以上本章では、「査定」の理論的意義を確認した上で、連邦税確定過程においてこの行為形式 がいかに制度的に組み込まれ、実際に機能しているのかについて検討してきた(おもな査定に関す る一覧表として後掲表 D参照)。本章での一連の検討から、次の点が分かった。すなわち、アメリカ の連邦税確定過程においては、納税者側の主体的な行為形式である 申告行為 によっても、あ るいは、課税庁 IRS 側の税額変更に係る行為形式である 不足税額認定 ――とそれに基づく納税 者宛ての90日レター送付――によっても、税額が法的に確定する(=徴収が可能となる)わけではなく、
むしろ「査定」という IRS 内部における行為形式を媒介として、税額が法的に確定する。そし
!木:米国連邦税確定行政における「査定(assessment)」の意義(3・完) 123
て、この査定という、一見すると極めて事務的な行為形式については、第一節で考察したように、
裁判判決類似の観点から 観念的に 重要な意義を持っているだけではなく、第二節から第五節 にかけての各所で考察してきたように、連邦税確定過程における各種の法制度の中での位置づけ や、各種の法解釈論上の対立の中で、 現実的に も重要な機能をはたしている。
そこで、本章全体の検討作業を通じて確認した、連邦税確定過程における査定の《結節点的な 意義(税額の法的確定効)》を念頭に置いた上で、第三章から第五章までの素描作業から導き出した、
「交渉(negotiation)⇒和解(settlement)」の手続構造に基づく連邦税確定過程を 再構成 し てみると、アメリカの連邦税確定過程は、日本との比較において、次のように言えるのではない かと思われる。すなわち、アメリカの連邦税確定過程は、納税者と IRS とが合意のうえ略式査 定に至るにせよ、あるいは、納税者と IRS とが裁判――租税裁での不足税額訴訟――のうえ不足税額 査定に至るにせよ、査定という行為形式における税額の 終局的な法的確定にむかって なされ る、納税者と IRS との間での「交渉⇒和解」の手続構造によって特徴づけられる。したがって この点、納税者の申告行為と課税庁の課税処分とが、客観的に真実な税額の確認をめぐって、ま たそのつど税額の 暫定的な法的確定をともなって 競合的に展開していく手続構造により特徴 づけられる、日本の税額確定過程とは、その性質上異なっている476477。
しかしながら、以上に述べた定式的な言明に対しては、例えば、次のような指摘が成り立ちえ よう。すなわち、アメリカの連邦税確定過程においては、再査定や査定に係る職権取消し制度が あり、査定が「終局的な法的確定」とは必ずしも言えないのではないかとか、あるいは、査定類 型の中には、緊急査定・繰上査定や破産査定・管財査定といった一方的な査定類型があり、納税 者と IRS との間での「交渉⇒和解」の契機によっては、連邦税確定過程の手続構造を必ずしも 特徴づけられえないのではないか、といった指摘である。したがって、これら指摘が妥当する限 りにおいては、上記言明に対しては、一定の留保が付せられねばならないだろう。
ただしそれと同時に、再査定等は一般的な査定制度にともなう附随的な制度ではないかという 点、また上に掲げた一方的な査定類型についても、略式査定や不足税額査定といった基本的な査 定類型からみれば、例外的な査定類型にとどまるのではないかという点にも留意すべきであろう。
すなわち、アメリカ連邦税確定過程の手続構造を分析し、その特質を日本の税額確定過程との関 連において概念的に把握しようとする本稿の考察目的からみると、これら附随的・例外的制度の 存在を重視することについては、やはり一定の方法論的な限界があるのではないかと思われる。
いずれにせよ本稿は、基本的には、アメリカにおける「標準的な」連邦税確定過程の流れ【前掲 図 C参照】を念頭に、日本の「標準的な」税額確定過程との比較において、しかも 手続構造 という一定の分析視角を交えながら、日米比較分析を試みているという点を確認しておきたい。
もっとも、再査定等であれ一方的な査定類型であれ、附随的・例外的な制度と言えるとしても、
査定という行為形式が、「標準的な」連邦税確定過程においてのみならず、その過程全般におい て重要な位置づけを持っていることは、これら制度の存在から論証できるであろう。すなわち、
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当初の査定であれ再査定であれ、税額の法的確定にあたっては査定が実施されるのであり、また 一般的な査定類型であれ上記の例外的な査定類型であれ、税額の法的確定にあたっては査定が実 施されるのである。
かくして以上のことから、査定という行為形式が、アメリカの連邦税確定過程 全般 におい て、重要な位置づけにあることが分かった。それでは次に、本稿冒頭(第一章)で述べた問題意 識との関連で、この 査定(assessment)の意義につき 申告納税(self‐assessment)制度との論 理的な関係を問うことを通じて、日米申告納税制度に係る比較分析をしてみよう。なおこの分析 に当たっては、本稿第二章の素描作業の結果導き出された、アメリカでは(日本とは異なって)申 告書を提出するという行為につき、法形式面からみた「独自の位置づけ」が乏しいのではないか という点を、再度念頭に置いて考えてみる必要がある。
まず、IRS 内部において実施される査定を意味する assessment 概念と、アメリカの申告納 税制度を表現している self‐assessment における assessment 概念との相違に関してであるが、
