定理 61の上界はほぼ最善であることも知られている.すなわち,次の定理が成り立つ.
この証明において用いられている手法も,前章に現れた有限幾何である.(実際に,ここで の nの値で p=t−1とおくと演習 30で現れる n の値となるが,これは偶然ではない.) 定理 62 任意の素数 p と n=p2+p+ 1 に対し,四角形を持たないようなn 頂点のある グラフ Gで次が成り立つ.
|E(G)| = n−1 4
(1 +√
4n−3) .
証明. 素数 pを法とする有限体 Zp 上の 3次元ベクトル空間 X を考える.すなわち,
X ={
v = (v1, v2, v3) :vi ∈Zp, i= 1,2,3}
で,演算として各座標の Zp での和を考える.(以下注意しないが,和は Zp で考える.) ここで,X の一つのベクトル v に対し,[v]で v が生成する1次元部分空間を表す.(た だしv ̸= 0 = (0,0,0) とする.) すなわち,
[v] ={
u:u=kv, 0≤k≤p−1} である.特に,[v]=p となる.
ここで,グラフ Gp を次のように定義する.
V(Gp) = {
[v] :v ∈X− {0}} , かつ E(Gp) = {
[v][w] : [v]̸= [w], ⟨v,w⟩=v1w1+v2w2+v3w3 = 0} . ここで “⟨v,w⟩ = 0” である,という性質は [v] と [w] の代表元の取り方に依存しない ため,この定義は well-defined である.(すなわち,kv ∈[v] に対し,⟨v,w⟩= 0 ならば
⟨kv,w⟩= 0 である.)
演習 37 p= 3 のとき,上のグラフ G3 を図示せよ.
このとき,各 1次元部分空間 [v] は 0 でないベクトルをちょうどp−1 個含み,ベク トル空間 X は 0 でないベクトルをちょうどp3−1個含む.また,X の二つのベクトル v と w に対し,[v]∩[w] ={0}であるか [v] = [w]であるため,
|V(Gp)| = p3−1
p−1 =p2+p+ 1 = n である.
ここでGp の2頂点[v]と[w]に対し,Gp において共通近傍[u]が存在したと仮定する.
つまり,[u][v],[u][w]∈E(Gp) である.このとき,Gp の辺の定義より,u = (u1, u2, u3) は次の線形方程式系の解 x= (x1, x2, x3) となる:
v1x1+v2x2+v3x3 = 0, w1x1+w2x2 +w3x3 = 0.
ただし,v = (v1, v2, v3)かつ w = (w1, w2, w3)としている.ここで [v]と [w] はGp の異 なる頂点であり,そのため v と w は 1次独立である.したがって,上の線型方程式系の
解空間の次元は 1であり[u] がその1次元部分空間と一致する.これより,[v] と[w]の Gp における共通近傍 [u] は一つしかなく,Gp に四角形は存在しない.
最後に,Gp の辺数を握手補題によって与える.Gp の各頂点[v]に対し,線形方程式系 v1x1+v2x2+v3x3 = 0
を考えると,その解空間 Xv の次元は 2 となる.特に,Xv は 0 でないベクトルをちょ うど p2−1個含み,X の各 1次元部分空間は0 でないベクトルをちょうど p−1個含む ため,Xv はちょうど
p2−1
p−1 =p+ 1 個の1次元部分空間を含む.
頂点 [v] の Gp での近傍はこの 1次元部分空間たちであり,したがって,次数は高々 p+ 1 である.これより,2|E(Gp)| ≤(p+ 1)n であり,n=p2+p+ 1 から得られる等式 p= −1+√24n−3 を使い,
|E(Gp)| ≤ (p+ 1)n
2 = n
4
(1 +√
4n−3) は得られる.
これをもっと詳しく見よう.上の Xv は,ちょうど p+ 1 個の 1次元部分空間を含む.
これらが [v] のGp での近傍のように見えるが,このp+ 1個のうちの一つは自分自身[v]
かもしれず,その分を除く必要がある.したがって,Gp の各頂点 [v] に対し,次のこと が成り立つ.
dGp([v]) =
{p+ 1 (v1)2+ (v2)2+ (v3)2 ̸= 0 のとき,
p (v1)2+ (v2)2+ (v3)2 = 0 のとき. (7) そこで,次数が p の頂点の数を決めるため,方程式 (x1)2 + (x2)2 + (x3)2 = 0 の解 x = (x1, x2, x3) の個数を調べる必要がある.実際に次が成り立つ.
