第 3 章 現状分析
3.2 半導体産業における日米逆転の歴史
3.2.4 分析と考察
(1)半導体地域別シェア
時期が異なるそれぞれが調査した時期の半導体地域別シェアを示すと、1980年代後半に おける米国半導体産業は日本企業に市場を席巻され、危機的状況にあった。その後、約10 年から15年かけて、日本を逆転した様子がわかる。一方、逆転に伴って、アジアの台頭、
成長も見逃すことができない(図9)。
図9:半導体の地域別シェアの推移 シェア
(出所)ガートナー・データクエスト(2006年12月)
(2)米国半導体の戦略意図
米国の半導体は、日米それぞれの長所・短所の分析を行い、復活のために次のような 3 つの戦略意図を持ったと考えられる(表5)。
Made in America How We Compete
40
表5:米国半導体の戦略意図
分析 戦略意図
日本の半導体はコングリマット企業の一部で あり、米国のベンチャー企業よりも資本的有 利にある。しかし、将来の設備投資や研究開発 の巨額化に対して、とても1社で賄えるもの ではなくなり、日本は必ず行き詰まると予想 される。
*以下の投資金額推移を参照
多くの米国企業が、日本に技術ライセンスす る(知的財産の提供)見返りに安定生産、安定 供給を得るという不合理な状況にあった。
*以下のゲーム理論を参照
製造受託専門会社(ファウンドリ企業)を設立し、
知的財産を守りながら、製造をオープン化させる ことによって、世界中の顧客から受注し、規模の 経済効果によって、安価な製造を提供するとも に、設備投資や開発費を賄える好循環が得られる のではないか。
さらに、米国ではなく、税制優遇などの振興国策 や産業集積地としても適した国として台湾が台 頭。
提言「国際的に資源を調達せよ」の実行対象とな った。
日本はメモリ製品中心の製造付加価値指向で あり、米国は違った製品分野で復活させる必 要がある。
不安定で低い定職率でありながら、高い創発 的技術力をもつベンチャーが多い米国にとっ て、どういう企業形態が望ましいか。
メモリ以外の設計付加価値指向の論理系(ロジッ ク)集積回路を目指し、高い設計技術力を活かし たベンチャー的企業にとって、ファブレス企業形 態が望ましい。
さらに、設計と製造の機能別分業を実現するため に、設計と製造をつなぐためのコード化されたデ ジタルパラメータの開発が必要。→モジュラー化 の生成
提言「生産のイノベーションを起こせ」の実行 半導体産業を失うことは、その競争上の優位
性を半導体素子に依存している他の重要産業 の衰退につながる恐れがある
SEMATECH(米国半導体工業会(SIA)が中心と なって1987年に発足した、官民共同による半導 体製造技術研究組合)の設立により、半導体製造 技術の開発研究は存続させる。
提言「製造活動における技術の効率的利用を徹底 せよ」の実行組織
(出所)筆者作成
41
(3)工場あたりの投資金額の推移
工場あたりの投資金額の推移は以下のように巨額化している。図10のように、ウェハー の大口径化だけでなく、微細化テクノロジーとともに増大し、将来には企業1社で賄える 規模でないことが読み取れる。米国は、いずれ来る日本のコングリマット企業の限界を予 測し、別の方法として、製造に特化したファウンドリ企業の活用と促進を目指したと考え られる。
すなわち、ファウンドリ企業が発展することは、研究開発や製造設備に再投資を行い、
ファブレス企業に最先端製造プロセスと生産キャパシティーを提供し続けることに繋がる。
図10:工場あたりの投資金額推移
(出所)FSAの公開資料を加筆修正
(4)ゲーム理論からみたファブレス-ファウンドリの形成と発展
まだファブレス-ファウンドリ・モデルが形成されていない頃(1980年代)には、多く の米国のベンチャー的ファブレス企業は、COT(Customer Owned Tooling)と呼ばれる手法 で、日本の半導体企業に設計データや製造パラメータを持ち込み、製造委託するケースが 頻繁にあった。
ファウンドリ企業形成のトリガーは、多くの米国ファブレス企業が日本に技術ライセン ス(知的財産の提供)の見返りに安定生産、安定供給を得るという不合理な状況にあった からと言われる。
0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0
1990年 6インチ
1995年 8インチ
2000年 12インチ
2002年 12インチ
2010年 12インチ
金額(US billion)
42
ファウンドリ企業がファブレス企業の知的財産(IP)を守るか否か(盗む)について、
その利益をゲーム理論から捉えた考えを図11に示す(Dhayagude. et al., 2001) 。 ファウンドリ企業が知的財産を守る場合には、100 という利益が手に入る。一方で、フ ァウンドリ企業が知的財産を盗む場合、あるいは生産供給の見返りに知的財産を得るとい った場合、当初は500という利益を得ることができるが、将来の損失として-600が生じ ることで、実質の利益は-100 となるという説明である。ファブレス企業もファウンドリ 企業が知的財産を守るか否かによって、利益の影響を受ける。ファブレス-ファウンドリ・
モデルとして、知的財産を守ることこそが、共存共栄のルールとなる。
図11:知的財産の保護に対するファウンドリ企業のジレンマ
(出所)FSAの公開資料
このように、ファブレス-ファウンドリ・モデルを用いた米国の論理系(ロジック)半 導体は、米国が危機感を持って日本を研究し、計画的な転換戦略によって競争優位の逆転
【Fabless firms】
Outsource manufacturer to Outsource manufacturer to this foundry other foundry
100 0
Keep IP secret
【Foundry】 10 8
500 - 600 = -100 0
Steal IP
0 8
NPV of stealing great idea Net cost of stealing idea Cost of stealing idea i.e.
future profits lost by breaking trust
43
を果たしたことがわかる。まさに遺産を糸口として、復活を遂げた結果といえる。