちに ベアは並行に定位して , 約90度の角度で腹部を合わせ交尾
(copula tion) する(Fig.15-3)。 交尾の瞬間には瞥鰭付近を小刻みに震わ せ, 体色 が銀白色,虹色 に輝く。 この体色変化 もOlder雄で YOY雄より顕著 であった。 交尾は2・3 秒の短時間で終了した。 交尾 後, 雌はすぐに 雄の縄張
りを去った。
(d) 縄張りを持たないYOY雄の求愛行動
縄張りを持たずに 雌と 群れ て移動 するYOY雄は行動範囲が広く, 個体識 別が出来なかったために 観察 途中で見失う場合が多く , 長時間の追跡が困難 であった。 少なくとも, 追跡 観察した10例(18扮間)では群れ中の雌への
Fig.17. Zigzag swimming of an Older pair in Ditrema temmincki . Left: male, right: female.
(e)交尾観察例
縄張り雄によるhead standing displayは日中頻繁に観察されたが, Zlgzag sWlmmlngに至る例は少なかった。 zigzag swimmingから交尾に至る頻度はさ らに低かった。 本研究での909分間の求愛行動の観察中 , head standing
displayは16 2 例観察されたが, zigzag swimmingは17例 , 交尾は4例しか観察 され なかった(Table 5)。 この4例の交尾のうち3例はOlder峰雄閣の交尾 ,
1例はYOY雌雄間の交尾であった。 Older雌雄の交尾のうちの 2例(Table 5,
Observation NO.3 and 4)でhead standing display から交尾に至るすべての 過程を, 1例(Table 5, Observation 2 )で zigzag swimmingから交尾までの過
程を観察した。 これらの Older雌雄の観察では, head standing display,
zigzag swimming を経て縄張り内の mating siteの海底近くで交尾が行われ
た。 Observation No.lの YOY雄は個体識別しておらず, 縄張りを保持してい るか否かも不明な 個体であった。 この 雄は観察開始時にすでにベアを形成し ており, ホンダワラの陰で 雌雄が並行に定位していた。 観察開始数秒後, 雌
雄は腹部を合わせて腎鰭付近を小刻みに震わせて交尾した。 交尾場所は水面 下約1.5 m (水深5 m)のホンダワラの陰で、あった。 交尾 行動が観察された時 間は, それぞれ午後12時34分, 12時48分, .15時3 1分, 16時3 分と昼間や夕方 であり, 一日のうちの特定の時間帯に求愛・交尾 行動が集中することはな かった。
(2 )同じサイズグループの雌 雄による配偶(size assortative mating)
Table 5. Date, time of copulation, individual number of male,
and size of both sexes of Ditrema temmincki .
Observation Date in Time Tag no. Male size Female size No. 1984 of male (SL in mm) (SL in mm)
Sep. 26 15:31 unknown 75-80 75-80
2 Sep.28 12:34 3 150 140・150
3 Sep.28 12:48 3 150 140-150
4 Oct. 15 16:35 9 150 150
こりうる。 例えば, YOY個体が圧倒的に多い場合にはYOY雌雄同志の求 愛, 交尾が観察される割合が多くなる。 そこで、, Ridley (1983)の方法に従 い, YOY個体同士, Older個体同士, すなわち, 同じサイズグループの雌雄 による配偶( size assortative mating = homogamy for size)が行われている か否かを検討した。
Ridley (1983)による size assortative mating を検討する方法は次のように 要約できる;(i)個体群に占めるのYOY個体とOlder個体の割合を求める。
(ii)実際にどのようなサイズの相手と mating するかを調査する。(iii)個体群 から求めた mating 相手の予想値と観察値を比較する。 mating が体のサイズ
に関わり無く random に行われている(heterogamy = random mating for size)ならば, YOY雄とOlder雄の求愛相手の比は観察区におけるYOY個体 とOlder個体の比と等しくなると予想される。 従って, 個体群から求めた random mating の予想値と観察値との聞に差が検出されれば size assortative mating, 検出されなければ heterogamy と判定する。
ウミタナゴにおける観察, 計算結果を以下に示す。 まず, (i)交尾期間であ る10-11月に個体数の計数を8回観察区内で行った。 その結果, 同区域におけ るYOY個体・Older個体それぞれの個体数は, YOY個体=361個体, Older 個体138個体(8回の計数の合計)であった。 従って, 両者の個体数の比は,
YOY個体: Older個体 = 0.72 : 0.28と計算された。 次に, (ii)観察区域内で 909分間にわたり雄の求愛行動(head standing display)を観察し, 求愛相手 をYOY雌, Older雌に区別して記録した(Table 6)。 表に示すように,
YOY雄については34回の求愛行動を観察したが, その相手はすべてYOY雌
Table 6. A pattems of size-specific courtship in Ditrema temmincki . Expected values are based on propo代ions of YOY and Older
individuals (YOY:72% ; Older:28%). YOY males courted YOY females more often than expected (Fisher's exact probability test,
p < 0.001). Older males courted Older females more often than
expected (Fisher's exact probability test, pく0.001). Results are based on 909 min. observation.
