1
A. 栄養療法の必要性 2
1. 栄養投与の必要性 3
CQ1.
4
栄養不良の予後への影響と対処方法は?
5 6 A1.
1) 栄養不良は予後に影響する可能性がある。(2C)(作成方針 F-1)
7
2) しかし、対処方法については未解決である。(Unknown field, C)(作成方針 F-1)
8 9
<解説>
10
小児入院患者における、栄養不良は、入院期間や病状経過に関わる1, 2)。重症病態に陥った小 11
児の栄養不良の割合は近年大きく変化はしていない3, 4)。栄養不良と臨床転帰の関係について、
12
Leite は身体計測による栄養評価を行い、栄養不良群における死亡率は有意に高値であったとし 13
ている2)。また近年行われた、小児集中治療室に入室した 2 歳以上の患児(385 例)の前向き検討 14
では、栄養不良により、人工呼吸管理日数の有意な増加を認めたとされている5)。 15
ICU に入室している小児患者では、手術や感染症、臓器不全などによりその代謝状態は大きく 16
変動し、経時的に変化する。この期間に栄養投与を行わなければ栄養状態は不良に傾くため、正 17
常な生理的応答や免疫反応の低下を招き、臨床経過に悪影響を及ぼす可能性がある。小児重症 18
病態では投与エネルギー不足と過剰投与がともによく認められるため、適切な栄養評価と栄養投 19
与量、投与方法の決定を目指すことが良好な臨床経過の一助となる。また、小児においては、短 20
期間であれ ICU 滞在中の十分な栄養投与は成長を加味すれば重要なことである。しかし、小児集 21
中治療領域における栄養不良に対する対処法については、質の高いエビデンスは不足しており、
22
未解決の領域が多い。
23 24 25
131
B. 栄養評価 1
1. 栄養評価の必要性 2
CQ1.
3
栄養評価はどのように行うか 4
A1-1.
5
ICU 入室前及び、入室後経時的な栄養評価を行うことを弱く推奨する。(2D)(作成方法 F-1)
6
A1-2.
7
個々に栄養投与計画を作成することを弱く推奨する。(2D)(作成方法 F-1)
8 9
2. 栄養評価指標の有無 10
CQ2.
11
客観的な栄養評価指標として何を使うか?
12
A2.
13
客観的な栄養評価指標はない。(unknown field, D)(作成方法 F-1)
14 15
<解説>
16
重症病態に陥った小児では、病状経過の間に栄養評価を行うことが望ましい。栄養評価におい 17
て身体計測は最も身近で、定量化できる指標である2, 6)。体重測定は小児における栄養状態の指 18
標として価値あるものであるが、ICU 在室中においては輸液療法、利尿剤の使用など、体液量に 19
影響を及ぼす因子を考慮したうえで解釈する必要がある。栄養評価としての身体計測をどの頻度 20
で行うのがよいかについて検討された報告はなく、施設により慣習的に行われていると考えられ 21
る。また、日本においては健常小児における上腕周囲長(AC)、上腕筋周囲長(AMC)、上腕三頭筋 22
部皮下脂肪厚(TSF)の基準値がなく、個人の経時的な栄養評価として使用可能である。窒素出納 23
や安静時エネルギー消費量も栄養評価の一環として使用できるが、その解釈は難しい。前述のよ 24
うに栄養不良は臨床転帰に影響を及ぼす可能性があり、予定入室例の入室前を含め、経時的に 25
栄養評価を行うことは ICU 入室患児にとって重要と考えられる。栄養評価に使用される血液検査 26
項目の中で、アルブミンは大きな体内プールと長い半減期(14~20 日)を持っており、代表的な栄 27
養評価指標として用いられている。しかし、重症病態においては、アルブミン製剤の投与、脱水や 28
輸液などによる循環血液量の増減や肝機能障害により影響を受けるため、血清アルブミン濃度 29
は栄養指標として使用できない。プレアルブミン(トランスサイレチン)は、肝臓で合成され安定して 30
血中に存在する糖蛋白である。半減期は 24~48 時間であり、アルブミンと比し短く、比較的短期 31
のたんぱく栄養指標(RTP: rapid turnover protein)として、トランスフェリンとレチノール結合蛋白と 32
ともによく用いられる7)。しかし、重症病態においては、侵襲への代謝応答のなかで肝臓における 33
132
蛋白合成の優先順位が変化し、アルブミンやプレアルブミンの合成は低下するので8)、単純に栄 1
養評価としては使用できない9)。 2
3 4
133
C. エネルギー投与量 1
1. 栄養消費量の推定 2
CQ1.
3
エネルギー消費量はどのように推定するか 4
A1.
5
間接熱量計を用いてエネルギー消費量を計測し、なければ予測計算式を使うことを弱く推奨する。
6
(2C)(作成方法 F-1)
7 8
2. 栄養投与量の決定 9
CQ2.
10
投与エネルギー量の決定はどのように行うか 11
A2.
