前の節において、メソン演算子とU(1)対称性がブレーンタイリング上で「サイクル」と「フロー」とし て表されることを見た。これらを道具として用いることで、モジュライ空間のトーリックデータをブレー ンタイリングから簡単に読み取ることができる。
§5.5において議論したように、メソン演算子が全て与えられると、トーリックデータはそれら全ての チャージを非負とするようなアイソメトリーの生成子として与えられる。パーフェクトマッチングは全て の辺の流れが非負(即ち0 または黒から白)であるからこの条件を満足することは明らかである。また、
任意のメソン演算子に対して非負のチャージを与えるようなU(1)対称性はパーフェクトマッチングによっ て生成される、すなわちパーフェクトマッチングの非負係数の線形結合として与えられることが示される。
従って、パーフェクトマッチングに対応したU(1)対称性をそのままアイソメトリーsI と同一視すること ができる。ここでは、パーフェクトマッチングµに対応するキリングベクトルをsµ としよう。
sµ のうち、線形独立なのは3つだけである。これは、パーフェクトマッチングの線形結合の多くはバリ オン的対称性を与え、フレーバー対称性とR-対称性を与えるものが3 つだけであることに対応している。
従って、パーフェクトマッチングからsµ を得るには、トーリック多様体の3個のアイソメトリーに対応 した3 次元空間への射影を行う必要がある。
そのためには、アイソメトリーがメソン演算子への作用として与えられること、そして任意のメソン演 算子が3つのメソン演算子(464)によって(465)のように表されることを思い出せばよい。つまり、fµ が 与えられたときにそこから3次元空間への射影を、3つの演算子のチャージを用いて
fµ →sµ=
fµ·α fµ·β fµ·γ
(479)
によって定義することができる。
このベクトルの3つの成分のうち最後のものはパーフェクトマッチングやサイクルγの定義より常に1 であることがわかる。これは、このトーリックデータで与えられる多様体がカラビヤウであることを意味 している。
具体例としてSPPの場合を考えてみよう。図41に 6つのパーフェクトマッチングとそこから読み取る ことのできるトーリックデータが描かれている。実際にトーリックデータを読み取る際には、ブレーンタ
(0,0) (1,0) (1,0) (2,0) (0,1) (1,1)
図 41:
図 42:
イリング上でαサイクルとβ サイクルを具体的に決める必要があるが、この取り方には任意性がある。例 えばαサイクルとして図42にあるサイクルを取ることもできる。この場合、トーリックデータの第一成 分は全てのパーフェクトマッチングに対して1だけ増加する。このように、トーリックデータの定数部分 には任意性があり、トーリック図形の平行移動に対応している。
このような、平行移動に対応する任意性によらない量として、トーリック図形上の二つの点の相対位置 を見てみよう。たとえば、二つのパーフェクトマッチング µと ν に対応する点の相対座標sµ−sν は二 つのフローの差fµ−fν に対応している。パーフェクトマッチングの定義より、このフローが保存流であ ることは明らかである。しかも、実際にやってみるとわかることであるが、トーリック図形の外周上のあ る辺の両端に対応した二つのパーフェクトマッチングの差はその辺の長さと同じ本数のジグザグパスをあ たえ、それらのジグザグパスは辺と垂直な方向にトーラスにまきついている。例えば、(1,1)−(2,0)を描 いてみると、図43の (a)のように辺に垂直な(1,1)サイクルに巻きついたジグザグパスを与える。また、
長さが 2 の辺に対して(2,0)−(0,0) を計算してみると、(b)のように同じサイクルに巻きついた二つの ジグザグパスが現れる。実は、これらのジグザグパスは、もともとのブレーン系に戻ってみればD5-brane
(b) (a)
図 43:
上のNS5-braneの端を表すサイクルに他ならない。例えば図33の左側の図のサイクルのうち、右上へ向
かうものが図43の (a)に、下へ向かう二つのサイクルが図43の(b)に対応している。
すなわち、以前は web-図形をNS5-braneと解釈してブレーンの形状を読み取ることでブレーンタイリ ングを得、そこからゲージ理論を読み取ったが、今度はそれとは逆にブレーンタイリングから読み取った ゲージ理論のモジュライ空間としてトーリックデータおよび web-図形が得られることが示されたわけで
ある。
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