実は,定理 55は次の定理の系としても得られる.ここで,完全グラフKn に対し,そ の部分グラフたち H1, H2, . . . , Hm が「Kn のどの辺も,ちょうど一つの Hi に含まれる」
という性質を満たすとき,Kn は H1, H2, . . . , Hm へと分割されているという.
定理 56 完全グラフ Kn が部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているならば,
m= 1 またはm ≥n である.
演習 28 平面上の一直線上にないn 点の集合 S に対し,S を頂点集合とし,平面上で同 一直線上にある 2点を辺で結んだグラフをG とする.このグラフ G を用いて,定理55 が定理 56の系であることを説明せよ.
定理 56 の証明. 完全グラフ Kn が部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されてい るとし,m̸= 1 かつm < n であると仮定する.このとき,放電法を用いて矛盾を導く.
初期電荷として,各頂点に +1の電荷を与える.このときの電荷の合計は nである.各 頂点 x は,x を含まない ような Hi たちに等分に電荷を渡す.すなわち,x を含まない ようなHi たちの個数をrx とおくと,x はそのようなHi のそれぞれへ,ちょうど 1
rx の 電荷を渡す.
各頂点 x と x を含まない Hk の組を考えると,次の不等式が成り立つ.
m−rx ≥ |Hk|.
なぜならば,Hk に含まれる各頂点y に対し,Kn の辺xy たちはそれぞれ異なる Hi に 含まれており,左辺 m−rx は「x を含むHi たちの個数」を表しているからである.こ れより,
rx≤m− |Hk| が得られる.
ここで,各部分完全グラフ Hk が受け取る電荷の総量を考えよう.Hk は x̸∈V(Hk)と なる各頂点 x より 1
rx の電荷を受け取るため,合計で少なくとも
∑
x̸∈V(Hk)
1
rx ≥ ∑
x̸∈V(Hk)
1 m− |Hk|
の電荷を受け取る.ここで,x̸∈V(Hk)である頂点 xは全部で n− |Hk| 個存在するため,
∑
x̸∈V(Hk)
1
rx ≥ ∑
x̸∈V(Hk)
1
m− |Hk| = n− |Hk| m− |Hk| > n
m
である.なお,最後の不等号は n > m かつ |Hk| ≥1 から得た.よって,放電後の電荷 の合計を計算すると,
n= (電荷の合計)> m· n m =n となり矛盾である. □
演習 29 定理 56の結論 m≥n が最善であることを示す例を与えよ.
定理 56 の結論 m ≥ n は「すべての Hi の大きさが等しい」という条件を要求したと しても,いくつかの n ではやはり最善であることが知られている.例えば,n = 7 の 7 個の完全グラフへの分割として,次のような例が存在する.
V(K7) = {0,1,2,3,4,5,6} に対し,H1, . . . , H7 を次のように定める.
V(H1) ={0,1,6}, V(H2) = {0,2,5}, V(H3) ={0,3,4}, V(H4) = {1,2,4}, V(H5) ={1,3,5}, V(H6) = {2,3,6}, V(H7) ={4,5,6}.
これはファノ平面と呼ばれる平面から作られる.実は,定理 56が定理 55の拡張であっ たように,この問題は通常のものとは異なる幾何として述べられている.(そのような幾 何学は,特に有限幾何と呼ばれている.) 実際に,上のK7 の分割の例は,図 34 にある ファノ平面 から作られている.
0 1
2 3
4 5
6
図 34: ファノ平面.
演習 30 Kn を「すべての Hi の大きさが等しい」ような部分完全グラフ H1, H2, . . . , Hn へと分割できたとする.このとき,n は,ある整数t に対し n =t2−t+ 1 と書けるが,
これを示せ.
そのような n で 7の次に小さいものは 13 である (t = 4 のとき)が,実際に,n = 13 のときにはそのような分割は存在する.
演習 ∗ K13 を n 個の部分完全グラフで同じ大きさのものへと分割せよ.
定理 57 完全グラフ Kn が部分完全2部グラフ H1, H2, . . . , Hm へと分割されているなら ば,m≥n−1 である.
証明. 完全グラフKn が部分完全2部グラフH1, H2, . . . , Hm へと分割されているとし,
m < n−1であると仮定する.各Hi は完全2部グラフであり,それぞれの部集合をLi, Ri
とおく.
Kn の各頂点 v に変数 Xv を与える.H1, H2, . . . , Hm が Kn の分割なので,
∑
u,v∈V(Kn),u̸=v
XuXv =
∑m i=1
( ∑
s∈Li
Xs·∑
t∈Ri
Xt )
(6) が成り立っている.ここで,次の線型方程式系を考える.
∑
v∈V(Kn)
Xv = 0,
∑
s∈Li
Xs = 0 (i= 1, . . . , m).
これは n 個の変数に対しm+ 1 < n 本の線形方程式からなっており,したがって,自明 でない解 Xv =αv (v ∈V(Kn)) を持つ.このとき,式(6) の右辺の ∑
の各i において,
∑
s∈Liαs= 0 であることから,
∑
u,v∈V(Kn),u̸=v
αuαv = 0 を得る.よって,∑
v∈V(Kn)αv = 0 であることより, 0 = ( ∑
v∈V(Kn)
αv )2
= ∑
v∈V(Kn)
α2u+ ∑
u,v∈V(Kn),u̸=v
αuαv = ∑
v∈V(Kn)
α2u となる.しかしながら,αv (v ∈V(Kn))が自明でない解であることから,∑
v∈V(Kn)α2u >0 となり,矛盾がおこる. □
次の例が定理 57の最善の例となっている.Kn に対し,n = 1 では辺が存在せず,分 割の意味がないため n≥2とする.ここで,1頂点v を固定し,v に接続するすべての辺 からなる完全2部グラフ K1,n−1 を Hn−1 とおく.Kn からその頂点 v を取り除いた完全 グラフ Kn−1 を考え,以下帰納的に,完全2部グラフ K1,n−2, . . . K1,1 をとると,これは n−1個の完全2部グラフよりなる Kn の分割である.(図 35に n= 5 の場合を示す.)
K5 H4 H3 H2 H1
図 35: H1, H2, H3, H4 によるK5 の分割.各 Hi は K1,i と同型である.
演習 31 図 35 の例(1≤i≤n−1で Hi が K1,i の場合) において,各 Hi で Li が 1点 側としたときに定理 57の証明内の方法でできる線形方程式系を示し,その解が自明なも のしか存在しないことを確認せよ.また,逆に各 iで Ri が 1 点側としたときも考えよ.