• 検索結果がありません。

第1軒 緒 言

ユリの種子発芽には,子葉が地上に現れる地上発芽型(epigeal)と,地中で 発芽して小鱗茎(以下,小球と表現する)を形成した後に本葉第一葉を地上に 出現させる地下発芽型(hypogeal),両者の中間的性質を有する中間発芽型

(intermediate type)の3型がある(Baranova,1977;鎌田,1987)。さらに 地下発芽型種子は,休眠を必要としない地下速発芽と一定の休眠期間を必要と する地下遅発芽に大別され,ササユリは地下遅発芽型に分類される(清水,1954, 1987)。

ササユリ栽培の困難性の一因は種子から到花年数が長いことにあるとされて いる。特に受精から種子の成熟までに5か月,種子が地下発芽を経て地上に出 芽するまでに17 か月もの期間を要し,栽培に到る苗の育成までの期間が極め て長い。そのため,種子から苗形成までの期間の短縮は,ササユリ利用を実用 化する上で重要な課題であった。発芽期間の短縮について.は,高温処理と低温 処理の組み合わせにより種子と小球の休眠を打破させる温度処理法が提案され ている(鎌田,1987)。同法では,秋にまいた種子が翌春に地上発芽し,自然条 件に比して1年早く苗を得ることが可能となった。しかし,出芽した苗は小さ

く,その後の生長に長期間を必要とするため,開花の早期化という本来の目的 は十分に達成されておらず,さらなる期間短縮が求められている。

一方,前章の結果から,ササユリは種子成熟までの期間が長いため,その間 の薪果生存率の低下が著しいことが問題点として明らかとなった。

これらの課題を克服するために,筆者らは,受精後の未熟種子を採取してf月 山froで発芽誘導することで,早期に苗育成を図れないかと考えた。未熟種子を 培養する狙いの一つは,薪果生存率の低下を回避し,高率な苗生産を可能にす

る点にある。また,発芽を誘導した後に続けて球の養成培養を行うことで,生 育を前進化させる可能性も期待できる。

そこで本章では,ササユリ未熟種子の発芽能力について明らかにするととも

に,早期に発芽と球形成を誘導して,球の肥大を促進する培養方法について検 討を行った。

第2節 ササユリ未熟種子の発芽特性

材料および方法

1)未熟種子の発芽能力

供試種子は静岡県周智郡森町に自生するササユリ群落より採取した。交配1 か月後より完熟種子が得られた5か月後まで,1か月毎に5回にわたって熟度 の異なる薪果を6果ずつ採取し,種子を取り出して種子長,胚の長さ,胚乳の 状態を調査した。さらに,交配後月数の異なるそれぞれの種子について,発芽 率の調査を行った。発芽実験には直径90mmのシャーレを用い,3%グルコー スを添加したMS(MurashigeandSkoog,1962)培地に2.5g・liter‑1のGellam Gumを加えてオートクレーブした後,シャーレ1枚あたり20mlずつ分注した。

種子はシャーレ1枚あたり16粒ずつ置床し,1区12シャーレとした。光条件 は3,000lx(74FLmOl・m‑2・SeC‑1),16時間照明とした。

試験区は,鎌田(1987)の温度設定に従って30℃,50日間の高温処理後15℃

恒温とした高温処理区と,20℃恒温とした対照区の2処理区とした。

2)高温処理および付傷処理の発芽への影響

前項と同様の静岡県周智郡森町の自生地より,交配3か月後と4か月後に採

取した未熟種子をそれぞれ供試し, 3%グルコースを添加した MS 培地に 2.5g・1iter‑1のGellamGumを加えて20mlずつ分注した直径90mmのシャー

レを用い,光条件は3,0001Ⅹ(74〃′mOl・m‑2・SeC‑1),16時間照明条件で発芽率 の調査を行った。

試験区は,前述の鎌田(1987)の設定による 30℃,50 日間の高温処理の有無

と,置床前にメスで種子の一部を切除した付傷処理の有無とを組み合わせた 4 処理区とした。種子はシャーレ1枚あたり16粒ずつ置床し,1処理区は10シ

ャーレとした。

3)種皮への物理的処理の発芽への影響

前項と同様の静岡県周智郡森町の自生地より,交配 3 か月後に英を採取し, 無菌状態で摘出した未熟種子を供試した。処理区は前処理法の違いにより,種

皮を取り除き胚乳を露出させた剥皮処理区,種子の一部をメスで切除した付傷 処理区の2処理区に,無処理区を加えた3処理区とした。供試種子は前処理後, 前項と同様に3%グルコースを添加したMS培地に2.5g・liter‑1のGellamGum を加えて20mlずつ分注した直径90mmのシャーレを用い,光条件は3,0001Ⅹ

(74FLmOl・m‑2・SeC‑1),16時間照明条件で発芽率の調査を行った。種子はシャ ーレ1枚あたり16粒ずつ置床し,1処理区は6シャーレとした。

1)未熟種子の発芽能力

交配後の荷果および種子の生長を表3‑1に示した。薪果長は交配後ほとん ど伸長しなかった。薪果径,薪果長,薪果重,種子長,胚の長さともに,交配

後2か月以降はほぼ一定の値で推移し,その後の変化は認められなかった。胚 乳の状態は交配後2か月ではゲル状であり,交配後3か月ではゲル状のものと 固形状のものが観察されたが,交配後4か月では調査種子の全てが固形状であ った。

