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第 2 章 先行研究

2.1 概念の定義

らに社会との相互作用の中で形成される(中田・木村・八島 2003)と主張し、社会的文脈、コミュニティ、

社会的地位とグループの安全感、内的、相互コントロール力が特徴である。

岡(2017)は、日本語教育学における「motivation」の訳語「動機づけ」、「学習意欲」、「学習動機」とい った用語に関して、その定義について、曖昧さが存在していると述べている。同様に、磯田(2005)では、

学習意欲は動機づけの研究とされているが、「動機づけ」という概念も非常に抽象的で、「学習意欲」と「動 機づけ」の概念が曖昧である問題も指摘した。本研究において、「motivation」の訳語として「動機づけ」

という用語を採用することにする。その理由は以下の 3 点である。

まず、日本語教育において、「学習動機」と「動機づけ」はほぼ同義として扱われることが多い、心理学 の理論を用いる時「動機づけ」が使われることが多く、教育実践に比重を置く時は「学習意欲」が使われ ることが多い(岡 2017)。本研究は学習者の動機に関する基礎的な理論を構築するための研究であり、具 体的な場面での教育実践に比重を置くものではないため、「動機づけ」という用語は本研究においてより適 切である。

第二に、廣森(2010)は第二言語習得の立場から「motivation」に関する定義を行った。動機づけを「特 定の行動を生起し、維持する心理的メカニズム」であると捉え、その特徴を「動機、動機づけ、動機づけ る」という 3 つの視点からと捉えている。具体的には、行動の目標や目的(質的側面)を規定する「動機」

(motive)、前者に加え実際の行動の強さ(量的側面)を規定する「動機づけ」(motivation)、教師の指導や 学習者の自己動機づけによって行動の質的・量的側面への介入を志向する「動機づける」(motivate/motivating) であると定義した。本研究は、「行動の強さ(量的側面)」に焦点を当てる研究である。この定義の中で、

実際の行動の強さは「動機づけ」(motivation)に関する定義に含まれることは明示されている。そのため、

この意味では、「動機づけ」という用語の定義は明瞭であり、本研究のテーマである「動機減退」との関連 づけはしやすいと考えられる。

第三に、鹿毛(2013)は教育心理学の立場から、「動機づけ」は、学問上のタームというより、むしろ日 常用語である「意欲」と比べ、価値中立的な学術用語であり、「意欲」だけではなく、行動一般が出現する 心理学的メカニズムを包括する用語であると述べている。本研究は学術論文であり、生活色彩を帯びる「意 欲」に比べ、中立的学術用語がより適していると思われる。

さらに、「動機づけ」の定義については、上述の廣森(2010)以外でも研究者によってさまざまである。

上淵(2013)では、動機づけとは、報酬を得て罰を避ける性質を持った心理的、行動的なプロセスを指す と定義している。鹿毛(2013)では、動機づけを「行為が起こり、活性化され、維持され、方向づけられ、

集結する現象」と定義される。Dörnyei(2001)は、「動機づけ」の定義は人間の行為の方向性と重要性に 関するものであると述べ、具体的には以下の 3 点からなる。

・ The choice of a particular action.

・ The persistence with it.

・ The effort expended on it.

つまり、動機づけとは、特定の行為の選択、持続性、努力性に関するものである(筆者訳)。

さらに、鹿毛(2004)と鹿毛(2013)は教育心理学の立場から「動機づけ」を理解する視点を明示した。

鹿毛(2004)では、動機づけを理解する「強度」と「方向性」という 2 視点を提出し、心理現象の心理的 エネルギーの「量」の問題としての捉え方は「強度の視点」であり、「何のために」「何を」という行為の 目的や内容に注目することは「方向性」である。同様に、鹿毛(2013)では、動機づけのエネルギー性と 指向性を提出した。エネルギー性とは動機づけの「量的側面」であり、行動に心理的エネルギーを提供し、

活性化する側面を指し、行為の頻度や強さ、持続時間など、その「大小」、「強弱」といった量的な問題に 還元できる側面を指す。一方、指向性とは、「質的側面」であり、その行動が何を目指しているのかという 意味内容のことである。

