第 一 節 本 稿 の 結 論 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成
本 稿 の 考 察 か ら,集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 法 的 構 成 を 次 の よ う に示 す こ とが で き る。
(1095)な お,集 合 的 ・公 共 的利 益 に対 す る規 範 に基 づ く義 務 に 違 反 す る こ と に よ って 得 られ る ま た は得 た利 益 は,義 務 を 負 う主 体 が本 来 得 るべ きで はな い 利 益 で あ るの で,こ の 衡 量 にお い て 考 慮 に入 れ るべ きで はな い。
一・.第 一一次 的 権 利(地 位 的 権 利)と して の 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る私 法 上 の 権 利
(1)定 義
集 合 的 ・公 共 的 利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 は,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に基 づ いて 義 務 を 課 せ られ て い る主 体 が その 義 務 に違 反 して い る場 合 に,そ の 義 務 を 負 って い る主 体 に対 して,そ の 違 反 して い る状 態 の 是 正 を 求 め る こ との で き る地 位 」 と定 義 され る。
(2)基 本 構 造
集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 基 本 構 造 は,他 方 当 事 者(Y)が 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 実 現 を 基 礎 づ け る規 範 に基 づ い て 何 ら か の 義 務 が 課 せ られ て い る と き に,Yに 対 して 当該 義 務 の 遵 守 を 求 め る権 利 を一 方 当事 者(X)が 得 る とい う関係 で あ る(1096)。
(3)目 的(客 体)
集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 の 目的(客 体)は,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に基 づ いて 義 務 づ け られ る作 為 ま た は不 作 為 」 で あ る(1097)。な お,こ の 規 範 に よ って 実 現 され る集 合 的 ・ 公 共 的 利 益 は,公 共 哲 学 に お け る 「公 共 性 」 に よ って 基 礎 づ け られ,か つ 民 法 の 規 律 の 対 象 にな る必 要 が あ る。
(4)要 件
集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 目的(客 体)を 基 礎
(1096)な お,本 稿 に お い て,私 人 に よ る民 事 訴 訟 を通 じた秩 序維 持 の 実 現 を 基 礎 づ け る私 法 上 の権 利 と して の 「集 合 的 ・公共 的利 益 に 対 す る私 法 上 の 権 利 」 の 構 築 を考 察 の 対 象 と して い た こ とに つ い て,本 稿 第一 章 第 三 節 四.
(3)も参 照 。
(1097)な お,集 合 的 ・公 共 的利 益 の実 現 を基 礎 づ け る規 範 とは,「 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 して 形 成 さ れ た 秩 序 に よ って 他 の主 体 に課 せ ら れ て い る義 務 を,そ の 主 体 に対 す る民 事 訴 訟 を通 じて私 人 が直 接 的 に 実現 す る こ とを 基 礎 づ け る規 範 」 を 意 味 す る。
づ け る秩 序 の 類 型 ご と に,第 一一次 的 権 利(地 位 的 権 利)と して の 集 合 的 ・ 公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 の 要 件 はそ れ ぞ れ 次 の よ う に示 さ れ る。
(a)行 政 法 上 の 規 定 に よ って 形 成 され る規 範
① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 行 政 法 上 の 規 定 か ら導 か れ る義 務 が 存 在 して い る こ と。 な お,義 務 を 課 す か 否 か につ いて 行 政 庁 に裁 量 が 認 め られ て い る場 合 で,行 政 庁 が その た めの 処 分 を して いな い と き は, 義 務 は存 在 して いな い と解 釈 され る。
② 対 象 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に属 す る私 人 に も関 わ り,か つ その 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と。
③ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一一定 の 市 民 に対 して 個 別 に利 益 が 割 り 当て られ て い る,と い う意 味 に お いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と。
④ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 が 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の 枠 組 にお け る 「競 争 秩 序 」 「生 活利 益 秩 序 」 に含 ま れ る利 益 で あ る こ と。
⑤ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 実 現 しよ う とす る私 人 が 自 ら も当 該 義 務 を 負 って い る場 合,当 該 義 務 を 自 らも遵 守 して い る こ と。
⑥ 問 題 とな る民 法 上 の 制 度 と行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 対 象 とな る主 体 関 係 が 一致 す る こ と。
⑦ 行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 目的 とな る公 益 が 「私 益 の 集 合 」 と して 捉 え られ る こ と。
⑧ 当該 民 法 上 の 制 度 の 規 律 の 対 象 とな る利 益 と行 政 法 上 の 規 定 の 規 律 の 対 象 とな る利 益 とが 同質 で あ る こ とを 示 す こ と に よ って,行 政 法 上 の 規 定 と民 法 上 の 制 度 の 間 に 「私 益 間 の 利 害 調 整 」 と い う場 面 で 機 能
す る と い う意 味 に お け る実 体 法 上 の 同質 性 が 認 め られ る こ と。
⑨ 既 存 の 民 法 上 の 制 度 に存 す る機 能 が 当該 行 政 法 上 の 規 定 に よ る修 正 に よ って 失 わ れ な い こ と。
⑩ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 を 主 張 す る私 人 に つ いて,当 該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た行 政 法 上 の 規 定 な どの 規 律 の 対 象 とな る利 益 と 同質 の 利 益 を 実 現 す る た め に,既 存 の 民 法 上 の 制 度 に基 づ いて 何 らか の 請 求 権 が 認 め られ る こ と(1098)。
(b)合 意 に よ り成 立 す る協 定 に よ って 形 成 され る規 範
① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 私 人 と行 政 主 体 との 間 で 結 ばれ た協 定 か ら導 か れ る義 務 が 存 在 して い る こ と。 な お,当 該 協 定 に関 して,そ
も そ も いか な る主 体 に も 当該 規 範 の 違 反 を 強 制 力 に よ って 是 正 す る こ とが 認 め られ な い と い う と き に は,当 該 規 範 は,実 現 され な けれ ば実 力 と して の 強 制 力 を 通 じて 実 現 され う る と い う性 質 を 持 って いな い,
と解 釈 され る た め,こ の 要 件 は満 た され な い こ と とな る。 ま た,私 人 間 で 結 ばれ た協 定 の 場 合 に は,契 約 法 理 等 に基 づ く解 釈 に よ って 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に対 す る私 法 上 の 権 利 に よ る強 制 が 是 認 され る
と解 され る場 合 にの み 認 め られ る。
② 対 象 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に属 す る私 人 に も関 わ り,か つ その 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と。
③ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一一定 の 市 民 に対 して 個 別 に利 益 が 割 り 当て られ て い る,と い う意 味 に お いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と。
④ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 が 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の 枠 組 に お け
(1098)な お,こ こで 要 件 と して発 生 す る こ との 求 め られ る請 求権 の 内 容 ・性 質 に は,特 に限 定 が 付 され な い。
る 「競 争 秩 序 」 「生 活利 益 秩 序 」 に含 ま れ る利 益 で あ る こ と。
⑤ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 実 現 しよ う とす る私 人 が 自 ら も当 該 義 務 を 負 って い る場 合,当 該 義 務 を 自 らも遵 守 して い る こ と。
