標準試料/標準物質は、一つあるいは複数のよく確定された特性値を有する形を持った物であり、計測機器を校正するため に用いられる。標準試料/標準物質は、計測において非常に重要な役割を担う。その理由は、異なった計測方法で得られたデ ータ同士、あるいは設置場所の違う(内部のあるいは外部の)同種の装置によって得られたデータ同士を相互比較したり、モ デルと実験結果との照合を行う際、その「物差し」となるからである。また、標準試料/標準物質は、装置の試験運転やベンチマ ーキングに非常に有用である。
標準試料/標準物質には2つの種類の基本的なものがある。
1) 一つ目は、良く校正された物体であり、試験の対象となる計測手法の基準を与えることのできる標準試料/標準物質であ る。
2) もう一つは、上記と同様に重要なものであるが、試験の対象となる機器の正確さを判定することのできる標準試料/標準
物質である。最も適切と考えられる標準試料/標準物質は生産プロセスから出てくる製品それ自体である。試験対象の計測 機器(TuT: Tool under Test)は、与えられた製品の特徴、例えばライン幅を正確に測定できるように設計されている。製 品には、計測の正確さに影響を与えかねない微妙だが重要なプロセス変化が含まれている。計測担当者は、TuT での計測が 困難である重要なプロセスばらつきが存在するかもしれないことを理解し、それらのばらつきを検出できるように適切な評価対象 物を選んだり組み込んだりする必要があることを理解しておく責任がある。その上で、これらの評価対象物は適切に検定され文 書化された標準計測システムを用いて正確に計測されなければならない。
一次標準試料/標準物質は複数の作製元から種々な形態や等級の物が入手可能である。このような標準試料は重要か つ便利であるが、適用範囲が限られていることが多い。というのは、使用者側の生産プロセスと異なる部分が多く、適切なプロセ スばらつきが含まれていないからである。呼称は作製元によって色々であり、認証標準試料/標準物質(certified reference material, CRM)、コンセンサス標準試料/標準物質(consensus reference material)、NISTトレー サブル標準試料/標準物質(NTRM®)、或いはスタンダード標準試料/標準物質(standard reference material,
SRM® 1)等がある。米国標準技術研究所(NIST)は、半導体産業における計測科学の国家的な権威のある機関の
1 NTRM® and SRM® acronyms are registered trademarks of NIST.
一つとして、これまで国際的に認められてきた。民間の標準試料/標準物質の供給業者は、校正用に役に立つと思われる物 質をNISTにおけるNTRMを開発するための認証システムに提出することができる。標準試料/標準物質の生産者は、NISTの 認証システムの下で生産することによって、NISTによって確認された一連の物質に対してNTRMのトレードマークを付けることが できる 2。
(訳者注:ISO の VIM(国際計量計測用語集)には、標準物質(RM)と認証標準物質(CRM)が定義されている。
RM の定義は、"機器の校正、測定法の評価、または物質の値付けに用いるために、単一または複数の特性値が十分に均一 で良く確定された物質または材料" 、CRM の定義は、"特性値の表現に用いられている単位の正確な現示へのトレーサビリテ ィが確立され、かつ表記された信頼の水準での不確かさが各認証値に付されるという手続きによって、その一つまたは複数の特 性値が認証された認証書付きの標準物質" とされている。;本ロードマップでは、 NIST(米国標準技術研究所、米国の国 家計量機関)の用法が記載されている。NISTのRMに適合しており、CRMに適合している場合も有る。NISTのSRMは、
ISOのCRMに適合している。)
もう一つの取組みは、ASTM インターナショナルのような権威ある標準推進組識の管理下で、複数の分析機関の試験結果を 用いて、標準試料/標準物質の計測認証を行うことである。複数の国の国家計量機関(NMI)が、協議に値する標準を開 発し維持している。また、NIST を含む多くの先進的 NMI では、それぞれの国の計量標準を互いに相互承認できるように、ま た近い将来の重複開発を避けるために綿密な比較を通して同等性を保つための努力をしている 3。
(訳者注:グローバル化した社会において、多国間に存在する通商における技術的課題を包括的に解決する仕組みとして、
国際度量衡委員会の下に「計量標準の国際相互承認(Mutual Recognition)」という制度が提案された。これは基幹 比較(Key Comparison)に基づいて各国の国家計量機関(NMI)の計量の技術能力を審査し、これに基づいて他国 の計量のトレーサビリティを承認するというものである。一部であるが、半導体関連の計測技術においても基幹比較がすでに実 施され、内容はウエブで公開されている。この制度は2004年より運用されている。)
一次標準試料/標準物質やその計測認証に際し、以下のような技術的要件がある:
• 標準試料/標準物質は、使用しても変化・変質せず、安定した特性値を保持できること;場所的/時間的な特性値の 変動は、所望の校正の不確かさより十分に小さくなければならない。
• 標準試料/標準物質を検定し認証するためには、規格化されたか、あるいは、詳細に文書化された手順に基づいて実施 されなければならない。現在、満足な測定方法・手順が決められていない計測分野もある。基本的な測定方法・手順が 確立されていなければ、標準試料/標準物質を作ることはできない。
• 標準試料/標準物質を用いた現場での最終的な測定の不確かさは、標準試料/標準物質自身の認証値の不確かさと 標準試料/標準物質を未知試料と比較した際の不確かさを含めたものである。このため、標準試料/標準物質の不確か さは最終的に必要な不確かさよりも小さくなくてはならない。目安として、半導体製造プロセスの評価・制御に用いられる 装置を校正する場合、校正用標準試料/標準物質の認証値の不確かさは、生産プロセスばらつきの 1/4 より小さくなけ ればならない。
2 Use of the NTRM mark on a subsequent series of artifacts, even of the same type, requires additional verification testing by NIST.