12
至適エネルギー投与量に関する十分なエビデンスはない。(Unknown field,C)(作成方法 F-2)
13 14
<解説>
15
手術、外傷やその他侵襲によりエネルギー必要量は大きく変化し、侵襲の大きさや、期間などに 16
左右されるが、一般的に異化の応答が引き起こされる。血清中のインスリン拮抗ホルモンの上昇 17
により、インスリン抵抗性が誘発され、現状の代謝ストレス応答に必要なエネルギーや必須基質 18
を提供すべく体内貯蔵蛋白や脂肪の異化がおこる10)。ICU で人工呼吸管理下の患児では、病態 19
や状況により様々な代謝状態が生じるが、早期には代謝亢進となる傾向にある11)。重症熱傷患 20
児では、受傷後大きく代謝亢進に傾き、標準的な計算式を用いた推測の安静時エネルギー消費 21
量(Resting Energy Expenditure: REE)は、実測の REE を下回る12)。この期間に適切なエネルギー 22
供給を行うことができない場合、危険な量の徐脂肪体重喪失により、栄養不良状態をさらに悪化 23
させる可能性がある。小児集中治療領域において低エネルギーの栄養投与が臨床転帰に悪影 24
響を及ぼすという決定的な根拠は存在しないが、Larsen ら13)は小児開心術後での低エネルギー 25
の栄養投与は ICU 在室日数や人工呼吸管理日数を延長させたと報告している。一方、鎮静薬を 26
投与され人工呼吸管理中の重症病態の患児では、活動の低下や一時的な成長停止により、真の 27
エネルギー消費量は逆に少なくなっている可能性がある。この場合、健常な小児を想定して作ら 28
れたエネルギー推定量計算式を用い、さらに侵襲を加味してエネルギー投与量を決定した場合、
29
過剰投与につながる可能性がある14)。過剰投与は、二酸化炭素産生増加をもたらし人工呼吸か 30
らの離脱を妨げる、脂肪肝や胆汁鬱滞による肝機能障害、高血糖と関連する感染性合併症の増 31
加などを介し、人工呼吸期間や ICU 在室日数の増加など有害な結果をもたらす15-17)。よって ICU 32
在室の幅広い小児患者群に画一的に推測式で計算された REE や侵襲因子をそのまま適用する 33
134
ことは、安易で不正確になる恐れがある18-19)。以上より、これら重症病態に陥った小児患者のエ 1
ネルギー消費量の測定に関しては、間接熱量計による REE の測定が望ましい。さまざまな重症病 2
態の小児で、間接熱量計による REE 測定が可能との報告がある20-24)。ただし、機材は高価であり、
3
日常的に使用するのは困難である。
4
重症病態に陥った小児への適切なエネルギー投与量に関してはほとんど検討されていない。推 5
奨されるエネルギー投与量に関しては今後の研究が待たれる。
6 7 8 9 10
135
D. 三大栄養素(多量栄養素):炭水化物、たんぱく質、脂質 1
1. 三大栄養素の投与量 2
CQ1.
3
炭水化物、たんぱく質、脂質の投与量は?
4
A1.
5
それぞれの各投与量を推奨する十分なエビデンスはない。(Unknown field, C)(作成方法 F-2)
6 7
<解説>
8
投与エネルギー量の推奨はできないこともあり、炭水化物、たんぱく質、脂質のいわゆる三大栄 9
養素の推奨投与量も同様に明確な結論はない。
10
グルコースは脳をはじめとするエネルギー基質として最も重要であるが、貯蔵グリコーゲンの量 11
は限られており、侵襲時には容易に枯渇して糖新生が必要となる。ただ、この時期に外因性の糖 12
質を投与しても糖新生を抑制することはできず、結果的には高血糖を引き起こす。
13
重症病態や、手術侵襲後では蛋白の異化と代謝が亢進する。蛋白代謝の亢進によりアミノ酸が 14
継続的に供給され、蛋白合成に使用される。すなわち、骨格筋から肝臓や創傷部位、また、免疫 15
応答に関わる組織にアミノ酸の再分配が行われる。これらは、侵襲時の生理学的応答を最大限 16
にする反応といえる。異化と合成は共に亢進するが、優勢なのは異化である。よって蛋白平衡は 17
負となり、骨格筋消耗、体重減少、免疫機能不全に至る。乳児では術後、蛋白分解が 25%上昇し、
18
敗血症を併発すると尿中窒素排泄は増加する25, 26)。重症病態においてたんぱく質(アミノ酸)の投 19
与は、創傷治癒や免疫応答のために必要と考えられる。ただし、腎機能や肝機能障害が存在す 20
るときには、過剰な蛋白投与は避けるべきである。4~6g/kg/day という高たんぱく投与下では、高 21
窒素血症、代謝性アシドーシス、および神経発達異常といった有害事象が認められている27)。アミ 22
ノ酸投与に関する推奨投与量に関して、ASPEN のガイドライン28)では、0~2 歳では 2~3g/kg/day、
23
2~13 歳では 1.5~2g/kg/day、13~18 歳では 1.5g/kg/day の蛋白投与が必要であるとの記載が 24
あるが、これらは根拠に乏しい専門家の意見である。乳児集中治療患者を対象として、標準的な 25
ミルクに比し、蛋白および、1ml あたりのエネルギー量を上げた経腸栄養剤の投与効果について 26
の報告があり、窒素バランスの有意な改善を認めたとされる29, 30)。Botrán ら31)は 1 か月から 16 27
歳までの小児 41 名において、標準的な経腸栄養剤に比し、たんぱく質のみを強化した経腸栄養 28
剤の投与効果について検討を行い、有意なレチノール結合蛋白の上昇を認めたと報告している。
29
これらの報告は窒素バランスやその他栄養パラメータの改善に焦点を絞っており、ICU での転帰 30
については記載がない。よって、このような蛋白を増量した経腸栄養が小児集中治療において有 31
益であるか否かについては、さらなる検討が必要といえる。
32
脂質に関しても、糖やたんぱく質と同様に、侵襲により代謝は亢進する32)。小児においても重症 33