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中国現地顧客の開拓に向けた 先読み力の強化

ドキュメント内 現地から見た中国市場の変化と機会 (ページ 70-75)

現地から見た中国市場の変化と機会

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中国現地顧客の開拓に向けた先読み力の強化

日系企業の苦戦と教訓

筆者は過去10年、在中国の日系企業を主な 顧客として、事業戦略に関するコンサルティ ングに従事してきた。顧客企業とともに課題 改善に取り組む過程で、あるいは参考事例の ケーススタディーを行う中で、現地顧客の開 拓などにおいて、中国市場への対応に苦慮し ている企業を目の当たりにしてきた。本章で は、こうした事例を 2 つ紹介したい。

事例 1 :日系機械メーカーA社

まずはA社の事例である。これは、事業戦 略が二転三転したにもかかわらず、結局市場 の変化を捉えられず、打ち手に失敗し、現場 が荒廃してしまった事例である。

A社は、もともと香港の代理店経由で中国 製品の輸入販売を行っていたが、2000年代の 前半、自社の販売会社を中国に設立したのを 契機に、本格的に中国市場に参入した。A社 における中国市場参入のプロセスを戦略面か らみてみると、次の 3 つのステージに分けら れる。

第一のステージは2002年から08年の「大躍 進戦略」時期である。2002年というと、中国 が世界貿易機関に加盟後、外資系企業に対す る市場参入規制を徐々に緩和した時期である とともに、市場全体が急成長した時期でもあ る。ただし、当時の市場構造は、外資系企業 が主な供給の担い手だったミドルハイ(中の 上)の市場と、中国地場企業の牙城だったロ ーエンド市場とに二極化されていた。言い換 えれば、外資系企業にとって対象にすべき領 域はそれほど広くなく、市場全体からみれば ほんの一部だったともいえる。

この時期A社は、いち早く中国全土の主要 都市に拠点網をつくり大々的なチャネル開拓 を行うなど、中国市場の開拓に大変積極的な 戦略をとっていた。それに伴い、日本から駐 在員を派遣するなど、人員や資源を大量に短 期投入した。しかし、思ったほど業績は上が らず、多大なコストによる赤字経営が続いた。

その戦略が見直されたのは、2009年のこと で、きっかけはリーマンショックだった。A 社では、リーマンショックの影響を受けて業 績がさらに悪化していた。そこでA社は、従 来の拡大戦略から一気に守りの戦略に切り替 える決断をした。日本人駐在員を本国に戻し たり、管理職層も含めた現地社員の大幅なリ ストラを行った。その結果、短期的には業績 が黒字化したかに見えた。しかし、それまで 開拓してきたチャネルや顧客を競合他社に奪 われる結果となった。

同時期、市場の構造にも新たな変化が起き ていた。リーマンショックにより中国の市場 規模は一旦落ち込みを見せたが、一方で、そ れまでローエンド市場にとどまっていた中国 地場企業が、淘汰・再編の渦の中で生き残り をかけて製品の品質向上や付加価値向上に努 めた。その結果、これら中国地場企業は、競 争力を持つ企業へと成長した。そしてそれが 中国地場ユーザーのニーズにも合致し、中国 国内でミドルエンド市場が拡大していった。

しかし、リストラによって体制を縮小した A社は、その変化には気付いていなかった。

2010年、市場回復の兆しが見え始めると、

A社は再び拡大戦略へと方針を転換したが、

その中身は、かつて大躍進戦略時期にやって きたことと同じものであった。手掛ける商品 は日本市場で売られているもののままで、タ

指示が出され、代理店に無理な押し込みをす るだけであった。その結果、チャネル在庫が たまる一方で、代理店の離反も相次いだ。こ うした事業展開は、現地の市場状況やニーズ を無視したものであり、中国市場での競争に 勝ち抜ける商品もない状況では、そもそも勝 ち目のないものであった。

上述した 2 つの事例には、共通点がある。

それは、市場の変化が見えていない、あるい は、読めていないために、経営の対応も遅れ てしまった点である。

日系企業における共通課題 1 陥りやすい負のスパイラル

多くの日系企業関係者が「中国事業は難し い」という。なぜ難しいのか。それは、市場 が地理的に広く、さまざまな市場参入者がい るために業界構造が複雑だから、というだけ ではない。事業環境や市場動向は、単に市場 原理に基づいて動いているのではなく、政府 当局の政策動向によっても大きく左右される ため、その変化が読みにくいからである。