主張 62.1 方程式 (x1)2+ (x2)2+ (x3)2 = 0 の解は,ちょうど p+ 1 個の[v]からなる.
主張 62.1 の証明は後に回し,まずは,これが正しいとして定理 62の証明を完了させる.
主張 62.1 と式(7) より,Gp で次数が pであるような [v]はちょうど p+ 1 個である.
ここで Gp の頂点数が p2+p+ 1 であることから,次数 p+ 1 の頂点はちょうどp2 個存 在し,
2|E(Gp)| = p(p+ 1) + (p+ 1)p2 = p(p+ 1)2 である.さらに n=p2+p+ 1 を使って計算を進め,
|E(Gp)| = p(p+ 1)2
2 = p2+p 4
(1 + (2p+ 1))
= n−1 4
(1 +√
4n−3) となり,証明が終了する.したがって,後は主張 62.1 を示せばよい.
主張 62.1 の証明.
X の 1次元部分空間を適当な順で[v(1)],[v(2)], . . . ,[v(n)] と書く.これに対し,次のよ うなn×n の行列 A を考える:
A の i行 j列の成分は,⟨v(i),v(j)⟩= 0 のとき 1で,そうでないとき 0.
このとき,v(i) が方程式 (x1)2 + (x2)2 + (x3)2 = 0 の解であるための必要十分条件は,
⟨v(i),v(i)⟩= 0 であることなので,A の定義より,主張62.1 を示すためには A の対角成 分にある 1の個数がわかれば良い.そのために,Aの trace(対角成分の和)を計算する.
ここで用いる性質は下のものである:
traceA = (A の固有値の和).
さらに A の固有値を求めるために,A2 を考える.特に,
• A の i行は,線形方程式系
v1(i)x1+v2(i)x2+v(i)3 x3 = 0
の解 x= (x1, x2, x3) たちで作られる 1次元部分空間に対応する箇所に 1 が与えら れている.(ただし,v(i)= (v1(i), v2(i), v3(i))とおいている.)すでに見たように,その ような1次元部分空間は p+ 1 個存在する.したがって,A2 の i 行i 列成分(対角 成分)は p+ 1 となる.
また,各行の和が p+ 1 なので,p+ 1 が A の固有値である.なぜならば,1 を全 成分が 1のベクトルとすると,A1= (p+ 1)1 であるため,p+ 1 が A の固有値で 1 が対応する固有ベクトルとわかるからである.
• A の第i 行と第 j 行を考える.これは,上と同様に考えると,線形方程式系 v1(i)x1+v2(i)x2+v3(i)x3 = 0
v1(j)x1+v2(j)x2+v(j)3 x3 = 0
の解 x= (x1, x2, x3) に対応する箇所で同時に1 が与えられている.そのような解 は,やはりすでに見たように,ちょうど一つの1次元部分空間をなしている.これ が A2 の i行 j列の成分に対応しており,その値は 1 である.
以上より,A2 は次のような形をしている.
A2 =
p+ 1 1 · · · 1 1 p+ 1 · · · 1 ... ... . .. ... 1 1 · · · p+ 1
=pI+J.
ただし,J はすべての成分が 1のn×nの正方行列で,I は単位行列である.ここで,J は 固有値 n (重複度1)と 0 (重複度 n−1)を持つ.したがって,A2 は固有値はn+p(重複 度1)とp(重複度n−1)を持つ.Aは実対称行列で対角化可能であるので,A の固有値は
±√
n+p(重複度1)と±√p(合わせて重複度n−1)である.上で述べたようにp+ 1がA の固有値であるが,これが一つ目のものに対応している.(√
n+p=√
p2 + 2p+ 1 =p+ 1 に注意.)これより,A の固有値において√p の重複度をs,−√p の重複度を t とそれぞ れおくと,
trace A = (A の固有値の和) = (p+ 1) +s√
p−t√ p
であるが,A の対角成分の和は整数でありp は素数であるため,s=t が成り立ち,Aの 対角成分の和はちょうど p+ 1 である.これで主張 62.1 の証明が終了した. □
演習 ∗ p= 3 のとき,上の証明中の行列 A と A2 を与えよ.