5.4.1 1 自由度系
上では、ラグランジアンが与えられていて、ラグランジュの運動方程式が成 り立つならば、即ち式(5.42)を仮定すれば、
∂H
∂q =−p˙ (5.43)
が成り立つことを示した。ここで、ラグランジアンのことは忘れて、ハミルトニ
アンH(q, p)が基本的な存在であると考えてみよう。そうすると、運動方程式は、
1自由度系の正準方程式
˙
q= ∂H(q, p)
∂p (5.44)
˙
p=−∂H(q, p)
∂q (5.45)
となる。これをハミルトン形式の運動方程式、あるいは正準方程式という。
ラグランジアンL(q,q)˙ が既知でハミルトニアンH(q, p)が未知の場合は、ル ジャンドル変換
H(q, p) =pq(q, p)˙ −L(q,q(q, p))˙ (5.46) によってハミルトニアンを構成することができる。(逆にHからLをルジャンド ル変換で求めることもできる。)ここで、pは、qに共役な正準運動量、つまり
p= ∂L(q,q)˙
∂q˙
数値計算のための解析力学 84
5.4正準方程式 である。
5.4.2 多自由度系
多自由度系の正準方程式は1次元系の自然な拡張である。N自由度の系に対 しては、N個の正準座標q1,· · · , qN とN個の正準運動量p1,· · ·, pN がある。ハ ミルトニアンはこの2N 個の正準変数の関数H(q1, q2, . . . , qN, p1, p2, . . . , pN)で あり、ラグランジアンL(q1,· · ·, qN,q˙1,· · · ,q˙N)からルジャンドル変換
N自由度系のハミルトニアン
H(q1,· · ·, qN, p1,· · · , pN) =
∑N i=1
piq˙i−L(q1,· · · , qN,q˙1,· · · ,q˙N) (5.47)
で得られる。
系の時間発展を記述する正準方程式は N自由度系の正準方程式
˙ qi= ∂H
∂pi (1≤i≤N) (5.48)
˙
pi=−∂H
∂qi
(1≤i≤N) (5.49)
である。ここでpiは、qiに共役な正準運動量
pi = ∂L
∂qi (5.50)
である。
数値計算のための解析力学 85
第5 章 ハミルトニアンと正準方程式
5.4.3 相空間
q p
ラグランジュ形式の力学では、ラグランジアンL(q1, q2, . . . , qN,q˙1,q˙2, . . . ,q˙N) が基本であったのに対し、ハミルトン形式の力学ではハミルトニアン
H(q1, q2, . . . , qN, p1, p2, . . . , pN) (5.51)
が基本である。ハミルトニアンは合計2N個の正準変数(q1(t), q2(t), . . . , qN(t), p1(t), p2(t), . . . , pN(t)) の関数である。その系の情報は全てハミルトニアンに書き込まれているといえる。
N自由度の系の「状態」はある時刻tにおける一般化座標(q1(t), q2(t), . . . , qN(t) の値だけでは指定できない。( ˙q1(t),q˙2(t), . . . ,q˙N(t)の情報、つまりその時の速度も 必要である。ハミルトン力学では系の状態を、正準変数(q1, q2, . . . , qN, p1, p2, . . . , pN) を座標として構成される2N次元の空間の一点で指定する。これを相空間(また は位相空間)という。相空間の位置と系の「状態」は一対一に対応する。
相空間中の系の状態(点)がどう動くかを決めるのがハミルトンの正準方程
式(5.48), (5.49)である。二本の軌跡(解曲線)が交わることはない。正準方程
式の初期条件は、2N個の正準変数(q1(t), q2(t), . . . , qN(t), p1(t), p2(t), . . . , pN(t)) の値で指定される。異なる初期条件から出発した解曲線が交わることはないので、
相空間は初期条件を異にする無数の解曲線でびっしりと埋め尽くされている。
数値計算のための解析力学 86
5.4正準方程式
5.4.4 簡単な例 : 調和振動子
q q=0
バネ(定数k)と質点(質量m)の1次元系を考えよう。自然長の位置をq= 0 として正準座標qをとると、この系のラグランジアンLは
L(q,q) =˙ K−U = m 2q˙2−k
2q2 である。正準運動量pは
p=∂L
∂q˙ =mq˙
だから、この系のハミルトニアンは、ルジャンドル変換より H(q, p) =pq˙−L= p2
m − (p2
2m−k 2q2
)
= p2 2m+k
2q2 ある。
改めて書くと、この系のハミルトニアンは、
H(q, p) = p2 2m+k
2q2 (5.52)
で与えられる。正準方程式をたててみよう。
˙
q = ∂H
∂p = p
m (5.53)
˙
p = −∂H
∂q =−kq (5.54)
正準方程式(5.53), (5.54)は、左辺に基本変数の時間微分があり、右辺には時 間微分が含まれていない。つまり、式(5.3)と(5.4)のような形に自動的になって いる。したがって、このまま数値積分プログラムに移すことができるので大変便 利である。(この場合は解析的に解けるが。)
このハミルトニアン(5.52)をqとq˙で書いてみると、
H =m 2q˙2+k
2q2=K+U (5.55)
であることがわかる。つまりハミルトニアンは系の全エネルギーの関数形に等 しい。
数値計算のための解析力学 87
第5 章 ハミルトニアンと正準方程式