これまでに議論してきた NS5-braneの系を x9 方向に周期 L9 でコンパクト化し、その方向にT-dual 変換を行おう。必要な公式はすでに前節で得られている。しかし、この節で用いられている座標と前節で 用いられている座標は異なるので、この節での座標にあわせて公式を書き直しておこう。
以前に用いていた計量は、コンパクト化の半径が周期1であり、プロパーな周期の情報は計量が担うよ うな座標を取っていた。たとえば計量(182)と調和関数(189)を見てみると、NS5側、すなわちIIA理論 の計量の漸近形は
ds2A=L2A(dx26+dx27+dx28+dx29) (289) であった。また、Taub-NUT側、すなわちIIB理論の計量(193)の漸近形は
ds2B=L2A(dx26+dx27+dx28) +L2Bdx29, LB= 1
LA (290)
と与えられた。従って、この節で用いているM5-braneの座標は以前の座標と比較して次のように定数倍 異なる。
xmnew =LAxmold, x9new=LAx9old. (291) このことを考慮して、M5-braneの位置をIIB理論の2-formの積分として与える公式は次のようになる。
xmI −xm0 =LA
∫
SI
km2, x9I −x90=LA
∫
SI
B2, x11I −x110 =L11
∫
SI
C2. (292) wは以前にも与えたように、Taub-NUT上の正則2形式の積分として得られる。
wnewI −w0new=
∫
DI
ωnew(2,0). (293)
ただし、正則2 形式も座標のリスケールに対応して以前のものと定数倍だけ異なる。
ω(2,0)new =LA(k12+ik22) =LAωold(2,0)= 1
2πidwnew∧dx
x . (294)
このリスケールのために、ラグランジアン部分多様体の体積とω(2,0)の積分の間に因子LA が現れる。も う一つの複素座標sについては、IIB理論の2-形式場の積分として得られる。
sI −s0= x11+ix9 L11 =
∫
SI
C2B+iLA
L11
∫
SI
B2B=
∫
SI
(C2B+τstrB2B). (295) ただし、τstr=iL11/LA=i/gBstrを用いた。ここでは計算を簡単にするためにアクシオンは0 であると仮 定している。x8+ix9 のように複素座標を組んだ場合には複素化されたケーラー形式の積分で与えられた が、ここではx8 の代わりにx11と組み合わされているため、B 場はケーラー形式ではなくRR場C2と 組み合わされている。
以上のことを踏まえたうえで、wやsがuに依存する場合のT-dualityについて考えてみよう。N = 1 ゲージ理論の低エネルギーの様子を再現するためには複素座標u、w、sを(255)によって定義し、NS5-brane のw-s空間での位置が
w=wI(u), s=sI(u) (296)
のように、I でラベルされるNS5-braneごとにuの関数として与えられる場合を考ええる。前節までは
NS5-braneの枚数は二枚であったが、ここでは枚数は任意でよい。まずは、多項式 fn−1 を導入する前、
すなわちD4-brane による変形を考える前のNS5-braneをT-dual変換することによってどのような時空 が得られるかを見てみよう。
NS5-braneの位置を用いてTaub-NUT geometryを与える式(120)は次のように変更される。
xy=P(u, w)≡∏
I
(w−wI(u)). (297)
今度はもはや4 次元Taub-NUT空間と 2 次元u空間の直積などではなく、非自明な複素3 次元多様体 を与える。これは w-u-x8 空間上のS1 ファイバー束であり、P(u, w) =x8= 0がファイバーの潰れる部 分空間を与えている。実はこの複素3次元多様体はカラビヤウ多様体である。
NS5
1u w
L
9NS5
2u w
C
2C
21S
2S
21shrinking cycles x
9図10: NS5-braneに端を持つ曲線はT-dual変換によって2-サイクルに移される。
カラビヤウ多様体の構造を決めるためには、正則 3-形式ω(3,0) およびケーラー形式kCY を与えればよ い。Calabi-Yau上の正則3-形式は次のように与えることができる。