以下の記述が簡潔に説明しているので、引用してみたい。「まずもって、納税者自身が、申告書 により示された方法で租税を計算(computes)しているがゆえに、その過程は一般に、self‐assess-ment の一つとして表現されるのである。しかし実際のところ、assessにより示された方法で租税を計算(computes)しているがゆえに、その過程は一般に、self‐assess-ment は、正式には、IRS 長 官、あるいは、IRS 長官がその権限を委任した IRS の職員によって、実施されるのである」478。 言うまでもなく、ここでの記述では、self‐assessment における assessment が「計算」の意味合 いを持っており、この納税者による assessment と、IRS 長官が実施する assessment とは、
全く別の概念であることが端的に指摘されている479。
そして、この記述による指摘から補足的に、またこれまで述べてきた本稿の叙述全体を根拠と して結論づけうることは、アメリカの self‐assessment における assessment 概念は、あくまで も、税額の法的な確定へ向けての 算定行為 ということを含むに過ぎないことであって480、税 額の法的な 確定行為 という内容は、IRS 内部における事務的な行為である assessment 概 念にのみ含まれるということである。したがってこの限りにおいては、アメリカの self‐assessment 制度は、わが国の申告納税制度、すなわち納税者による申告書の提出行為(申告行為)を「公法 行為」と構成し、それに「算定行為」のみならず「確定行為」の意味合いをも持たせている制度 とは、その性質上全く異なるものなのである。いわば、日本の申告納税制度においては、納税者 みずから自己の負う具体的納税義務(税額)を計算するということのみならず、申告書を提出す るという行為形式そのものに対し、「公法行為」というかたちで一定の法的固有性ないし権威―
―いわゆる税額に係る第一次的確定権――が認められているところ、アメリカの self‐assessment 制度に おいては、この後者の側面、すなわち申告書の提出行為につき法的固有性ないし権威が認められ ていないのである481。
しかしながら、こういった定式的な言明に対しても、例えば、次のような指摘が成り立ちうる であろう。すなわち、アメリカの self‐assessment 制度の場合であっても、略式査定の場合には、
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法制度上、納税者の申告内容の変更が IRS によって原則として認められないという点で、納税 者がおこなった算定の結果が尊重され、確定がなされている。また実務上、納税者から提出され た申告書のほとんどが、その算定どおりに略式査定というかたちで、確定に至っている。したが って、これらの点を踏まえれば、アメリカの self‐assessment 制度も、納税者の申告行為の結果を 受けて税額が法的に確定していると言えるのであり、それゆえ日本の申告納税制度と同じではな いか、と。
もっともこの指摘に対しては、だからと言って、アメリカの self‐assessment 制度の場合には―
―日本の申告納税制度の場合と違って――、納税者が申告書を提出したこと、すなわちその「申告」
というその行為形式そのものを理由として、暫定的にであれ具体的な納税義務に係る租税法律関 係の形成変動が生じるものではない――すなわち申告行為につき税額の第一次的確定権が認められている わけではない――、との応答が可能であろう。いわば、法制度上 形式的 な側面から見ると、ア メリカの self‐assessment 制度は、やはり日本の申告納税制度とは異なっていると言わざるをえな いのである。
それでは逆に、この「査定」という課税庁の行為により税額が法的に確定するといった、法形 式的な側面を重視して、じゅうらいわが国で「申告納税制度」と理解されてきたところの、アメ リカの self‐assessment 制度を、わが国でいう「賦課課税制度」と理解してしまっても良いのであ ろうか。しかしながら、この理解に対しては、まず「査定」があくまでも行政内部における行為 形式であって、――行政外部に対する行為形式たる――日本の「賦課決定」(国税通則法32条3項)に相当 するものとは言えないのではないか482、との行為形式面における法的性格上の相違が指摘できる とともに、納税者がみずから負うべき税額を自主的に計算して課税庁に対し申告書を提出し、ま たみずからが負うべき税額を自発的に納付しているといった、アメリカの self‐assessment 制度の
実質的な 側面にかんがみると、やはり違和感をおぼえるざるをえない。
以上の点から結局のところ、日米申告納税制度の概念的な異同については、次のように言及す るしかないのではなかろうか。アメリカの申告納税(self‐assessment)制度は、その「実質」に おいて日本の申告納税制度と同様であるが、その「形式」において日本の申告納税制度と相違し ている、と483。
第七章 むすびに
本稿は、じゅうらい日本の申告納税制度の「母法」に当たるものとして、しばしば引き合いに 出されてきたところのアメリカの申告納税(self‐assessment)制度について、納税者がおこなう self
‐assessment と、IRS がおこなう assessment をめぐる、わがくに既存の翻訳の「多様性」にかんが みて、これら両 assessment 概念の論理的な関係がはたしていかなるものであるのか、またこ の点と関連して、日本の申告納税制度とアメリカの self‐assessment 制度とを全く同一視してもよ いのかという問題意識のもと、アメリカ連邦税確定過程の 手続構造 を分析してきた。
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