第 5 章 立地要因が不利でも米国の半導体設計企業が競争力を持つ理由
5.4 比較優位と生産性優位を考慮した総合優位
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表16:感度分析(「ファブレス企業モデル」)
要因 法人税率 減価償却
事務所 賃料
人件費
為替レート
(輸出比率 50%)
為替レート
(輸出比率 100%)
付加価値
弾性値
(η)
-0.684 -0.298 -0.002 -0.405 0.597 3.581 1.492
(出所)筆者作成
為替レートの影響は輸出比率によって異なるが、100%の場合では他の立地要因の変化 と比べて弾性値が最も大きく、ファウンドリ企業モデルの感度分析と同様に、企業収益は 為替レートによる変化を最も敏感に受けることが明らかになった。
多くのファブレス企業は、法人税率や人件費の条件で劣位であるにも関わらず米国に立 地している。前述したように、売上高の上位10社の中で、米国企業が8社も占めている。
このような現実に対して、税制やコスト要因による立地特殊優位だけでは説明が付かな いことから、別の特殊優位の関係を加える必要がある。なぜなら、立地要因ではない製品 の「付加価値」の与える弾性値(η)が、立地要因の中でも最も影響の大きい法人税率より も2.2倍程度の正の効果を与えることを示したからである。
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このことは、「比較優位」を生かしたファウンドリ企業と「生産性優位」を生かしたファ ブレス企業の地理的配置にも当てはまるものと考えられる。
米国のシリコンバレーと台湾の新竹科学工業園区の代表的なファブレス企業の生産性に ついて各企業の業績報告書(SEC filingの10-Kや20-F)を基に調査を行った。
5.4.2 米国と台湾の半導体ファブレス企業の「総合優位」比較
米国のシリコンバレーと台湾の新竹科学工業園区に立地する代表的なファブレス企業の 競争優位について業績報告書を基に生産性(1人あたり売上高)の調査を行った。
生産性として、1 人あたり売上高を取り上げた理由は、税制や要素コストの影響がない 製品の付加価値を示すものであり、近年の国際貿易論では、Melitz(2003)たちは産業を単 位とするのではなく企業の異質性(heterogeneity)に着目し、生産性によって輸出に必要な 最低限の生産性(「輸出閾値」)を越える一部の企業のみが輸出企業となると説明した新々 貿易理論に向かっている点と、その生産性の測定について、限定された範囲では1人あた り売上高が用いられる点(田中,2010a; 2010b)に依拠する。
米国のファブレス企業6社と台湾のファブレス企業2社について2009年から2013年の 5年間の生産性(1人あたり売上高)を比較した(表17)。
平均値は、米国のファブレス企業が 623 千ドル/人(n=30)、台湾のファブレス企業が 568 千ドル/人(n=10)であり、米国企業が台湾企業よりも高い生産性を示す結果となっ たが、2つの平均値に差があるのかt検定を行ったところ、両側でp値:0.363であり、有 意であるとは言えない。これは、各ファブレス企業の製品や市場の特性が異なることによ る原因と考えられる。
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表17:米国と台湾のファブレス企業の生産性(1人あたり売上高)
単位:千ドル/人
2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
Qualcomm(米) 645 628 706 735 802
Broadcom(米) 606 762 770 638 662
nVIDIA(米) 583 588 560 537 469
Marvell(米) 536 613 487 437 463
Xlinx(米) 622 764 686 652 681
Altera(米) 468 733 716 570 560
MediaTek(台) 344 331 422 478 559
NovaTek(台) 639 840 665 678 729
(出所)各会社情報に基づき筆者作成
そこで、これらの中から、実際、スマートフォンに搭載されるアプリケーション・プロ セッサと呼ばれる論理系(ロジック)半導体製品で市場競争している米国のQualcommと
台湾のMediaTekの両社に着目した。2013年度の1人あたり売上高は、Qualcomm(米)の
802 千ドルに対して、MediaTek(台)の559 千ドルと大きな差がみられた。
これらのデータに基づき、税制や要素コストなどの立地要因に基づく収益性と、税制や 要素コストの影響がない製品付加価値に基づく生産性(1人あたり売上高)について、2 つの積を求めて総合優位の比較分析を行った。
すなわち、「総合優位」=「比較優位」×「生産性優位」であり、立地要因に基づく比 較優位で劣位であったQualcomm(米)は、生産性でMediaTek(台)を上回り、ほぼ同等 の「総合優位」の値を示した(表18)。
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表18:米国ファブレスと台湾ファブレスの総合優位比較
ファブレス 企業(国)
米国(Qualcomm)を 100%とした比較優位
(立地による収益性)
(a)
米国(Qualcomm)を 100%とした生産性優位
(製品付加価値)
(b)
総合優位
(比較優位×生産性優位)
(a)×(b)
Qualcomm
(米)
100.0% 100.0% 100.0%
MediaTek
(台)
146.1% 69.7% 101.8%
(出所)各企業情報(2013年)に基づき作成
ここで示したQualcomm(米)とMediaTek(台)について、その実際のアプリケーショ ン・プロセッサ市場シェアのデータは次の通りである(図15)。シェアで、米国の
Qualcommは台湾のMediaTekを上回り、立地の劣位をカバーし、両社は拮抗していると
考えられる。
図15:アプリケーション・プロセッサ市場におけるシェア
(出所)http://eetimes.jp/ee/articles/1412/08/news051.html
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