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本節では、本章第一節から第四節までの 査定一般 をめぐる議論を踏まえた上で、具体的な 査定の類型について検討していく。検討の順序として、第一項と第二項では、それぞれ略式査定

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と不足税額査定というように、連邦税確定過程で一般的に用いられる査定類型を紹介していく。

これに対し第三項と第四項では、緊急事態や破産手続といった例外的場合において、上記一般的 な査定類型がどのように用いられ、またこれら査定類型以外の 特殊な 査定類型がいかなるも のであるのかについて検討していく。

第一項 略式査定(summary assessments)

本項では、まず1において、略式査定が実施される場合を一般的に論じる。ついで、2と3に おいては、それぞれ、略式査定が実施されていない段階で納税者から送金がなされてきた場合の その送金の法的性質をめぐる議論と、略式査定が実施された後に納税者から納付があった場合に その納付が査定に及ぼす法的影響をめぐる議論とを検討する。これら二つの技術的な法解釈論を 検討することを通じて、現在のアメリカの連邦税確定過程の中で、略式査定がいかなる機能を果 たしているのかについての一定の理解を得たい。

1.申告税額どおりの査定

前述のように、略式査定とは、納税者が IRS に対し申告書を提出し、その申告内容につき不 足税額がないものと IRS が判断する場合において、IRS がその申告書に記載されている税額どお りに査定を実施する――より正確に言えば実施しなければならない――査定類型のことである(§6

(a)(1);Reg.§31.6(a)(1)。全米で毎年提出される申告書のうちほとんどの申告書は、この IRS による略式査定を通じて、その税額が確定されることになる。これに対して、IRS が納税者の申 告税額に何らかの不足があると判断する場合には、後述のごとく、原則として租税裁での不足税 額訴訟の機会を含む不足税額手続を経た上で、不足税額査定を実施せねばならない(§6(a); Reg.

§31.6(a)(2)。ただし、このような 略式査定 と 不足税額査定 との手続上の明確な区 別にもかかわらず、以下に掲げる一定類型の「不足税額」に関しては、IRS は事前に不足税額手 続を踏むことなく、略式査定を実施することが認められている

これら類型の一つとして、納税者が提出した申告書の内容に「計数上ないし些細な誤り(mathe-matical or clerical error)」がある場合、IRS は職権によりその誤りを是正し、その結果として生じ た「不足税額」に関しても、不足税額手続を踏むことなく、略式査定を実施しうるという制度が ある(§6(b)(1);Reg.§31.6(b)(1)。ここで言う「計数上ないし些細な誤り」にあたるも のとして、内国歳入法典では、①加減乗除計算に明らかな誤りがあること(§6(g)(2)(A)

②申告書上の他の情報から見て、使用されている計算表(table)が明らかに誤っていること(§6 (g)(2)(B)、③同一申告書上の勘定項目間に矛盾した記載があること(§6(g)(2)(C)、④

申告書上の記載事項につき必要とされる裏付け情報が省略されていること(§6(g)(2)(D)、⑤ 内国歳入法典上定められた上限額又は上限率を超える金額の控除をしていること(§6(g)(2)

(E)、⑥そのほか納税者の識別番号に係る各種の記載ミス等(§§6(g)(2)(F)(M)が挙げられ

!木:米国連邦税確定行政における「査定(assessment)」の意義(3・完)

ている。

もっとも、以上に挙げた「計数上ないし些細な誤り」を IRS が認定した場合、IRS は職権でも って是正ののち、略式査定を実施しうるとされているものの、その査定実施 後 には次に掲げ る手続を履行せねばならない。すなわち IRS は対象納税者に対し、「計数上ないし些細な誤り」

に基づき略式査定を実施した旨について、事後的に通知を送付し、その金額や理由を明らかにす るとともに、さらに当該納税者が60日以内にその略式査定の「取消し(abatement)」を求めるこ とができる旨を教示せねばならない(§6(b)(1);§31.6(b)。なお、ここで言う 通知 は 90日レターではないので、対象納税者が本通知を受け取っても、租税裁へと提訴することはでき ない(§6(b)(1);§31.6(b)。ただし、90日レターの場合のように、この60日の期間中、IRS は差押などの徴収措置をとることを禁じられている(§6(b)(2)(B)

さて、本通知を受けた納税者が、「計数上ないし些細な誤り」に係る IRS の判断に同意せず、

その略式査定の取消しを求めてきた場合においては、IRS は当該査定を必ず取消さなければなら ない(§6(b)(2)(A)。そして IRS が、対象納税者に関して、なおもその「計数上ないし些細な 誤り」を是正する必要を認め、またその是正に基づく不足税額につき改めて査定(reassessment)

を実施しようとする場合には、通常どおりの不足税額手続を踏んで、不足税額査定を実施せねば ならない(§6(b)(2)(A)。逆に言えば、「計数上ないし些細な誤り」に係る略式査定の通知 を受けた納税者が、所定の60日以内にその査定の取消しを求めてこなかった場合には、IRS は、

