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植村哲士

ドキュメント内 現地から見た中国市場の変化と機会 (ページ 78-90)

シリーズ

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

CONTENTS

要約

 一時的に持ち直している林業と将来の衰退リスクへの対処

 特用林産物としてのオウバクと樹木としてのキハダの現状

 針葉樹一斉林経営からの脱皮に向けた特用林産物の活用の課題

 特用林産物の可能性を探る

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特用林産物を活用した林業活性化

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

一時的に持ち直している林業と 将来の衰退リスクへの対処

2010年以降、統計などを見る限り、日本の 林業は復活の様相を呈している。一方で、木 材価格は2010年以降、若干回復したものの依 然として低い水準にとどまっており、スギ、

ヒノキの主たる利用先である住宅着工数やパ ルプの消費量は、人口減少に伴い、減少する ことが予測されている文献1

これらのことから、従来のような針葉樹の 一斉林を中心とした既存の林業は、将来的に 行き詰まりを迎える可能性を排除できない。

その代替案として、針葉樹の一斉林林業以外 の森林活用、森林資源の産業化について検討 を深めておく必要がある。

この観点に基づき、既に筆者は樹種転換の 必要性を訴えている文献2。広葉樹の有用樹種 は多様であり、建築・家具用の用材としての 用途に加え、樹液や樹皮による収益機会も多 様である。実際に人口減少地域の生業として 森林資源の活用・林業の復活を考えるのであ れば、少しでも付加価値の高い樹種や用途か ら議論するほうが合理的である。

付加価値の高い(収益性の高い)樹種には、

①香木など樹種材そのものの単価が高いも の

②樹液(メープルシロップ)など、主伐ま での間に何らかの継続的な収益機会があ るもの、松脂などの樹精、果樹など種子 利用、花などの景観利用が可能なもの

③ヒノキ、キハダなど主伐の際に材だけで なく、樹皮などの利用が可能なもの などがある。

これら①〜③のそれぞれについて、多様な

取り組みが可能であるが、日本では①に該当 する樹種は限定的であり、②については既に 秩父のカエデ樹液の例が紹介されている。そ こで、本稿では③について、同じく秩父で取 り組まれつつあるオウバク(黄柏)という生 薬の原料であるキハダについて取り上げ、特 用林産物を生産する材としての広葉樹を活用 した、林業のあり方および地域産業化の可能 性について検討を行う。

特用林産物としてのオウバクと 樹木としてのキハダの現状

1 生薬であるオウバク原料としての キハダ

薬用広葉樹であるキハダの場合、キハダの 樹皮の、さらに内皮を乾燥したものが、オウ バクと呼ばれる生薬になる。生薬は、日本薬 局方という医薬品の規格基準書によってその 性状などが定められているため、有効成分の

1 特用林産物・生薬・オウバク・キハダの関係概念図

特用林産物

生薬

オウバク

キハダ

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

3 オウバクを用いた伝統薬の分布

御嶽百草

大峰山陀羅尼助丸

大山煉熊丸

石鎚山陀羅尼丸

4 日本でのオウバクの消費量と日本産の使用量

250,000 kg/年

日本産 中国産 国内消費量

200,000

150,000

100,000

50,000

0

3.4%) 2.6%) 2.5%)

6,667 6,050 5,690

2008 2009 2010

198,502

223,905

191,835

224,783 218,215

230,833

注)小城製薬分を含まず。%は国内消費量に対する日本産の占める割合

出所)2008年のデータ「原料生薬使用量等調査報告書─平成20年度の使用量」日本漢方生薬製剤協会

2009、2010年のデータ「原料生薬使用量等調査報告書─平成21年度・平成22年度の使用量」日本漢方生薬製剤協会

みを樹木から直接抽出しても生薬として認め られるわけではなく、そうしたものは当然、

漢方薬の原料としては用いられない。そのオ ウバク、キハダの区分を示したのが前ページ の図 1 である。

薬用樹としてのキハダは、生薬としてオウ バクになり、最終的には百草や煉熊(ねりぐ

2 生薬原料としてのキハダのバリューチェーン

薬用樹 キハダ

生薬 オウバク(黄柏)

伝統薬 百草、煉熊など

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

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特用林産物を活用した林業活性化

どに使われてきた。

2 オウバク消費量とキハダ栽培の現状

オウバクの国内消費量は、図 4 に見る通 ま)、陀羅尼助(だらにすけ)などの伝統薬

になる(図 2 )。これらの伝統薬は修験道が 盛んな地域で伝承されており、全国で 4 カ所

(奈良県御所・吉野・大峰山周辺、長野県御 嶽山周辺、鳥取県日野町周辺、愛媛県石鎚山 周辺)に伝わっている(図 3 )。現在でも、

地域の製薬会社が製造し、全国に販売してい る。

これらの伝統薬の主成分はオウバクである が、副成分は必ずしも同じではない。

また、キハダは、内皮、葉などを生薬原料 として用いる以外にも多様な用途がある。た とえば、内皮は生薬以外にも黄色の天然染料 として用いられてきた。外皮は屋根葺きや壁 板に、用材としては家具製造や床柱、枕木な

