OECD TG 403
3. 防水スプレーの毒性 1 活性物質の毒性
3.2 毒性への粒子径の影響
特定の物質の毒性は、ばく露経路により大きく異なる可能性がある。例えば、ミネ ラルオイル及びパラフィンは外用薬として、又は食品中では安全に使用されているが、
細かいエアロゾル化して吸入した場合にはリポイド肺炎が引き起こされる。
N N
N N H
NH NH
[ ]
n
物質が空気中に噴霧されると、ガス状成分及び直径が 0.5~16 µm 又はそれ以上の 大きさの粒子が生成する。これらの粒子直径の中央値は、各成分の複数の物理化学的 パラメーター(例、揮発性、表面張力、粘度)により異なる。0.5 µm未満の粒子は大 気中にとどまり、数秒後に吸い込まれる。約 0.5~10 µm の範囲にある粒子は、呼吸 細気管支及び肺胞領域に到達し、そこに留まる可能性が最も高い。16 µm 以上の粒子 は、通常肺には到達しない。0.5~10 µmの範囲にある粒子は、スプレー製造者にとっ て最大の懸念である。実際、毒性評価における最重要データは、沈着量の測定値と呼 吸器における分布である(吸入された粒子のヒトの呼吸器における沈着に関する詳細 は付録1を参照)。沈着量を決定する2つの最も重要なパラメーターは、平均粒子径 及び粒度分布である。
確認された呼吸不全の原因は、呼吸域粒子(respirable particle)の放出量が増 加し、その吸入量が増加したためと考えられた。呼吸により肺に取り込み可能な噴霧 粒子量の増加は、スプレーシステムの変更、又は高揮発性溶媒の使用によるエアロゾ ル化した液滴からの溶媒の素早い蒸発が原因であると考えられる。10 µm より小さな 粒子は、肺に到達し、呼吸器障害を引き起こす。エアロゾルスプレーからは必ず 10 µm 未満の粒子画分が放出される。それと対照的に、ポンプスプレーからは呼吸域粒子
(respirable particle)はまったくあるいはほとんど生成しない(エアロゾルスプ レーとポンプスプレーの粒度分布の詳細については付録2を参照)。したがって、物 理的(例 スプレーノズル)又は化学的(例、溶剤)な変更により最終製品の粒度分 布が変化すると、吸入され肺の下部に沈着する可能性のあるさらに小さな粒子画分が 増える可能性がある。
溶剤の変更(n -ヘプタンから揮発性がさらに高いイソプロパノールへの変更等)
により、フッ素化樹脂を含む小さな液滴の量が増える可能性がある。これらは、肺の 中で肺胞に到達し、そこで肺胞炎を誘発する可能性がある。したがって、スプレーの 粒度分布は、吸入による肺ばく露及び健康リスクに影響を与える重要なパラメーター である。
マウスを対象として行われた複数の研究では、防水スプレーの粒度分布が毒性に影 響を与えていたことが直接的に確認されている。成分が同一で噴霧粒子径サイズが異 なる防水スプレー4製品が試験され、マウスの肺における病理学的変化が確認された。
この研究により、10 µm未満の粒子の割合が可能な限り低ければ(この研究では 0.2%)
スプレーは安全であることが示唆された[5,6]。
4. 吸入毒性評価指針
2007 年4月ベルンにおいてスイス連邦公衆衛生総局(Swiss Federal Office of Public Health)が共同専門家会議を開催し、ヨーロッパ数か国の政府、業界、そし て学会からの専門家たちが集まった[7]。物理化学的性質や動物を用いた吸入試験に 基づいて、防水スプレー製品の毒性評価に適切な方法の開発について議論が行われた。
4.1 各成分の吸入毒性試験
製品に配合された成分、特に含浸活性成分に固有の有害性は、適切に評価して詳細 に十分な裏付けをとる必要がある(安全性データシート)。しかし、最近の呼吸障害 の発生の様子から、製品に含まれているすべての化学成分について毒性がないと確認 されても、最終製品のばく露によりヒトの健康に害が及ぶ可能性があるということが 分かっている。したがって、製品の粒度分布及び配合成分の固有有害性のみ基づいて リスクを評価することはできない。そこで、最終製品の毒性を予測するために、作製 した製品の動物吸入毒性試験を行うことが強く推奨される。
製品の配合成分を変更することで、ばく露条件や混合物の毒性が変化する可能性が ある。したがって、スプレーの配合成分の変更後には、変更後の製品についての吸入 毒性試験が必要である。
4.2 最終製品の吸入毒性試験
新製品のスプレーや配合成分を変更したスプレー製品の急性吸入試験は、OECD TG 403 改 訂 版 に 従 っ て 実 施 で き る 。 最 悪 の 場 合 の ば く 露 を 再 現 す る た め に 、 TNO