• モデリングの入力データとして用いられるドーパントプロファイルのように、正確な測定が要求される場合には、標準試料/標 準物質の認証値の正確さ(バイアスとばらつきの双方を含めた)は、要求されている最終的な正確さの 1/4 より良くな ければならない。
測定に携わるプロセスエンジニアには、標準試料/標準物質の取扱や取得結果の判断に間違いが生じ無いように、充分な教 育・訓練を積ませなければならない。
11. 3D ナノ構造計測の必要性と課題
パターンの微細化と先端デバイスの3D構造複雑化が同時に進行していることが、半導体計測に携わる人達技術の分野に 困難な課題を課している。事実、チャネル領域の静電気学的制御(訳者注:閾電圧とチャネルの電気的制御)を より上手 く行うために、比較的平坦な構造のデバイスを FIN-FET、tri-gate、gate-all-around あるいは stacked
all-around-strucures のような より形態の複雑なデバイスに置き換えるだけでなく、完全空乏型(FDSOI)デバイスを使用することにな
った。例えば、3D 構造パラメータの評価は、側壁角、パターン上面のコーナーラウンディングやパターン底部のフッティング(裾引 き)、パターン側面のエッジラフネス、リセスおよびアンダーカットを含む従来の CD 以上に多くのパラメータの測定を必要とする。
現時点では、水平及び垂直面の膜厚、組成、ドーパント分布、歪、及びデバイス構造内の他のパラメータや材料特性と同じく 全てのパラメータを取得しなければならない。将来の 3D メモリデバイスもまた 高アスペクト比(HAR)の溝(トレンチ)で区 切られた複数のゲート層構造やゲート/誘電体を 互い違いに少なくとも 4 回、可能ならば 256回積み重ねた積層膜に貫通 する孔(ホール)を持つことになろう。
インラインの非破壊計測手法がパターン底部近くの像の形成あるいは CD・深さ・断面形状・汚染の測定に必要とされる感 度や分解能を持っていない点と同じく、HARパターンを計測する適切な計測器の欠けていることが現時点において大きく要求と 乖離している点である。さらに、これらの問題は 数個の原子からの極微小な信号しか得られないような小さなデバイス体積、お よび試料の復元力(訳者注:照射損傷などに対する耐性?)に限りがあること、注入原子の分布の乱雑さ、ナノメータスケ ールでの歪場の非均一さ、量子閉じ込め効果などによって 一層面倒になる。かくしてサブナノメータおよび多分 原子の大きさ程 度の分解能での 3D 構造解析には 表面および界面効果によって制御されるデバイスの物理を理解することがますます必要に なり、このような解析は量産用でないとしてもプロセス開発用とし決定的に重要なものとなるであろう。
現在、先端デバイスは主にオフラインで、ナノビーム電子回折や暗視野ホログラフィー・電子エネルギ―損失分光法などの透 過型電子顕微鏡(TEM)に基づく技術を用い、ナノメートルレベルで評価される。
しかし、これらの技術を使って得られた 2 次元(2D)断面情報(断面投影図)だけでは完全とは言えない、というのは保存 された深さ方向の情報という前提データを最早使えないからである。2次元情報を3次元デバイスのパラメータに拡張するのは 困難である。かくして、トモグラフィー技術のようないくつかの新しいアプローチを用意する必要がある。上記の全ての技術は、試 料前処理と解析の成功率の課題も併せ持っている。これはオフライン解析数の増加、オフラインラボでの解析作業と製造ライン 内での
計測データとの関連付け、またその負荷バランス調整、といった課題とも関係する。
次のセクションで3Dトモグラフィー技術のポテンシャルに加え、ナノ計測のための最先端の有望技術の概要について それら技 術の 3D トモグラフィーへの可能性とともに述べる。また量産時のメトロロジーコントロールの為に、ダイやウエーハレベルのマップに リンクされた様々な3D情報を組み合わせる必要性も議論されるであろう。