図3‑1には,交配後月数の異なる種子のMS培地上における発芽率を示し た。未熟種子は交配後2か月から発芽が認められ,発芽能力を有していること が明らかとなった。また,置床200日後の発芽率は交配後の月数が長いほど高 い傾向にあり,交配後5か月の完熟種子では76.8%と最も高かった。しかし,

発芽開始時期は交配後4か月種子で早く,置床120日後の発芽率は完熟種子が 9.5%,交配後3か月種子が6.3%であるのに対し,交配後4か月種子では30.2%

と高かった。一方,温度処理区では,交配後4か月種子,同5か月種子で高い 発芽率を示したが,交配後3か月までの種子では高温処理による発芽率の向上 は認められなかった。

表3‑1交配後の薪果および種子の生長

月杢乳の状況 液体 液体〜ゲル状 ゲル状〜固体

固体

聖1・35・86・26・16・1

交配後月数

1 3.7

2 3.6

3 3.9

4 4.1

5 3.9

5 9 9 0 1 1 1 2

2 4 5 3 0 1 3 5 5 5 z)6薪果の平均値.

発芽率

0 (%

)

80 120160 200

0 40 80 120160 200

培養日数(日)

図3‑1熟度の異なる種子のMS培地上 における発芽率

‑→ト1か月」■‑2か月一▲‑3か月

‑●‑4か月一業‑5か月

2)高温処理および付傷処理の発芽への影響

図3‑2には,各試験区における置床120日後の発芽率を示した。交配後3

か月および4か月の未熟種子では,付傷処理により発芽率が高まる傾向が認め られた。交配後4か月の未熟種子では,高温処理により付傷処理と同様の発芽 率を示したが,交配後3か月種子では高温処理のみによる発芽率の向上は認め られなかった。

発芽率

(%

)

3か月

交配後月数

4か月

図3‑2高温処理および付傷処理が交配後月数の異な る未熟種子の発芽に及ぼす影響(置床後120日

目の発芽率)

□温度処理+付傷処理 日温度処理のみ 口付傷処理のみ □無処理

3)種皮への物理的処理の発芽への影響

交配後3か月種子の発芽開始時期は剥皮処理で最も早く,置床40 日後には 39.6%の発芽率を示した(図3‑3)。また,剥皮処理,付傷処理では無処理区

に比して発芽率が高まる傾向が認められた。置床200日後の発芽率は,剥皮処 理で最も高く 89.6%であり,付傷処理で75.0%であった。

60

40

発芽率

(%

)

0 40 80 120 160 200

培養日数

図3‑3 物理的処理が交配後3か月の未熟種子の 発芽に及ぼす影響

考 察

交配後月数の異なる未熟種子の最終発芽率は,交配後月数が進むにつれて高 くなり,交配後5か月の完熟種子で最も高いことが明らかとなった(図3‑1)。

しかし,交配後4か月種子では完熟種子よりも発芽開始時期が早まり,置床120

日後の発芽率が高い傾向にあった(図3‑1)。交配後 5 か月の完熟種子で発 芽開始時期が遅かったことからは,未熟種子の利用によってより短期間で発芽

を誘導できる可能性が示唆される。荒井ら(1998)は,採種時期の異なるササユ

リ種子の発芽率について,交配後 4 か月までは種子の発育とともに高まるが, その後の登熟に伴って低下し,完熟種子では発芽率が低いことを指摘している。

これらのことから,交配後4か月以降の登熟過程で休眠が深まるものと推察さ れる。

地下遅発芽性であるササユリの発芽ステージは,主に温度反応の違いによっ て,播種から本葉の伸展までが,地下発芽誘導期,地下発芽期,小球形成期, 低温感応期,展葉期の5段階に分類されている(歌田・鈴木,1973)。この5段 階のうち,夏季高温により種子の休眠打破が進行する地下発芽誘導期と,冬季 低温により球の休眠打破が進行する低温感応期は,それぞれ長期間を要するこ

とから,この期間の短縮が地上発芽を早める上で有効である(歌田・鈴木,1974)。

ササユリは,開花5か月後の秋季に完熟種子を形成し,翌年の夏季の高温によ って地下発芽誘導期を経過する。その後小球を形成し,その年の冬季の低温に

よって低温感応期を経過し,種子形成から17 か月後の翌々春に地上発芽する ことになる。地下発芽誘導期と低温感応期は,自然条件下ではそれぞれ夏季高

温と冬季低温によって経過することから,完熟種子では,高温処理と低温処理 とによって発芽ステージを進めることが可能である(鎌田,1987)。本研究の結 果からは,交配後4か月以降の種子では高温処理により発芽率が高まるが,交 配後3か月以前の未熟種子では高温に対する反応が認められず,発芽を誘導す

ることはできなかった(図3‑1)。

一方,ササユリの完熟種子では付傷処理による発芽率の向上が認められてい るが(平田・田村,1973),本試験では交配後3か月,同4か月の未熟種子につ

いても同様に,付傷処理により発芽を誘導できることが明らかとなった(図3

‑2)。このことから,高温処理は交配後 4 か月以降のある程度成熟の進んだ 種子に対してのみ発芽促進に有効であるのに対して,付傷処理は交配後3か月

のより未熟な種子に対しても効果があると考えられる。早期に発芽と球形成を 誘導する観点からは,高温処理は長期間を必要とするため不向きである。また, 本試験では付傷処理によって交配後3か月種子が同4か月種子と同程度の高い 発芽率を得ることが明らかになり,より早期に球形成を誘導するためには交配 後3か月の種子を用いることが望ましいと考察した。

関連したドキュメント