当該納税者が租税裁での不足税額訴訟の機会を放棄したものと見なしてよいということでもある。

したがって、この60日が徒過した場合において、対象納税者がその査定税額を争うためには、基 本的には――すなわち徴収差止訴訟の可能性などを除いて――いったんその査定税額を全額納付した上 で、還付訴訟手続を踏むルートしか残されていない。

以上に挙げた「計数上ないし些細な誤り」の場合のほかにも、納税者が IRS 主張の不足税額 を90日レター 送付前に 自発的に納付した場合には、IRS はその納付税額につき改めて不足税 額手続をとることなく、略式査定を実施しうる(§6(b)(4);Reg.§31.6(b)(3)。IRS がこの 納付に基づく略式査定を実施した場合であって、なおも係争課税年度につき納税者に不足税額が あると認定する場合には、IRS は略式査定済みの税額分を控除した上で不足税額を認定し、90日 レターを送付することになる(Reg.§31.6(b)(3)。反対に、この種の納付に基づく略式査定が 実施された場合であって、係争課税年度につきもはや納税者には不足税額がなくなったと認めら れる場合においては、IRS は納税者に対し90日レターを送付してこないので、その結果当該納税 者には租税裁での不足税額訴訟の機会が与えられなくなる(Reg.§31.6(b)(3)。したがってこ の場合において、当該納税者がなおも係争課税年度の税額につき争おうとする場合には、基本的 には還付訴訟手続をとることとなる。

なお、納税者が IRS 主張の不足税額を90日レターの 送付後に 自発的に納付した場合であ るが、この場合に関しても、IRS は当該納付税額につき略式査定を実施することができる(§6

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(b)(4);Reg.§31.6(b)(3)。もっともこの場合、納税者は略式査定が実施されているにもかか わらず、租税裁へ提訴する権利を奪われることはない(§6(b)(4);Reg.§31.6(b)(3)。この ように、90日レター 送付前 と 送付後 では、納税者の自発的な納付の取扱いにつき、どち らも略式査定を実施しうるという点では共通しているが、租税裁での不足税額訴訟機会の付与の 有無という点では相違している。もっとも、この後者の相違点に関して注意せねばならないこと は、90日レター 送付前に 、納税者が――もっぱら不足税額訴訟で敗訴した場合に支払わねばならなくな る遅延利子の累積などを回避するため――IRS 認定の不足税額を自発的に「預託(deposit)」 ――「納付(pay-ment)」ではなく――した場合においては、後に論ずるように、租税裁での不足税額訴訟の機会が 認められることとなる(Rev. Proc.88,2C.B.51,§2.03)

ついで、第三章や第四章で紹介したように、調査過程や不服審査過程等において、納税者が IRS との交渉の中で和解に達し、一定の不足税額につき、その査定にあたっての制約(不足税額手続)

を各種の合意形式――書式80、書式8‐AD、終結合意等――を用いつつ(§6(d); Reg.§31.6(d) 放棄した場合――すなわち一定の不足税額につき略式査定されることを承認した場合――にも、IRS は、改 めてその不足税額につき不足税額手続をとることなく、略式査定を実施しうる。また同じく、

IRS が90日レターを送付しても、納税者が90日の出訴期間内に出訴してこなかった場合にも、IRS 認定の不足税額につき略式査定が認められる(§6(c); Reg.§31.6(c)。さらに、納税者が純 営業損失の繰戻し更正に基づく還付又は充当を申請し、IRS が暫定的にそれらを認めた一方で(§

1)、後にそれら還付金額又は充当金額が過大であることが判明した場合においても、IRS はそ の過大還付又は充当金額につき略式査定を実施しうるものとされる(§6(b)(3);Reg.§31.6

(b)(2)

2.査定前の送金(pre‐assessment remittances)

略式査定との関係で、じゅうらい判例や学説において、IRS がまだ略式査定を実施していない 段階で、納税者から「送金(remittance)」がされてきた場合のその送金の法的性質について、「納 付(payment)」と理解するのか、それとも「預託(deposit)」と理解するのかで、議論の対立が 生じてきた

これら理解の相違は、以下三点にわたる、内国歳入法典上の解釈論的帰結の相違へとつながる。 すなわち第一に、「送金」が「納付」と理解される場合には、この送金が受領された時点が、還 付請求期間の起算点となり、また――還付が認められることになった際に発生する――還付利子の起算 点となるのに対して、「預託」と理解される場合には、それらいずれの起算点にもならない(Rev.

Proc.88,2C.B.51,§4.02,1)。ついで第二に、「送金」が「納付」と理解される場合には、

納税者はその送金額を取り戻すため、(還付請求期間の遵守を含む)還付請求手続を踏まなければな らないのに対し、「預託」と理解される場合には、こういった手続を踏むことなく、納税者はい つでも随意に、その送金額につき IRS に対し返還を求めうる(Rev. Proc.88,2C.B.51,§4.02,

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