1.はじめに 1.1 活動の背景
日本の交通事故死者数は近年毎年減少傾向であったが、自動車乗車中の死亡者の減 少率に対し、歩行者など交通弱者死亡者数の減少率が低く、今や自動車乗車中より歩 行者の死亡者数のほうが多い、という状況になっている。 歩行者は自動車に比べ、対 象の大きさが小さいこと、親子連れや集団歩行など様々な形態があること、急な進路 変更や飛び出しなど動きが予測しにくいこと、等々があり、車載センサを用いた運転 支援に加えて、通信を利用した仕組みの検討が必要である。
1.2 活動の目的、検討項目
本WGでは、歩行者事故の分析に基づき、その対応策、特に通信を利用した運転支 援システムについて、備えるべき技術的要件や配慮すべき事項等について検討し、基 本設計書を策定した。 その成果として、メーカー各社が通信利用型運転支援システ ムを設計する際に参照すればASV推進検討会における検討結果がわかるように、支 援の考え方、システムの概念、システム定義、通信コンテンツ、システム設計時に留 意すべき事項等、基本設計に係る検討結果をできる限り織り込んだものである。 な お、技術の進歩等により、必要に応じて、適宜基本設計書を見直す。
なお、基本設計書は、今後登場するかもしれない新技術(位置精度の飛躍的向上な ど)を待つよりも、従来技術の延長の範囲という前提で、簡単な仕組みで早期の実用 化を目指すとともに、オリンピックも視野に入れ、「2020年実用化」を念頭としたも のとした。
2.検討の流れ
事故分析、既存の運転支援システムの限界の検討、歩行者事故対象シーンの定義、
通信を用いた検討例の収集などを行い、通信を用いたドライバーへの情報提供/注意 喚起システムの必要要件などを検討した。
しかしながらASV推進検討会で、複雑な仕組みではなく、そもそも歩行者リスク がある場所での車両の走行速度を下げるようなものを検討するように、というご指摘 を受け、対応システムのコンセプトを再検討して、基本設計書を策定した。
3.事故分析
3.1 事故分析について
歩行者を巻き込んだ事故の実態を明らかとするため、(公財)交通事故総合分析セ
ンター(ITARDA)の情報をもとに、事故データの整理を行った。
- 2 - 3.2 歩行者事故の特徴
3.2.1 交通事故全体における歩行者事故の近年の傾向
図3-1に示す通り、平成26年の全国の交通事故死者4,113人の内、歩行中の交通 事故死者数は1,498人で36.4%を占めて最も多く、平成20年に自動車乗車中の交通 事故死者数を抜いて以来、7年連続最多となっている。
図3-1 状態別死者数の推移(各年12月末)
図3-2に示す通り、歩行中の死者及び負傷者数を年齢層別にみると、いずれも高齢 者(死者:構成率71.0%、負傷者:同30.9%)が最も多く、負傷者については、子ど も(同 16.0%)が次に多く、両者で半数近く(同 46.9%)を占めている。一方、死者で は、高齢者(同71.0%)が7割以上を占める。
図3-2 歩行中の年齢層別死者及び負傷者数(構成率) (平成26年中)
(出典: 警察庁発行「平成26年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について」)
(出典:警察庁発行「平成 26 年中の交通事故の発生状況」)
- 3 - 3.2.2 致死率
表 3-1 によれば、全交通事故における致死率(=死者数÷死傷者数×100)は 0.6% 程度に対して、図 3-3 の歩行中の交通事故における致死率は、2.6%程度と非常に高 い。
表3-1 状態別死傷者数の推移 (各年12月末)
図3-3 事故類型別死亡事故率 (平成26年中)
(出典: 警察庁発行「平成26年中の交通事故の発生状況」)
- 4 - 3.2.3 発生場所
歩行者事故の発生場所を道路形状で層別すると、以下に示すシナリオに分類できる。
(1) シナリオ1:交差点直進(信号あり) 図3-4参照
① 歩行者が信号を無視して横断を開始した。
② 歩行者横断中、信号が赤に変わり、車両が発進した。
③ 車両が交差点を通過中、信号が赤に変わり、歩行者が横断を開始した。
④ 車両が信号を無視した。
図3-4 シナリオ1
(2)シナリオ2:交差点右折(信号あり) 図3-5参照
① 対向車に気を取られ、歩行者の発見が遅れた
② 反対車線の渋滞により、歩行者の発見が遅れた
図3-5 シナリオ2
- 5 -