鹿毛(2004)と鹿毛(2013)の 2 視点を廣森(2010)の「motivation」に対する定義から考察すると、動 機づけの「方向性」「指向性」は廣森(2010)で指摘した動機(motivate)に相当するものである。「強度」

「エネルギー性」と「方向性」「指向性」に合わせたものは廣森(2010)の「動機づけ」(motivation)に相当 するものである。しかし、教師の指導や学習者の自己動機づけによって行動の質的・量的側面への介入を 志向する「動機づける」(motivate/motivating) (廣森 2010)は教育心理学(鹿毛 2004、2013)が動機づけを 理解する視点から除外されている。

本研究では、廣森(2010)は「動機づけ」に対する定義を採用し、行動の目標や目的(質的側面)を規定す るに加え、実際の行動の強さ(量的側面)を規定するものであると定義する。

2.1.2 「動機減退」概念の定義

動機減退(Demotivation)は「動機づけ」の量的側面に注目する概念である。

「Demotivation」という学術用語の使用の経緯を調べると、アメリカにおいて1990年代前半に盛んになり 始めた教育コミュニケーション(Instructional communication)研究に行き着く(菊地 2015)。この分野はL1 コミュニケーションスタディーのサブフィールドである(Dörnyei 2001)。教室での教授プロセスでのコミ

ュニケーション要素を中心に、学習者(学習者の行為や認知など)、教師(効果的に教授するためのスト ラテジーなど)、教師と学習者の間の言語的及び非言語的コミュニケーションが研究されてきた(Staton 1989)。動機減退の研究は教育コミュニケーション分野より始められ、第二言語習得、日本語教育では徐々 に展開してきた。

第二言語習得研究で、最も頻繁に挙げられるのがDörnyeiによる動機減退の定義である。

‘Demotivation’ concern specific external forces that reduce or diminish the motivational basis of a behavioural intention or an ongoing action. (Dörnyei 2001)

この定義を日本語に訳すと、動機減退とは、外的要因によって、行動の意図または進行中の行動に対す る動機が削減されることである(筆者訳)。この定義に基づき、Dörnyei(2001)は動機減退という概念に 関するさらなる説明をした。動機減退は動機づける積極的な要因はすべて無効になるという意味ではなく、

積極的部分は消極的部分に抑制されるのみであり、積極的部分は存在し依然として作動している。さらに、

以下のような3つの現象は動機減退ではないと述べられている。

・ An attractive alternative action that serves as a powerful distraction.

・ The gradual loss of interest in a long-lasting, ongoing activity.

・ The sudden realization that the costs of pursuing a goal are too high.

この3現象それぞれは、第一に、代替な行為に強く引き付けられて集中できなくなり、分散していること である。例えば、課題をやらず、その代わりに面白い映画を見ることである。第二に、長期にわたる進行 中の活動に対する興味が徐々になくなることで ある。第三に、目標実現するためのコストの高さへの突然 の意識である。

また、廣森(2015)では、動機減退はあくまで「一時的な状態」であり、動機づけを完全に失い、行動 の意味や価値を理解できていない状態は「無動機」(Amotivation)と呼ばれ、動機減退とは区別されると指 摘している。

先行研究では、Dörnyei (2001)の定義を採用した研究(Kikuchi & Sakai 2009など)はあるが、Dörnyei (2001) の定義をベースにし、修正して使用する場合もある。定義の分岐点は、動機減退要因には内的要因が含ま れるかどうかである。例えば、試験と自信のなさは日本の英語学習者の動機減退要因でよく抽出されるも のであるが、試験は外的要因と認められても、自信のなさは内的要因である(Sakai & Kikuchi 2009)。さら

に、Dörnyei(1998)抽出された9つの動機減退要因のうち、自信と第二外国語に対する否定態度も内的要因で

ある(Sakai & Kikuchi 2009)ため、動機減退要因を内的要因と外的要因の両方から定義する研究(荒井 2004、

Tsuchiya 2006b、Sakai & Kikuchi 2009、Hamada & Grafström 2014、Kim 2009)が近年の主流である。

本研究では、動機減退を「外的要因と内的要因の両方の働きによって、行動の意図と進行中の行動に対して、

動機づけが削減されることである」と定義する。