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ドキュメント内 窒素固定の遺伝生態 (ページ 63-85)

図1 Klebsiella pneumoniaeのmf遺伝子の構造と機能

(文献8, 9, 15, 27にもとづいて作図)。培地中の窒素源が100J̀M以下に なるとntyBC遺伝子産物によってmjLAオペロンの転写が促進される。

NifA蛋白は他のすべてのmfプロモーターの活性化国子であるが,アン モニアが10〝M以上存在するとNifL蛋白がNIfA蛋白の働きを阻害 し, mf遺伝子群の発現が抑制される。

窒素国定関連遺伝了とニトロゲナーゼの活性発現とその調節 59 K. pneum()niaeの窒素固定遺伝子群は,そのすべてが染色体上の‑一一・個所 に存在し, 20個の遺伝子から成っており,その全長は約24Kbであり, 7‑

8個のオペロンに分かれている。 mjDとNljKはニトロゲナーゼの2種の サブユニットをコードしており, mjHはニトロゲナーゼレダクタ‑ゼを コードしている.電子伝達系とFeMo補助因子の生成に関与する各種遺伝 子も窒素固定能の発現に必要である。

nljLAオペロンは,他のすべてのmfオペロンの発現の制御に関与して おり, mfA産物(NifA蛋白)は活性化因子として働くが, NH3などの固 定された窒素源が培地中にわずか0.01mMでも存在するとnljL産物 (NifL蛋白)が抑制因子として働く。また酸素の存在によってもmjL遺伝 子は他のmf遺伝子の発現を抑制する。

mfプロモーターは,‑24領域にCTGGCAC, ‑12領域にTTGCAのコ ンセンサス配列をもっており,大腸菌などの栄養増殖の際に働くシグマ ファクター(o・70)によって認識されるプロモーターとは全く異なっているo mfプロモーターを認識するのは, nlrA遺伝子の産物(o・54)と結合した RNAポリメラーゼである。NifA蛋白はmfプロモーターのL二流100塩基 付近に存在する活性化配列(USA: upstream activator sequence) TGTNl。ACAに結合して作用する10)。 NifL蛋白の作用機構の詳細は不明 であるが,培地中にアンモニアが存在する条件では, NifL蛋白が存在する 場合にのみ, NifA蛋白がUSAに結合しなくなることがinvivoの実験で 示されている11)。

・万, mjLAオペロン自体は,さらに高次の全体的な窒素代謝制御系の nlrBC遺伝子によって制御されている12・13)。培地中の窒素嘩(アンモニアな

ど)が欠乏して0.1mM以下になると,NtrB蛋白がNtrC蛋白のN末端領 域のアスパラギン酸残基を燐酸化し,燐酸化されたNtrC蛋白はmjLAオ ペロンのほか,プロリン,ヒスチジンなどの吸収資化のための遺伝子やグ ルタミンシンセタ‑ゼ遺伝子の転写を活性化するなど,窒素同化系全体が 誘導される。これらの遺伝子の転写開始にはntrA遺伝子の産物であるo・54 が関与している。 ♂54によって認識されるプロモーターのすべてに共通の 配列はGGNl。GCである14)。

培地中の窒素源がある程度欠乏すると,燐酸化されたNtrC蛋白によっ てnljLAオペロンが発現するが,利用可能な窒素源が0.01mM程度でも 残存していると, NifL蛋白が他のmf遺伝f・群の発現を抑制する。この様 に,空中窒素固定の系はntrBCとnljLAによる2段階の制御を受けてお

り,窒素源が全く欠乏したときにはじめてニトロゲナーゼ系が働くように なっている。

AzospirillumにおいてもmjHDK, mjE, nQUS, jixABCなど窒素固定に 必要な遺伝子がクローン化されており26),またmf遺伝子群の転写を促進 するmfA遺伝子もクローン化されている21・22)。AzospirillumのNifA蛋白 は, glnB遺伝子産物によって活性化されてはじめて,他のmf遺伝子群の 転写を促進することができると報告されている24)。しかし, mjL遺伝子は 知られておらず, Azospirillumのmf遺伝子群の転写の制御の詳細は不明 である。

2)三トロゲナーゼレダクタ‑ゼの可逆的な修飾による制御

A. lil,oferumと紅色非硫黄細菌Rh()dopseudomonas rubrumでは,培地

中に窒素源を添加すると,菌体の窒素固定活性が急速に阻害され,窒素源 が消費されて欠乏してくると再び活性化される現象があり, "NH了‑

switchoff/on"と呼ばれていた。最近になって,この現象は,ニトロゲナー ゼレダクタ‑ゼの可逆的なADPリボシル化によることが明らかにされ

た17)。

両帝のmjKDH遺伝子の近傍にはdraT, d71aGと呼ばれる遺伝子があ り, dylaT遺伝子産物(ニトロゲナーゼレダクタ‑ゼADPリボシルトラン スフェラーゼ)がアンモニア存在トでニトロゲナーゼレダクタ‑ゼの特定 のアルギニン残基をADPリボシル化してこれを失活させる。一方,窒素源 が欠乏すると, draG遺伝子産物(ニトロゲナーゼレダクタ‑ゼ活性化グリ

コヒドロラーゼ)が, ADPリボシJL,某を除去することによってニトロゲ ナーゼレダクタ‑ゼを活性化する。筆者らも, A.lipoferumからdraT d71aG遺伝子をクローン化してその塩基配列を決定した23)。しかし,窒素源 の有無がどのようにして感知され,ADPリボシル化が制御されているのか を解明することは今後の課題である。窒素固定能が転写のレベルと酵素活