(3)シナリオ 3:交差点直進(信号なし) 図3-6参照
① 停車車両の陰に存在する、横断歩行者の発見が遅れた
② 漫然運転や脇見により、歩行者の発見が遅れた
図3-6 シナリオ3
(4) シナリオ4: 交差点右折(信号なし) 図3-7参照
① 対向車に気を取られ、歩行者の発見が遅れた
② 交差点左折車両の陰に存在する、横断歩行者の発見が遅れた
③ 反対車線の渋滞により、歩行者の発見が遅れた
図3-7 シナリオ4
- 6 -
(5)シナリオ5: 交差点横断歩道なし 図3-8参照
① 見通しが悪い道路環境(塀などの死角が存在するなど)
② 渋滞車両の陰に存在する、横断歩行者の発見が遅れた
③ 別の歩行者に気を取られ、歩行者の発見が遅れた
図3-8 シナリオ5
(6)シナリオ6: 交差点横断歩道なし 図3-9参照
①見通しが悪い道路環境(塀などの死角が存在するなど)
図3-9 シナリオ6
- 7 -
(7)シナリオ7: 単路横断 図3-10参照
①駐停車車両や走行車両の陰に存在する、横断歩行者
②漫然運転や脇見により、歩行者の発見が遅れた
③歩行者の飛び出し
図3-10 シナリオ7
(8)シナリオ8: 単路正面・背面衝突 図3-11参照
①歩行者の飛び出し
②歩行者のふらつき
③漫然運転や脇見により、歩行者の発見が遅れた
④駐停車車両もしくは通過車両の陰に存在する、歩行者
図3-11 シナリオ8
- 8 -
歩行者事故の発生場所を道路形状および歩行者状態で整理すると、表 3-2 のよう になる。
表3-2 発生場所別の歩行者事故件数
一方、歩行者事故の発生場所を車道幅員別で見てみると、日常よく利用する「生活 道路」と呼ばれる自宅周辺の道幅の比較的狭い道路における交通死亡事故件数の推移 は、全死亡事故件数の減少傾向と比較して緩やかな減少となっており、全死亡事故件 数に占める割合は増加傾向にある。また、全交通事故件数は近年減少傾向である一方 で、生活道路における交通事故件数は横ばいで推移しており、全交通事故件数に占め る割合が増加する傾向にある(図3-12参照)。
(出典: 内閣府 交通基本計画 8次 資料)
図3-12 生活道路における死亡事故件数の推移(平成13~20年)
道路形状 歩行者状態 シナリオ 件数 比率
交差点
信号有 横断歩道横断中 1,2
昼夜計 12,993 20%
昼 7,114 55%
夜 5,879 45%
信号無
横断歩道横断中 3,4
昼夜計 4,162 6%
昼 2,549 61%
夜 1,613 39%
横断歩道以外横断中 5,6
昼夜計 5,750 9%
昼 3,534 61%
夜 2,216 39%
単路
横断中 7
昼夜計 7,753 12%
昼 4,884 63%
夜 2,869 37%
対面・背面歩行中 8
昼夜計 7,070 11%
昼 4,017 57%
夜 3,053 43%
合計 昼夜計 37,728 58%
平成23年度 事故統計 総数
昼夜総計 65,173 100%
昼計 40,474 62%
夜計 24,699 38%
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また、歩行者の交通事故者数、死傷者数について、自宅から500m以下の道路にお ける死者の占める割合は高い水準のまま横ばいで推移しており、また、死傷者の占め る割合は、近年減少しつつあるものの依然として高い水準にある(図3-13参照)。
図3-13 生活圏の歩行者・自転車乗車中の交通事故死者数の推移
さらに、道路種類別の死傷事故率で見ると、生活道路は幹線道路の約2.3倍、自 動車専用道路の約18倍と高い水準にある(図3-14参照)。
(出展:内閣府 資料 2011)
図3-14 道路種別による死傷事故率(2007年度)
2009 2008 2006
2005 2007
100%
75
50
25
不明
2km以上 1~2km 500m~1km 0~500m以内
400 800 1,200 1,600 歩行中の交通事故死者
2009 2008 2006
2005 2007
100%
75
50
25%
200 300 400 500
100 自転車乗用中の交通事故死者
(出展:内閣府 資料 2011)
- 10 -
3.2.4 歩行者側の行動類型、法令違反の状況
四輪車対歩行者事故における、歩行者側の行動類型、法令違反の特徴について調査 した結果を以下に記す。