ω(3,0)=du∧ω(2,0)= 1 2πi
du∧dw∧dx∧dy d(xy−P(u, w)) = 1
2πidu∧dw∧dx
x . (298)
また、ケーラー形式は、計量をds2CY =dudu∗+ds2TN と与えるのと同程度の近似で kCY =k8− i
2du∧du∗. (299)
と与えることができる。ただしk8は wI(u)が定数だとしたときのTaub-NUT上のケーラー形式である。
k8 が uに依存する場合、(299)は明らかにclosedではない。従って、(299)は u依存性が十分緩やかな 場合にのみ適用できる近似式である。
IIA 型理論では、NS5-braneの間に張ったD4-brane 上の理論としてゲージ理論が得られた。D4-brane が端を持つ二枚の NS5-brane を I と J、それらをつなぐ曲線を CIJ としよう。CIJ 上の D4-brane は T-dual変換によってサイクルSIJ に巻きついたD5-braneに変換される。IIB側の立場では量子効果を考 慮する前のゲージ理論はD5-brane 上の理論として与えられる。
IIA 型のNS5-D4系の観点からは、D4-ブレーン上の有効ゲージ結合定数が(256)によって与えられた。
(256)中の∆sは、二枚のNS5-braneI とJ のあるu座標での位置の差 ∆s=sI(u)−sJ(u)を表してい る。従って(295)を用いると、
τgauge=sI−sJ= I
SIJ
(C2+τstrB2) (300)
ただしSIJ =SI−SJ はS2 の位相を持つ面である。この量は、そのS2に巻きついた D5-brane上の有 効ゲージ理論の結合定数とみなすことができる。関係式 (300)はT-duality を用いなくてもD5-braneの 有効作用から導くことができる。まず、(57)から出発しよう。worldvolumeがR4×S2 になっていると 仮定し、R4 方向のゲージ場とS2方向のB 場に注目すると、次のように二つの部分の積として書ける。
S =−2π gstr
∫
R4
d4x
√−det(Gµν+Fµν)
∫
S2
dA
√
det(Gij+Bij) (301) 後ろの因子がS2 上の積分を表しており、decoupling極限でS2 のサイズが0 になり、計量の寄与が無視 できることを用いれば次のように書き換えることができる。
∫
S2
dA
√
det(Gij+Bij) =
∫
S2
B2=b (302)
また、一つ目の因子は F のべきで展開することでゲージ場の運動項が得られる。その部分を抜き出し、
(302)を代入すると、作用全体から次の運動項が得られる。
S=
∫
R4
d4x (
−1 4
2πb gstr
Fµν2 )
(303) これより、(300)の B 場の寄与が得られる。一方Chern-Simons 項(58)からは、
S= 2π 2
∫
C2∧F2∧F2 (304)
が得られる。ここで、C2 が S2 方向に
c=
∫
S2
C2 (305)
という値を持っていると仮定すると、4 次元ゲージ理論の作用に次の項が付け加わる。
S =2πc 2
∫
F2∧F2, (306)
これは(300)のC2場の寄与にほかならない。
D4-braneの張力によるNS5-braneの変形を考える前には二枚のNS5-braneはu-w空間中で点で交差し ていた。この点ではCalabi-Yauの定義方程式(297)の右辺が重根をもつ。つまりwI(u)のうちの二つが一 致する。この二つをw1(u)とw2(u)とし、これらがu=u0で一致するとしよう。w0=w1(u0) =w2(u0) とする。すると、u=u0 の近傍での様子を見るために新たな座標w′ =w−w0 および u′ =u−u0 を導 入する。定義方程式(297)は
xy=c(w′−au′)(w′−bu′) (307)
となる。(a,b,cは数係数である。)さらに右辺の二つの因子を新たな複素変数 U とV とするような座標 変換を行えば
xy−U V = 0 (308)
となる。式(140)と同様な判定式を用いて、x=y=U =V = 0の点はsingularであることがわかる。こ の特異点はconifold singularityと呼ばれる。