1 各製薬会社の問屋からの購入状況

乾燥内皮換算製造用キハダ消費量

A社 70t

B社 35t

C社 15t

D社 10t

E 0t

注)C社の使用量は小城製薬よりヒアリング、また、A社から E社以外にオウバクで伝統薬を製造している製薬会社はも う1社存在しているが、未調査

出所)各社よりヒアリングした数値を集計

5 キハダの生産量統計

250 200 150 100 50 0

156 198

2011 2010

栽培戸数

収穫面積

栽培面積

生産量 3,900

3,800 3,700 3,600 3,500 3,400

3,591 3,791

2011 2010

600

400

200

0

160 516

2011

2010

30,000

a

a kg

20,000

10,000

0

25,618

2011 2010

2008

8,229 6,667

出所)2008年のデータ「原料生薬使用量等調査報告書─平成20年度の使用量」、日本漢方生薬製剤協会 2010年のデータ「特定農産物に関する生産情報調査結果(2010年度)」日本特産農産物協会 2011年のデータ「特定農産物に関する生産情報調査結果(2011年度)」日本特産農産物協会

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

3 オウバク流通のサプライチェーン とプレーヤー

キハダから漢方薬製造までのサプライチェ ーンには、育林から乾燥内皮の集約に携わる 生産者、立木の伐採・採取・乾燥・集約を担 う採取業者、集約された乾燥内皮を引き取っ て薬効成分を抽出し、ほかの薬剤も併せて製 薬会社に納品する生薬問屋、生薬問屋からオ ウバクなどを仕入れ薬効成分の抽出・製剤・

販売を行う製薬会社が関わっている。その関 連を示したものが図 6 である。

このサプライチェーンにおける現状と課題 を見ていく。

り、2008年 で198.5t、09年 で230.8t、10年 で 223.9tである。そのうち国産分は、2008年で 3.4%、09年で2.6%、10年で2.5%であり、国 産の割合は年々減少している。

製薬会社への聞き取り調査の結果から、オ ウバクの国内消費量の過半は、全国で 6 社あ る伝統薬製造の製薬会社向けであると見られ る(前ページの表 1 )。

オウバクの原料となるキハダの生産につい ても、前ページの図 5 のように国内の栽培戸 数、栽培面積、収穫面積についてはいずれも 減少している注1

6 オウバクのサプライチェーンと各プレーヤーのカバー範囲

育林

伐採・採取・処理

集約

生薬卸 木材加工

薬効成分抽出

薬品製剤・販売

生産 流通 製造販売

採取業者 生産者

生薬問屋

製薬会社

製薬会社

人口減少時代における緑資源を活用した地域活性化

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特用林産物を活用した林業活性化

料の品質を重視する製薬会社は国産の乾燥内 皮の使用を優先している。

一方で、チップ、エキスの利用を行ってい る製薬会社は、日本薬局方で指定されている ベルベリンなどの含有量にのみ関心があり、

原材料が国産か中国産かにこだわりはなく、

原材料に関して価格重視の調達を行ってい る。しかし、価格面では国産のオウバクは中 国産に比べて劣位にあるのが現状である。

近年では中国産の価格が上昇しつつあり、

価格面での差は小さくなっているが、国内産

(1) 生薬原料を採取する薬用樹生産の現状 現在、乾燥内皮を生薬問屋に出荷している のは、主に、天然資源を伐採したり、従前か らキハダ林が存在している地域で、伐採後の 補植などにより資源量が維持されたりしてき た地域であり、森林所有者が小遣い稼ぎで少 量ずつ生産した乾燥内皮を、採取業者や生薬 問屋が集めているのが実情である。

なお、福島第一原子力発電所の事故以降、

東日本産のオウバクが放射性物質の影響で利 用できない状況にある。

生薬原料であるオウバクを採取する薬用樹 であるキハダが、国内における生産・採取の 段階において抱えている問題は、こうした供 給の不安定性である。各プレーヤーにおける 課題の全体像を表 2 に示す。

(2) 製薬会社による生薬原料調達の現状 オウバクの調達方法は多様であり、乾燥内 皮のままであるところもあれば、チップ、エ キス(抽出物)のところもある(表 3 )。

乾燥内皮を購入するのは原材料の状態から 品質を確認できるためであり、そうした原材

2 サプライチェーンの各プレーヤーにおける課題

プレーヤー 課題

生産者 施業方法が確立されておらず、天然資源に頼っている

枯死率が高く、鹿の食害などが発生しており、採取前に育林をあきらめるケースも多い

採取業者

天然資源が枯渇しつつある

福島第一原発事故以降、東日本の資源を採取できない

採取人の高齢化に伴い、人手が確保できない

生薬問屋

産業化した供給者がいないため、供給が不安定

中国産の中国リスク、国内は生産者・採取人の高齢化による減産リスクに直面しているが、生薬問屋には生産ノウ ハウがないため、リスクを緩和できない

製薬会社 中国産の価格が上昇しつつあるが、国内産の数量を安定的に確保するのに限界がある

3 各製薬会社の問屋からの購入状況および直接買い入れ可能性 問屋からの購入

国産利用 乾燥内皮 チップ エキス

A社 60t 10t なし

B 35t 少量

C社 15t 不明

D社 10t 全量

E社

注)C社の使用量は小城製薬よりヒアリング、また、A社からE社以外にオウバクで伝 統薬を製造している製薬会社はもう1社存在しているが、未調査

出所)各社よりヒアリングした数値を集計

ドキュメント内 現地から見た中国市場の変化と機会 (ページ 78-90)