Size c1ass of male Courtship directed toward (No. of event) YOY female Older female Total
YOY male observed 34 。 34
expected 24.5 9.5 34
Older male observed 。 128 128
expected 35.8 92.2 128
と(ii)の結果より,(iii) heterogamyが行われていると仮定した場合の期待値 と観察値を比較すると, 両者の間には有意な差が認められた(Fisher's exact probability test, YOY雄:p くO.∞1,Older雄:p < O.∞1) 。 さらに, 前述のよ うに zigzag swimming や実際に観察された交尾もYOY雌雄同士, Older雌雄 同士で行われた(Table5 ) ことから, ウミタナゴではYOY雌雄, Older雌 雄で求愛・交尾を行う size assorta tive ma ting が起こっていると判断され た。
以上のように, 本種の求愛, 交尾行動に関しては,(i)求愛・交尾行動は head standing display, zigzag swimming, copulation の一連の行動を経て行わ れること,(ii) head standing displayは頻繁に行われるが, 交尾は稀にしか 起こらないこと,(iii)求愛・交尾は一日のうちの特定の時間には行われない こと,(iv)YOY個体同士, Older 個体同士で、配{寓する size assortative mating が起こることが明らかになった。 YOY雄の行動に関しては,(i)縄張りを持 つ雄と持たない雄が出現すること,(ii)YOY雄の求愛行動時の体色変化は Older雄ほど顕著でないこと,(iii)交尾は必ずしも海底近くではなく, ホン
ダワラ等の陰が mating site として利用されるというOlder雄との相違点が明 らかになった。
6. 摂餌量の相違
前節までの結果のとおり, 交尾期間中の雌雄問, およびYOY・Older個体 問で‘は行動様式が異なった。 すなわち, Older雄では専ら縄張り行動や求愛
聞で摂餌量が異なることが予想、された。 そこでYOY雌雄, Older雌雄の消化 管内容物重量を計り, 消化管内容物重量比(GWI)を比較した(Fig. 18)。
GWIは, 雄ではYOY雄で平均0.95(range O.α)ー2.02+0.62 SD, n=14) , Older雄で0.22(0.∞-0.83+0.34, n=6)で両者の聞で統計的に有意な差が認 められた(Scheffe's F test, pく0.01)。 雌では, YOY雄で1.20(0.12・2.02+
0.54, n=14) , Older雌で0.98(0.31・1.51+0.57, n=のであった。 Older雄で は, YOY雌やOlder雌との聞で統計的な差が認められなかったもののGWI の値は低かった。 すなわち, GWIは一般にYOY雌雄, Older雌で高い値を 示すことが明らかになった。 これらのことから交尾期間中にはOlder雄は 摂餌量が少ないが, YOY雄では求愛・交尾行動を行いつつ雌と同様に頻繁 に摂餌していること, また, YOY雌, Older雌はOlder雄よりも摂餌頻度が 高いことが示唆された。
次に, 腹腔内脂肪量指数(FWI)を計算してYOY, Older各グループの雌 雄閣で比較した(Fig. 19) 0 FWIはOlder雌で平均2.31(range 1.23ふ55+
0.81 SD, n =6)で最も高く, YOY雄の0.40 (range 0.13-0.85 + 0.24 SD,
n=14) , YOY雌の0.39,(0.14-0.97土0.26, n = 13) , および, Older雄の0.93 (0.28・1.91+0.59, n=7)と比較して有意な差が認められた(Scheffe's F test,
p < o.∞1)。 一方, YOY雌雄とOlder雄聞では差が認められなかった
(Sche仔'e's F test, YOY female vs YOY male: p = 0.9999, Older male vs YOY male: p = 0.0999, Older male vs YOY female: p = 0.0948)。 本種では交尾期 前の5・8月の摂餌量(消化管内容物重量比)はOlder雌雄間, YOY雌雄問で 大きな差は認められないことが知られている(Hayase and Tanaka,
198Oc)。 従って, 腹腔内脂肪量の差違は交尾期の消費エネルギー量と摂餌 量を反映していると考えられる。 前述の行動観察やこの腹腔内脂肪量の差異 からも, 少なくともOlder個体では雄は雌よりも縄張り行動や求愛行動にエ ネルギーを消費しており摂餌量が少ないこと, また, YOY個体では雌雄問
�
1.00
SS A
20 nunu
nu nU
p< 0.01
n = 14 1.8
1.6
1.4 1.2
n = 14 n=5
YOY Male Older Male YOY Female Older Female
Group
Fig.18. Comparison of the Gut Weight Index (GWりinDitrema temmincki with different size groups and sexes.
GWI = (Gut∞ntent weight I body weight) x 100. Vertical bars indicate standard deviation. Difference is significant between YOY male and Older male (Sche行e's F test,
p < 0.01).
3.5 3 2.5