(Netherlands Organisation for Applied Scientific Research:オランダ応用科学 研 究 機 構 ) は 、 IKW ( Industrieverband Körperpflege-und Waschmittel [German Cosmetic, Toiletry, Perfumery and Detergent Association])と共同で、吸入試験 を実施することを決定した。この試験では、急性吸入毒性試験に関する OECD のガイ ダンス文書案 No.39B における(吸入試験で用いる製剤の)粒度分布は空気力学的中 央径(Mass Median Aerodynamic Diameter:MMAD)で1~4 µm の範囲であるのに対 し、0.7~1.5 µm の範囲にある製剤を用いて吸入試験を実施した。この粒径範囲の選 択は、この範囲ではいくつかの最終製品に関して毒性が高くなる可能性があることを 示した TNO による複数の実験結果に基づいている(特に、Mommers らの「Toxicity of an impregnation spray is highly dependent on particle size(含浸スプレーの毒 性は粒子径に大きく依存する。)」、2003[8])。さらに、効果の可逆性を監視するため に新たな機能的及び形態学的パラメーターも紹介された。
OECD TG 403 は、以下に挙げる項目を追加して、改訂すべきである。:
・溶剤に含まれる活性成分の溶液(噴射剤を含まない組成)を試験しなければならな い。
・試験環境下で生成した粒子の MMAD の範囲は 0.7~1.5 µm、空気動力学的粒子サイズ の幾何学的標準偏差は 1.5~3.0 の範囲でなければならない。この基準を満たすた めに相応の努力をすべきであるが、達成できない場合には専門家の判断を得なけれ ばならない。
・溶剤に含まれる活性物質の溶液(噴射剤を含まない組成)は、20 mg/L/4時間(又
は達成可能な最大濃度)で致死性があってはならない。
・呼吸速度の変化は可逆的でなければならない。
・溶剤に含まれる活性物質の溶液(噴射剤を含まない組成)は、不可逆性の炎症反応 を引き起こしてはならない。
吸入試験では、毒性学的反応を最大にするために、物質を専用のエアロゾル化シス テムにより吸入可能又は肺に取り込み可能なエアロゾルに変える。さらに、この時の 試験では製品から噴射剤を除いて試験するが、これは化学成分の濃度が最終製品より も高くなっている。
適正な吸入試験の必須要件のひとつに、実験動物は少なくとも4時間はダイナミッ ク吸入チャンバー内にて定常状態濃度でばく露させる、とある。これを加圧スプレー 缶から放出されるガスで達成するのは困難である。OECD TG 403 改訂版の代替法とし て、Pauluhm[9]が報告した方法により、スプレー成分が吸入チャンバー内に断続的 に一定量で放出され、定常状態濃度で実験動物(できればラットが好ましい。)にば く露することが可能である。動物実験及び理論的考察(コンピューターシミュレーシ ョン)では、上記の方法によりスプレー缶成分の最新の急性吸入毒性を測定すること ができることが確認されている。この場合、吸入試験は、缶に実際含まれる成分、つ まり市販されている最終製品を用いて行う。化学成分濃度及び実際の製品における粒 子径の影響を試験することができる。しかしながら、この試験だけでは活性成分のヒ トへの健康に対する毒性を測定するには不十分である(各成分に固有な有害性の測定 も必要である。)。さらに、この方法は発表されているが、非常に多額の費用と時間が かかるため日常的には使用されていない。
結論として、上記の追加条件を含めた OECD TG 403 改正版に基づく吸入試験は、製 造した製品の固有の毒性を評価するには十分であると考えられるが、実際のヒトへの ばく露と同じような試験条件を作り出しているものではない。一方で、Pauluhn の方 法は、費用と時間はかかるが、より現実のばく露条件に近いものとなっている。
4.3 最終製品の粒度分布測定
最終製品の噴霧粒子の粒度分布は、製造、取扱い及び使用におけるその製品の性質 を反映するものであるため、把握しておかなければならない重要なパラメーターであ る。肺ばく露のレベルをできるだけ低く抑えるために、製造業者は新しい防水スプレ ーや既存の製品をリニューアルした防水スプレーを市場に出す前に製品の噴霧中の 粒度分布を測定すべきである。それにより、通常の使用状況や当然予測できる使用状 況における製品の安全性を確保することができるだろう。
粒度分布が粒子の個数により示される場合、その中央値は個数中央径(CMD)と呼 ばれる。しかしながら、粒度分布で最も一般的に使用されている尺度は MMAD であり、
現在の測定技術は主に質量に基づいている[10]。MMAD の測定には異なるいくつかの 分析方法を用いることもできる(それぞれの分析方法について詳細は付録3を参照)。
考慮すべき別の問題として、粒子のエージングが挙げられる。実際、スプレーの粒 度分布は静的なものではなく、エージングと呼ばれる作用により時間の経過により変 化し、これは主に溶剤の蒸発が原因である。したがって、明らかに直径が 10 µm を超 える一次スプレー液滴(缶から放出されノズルから直接生成されたもの。)が、最終