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次節の図表4-2は松下とウェルチの両者が使用した形容詞と動詞を、総使用語数、

総出現頻度、頻度5回以上の語の合計、頻度5回以上の語が該当品詞全体に占める出現 頻度の4項目を一覧にしたものである。

図表4-2 松下とウェルチに関する上記データの概要

形容詞 松下幸之助 ジャック・ウェルチ

総使用語数 115 語 207 語

総出現頻度 914 回 2496 回

頻度 5 回以上の語の合計 29 語 31 語

および全体に占める出現頻度(%)

763 回(83.48%) 2257 回(79.1%)

動詞

総使用語数 879 語 1702 語

総出現頻度 6532 回 19434 回

頻度 5 回以上の語の合計 186 語 431 語

および全体に占める出現頻度(%)

5414 回(82.88%) 17276 回(88.9%)

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さらに図表4-3では分類語彙表(国立国語研究所)(2004)を参考にして、松下、

ウェルチ両氏の形容詞と動詞を意味分類した。(73)

図表4-3 分類語彙表(国立国語研究所)(2004)を参考にした意味分類

図表4-4は動詞の意味分類表である。松下とウェルチの大きな違いは、「入り・入 れ、開始、授受、発生・発着、出会い・集合、往復、聞く・味わう、出没、終了・停 止、書き」の意味を持つ動作動詞をウェルチだけが使用している点である。また、動 作動詞以外の動詞に関しては両者に大きな違いは見られない。

分類語彙表の意味分類にしたがって、両氏が使用した動詞と形容詞を分類したのが次 頁の図表 4-4 である。

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図表4-4 分類語彙表(国立国語研究所)(2004)を参考にした意味分類

さらに、ウェルチの形容詞と動詞を分類語彙表の意味分類にしたがって分類する と、ウェルチでは大小・多寡の「量的表現」を意味する形容詞はわずか一語(「高 い」)のみである。また、ウェルチには「難易」、「真偽・是非」、「生理・病気」を意味 する形容詞は見られないが、「新旧」を意味する形容詞(「新しい」)が見られる。

動詞の使用に関しては、ウェルチでは「授受」、「出会い・集合」、「聞く」、「書き」を

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意味する動詞(「与える」、「会う」、「聞く」、「書く」)が見られる。しかし松下にはこれ らの動詞は見られない。

松下と同様に、ウェルチのリーダーシップも彼の生い立ちや成功、失敗を含む人生経 験、環境がその信条、哲学、生き方、感情に大きな影響を及ぼしている。ジャック・ウ ェルチは 1935 年、アメリカのマサチューセッツ州ピーポディで鉄道会社の車掌と専業 主婦の家庭に生まれた。彼の自伝には父親の記述が少ない反面、母親グレイスについて の言及が多く、とりわけ学校時代の母親の姿を描いた場面がきわめて印象深く、かれの 人生に大きな影響を与えていることがわかる。ウェルチのケースは母親が自身の願望を 息子(=ウェルチ)に達成させようと強い圧力をかけ続けた一例だ。やや長くなるが、

彼の自伝から引用する。

『わがセーラム高校は開幕三連勝と好スタートを切りながら、その後六連敗を喫し、

(中略)リン・アリーナでの最後の試合(中略)は大接戦となり、二対二で延長戦に もつれこんだ。しかし、延長開始直後にゴールを奪われ、またしても涙を飲んだ。七 連敗だ。(ロッカールームで)チームメートはすでに腰をおろし、スケートシューズ やユニフォームを脱ぎ始めていた。突然、ドアが開き、私の母がものすごい形相で入 ってきた。(中略)母はまっすぐ私のところへやって来て、私の胸ぐらをつかんだ。

「なんてだらしがないの」。母は声を限りに罵倒した。「負け方を知らないなら、いつ までたっても勝てるわけがないでしょ。そんなこともわからないなら、ホッケーなん かやめなさい」

私は恥ずかしかった-友達がみんな見ているわけだから-けれども母の言葉は肺腑 に沁みた。更衣室まで押し入ってきた、怒りを爆発させ、渇を入れ、失望をあらわに し、愛情を降り注ぐ。私の母はそういう人間だった。母は私の人生にもっとも強い影

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響を与えた人だ。グレース・ウェルチは私に勝つ喜びを教え、敗北に挫けてはいけな いことを教えながら、戦うことの意味を教えてくれた。』

さらにつづけてウェルチは自身のリーダーシップについても述べている。

『私のリーダーシップに何かスタイルがあるとすれば、つまり人間の持てる力を最大 限に引き出すのが私のスタイルだとすれば、それは母のおかげだ。芯が強くて気が強 く、あたたかくて気前がよかった母は、人を見る目があった。(中略)そして、私の 経営に関するさまざまな基本姿勢、つまり勝つために全力で戦う、現実を直視する、

硬軟使い分けて部下のやる気を引き出す、無理と思えるほど高い目標を掲げる、仕事 が成し遂げられたかを執拗に確認する、という姿勢も、元をたどれば母の影響かも知 れない。母に叩きこまれたことは、色褪せることがなかった。(中略)取引や事業の 問題が奇跡的に解決すると思い込みたくなるたびに、母の言葉が私を叱咤する。学校 に通うようになるとすぐに、常に頂点をめざせと教えられた。』(74)

マイケル・マコビーはウェルチのような CEO に共通する人格を「ナルシシスト人 格」とよぶ。マコビーは「ナルシシスト人格」について、以下のように述べる。

『....ナルシシストは正しいことをしなければならない、と感じることがほとんど ない。こうした内的制約をもたないかわりに、ナルシシストは何が正しいか、何に価 値を認めるか、自分にとって何が意味を持つのかを、自分で決める。』 (75)

マコビーによれば、ナルシシスト人格とは、「ものごとの『現に在る』状態を拒絶し、

ものごとの『在るべき』状態を求める人間」である。「ナルシシストは、『他人の言葉に ぜったいに耳を傾けない人間』であり、『ナルシシストのヴィジョンは、かならず現状 否定から始まる』、と指摘している。(76)

マコビーは人格を 4 つに分類したが、ナルシシスト人格を除く 3 つには「正しいこと

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をしたい」という意識があるのに対して、ナルシシスト人格はそうした意識、内的制約 は希薄で、自分にとって何が意味をもつかを自分で決める、という。即ち、他者を参考 または目標モデルにしない、つまり通常の社会的指標が通用しない点でその他の3つの 人格と異なる。

ナルシシストは非生産的ナルシシストと生産的ナルシシストの二つのタイプに分か れるが、後者、生産的ナルシシストは「情熱を抱き、ヴィジョンから力を得、カリスマ 性を発揮して、人々を自分の内なる会話へ引き込んでいく。生産的ナルシシストは味方 と敵を正確に把握しており、つねに警戒を怠らない。」(77)

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