第 4 章 ダイヤモンド検出器の特性評価
4.5 産総研製高純度半絶縁性ダイヤモンドの評価
4.5.5 欠陥評価
ここでは、各欠陥評価の結果について述べる。本試料に対してはAPQTSと酸素イオン、
炭素イオンを用いたHIQTSを行った。図4.25はAPQTSによって得られたスペクトルで ある。APQTSは50 Vのバイアス電圧を印加し、120~400Kの温度範囲で行ったが、300K 以降からリーク電流の影響を受けだしている。図からわかるように 200K 付近にピークを 検出した。このピークに対しRate Window法での解析を行った。図4.26はこのピークの アレニウスプロットの結果である。アレニウスプロットから𝐸𝑎= 0.436 (±0.038) 𝑒𝑉の活性 化エネルギーを得た。
図4.25 APQTSスペクトル
図4.26 APQTSのアレニウスプロット
𝐸
𝑎= 0.436 (±0.038) 𝑒𝑉
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続いてHIQTSの結果について述べる。10.5 MeVの酸素イオンを用いて行ったHIQTS のスペクトルを図4.27に示す。HIQTSは50 Vのバイアス電圧を印加し、およそ180~280K の温度範囲で行った。スペクトルで観測できるように 1 つのピークが現れた。このピーク に対しRate Window 法による解析を行い、𝐸𝑎= 0.269 (±0.021) 𝑒𝑉の活性化エネルギーを 得た。アレニウスプロットを図4.28に示す。
図4.28 図4.27から得たアレニウスプロット
𝐸
𝑎= 0.269 (±0.021) 𝑒𝑉
図4.27 10.5 MeV-OのHIQTSスペクトル
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図4.29 9 MeV-CのHIQTSスペク トル
次に、9 MeVの炭素イオンを用いて行ったHIQTSのスペクトルを図4.29に示す。ここ でも50 Vのバイアス電圧を印加し、およそ180~300Kの温度範囲で行った。スペクトルで 観測できるように1つのピークが現れた。このピークに対しRate Window法による解析を 行い、𝐸𝑎 = 0.370 (±0.016) 𝑒𝑉の活性化エネルギーを得た。アレニウスプロットを図4.30に 示す。
図4.30 図4.29から得たアレニウスプ ロット
𝐸
𝑎= 0.370 (±0.016) 𝑒𝑉
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本試料での測定においてはAPQTSとHIQTSの両方でピークを検出することができた。
全ての測定でピークが現れた要因の1つとして、D_SC_CVD_AIST_002と比較して空乏層 幅が広かったことが考えられる。室温で12.0 μmの空乏層幅があることから、酸素イオン と炭素イオンに対しては十分な感受領域があるといえる。また、アルファ粒子に対しては十 分とはいえないが、空乏層幅はD_SC_CVD_AIST_002の約10倍であるため、誘起される 電荷量は遥かに多いと考えられる。正確な論議のためには、ピークが現れた温度でCV特性 から空乏層幅を見積もるべきだが、各測定を行うなかで試料の電極の剥がれなどが生じ、同 条件でのCV温度特性を評価することができなかった。
室温で測定した電荷収集効率に低下が見られたことから欠陥の存在の可能性が考えられ た。しかし、空乏層幅が十分でないことが低下も一因であると推測できる。
本試料に対しても DLTS による測定を試みたが、正常な過渡容量信号を得ることができ なかった。試料のドーピング濃度が低いことが原因であると考えられる。
それぞれの欠陥評価によって得られた結果を表4.2にまとめた。得られた活性化エネルギ ーについて考察する。表4.3に過去に報告されている活性化エネルギーと欠陥準位の由来と なる不純物をまとめた。
まず、APQTS では𝐸𝑎 = 0.436 (±0.038) 𝑒𝑉の活性化エネルギーが得られたが表 4.3 と比 較するとリン由来の活性化エネルギーの値と近いことがわかる。そのため、APQTSで検出 した欠陥準位はリン由来ではないかと考えられる。しかし、図4.26のアレニウスプロット ではプロットのばらつきがあり、解析誤差が少し大きくなっていること、表4.3でリンとボ ロン由来の欠陥が持つ活性化エネルギーが近いことから、リン由来だと断定することは難 しい。
続いてHIQTSによって得られた結果について考察する。まず10.5 MeVの酸素イオンを 用いた測定では𝐸𝑎= 0.269 (±0.021) 𝑒𝑉の活性化エネルギーが得られた。図4.27のスペクト ルではピークが重なっているように見えるものがある。それによって多少の影響が結果に 出ることも考えられるが、得られたエネルギーはボロン由来のものに最も近いと考えられ る。一方、9 MeVの炭素イオンを用いた測定では𝐸𝑎= 0.370 (±0.016) 𝑒𝑉の活性化エネルギ ーが得られた。炭素イオンを用いた測定で得られた結果では、図4.29のように単一の整っ たピークを確認できる。活性化エネルギーの解析誤差も比較的小さく、ボロン由来の活性化 エネルギーに近い値になっていることから、ボロン由来の欠陥準位ではないかと予測され る。
測定方法 活性化エネルギー 𝑬𝒂 [eV]
APQTS 0.436 (±0.038)
HIQTS (10.5 MeV - O) 0.269 (±0.021)
HIQTS (9 MeV - C) 0.370 (±0.016)
表4.2 QTSで得られた活性化エネルギー
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不純物 活性化エネルギー 𝑬𝒂
Boron 0.31 -0.36 eV [29]
~0.37 eV [30]
0.365 eV [31]
Phosphorus 0.43 eV [32]
0.46 eV [33]
0.57 eV [34]
Nitrogen 1.7 eV [35]
本試料においては、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)による分析を材料科学技 術振興財団に依頼し行った。SIMSは固体表面に一次イオンを照射することによってスパッ タアウトされた二次イオンを質量分析し、試料の構成成分の定量を行う手法である[36]。今 回、SIMSの測定には本試料と同様の条件で作製された、異なる試料を用いた。また、本測 定ではダイヤモンド中のボロン、リン、窒素の深さ方向の濃度分布を分析した。SIMSで得 られた結果を図4.31に示す。図からわかるように、窒素濃度、リン濃度はバックグラウン ドレベルであるのに対し、ボロン濃度がバックグラウンドレベルを超えて検出されている ことがわかる。また、CV 測定によって算出されたドーピング濃度の値は𝑁𝐴≈ 4.82 × 1014 [𝑐𝑚−3]であったことから、おおよそ見合ったものになっているといえる。
本試料は産総研によって、高純度半絶縁性ダイヤモンドとして作製されたものである。し かし、IV特性がp型ショットキーバリアダイオードの特性を持っている点や、SIMSでボ ロン濃度がバックグラウンドレベルを超えて検出されていることから、本試料は作製過程 で意図せずにボロンがドープされてしまったのではないかと考えられる。以上の結果を考 慮すると、APQTSとHIQTSで検出した欠陥準位はボロン由来のものであると結論できる。
表4.3 活性化エネルギーとその由来となる不純物
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図4.31 SIMSによるダイヤモンド中のボロン、リン、窒素の深さ方向の濃度分布の分析結果
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