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●表 1 代表的な金属を含む医薬品
元素名 元素記号 化合物名 対象疾患
アルミニウム Al スクラルファート 胃潰瘍
金 Au オーラノフィン 慢性関節リウマチ
ヒ素 As トリセノックス 難治性急性前骨髄球性白血病
コバルト Co シアノコバラミン(ビタミン B12) 悪性貧血
ゲルマニウム Ge Ge-132 (腫瘍)
リチウム Li 炭酸リチウム うつ病
モリブデン Mo テトラチオモリブデート (ウィルソン病、腫瘍)
白金 Pt シスプラチン 固形がん
セレン Se エブセレン くも膜下出血
バナジウム V 硫酸バナジルとその錯体 (糖尿病)
亜鉛 Zn ポラプレジンク、亜鉛錯体 胃潰瘍(糖尿病)
世界中で行われている。
21 世紀を象徴する病気として、糖尿病がよく話題になる。食生活や生活習慣の変化に より、エネルギー過剰、運動不足、肥満そしてストレスの蓄積により血糖値や血圧が上が り糖尿病とメタボリックシンドロームが生ずると考えられている。糖尿病はインスリンの 合成・分泌ができない 1 型とインスリンの合成・分泌はできるが体の細胞がインスリンに 反応しない 2 型に分類される。1 型糖尿病の治療には、インスリン注射が、そして 2 型の 治療にはさまざまな構造をした有機化合物としての薬が用いられている。インスリン注射 は肉体的・精神的苦痛を伴うため経口投与ができる新しい薬の開発が望まれ、一方の 2 型 糖尿病の治療薬には現在さまざまな副作用が生じることが知られ、新しいタイプの薬の開 発が期待されている。このような状況の中で金属を用いて糖尿病を治すことができるかど うかにチャレンジすることは重要なことと思われる。
興味深い歴史的事実を紹介しよう。カナダのバンディグとベストが犬の膵臓からインス リンホルモンを単離し、これを 1 型糖尿病患者に注射すると病気は直ちに治ることを発見 したのは 1922 年のことであった。この発見に先立つ 23 年も前に、フランスの医師らはバ ナジウムイオン(5 価)を糖尿病患者に与えると糖尿病が改善されることを報告している。
どのような発想でこの金属が用いられたかは明らかでないが、19 世紀末の欧州では、バ ナジウムという金属が万能薬として考えられていた形跡が読みとれる。しかし、バナジウ ムが糖尿病に関係するかもしれないと科学的に研究されたのはごく最近である。イスラエ
特別講演
●表 2 糖尿病治療作用をもつバナジウム錯体
ルの研究者達は、5 価のバナジウムを水に解かして糖尿病動物に与えると血糖値が下がる ことを見い出したが、我々は、4 価のバナジウムと有機化合物とを結合させてつくった錯 体を経口投与すると高血糖値が正常となることを 1990 年に初めて見い出した。これに勇 気づけられて、その後多数の錯体を合成した。表 2には、我々がつくった糖尿病を治す錯 体を中心にして、化学構造を示した。この研究に続いて、亜鉛を含む錯体も合成した。こ れらの錯体の中には、血糖値を下げ糖尿病を治すのみならず、インスリン作用の感受性を 上げたり、肥満を抑えたり、あるいは血圧を下げたりするメタボリックシンドロームを改 善できるものも見つかり、新しい展開が期待される。講演では、研究の現状を紹介する。
(参考)桜井 弘:金属なしでは生きられない:活性酸素をコントロールする, 岩波科学ライブラリー 120(2006 年)
桜井 弘(さくらい ひろむ)
京都薬科大学薬学部代謝分析学教室・教授。
1966 年京都大学薬学部製薬化学科卒業。1971 年同大学大学院薬学研究科博士 課程修了。1971 年藤沢薬品工業株式会社中央研究所、1972 年京都薬科大学講 師、1975 年徳島大学薬学部助教授を経て、1990 年より現職。
1986 年に日本薬学会奨励賞受賞。
著書に『金属は人体になぜ必要か』(講談社ブルーバックス、1996 年)、『元素 111 の新知識』(講談社ブルーバックス、1997 年)、『シリーズ転換期の医学 1 全人的医学へ』(分担執筆、岩波書店、2004 年)、『金属なしでは生きられな い:活性酸素をコントロールする』(岩波科学ライブラリー 120、2006 年)な どがある。
理科教育が直面している問題のひとつに「理科離れ」がある。現状打開のため、現場は もとより全国研修会や研究会の運営、実験教材の開発、実験ショーの開催、テレビの出演、
化学の教科書や実験書などの執筆を通して化学の理解増進活動を実践してきた。諸活動の 中で、化学教育の現状と問題点がある程度浮き彫りになってきた。その一端をここでは紹 介しよう。
理科教師にとって、いろいろな意味で工夫された実験は、平素の授業で生徒をいかに引 きつけるかに直結する。理科教師の資質の向上は、すぐれた実験を身につけることにある。
「教科書実験がうまくいかない」は新卒の教師はもとより現場が直面する問題である。こ のような観点から、1980 年全国私立中・高等学校理科(化学)研修会の専門委員および指 導講師を引き受けて以来、毎年、教員向けの夏期実験研修会を企画・実施してきた。
2001 年には本研修会場を大学で実施することを提案し、高・大連携の実験研修が実現 でき、現在定着している。大学でのハイレベルな実験研修は、直接教室で実施ができなく ても、先生方のバックグラウンドが大きくなり、平素の教育活動の質は向上する。また、
全国の先生方とこの研修を通じて、ネットワークが広がり、情報交換ができ、喜ばれてい る。
今後の研修会の課題としては、グリーンケミストリー的な化学実験の開発・普及が急務 である。塩素を大量に発生させるような従来型の教科書実験は、ミクロスケール化する工 夫が必要となる。また、問題点としては日常の忙しさから研修会や研究会への参加ができ ない先生方である。教師はなってからが勝負であり、研修会や研究会への参加が自由にで きる職場環境のゆとりが欲しいものである。
開成学園高等学校