窒素同定関連遺伝子とニトロゲナーゼの清作発現とその調節 61 性のレベルで二重に制御されていることは,窒素同定に要する高いエネル ギー要求を考えると,もっともなことである。

5.窒素固定菌の改良強化

イネなどの非マメ科植物の根圏においては糖分などのエネルギー源の供 給が限られているので,これを十分に活用するためには,糖を発酵利用す るKlebLV'ellaと有機酸を好んで利用するAzospirillumの両者の窒素同定 能を改良して併用する必要がある。また,これらの改良株は,それだけで はイネの全窒素要求量をまかなうことができないので,化学窒素肥料と併 用したときに十分な窒素固定能を発現するためには,アンモニアなどの窒 素源による制御を解除することが有効と考えられる。

1)〟. oJ〝fo。αの改良

筆者らは,駒形らによってイネ根圏から分離された窒素固定南〝.

()xytoca NG13株の全mf遺伝子群を含む26KbのDNA断片をクローン 化し18),そのmfLAオペロンの全塩基配列とmjB, mjFo)プロモーター の塩基配列を決定した19)。 K. oxylocaO) mf遺伝子群の構成は図1のK.

Pneumoniaeのものと基本的には同じであり,塩基配列のホモロジ」は96‑

980/oであり, mfA産物(524アミノ酸)については,そのN末端側の半分 に6アミノ酸の置換が認められたが, C末端側は完全に一一致していた。

クローン化したK. oxytocaのnljLAオペロンのmjL構造遺伝子にTcr 遺伝子を挿入してこれを失活させ, mfA遺伝子の上流に構成的な合成プロ

モーターを付加したプラスミドpNOY9cm (mjL Ac)を作成し,これで野 生株NG13を形質転換したのち, in vitroの組み換えによってクロモソ‑

ムトのmjLAオペロンを人工的なmjL‑Acに置き換えた変異株R16を作 成したところ,この変異株では, 15mMのアンモニア存在下においても,

nlf遺伝子の転写が抑制されず,ニトロゲナーゼ活性がアンモニア非存在 Fの420/.程度発現したoさらに, mjA遺伝子を構成的に発現する別の多コ ピープラスミドをR16株に導入すると,その窒素固定能はアンモニア存在 下においても非存在Fとほとんど同程度に発現し,ほぼ完全な脱抑制が達

成された20)0

2) Azospirillumの改良

Az()spirillumの窒素固定能を改良するためには, mfA遺伝子産物による nlf遺伝子群の転写の促進を図るとともに,ニトロゲナーゼレダクタ‑ゼ のADPリボンル化による失活を防ぐために,draT遺伝子を人工的に破壊 する必要があると考えられる。

筆者らはイネ根圏から分離されたA. lipoferum FS株にKebsiellaの mjA遺伝子を導入して構成的に発現させる=)とにより,アンモニアによる

制御が解除され,窒素欠乏条件の30%程度の窒素固定能を示す蘭株を得て

いる(文献25ならびに未発表データ(井上暁夫ら))0

A. brasilenseではdraT遺伝子の破壊によってアンモニアによるニト ロゲナーゼ活性の抑制がなくなることが確かめられている16)。今後は, A.

lil,oferum FS株において,同菌からすでにクローン化したnljA22)および draT遺伝f23)の改造を合わせて行なうことにより,アンモニアによる抑 制を転写のレベルでも酵素活性のレベルでも全く受けない変異株を作成し たいと考えている。

お わ り に

イネ根圏における窒素固定能を強化するためには,上述のように,適性 嫌気僅のK. oxytocaと微好気性のAzospirillumを組み合わせることが考 えられる。さらに,休耕期に稲藁をtiJにすきこんでおくことにより,それ をエネルギー源として, Azofobacterなどの好気的な窒素固定菌による窒 素固定が期待できる。また,耕作期の田水面におけるAzollaと藍藻の共生 による窒素固定が重要であることが分かっているので3),これらの窒素固

定能の改良強化も必要である。すべての窒素固定菌の改良株を組み合わせ

て,現在使用されている化学窒素肥料の冠を何割か節約することができる ようになれば,化石エネルギーを浪費しない,生態学的に望ましく維持可 能な農業の確立に貢献できると考えられる。

窄素固定関連遺伝子とニトロゲナーゼo)油性発現とそcj)調節 63

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共生窒素固定菌のMolecular Ecologyをめぐって

‑Hさんへの手紙‑

南 沢   究

Hさん

先日のワークショップ「窒素固定の遺伝生態」に出席することができま せんで申し訳ございませんでした。実は,私のイl一注意から怪我をしてしま い動けなくなったのがその理由です。予定のワークショップでは,私は「遺 伝子的背景からみた共生窒素固定菌」というタイトルでお話し,またいろ いろな立場から単生・共生窒素固定菌の研究をなさっている方々とMolec‑

ular Ecologyという学問領域の意味と可能性について面白い討議ができ るのではないかと期待していましたので,出席できなかったのは誠に残念 です。

窒素固定関係者からは「大変勉強になって面白かった。」という感想を聞 いておりますが,発表者の方々の立場や目的は窒素国定菌の応用,進化上 の位置付け,熱帯・温帯の生態型の比較など千差万別であったと想像して います.ただ共通して言えるのは,窒素固定菌を対象とし.て分子生物学的 手法を利用していることであると思います。窒素同定菌の場合,窒素同定 や根粒形成などに関する遺伝学の進歩によって,誰でも自分の目的に応じ て分f‑生物学的手法を利用できることが背景になっていると思いますo

茨城入学農学部,東北人苧遺伝生態研究センター

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