まず歩行者の年齢層に着目すると、生活道路上の四輪車対歩行者事故においては、
12歳以下の子どもの占める割合が高く、全体の27%を占める(図3-15参照)。
図3-15 歩行者年齢層別死傷事故件数
(生活道路上の四輪車対歩行者事故 平成19~23年合計)
図3-16に示す通り、歩行者が12歳以下の子どもの場合は、横断歩道外横断中が半 数を占める。
図3-16 事故類型別死傷事故件数の割合
(四輪車対歩行者(12 歳以下)の事故 平成19~23年合計)
(出典: 交通事故総合分析センター発行
「ITARDA INFORMATION No.98」)
(出典: 交通事故総合分析センター発行
「ITARDA INFORMATION No.98」)
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四輪車対歩行者事故の中で、生活道路で発生し、かつ歩行者が12歳以下の子ども の場合、歩行者側の法令違反の約6割は飛び出しが占める(図3-17参照)。
図3-17 歩行者側法令違反別死傷事故件数の割合
(四輪車対歩行者(12歳以下)の事故 平成19~23年合計)
3.2.5 四輪車側の行動類型、法令違反の状況
四輪車側の法令違反は安全不確認が4割を占め、単路においては安全速度違反や 動静不注視、交差点においては徐行場所違反や交差点安全進行義務違反が多い(図 3-18参照)。
図3-18 四輪車側法令違反別の死傷事故の割合
(横断歩道外横断中の四輪車対歩行者(12歳以下)の事故 平成19~23年)
(出典: 交通事故総合分析センター発行
「ITARDA INFORMATION No.98」)
(出典: 交通事故総合分析センター発行
「ITARDA INFORMATION No.98」)
- 12 - 4.歩行者事故の低減に向けた社会的取り組み動向 4.1 アセスメント動向
歩行者事故低減に向け、日本のJNCAPと欧州のEuro NCAPにおいて、自律シ ステムである歩行者対応AEBS(Advanced Emergency Braking System:衝突被害 軽減ブレーキ)の性能を定量的に評価するためのプロトコルが検討されている。図
4-1にJNCAPのロードマップ、図4-2にEuro NCAPのロードマップを示す。
図4-1 JNCAPロードマップ(http://www.mlit.go.jp/common/001003022.pdf)
図4-2 Euro NCAPロードマップ
(http://www.euroncap.com/files/Euro-NCAP-2020-Roadmap---June-2014-2---0-
e11c0984-af94-420e-9d63-63edc8538745---0-ae9462f5-a212-45f8-ad79-9f462cebf930.pdf
4.2 技術開発動向
(1)自律システム:歩行者対応AEBS
車載センサを用いて、緊急時に自動ブレーキを作動させて歩行者との衝突被害の 軽減、もしくは衝突を回避する技術が開発されている。ただし、作動可能速度に制 限があり、システムが作動しない場合もある。
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(2)路車間通信利用システム
運転者の不注意や見通し不良が原因で生じる不適切な走行による、横断歩道上の 歩行者との事故の低減を目的として開発されている。
歩行者を検知し、車両の状態に基づいて路側機から運転者へ情報提供を行う(図 4-3参照) 。
図4-3 横断歩道歩行者衝突防止支援イメージ(ASV3推進計画報告書より)
(3)歩車間通信利用システム
車載センサ(カメラ、レーダなど)では検知困難な事故に対応するため、歩行者と車 両で通信を行い、歩行者と車両の片方もしくは双方に情報提供を行い、歩行者との 出会い頭事故の衝突被害軽減、もしくは衝突回避を目的とした開発が進められてい る。例として、トヨタ自動車(株)と日産自動車(株)で開発している歩車間通信利用 システムについて以下に記載する。
(a)トヨタ自動車(株)が開発中の700MHz歩行者端末を用いた歩車間通信利用の 注意喚起システム
歩行者と車両が相互に通信を実施し、歩行者が自車両周辺に存在する場合、歩行 者と車両の双方に情報提供、注意喚起を行う。2013年のITS世界会議にてデモを 実施した。 (図4-4参照)
図4-4 歩行者端末による注意喚起システム