こうした市場で日系企業がよく直面するの は、①市場の変化への認識が不足しており、

②それによって、正しい判断や意思決定がで きず、③したがって、現場レベルの有効な行 動が取れず、実績に結びつかない、という負 のスパイラルの問題である(図 1 )。

企業がこうした根本的課題を解決できるか どうかは、市場変化をいかに把握するかにか かっている。逆の観点からいえば、この課題 を解決するためには、なぜ市場の変化が認識 できないのかを解く必要がある。

ーゲット顧客としても外資以外に特定するこ とができず、結局、2008年のときと同様の結 果を招き、赤字に陥り、社内も荒廃してしま った。

事例 2 :日系情報機器メーカーB社

B社の事例は、中国市場で競争に勝ち抜く ための商品を持たないなど、現地の状況やニ ーズを無視した結果、苦戦を強いられたケー スである。

B社は1990年代後半に中国で販社を設立 し、本格的に中国事業を展開し始めた。B社 はかつては非常に自由な社風で、日本本社の 商品開発部門もクリエーティブな発想を重視 し、次々とヒット商品を開発していた。中国 の販売会社には、香港や台湾で経験を蓄積し た人材を派遣し、管理層にも経験豊富な香港 人や台湾人を活用していた。日本本社の商品 企画や販売計画にも、中国現地スタッフが積 極的に参画し、日本本社と議論を重ねていた。

2000〜08年の中国市場の高成長期には、B 社の市場シェアは業界トップ 3 まで伸長し、

順調に事業を拡大していた。

ところが、2009年のリーマンショック後、

日本を含めたグローバル事業全体が赤字に陥 った。同時期に日本本社の社長交代もあり、

新社長の方針により、新規事業や商品開発が ストップされた。そして、赤字事業部門や研 究開発成果の特許などの知的財産権は韓国企 業に売却された。それだけでなく、グローバ ル事業での大幅な人員リストラ方針が出さ れ、中国で活躍していた香港人や台湾人のス タッフもこれを免れなかった。新商品がない 中、前出のA社と同様、日本市場で売られて いるままの製品を中国で売るよう、一方的な

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中国現地顧客の開拓に向けた先読み力の強化

「報連相」によって、現場の状況は正しく上 に伝えられるので、ミドル層は市場を十分に 理解しており、したがってきちんとした対策 を持って、現場への指示を出している。その 基盤があってこそ、トップも正しくかつ迅速 に判断できる構造が成り立っている(図 2 左)。

一方、日本で成功した企業が、その成功事 例をそのまま中国に持ち込んでも、なぜかう まくいかないケースが多い。

在中国の日系企業の組織体制をみると、現 場のスタッフ以外、トップやミドル層など主 な役職は日本の駐在員で占められているケー スが多い。もちろん、ここ数年、日系企業の 多くが現地化に力を入れてきている。しか し、現地化のスピードが市場の成長と変化に 追いついていないのも事実である。そうなる と、現場の中国人営業担当者から日本人ミド ル層に対して、正しい市場状況の報告がなさ れないなど、十分なコミュニケーションが取

2 苦戦する日系企業の問題構造

日本企業には一つの組織的な特徴がある。

それは、日本企業が日本や先進国で成功を手 にしてきた大きな基盤ともいえる。

日本企業は、社内のコンセンサスやトップ の決定が下されると、その後の実行が速い。

それを可能にする優秀なミドル管理層と現場 スタッフが揃っているのが日本企業の強さで ある。優秀な現場スタッフがしっかりと現場 に向かい、かつ強力な代理店を活かして、顧 客に価値を提供している。また、いわゆる

1 陥りやすい負のスパイラル

2 苦戦する日系企業の問題構造 適切な意思決定が

できない 有効な行動も

できない 市場の変化への認識が不足している

中国における日系企業の組織体制のイメージ 日本における勝ち組の組織体制のイメージ

現場 ミドル

現場 ミドル

トップ トップ

読めない 対策が打てない リソースがない

読めない 判断できない

見えない

限界のある直販 代理店任せ 実行ができない 強い代理店

正しく報告 できない 正しく報告 できない

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