1 実践の検証結果と考察 (1) 有能感の高まりの分析
① 単元テストのテスト結果(思考問題)
平均得点率における実験群,統制群との比較で は,どの層においても本時の授業効果が実験群に 見られたということがいえる。ただ,実験群は統 制群より統計的に成績がよいかどうかをt検定で 調べてみたところ,L層にとっては有意差が見ら れた(10%の有意水準)。H層・M層・全体では,
有意差は見られなかった。H・M層に大きな有効 性が見られなかった要因としては,有能感を高め るための手立ての1つである「やりがいのある挑 戦的な課題提示」の場面で,本時の課題追究にお いて,知識量が乏しかったために,既習知識をフ ルに活用した問題解決活動が,思うようにできな
かったことが,単元テストの結果に反映されたと考えられる。しかし,L層の生徒にとっては単元の最 初に,このような日常生活にかかわる課題が提示されたことで,今後の学習動機が誘発でき,この先の 単元の見通しが立てられたことで,より授業の内容理解につながったと考えられる。
② 本時の展開~授業の様子~
図7は,生徒が本時の課題に対する考察をホワイトボードにまとめたものである。(実験群,統制群か ら,各群1つの班(4人構成)のものを抽出した。)どの班も活発な意見交流が見られ,情報交換で得ら れた情報を精査して導き出した内容である。この取組から顕著に見られたことは,統制群のクラスの方 で,図のように考察の際,与えられた課題を解決するために,その課題に関係する多くの日常生活の事 象を例にあげながら解決に迫っていった点である(統制群10班中,4班で図7左と同様の表現が見ら れた。実験群では10班中1班のみ)。既習事項が十分生かされる場面は,この結果から単元末に発展的 なおさえとして挑戦的な課題を設定するパターンであることが明確となった。また,学習知を日常知に つなげるという点でも,統制群の手法が有効であると言えた。
段 階 実験群 統制群 全体数値(n=38) 5.9 5.0 H層(n=13) 7.2 6.8 M層(n=13) 6.3 5.3 L層(n=12) 4.2 2.8 図6:単元テスト内の思考に関わる問題(8点分)
の平均得点率
<問題抜粋>
Q1 手を洗った時,手を振ることによって水 をきることができる仕組みを説明しなさい。
Q2 雤滴は,落下の途中である速さまで達す ると,そのあとは速さが一定になる。雤滴は,
主に重力と空気抵抗による力を受けるが,これ らの力のはたらき方から説明しなさい。
図7:本時における課題解決場面の記述(右⇒統制群,左⇒実験群)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
1 2 3 4 5 6 7 8 9
実験群 統制群
(2) 理科学習に対する意欲の持続性の高まりの分析
① Q-分類簡便法による動因効果の測定 実験群,統制群との比較では,本時の授業効果 は全体の数値を見ると大きな差異はない。ただし 各学力層別で数値を見ると,H層では統制群にお
いて高い数値を示し,L層では実験群において統 制群よりも高い数値を示した。Q-分類簡便法の
各項目別のH,L層の回答人数
(図9)を見てみると,実験群 のH層で,思うように考えたり 活動したりすることができない と回答している生徒が多いこと から,やはり課題追究場面にお いて,既習事項を生かした追究
が思い通りにできないことをあらわしていると考えられる。また実験群のL層で,統制群のL層に比べ るとよく考えることができたと回答している生徒が多いという点では,単元導入時の課題解決場面とい うことで,新たな事象を学んでいこうという期待感の高まりが深い思考へと導いた結果であると考える。
② 行動傾向アンケート結果から
図 10 は,本単元を通した「 理科学習意欲の高 まり」を見とるためのアンケート結果である(単 元終了後に実施)。調査項目1における評価結果か ら授業を受けて,即時的にその内容にかかわる事 を調べようとする姿勢が実験群に顕著に見られた。
しかし,それが日常的な姿として現れていないの が調査項目2の結果から明らかである。
また,挑戦にかかわる調査項目より,挑戦的な 課題解決における意欲について高い数値を示した。
自然の事象にかかわる原理やその仕組みを知りた いという欲求が大きいと考えられる。よって今後
段 階 実験群 統制群 全体数値(n=38) 67.9 68.2
H層(n=13) 64.6 80 M層(n=13) 73.9 75.7 L層(n=12) 65 46.7
項 目 実H 統H 実L 統L 新しいことがわかってうれしかった。 9 11 10 9
思うように考えたり活動したりすること
ができなかった。 11 6 8 8
よく考えることができた。 11 10 9 3
行動傾向 質問事項(4段階評価)
情 報
1 家に帰って,授業とつながりのある身近な現象を自分なりに調べることがある。
2 常に身近な生活の自然現象に疑問を持ち,それを調べようとしている。
3(R) 授業で学習した内容は,日常生活とあまり関係ないと思う。
独 立
4 わからないことや疑問に思ったことは積極的に質問をする。
5(R) 理科の学習は先生が教えてくれることだけ勉強すればよいと思う。
6 授業の課題が難しくても自分で何とか解決しようとしている。
挑 戦
7(R) 授業の課題が難しいと感じると,やる気がなくなってしまう。
8 授業の課題が難しくても,どんどん挑戦して取り組みたいと思う。
9 今回のような難しい課題は,やる気が出る。
図8:Q-分類簡便法による動因効果の結果
図9:Q-分類簡便法各項目別の回答人数(最大人数:H~13L~12)
図 10:行動傾向アンケート結果