NS5-braneのD4-braneの張力による変形はNS5-braneの交点をブランチカットで置き換える。これは 定義方程式(297)の右辺に(265)と同様に多項式fn−1 を加えて変形することに対応しており、その結果 conifold特異点近傍の様子(308)は次のように変形される。
xy−U V =ϵ (309)
定義方程式を変化させるこのような変形はdeformationと呼ばれる。(これに対し、定義方程式を変化さ せずにケーラー構造を変化させることはresolutionと呼ばれる。)
§4.1では変形されたNS5-braneは滑らかな正則曲面になり、その形状を決めるためにαサイクルとβ サイクルを定義するのが便利であった。deformされたCalabi-Yauにおいてもこれに対応するサイクルを 定義しておこう。Calabi-Yau上ではα-サイクルおよび β-サイクルに対応するA-サイクルおよび B-サイ クルは以下のように定義される3-サイクルである。
まず、A-cycleは以下のように定義する。NS5-brane系で定義された曲線 C1 の基準点をどこか一点に 固定したまま、ブレーン上の端点をαi-cycleにそってぐるっと一周させると、CI はブレーン上に端を持 つディスク状の曲面を掃く。(図11の(a))この曲面は、T-dualをとれば、すなわち、曲線CI の代わり に曲面SI を用いたと思えば3 次元閉曲面を与え、その位相はS3 である。この3-cycleをAiとする。αi
サイクルはi番目のカットの周りを一周する閉曲線であるが、これをu平面の上で縮めていくと、カット の両端をつなぐ半直線(つまりカットそのものに重なった線)になる。この半直線をα′としておこう。便 宜上カットとα′ を少しずらしておくと、この半直線はリーマン面の二枚のシートのうち表にある線と裏 にある線が重なったものである。従って、αサイクルにそってSI の端点を動かすということはα′ サイク ルにそってS1 とS2 を動かすことに相当する。これはつまりAi サイクルがα′ にそってS12 を動かした ときにできる面であることを意味している。(図11の(b))
A
α u
α'
u
図11: Calabi-Yau上のAi サイクル
次にBi サイクルを定義するために、開曲線CI の端点を βi サイクルにそって動かしてみよう。βi サ イクルはカットと交差しており、リーマン面の表のシートと裏のシートを通るから、それに応じて開曲線 はC1からC2へ名前を変える。この開曲線の掃く面はβiサイクルとC12を境界とする二次元面である。
(図12の(a))これはT-dualを取ると、すなわちCI の代わりに SI を用いたとすると、二次元面 S12を 境界とする3 次元ディスクを得る。この3次元曲面がBi である。βi サイクルを引き絞ると、カットのど ちらかの端点と遠方の基準点をつなぐ曲線になる。この曲線をβi′ としよう。αi サイクルのときと同様に、
βi サイクルにそってSI を動かすということはβi′ にそってS21=S2−S1 を動かすことと同じであり、Bi
サイクルはβi′ とその上のS2からなる3次元ディスクであるとみなすことができる。(図12の(b))
B
β
u u
β '
図12: Calabi-Yau上のBi サイクル
Ai サイクルとBi サイクルはαi とβi と同様に、次のような交差関係を持つ。
⟨Ai, Bj⟩=δij. (310)
もともとNS5-braneのx8 座標を全て0においてあったことに相当して、uを固定して得られる Taub-NUT空間上でのコンパクト2-cycleはその上へのケーラー形式k8の引き戻しが0であるようなLagrangian 部分多様体である。従って、u平面上の曲線とTaub-NUT空間中のコンパクト2-サイクルとからなるAi
サイクルやBi サイクルは、その上へのケーラー形式(299)の引き戻しが0であるラグランジアン多様体 になる。以前にも述べたように(299)は近似式でしかないから、ここでの議論は厳密ではないが、それぞ れのサイクルにブレーンをまきつけたときに超対称性が残ることを仮定すれば、それがラグランジアン部 分多様体でなければならないことが示される。