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第 4 章 留守児童経験がもたらした精神的な影響

4.3 留守児童経験の影響

4.3.3 次の世代を留守児童にしない

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QQさんは、問題や困難が生じた時、自分を助ける人がいないことを意識したため、自力 で問題を解決せざるをえないと感じていた。QQさんは親の出稼ぎにより、自分で何でもや ることの重要性を子どもの時期から意識していたため独立意識やその能力が強くなった。

BBさんの場合、親と別れて暮らしていため、親は自分のことをよく知らなかった。親は自 分を助けたくてもどうやって助ければ良いかわからないため、BBさんは親に頼るより、自 分に頼ったほうが良いという考えから独立意識が生まれたようである。

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FさんとBBさんは、子どもに自分と同じ経験をさせたくないので、子どもと一緒に暮ら したいと述べた。

「私の親に長沙に来てもらって、私たちと一緒に暮らして、子どもの世話をし てほしいです。そうすれば、私は毎日家に帰ったあと、子どもの面倒を見られ ます。子どもは小さいので、性格の形成とか、生活習慣とか、私から教育やし つけを行う必要があると思います。私自身の経験と関係があるかもしれません。

私は親の愛情を感じたことがないから、自分の子どもには同じ経験をさせたく ありません」89

「将来は家に近い長沙へ行きたいです。給料は今いる広州より低いけど、生活 費も同じように安いし、ストレスがそんなに大きくありません。私は家庭を重 視したいので、自分の子どもには私のようになってほしくありません。親が子 どものそばにいないと、子どもにとってはよくないと思います。私の親の出稼 ぎが私に与えた影響はそんなに深刻ではなかったけど、私が経験したことを自 分の子どもには経験させたくないです」90

また、TQさんとJLさんはまだ結婚していないが、留守児童時代の経験が今も辛い記憶 として強く残っているため、子どもと一緒に暮らしたい気持ちが強い。

「(子どもができたら)自分と暮らしたほうがいいと思います。現在、私はお父 さんとの間にわだかまりが深く存在していて、子どもと私の関係をお父さんと 私のような関係にはしたくないからです。お父さんは現在、私の精神的な側面 を重視するべきだという意識がありますけど、私は彼と何も話したくないです。

だから、子どもとのコミュニケーションが重要だと思います。私自身の経験で、

親は子どもの生活を気にするだけではなくて、子どもの心理的な変化に気づく ことがもっと重要だと思います」91

「もし子どもがいれば、農村に残したくないです。自分は経験したことがあり ますが、農村に残したら、子どもを気にかける人がいません。また、親の愛情 が欠如するから、子どもの性格に影響を与えるかもしれません。私は気性が激 しいので、もし子どもが何か間違いを犯したら、子どもとうまく話し合えない

89Fさんへのインタビュー、2016年8月10日、家に近い喫茶店

90BBさんへのインタビュー、2016年8月21日、家に近いマクドナルド

91JLさんへのインタビュー、2016年8月15日、ファストフードレストランにて

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と思うんです。そうすると、子どもは反抗的な気持ちが強くなるかもしれませ ん。時々、留守児童だった経験を思い返すと、もしあの時親や祖父母が私と頻 繁に話をしてくれていたら、祖父母や親のことを受け入れられていたと思いま す」92

Cさん、FさんとBBさんは現在子どもがいるため、子どもの将来の生活と教育という立 場から考えている。留守児童だった頃に経験したことは自分にとって辛いと感じさせるも のであった。そのため、子どもに自分と同じような経験をさせたくないと考えている。子 どもには幸せに成長してほしいので、子どもと一緒に暮らしたい気持ちが強い。また、JL さんとTQさんは、子どもの頃、親や祖父母とのコミュニケーション不足によって引き起こ された影響は今まで続いているため、問題の深刻さを十分に感じている。そのため、子ど もと暮らしたい気持ちは子どもがいる3人と同じように強い。

ところで、インタビューした元留守児童が、自分たちの子どもを留守児童にはしたくな いと考えていることがわかったが、その中で、「親を長沙に呼んで」とか「将来は長沙で」

という発言があった。これはすなわち、農村で親子が一緒に暮らすということではなく、

子どもを含めて三世代で地方都市に暮らすことで留守児童を「再生産」しないという考え を意味している。そのためには戸籍制度との関係が重要である。国務院は2016年10月に

「推动1亿非户籍人口在城市落户方案(1 億の農村戸籍人口の都市定住を推進する政策)」 を発表し、その第4項93で農村戸籍を持つ人たちが都市に定住する条件を緩和する方針を打 ち出した。これにより、農村人口の長期間にわたる都市での居住と就業が促進され、農村 戸籍を持つ人たちのうち、主に大学卒業者、技術工、専門学校卒業者、留学経験者は都市 で定住することが可能になった。

インタビューしたCさん、JさんとBBさんは大学卒業である。Fさんは高校を中途退学 したが、出稼ぎ中に、独学で会計資格94を取得した。YYさんは現在電気技師の仕事に従事 しているため、都市に定住することが可能になった。そのため、農村戸籍を持つCさん、J さん、BBさん、Fさん、YYさんは将来都市で子どもと一緒に暮らしたいと望めば、現在 戸籍制度上の障害がないためその想いは実現する。一方で、JL さん、TQさんと QQさん は、大学を卒業しておらず、資格などの専門知識や専門学校で習得した技術、企業や工場 での経験を持っていないため、将来子どもと一緒に都市で暮らしたいと思っているものの、

現段階の政策上はその想いは実現しない。

本節の始めに述べた「留守児童が次の世代の留守児童を生む悪循環」という懸念につい

92TQさんへのインタビュー、2016年8月13日、喫茶店にて

93国務院「推动1亿非户籍人口在城市落户方案(1億の農村戸籍人口の都市定住を推進する 政策)』、国務院ホームページ

(http://www.gov.cn/zhengce/content/2016-10/11/content_5117442.htm 閲覧日2016年 12月27日)

94会計資格は、会計に関する仕事に従事するために必要な資格である(李・王 2012)。

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ては、元留守児童が子どもと一緒に暮らすことを望んでいることから少なくとも意識の点 では明るい展望が見える。また、国務院の政策変更に見られるように、都市と農村の二元 戸籍制度は一段と緩和されることになり、農村戸籍の元留守児童たちが、そのまま都市で 家族と一緒に暮らせる道が制度的に開け始めた。その一方で、農村戸籍を持ち、子どもと 一緒に都市で暮らしたいと考えている人たちは、都市での定住が認められないため、留守 児童の「再生産」の懸念は依然として残っている。さらに、元留守児童が子どもと一緒に 都市に定住できたとしても、それは農村に住む子どもの減少を意味し、農業の担い手が不 足し、農村が更に疲弊する悪影響をもたらしかねない。留守児童数を減らすという意味で は一定の効果が期待できるが、中国農村の根本的な問題の解決にはつながらず、農民工の 都市定住による新たな問題95につながる懸念もある。