第 6 章 実験結果及び考察
6.2 椎間板・腹圧・靱帯モーメント
6.2.1 経時変化
図6.19に時間経過と椎間板・腹圧・靱帯モーメントの関係についての代表例として
被験者Aの姿勢B,持ち上げ速さ1.5[s],おもりの質量15[kg]の試験における椎間板,
腹圧,靱帯のモーメント変化を示す.図中,縦軸がモーメント[Nm],横軸が正規化時 間(%)を示す.また,青色が椎間板モーメント,赤色が腹圧モーメント,緑色が靱帯 モーメントを表す.
椎間板モーメントは(4.4)式のように腰部関節角度に依存するため,関節角度と同 様の経過を辿った.また,実験条件の差異による最大値の変化は認められなかった.
靱帯モーメントも椎間板モーメントと同様に腰部関節角度に依存するため,被験者A
の姿勢B,持ち上げ速さ1.5[s],おもりの質量15[kg]の試験における関節角度と同様の
経過を辿り,実験条件の差異による最大値の変化は認められなかった.
腹圧モーメントは(4.9)式のように腰部関節モーメントに依存するので,関節モー メントと同様の経過を辿った.また,実験条件の差異による最大値の変化が認められる 動作も存在した.
これら受動要素のモーメントの最大値は,関節モーメントが最大値となった時点で記 録した.被験者Aの姿勢B,持ち上げ速さ1.5[s],おもりの質量15[kg]の試験における これらモーメントの和の最大値が18.1[Nm],関節モーメントの最大値が236[Nm]であっ たことから,受動要素のモーメントの和は関節モーメントの1割以下しか作用せず,筋 が主導となってモーメントを発揮していることが確認された.
-4 -2 0 2 4 6 8 10
0 20 40 60 80 100
Disc
Ligament
IAP
moment[Nm]
6章 実験結果及び考察
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6.2.2 椎間板の復元モーメント
6.2.1節で示した椎間板モーメントの最大値について,図6.20に被験者7名の平均値
をそれぞれの動作について示す.この最大値は,被験者が床上のおもりを持ち上げた直 後に記録した.
このモーメントは被験者間で差異が大きく,姿勢や持ち上げ速さ,おもりの質量を変 化させても動作間では差異を見出すことができない.
椎間板の発揮するモーメントは3[Nm]程度であり,関節モーメントの1%以下のモー メントしか発揮していない.
図6.20 椎間板モーメントの最大値
0 1 2 3 4 5 6 7 8
(n=7 ± S.D.)
motion type
moment[Nm]
6章 実験結果及び考察
6.2.3 腹圧モーメント
6.2.1節で示した腹圧モーメントの最大値について,図6.21に被験者7名の平均値を
それぞれの動作について示す.この最大値は,被験者が床上のおもりを持ち上げた直後 に記録した.
同一姿勢,同一持ち上げ速さで持ち上げるおもりの質量のみを変化させた場合,おも りの質量の増加に伴って線形に腹圧モーメント最大値も増加した.
同一姿勢,同一おもり質量で持ち上げ速さのみを変化させた場合,速い持ち上げ速さ
である1.5[s]の方が腹圧モーメント最大値は大きくなることが確認された.
同一持ち上げ速さ,同一おもり質量で姿勢のみを変化させた場合,腹圧モーメント最 大値の差異は認められなかった.
腹圧モーメントは関節モーメントの2~3%の値しか発揮されなかった.一般的に腹圧 は腰部圧縮力を減尐させる役割があると言われているが,この結果からその効果が極め て小さいことが示唆される.
図6.21 腹圧モーメントの最大値
0 2 4 6 8 10 12
(n=7 ± S.D.)
motion type
moment[Nm]
6章 実験結果及び考察
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6.2.4 靱帯モーメント
6.2.1節で示した靭帯モーメントの最大値について,図6.22に被験者7名の平均値を
それぞれの動作について示す.この最大値は,被験者が床上のおもりを持ち上げた直後 に記録した.
このモーメントは被験者間で差異が大きく,姿勢や持ち上げ速さ,おもりの質量を変 化させても動作間では差異を見出すことができない.これは,靱帯張力を腰部屈曲角度 の関数として算出したためであると推察される.
靱帯の発揮するモーメントは4[Nm]程度であり,関節モーメントの1%以下のモーメ ントしか発揮していない.
図6.22 靱帯モーメントの最大値
0 1 2 3 4 5 6
(n=7 ± S.D.)
motion type
moment[Nm]
6章 実験結果及び考察