2.6 2.7 2.8 2.9 3 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5
① ②
4月 8月
も,挑戦的な課題解決場面を多く設定し,学習で得た知識をフルに活用できるような手立てを講じてい きたい。そして,課題を解決できたという達成感を味わわせたい。この達成感が,更に別の課題解決意 欲を掻きたたせ,最終的には自分自身の日常生活にひろがる自然事象に目を向き,その仕組みを自ら解 決していこうとする態度を養わせたい。
Ⅵ まとめにかえて
理科を学ぶことの有用性を実感し,自然に積極的にはたらきかける生徒の育成を目指して本研究を進め てきた。そのためには,理科学習における有能感と意欲の持続性を高めることに視点をおいて授業実践を 行ってきた。1 年の取組の成果と課題について記述する。
【成果】
・有能感を高めるための手立ての 1 つである,
やりがいのある挑戦的な学習課題を単元導入時 に行うことで,理科を苦手とする生徒の思考力 が伸びた。単元の見通しを立たせる意味では有 効的である。
・理科学習意欲の向上が見られた。学習意欲が 授業から日常生活へと広がったことが図 11 か ら言える。より自律的に学ぼうとする生徒が増 えた。
・本校理科が示す,理科における学習意欲の分 類とその位置づけにより,生徒の実態を踏まえ
ることができ、どういう部分に視点を置いて研究を進めていくべきか,その指針が明らかになった。
【課題】
・有能感を高める手立てが全生徒のものになっていない。(H,M層生徒の思考力の伸びは微増である。)
より有効的な課題設定場面を模索していく必要がある。
・課題解決の意欲を持続するためには,既習事項が活用でき,より日常生活に密着した課題を設定してい かなければならない。
・中学校3年間の発達段階を踏まえ,3年間を通して意欲の変容を見ていく必要がある。
・理科学習に対する意欲が具体的にどのように持続されているか,自然に対し自らどのようにはたらきか けているのか,その態度を客観的に調べる必要がある。
次年度は本研究3 カ年計画の最終年である。今年度の課題を受けて,次年度はまとめの年としてより実 践を深めていきたい。諸先生の忌憚のない御指導,御指摘をいただければ幸いです。
【参考文献】
・文部科学省,『中学校学習指導要領 理科編 』,2008.
・文部省,『中学校指導書 理科編 』,1978.
・北海道教育大学附属釧路中学校研究紀要,2009.
・北澤弥吉郎/栗田一良/井出耕一郎,『新訂 理科教育指導用語辞典』,教育出版,1993.
・理科教育研究会,『新学習指導要領に応える理科教育』,東洋館出版社
・桜井茂男,『学習意欲の心理学』,2009.
①いろいろな事が知り たくて,授業だけでな く家でも学習をしてい る。
②授業で学んだ内容が身 の回りのどのような形で 生かされているのか興味 がある。
3学年実験群生徒対象(n=38)
4…よくあてはまる 3…どちらかといえばあてはまる 2…どちらかといえばあてはまらない 1…あてはまらない 図 11:本校理科意識調査結果(2010 年 4 月,8 月実施)
1 -音楽科
自らよりよい音楽をつくろうとする生徒の育成
~音楽的諸要素を切り口として~
久保田 浩文
はじめに
本研究では,音楽が本来もつ感覚的な要素も大切にしつつ,中学生の発達段階に応じた論理的な思 考や分析活動を取り入れることにより,音楽の多様性を実感し,積極的に音楽にかかわり,「自らよ りよい音楽をつくろうとする」生徒を育てる手法を提起することを目的としている。
具体的には,個人での活動を行った後に,グループでの交流や意見交換を行う場を取り入れ,自ら の考えを伝えるとともに,他者の意見を取り入れる活動をとおして,生徒の音楽における「自ら学ぶ 意欲」を高めることを研究の中心に据えた。
Ⅰ章では研究の目的および研究主題設定の背景を示し,Ⅱ章ではこれまでの実践研究の成果と課題 を踏まえ,今年度の研究の視点を述べた。Ⅲ章では総論とⅡ章をもとに教科研究仮説を設定し,Ⅳ章 では実践の経過,Ⅴ章ではその検証・考察を行い,本研究における手法の成果と課題を報告した。
Ⅰ 研究の目的
平成20年告示の学習指導要領(音楽科)においては,その中心目標を「音楽文化についての理解 を深める」と規定している。我が国の伝統的な音楽を含め,多くの観点から様々な音楽に触れ,表現 や鑑賞,創作を行うことが重点とされた。特に創作については,小学校では「音楽づくり」,中学校 では「創作」として示され,中学校では音のつながりを意識した短い旋律創作を行うなど,音を音楽 へと構成していく体験を重視することが求められている。
現段階での本校音楽科における生徒の実態として,次の4点があげられる。
①身体表現を含め,人前で発表することをいとわない生徒が多い。
②表現領域,特に合唱に対して意欲が高い。
③音楽における基礎知識(今回の学習指導要領にも出された【共通事項】などが典型的)が身に付 いていない生徒が多い。
④音楽を感覚的にとらえることができる一方,音楽の仕組みなど,論理的に考えることが苦手であ る。
現在,一般的に音楽科の授業においては,小学校の段階では体験的なものや,感覚的なものが重視 され,中学校の段階では論理的なものや思考を伴う活動が重視される傾向にある。したがって,中学 校での学習活動は小学校での体験的・感覚的な学習を踏まえた,「音楽を分析する力」が必要とされ ると考える。本校音楽科においても,先述した③,④の問題点の改善のため,これまで音楽的諸要素 を切り口として,音楽を多面的・分析的にとらえることにより,よりよい表現活動や鑑賞活動を目指 してきた。今年度の教科研究においても,引き続き音楽的諸要素を中心として,受け身の姿勢から積 極的に音楽表現を行おうとする生徒を育成すべきと考え,本教科研究主題を設定し,研究を進めるこ ととした。