⑥ 集 合 的 ・公 共 的利 益 の維 持 に対 す る私 法 上 の権 利 を主 張 す る私 人 が, 義 務 を 負 う私 人 と行 政 主 体 との 間 で 結 ばれ た協 定 に よ って 形 成 され る 規 範 の 目的 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に含 まれ て い る個 別 の 利 益 を 保 持 して い る こ と。
(c)慣 習 法 に よ って 形 成 され る規 範
① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 慣 習 法 か ら導 か れ る義 務 が 存 在 して い る こ と。
② 対 象 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 が,複 数 の 私 人 の 集 合 につ いて,そ の 集 合 に属 す る私 人 に も関 わ り,か つ その 集 合 全 体 に もか か わ る利 益 で あ る こ と。
③ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら一一定 の 市 民 に対 して 個 別 に利 益 が 割 り 当て られ て い る,と い う意 味 に お いて 市 民 個 人 の 私 的 利 益 の 個 別 性 が 維 持 され て い る こ と。
④ 当該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 が 広 中俊 雄 の 示 す 市 民 社 会 論 の 枠 組 にお け る 「競 争 秩 序 」 「生 活利 益 秩 序 」 に含 ま れ る利 益 で あ る こ と。
⑤ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 に関 して 形 成 され た秩 序 に よ って 他 の 主 体 に課 せ られ て い る義 務 を 実 現 しよ う とす る私 人 が 自 ら も当 該 義 務 を 負 って い る場 合,当 該 義 務 を 自 らも遵 守 して い る こ と。
⑥ 当該 秩 序 の 適 用 範 囲 に お いて,当 該 秩 序 が 明 示 的 また は黙 示 的 に義 務 を 伴 う秩 序 と して 一一定 の 期 間 認 識 され て い る こ と(1099)。
(1099)た だ し,「一 定 の 期 間 」が 量 的 に どの 程 度 必 要 と され るの か,と い う点 に つ いて は,問 題 と な っ て い る慣 習 法 の性 質,並 び に 当該 規 範 か ら生 じ る義/
⑦ 当該 秩 序 が 遵 守 され て い る状 態 が 一一定 の 期 間 続 いて い る こ と(1100)。
⑧ 慣 習 法 に よ って 形 成 され た規 範 に基 づ く義 務 を 負 って い る主 体 が, その 義 務 を 負 って い る こ とを 認 識 して い る,ま た は認 識 しう る状 態 に あ っ た と評 価 され る こ と。
⑨ 法 の 適 用 に関 す る通 則 法3条 に基 づ く要 件 を 満 たす 慣 習 法 で あ る こ と。 ただ し,問 題 領 域 ご と に幅 を 持 っ た解 釈 が 認 め られ る。 ま た,私 法 秩 序 との 関 係 で 正 当化 され る限 りに お いて,慣 習 法 が 制 定 法 に優 先
して 適 用 され う る。
⑩ 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る 私 法 上 の 権 利 を 主 張 す る私 人 が,慣 習 法 に よ って 形 成 され る規 範 の 目的 とな る集 合 的 ・公 共 的 利 益 に含 まれ て い る個 別 の 利 益 を 保 持 して い る こ と。 ただ し,保 持 の 形 態 に関 して は,個 別 の 問 題 領 域 ご との 解 釈 に委 ね られ る。
(5)効 力
① 集 合 的 ・公 共 的 利 益 の 維 持 に 対 す る 私 法 上 の 権 利 を 保 持 す る私 人 (以 下 「権 利 者 」 と記 述)は,集 合 的 ・公 共 的 利 益 に 関 して 形 成 され た秩 序 に基 づ く義 務 に違 反 して い る主 体(以 下 「義 務 者 」 と記 述)に 対 して,そ の 違 反 して い る状 態 を任 意 に是 正 す る こ と を請 求 で き る
(請求 力)。 義 務 者 が 自 らの 義 務 を 任 意 に履 行 しな い場 合 に は,権 利 者 は民 事 訴 訟 手 続 の も とで 訴 え に よ って 違 反 して い る状 態 の 是 正 を 請 求 で き る(訴 求 力)。
② 権 利 者 に は,当 該 集 合 的 ・公 共 的 利 益 か ら割 り当て られ て い る利 益
\ 務 の 内 容 及 びそ の遵 守 状 況 を踏 ま え て,問 題 とな って い る具 体 的 な 事 案 に そ って 解 釈 され る こ と にな る。
(1100)た だ し,「一 定 の 期 間 」が 量 的 に どの 程 度 必 要 と され るの か,あ るい は遵 守 の 形 態 が どの よ う で あ るべ き か,と い う点 に つ い て は,問 題 とな って い る慣 習 法 の 性 質,並 び に 当該 規 範 か ら生 じる義 務 の 内容 及 び そ の 遵 守 状 況 を 踏 まえ て,問 題 と な っ て い る具 体 的 な事 案 に そ って解 釈 され る こ と にな
る。