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時間反転対称性とクラマース縮退

ドキュメント内 量子力学3-2013 (ページ 34-41)

第 2 章 角運動量 15

2.4 スピン

2.4.4 時間反転対称性とクラマース縮退

前節の計算より明らかに磁場ゼロB = 0の場合、全系のエネルギー固有値は 全て 2重に縮退する。実は、この性質はスピンに依存する相互作用があっても 時間反転対称性 と呼ばれる対称性があれば常に引き継がれる性質であり,この縮 退を クラマース縮退 とよぶ。この節ではこれに関して説明しよう。

時間反転対称性を定義する時間反転操作とは次のものを指す。

Θ = 2K=JK, J = [

0 1

1 0 ]

ここでK は複素共役演算子であり σ2 はスピン空間に作用する。このようなユニ タリ変換に追加して複素共役を考える変換を 反ユニタリ(Anti-Unitary)変換と呼 ぶ。この作用を幾つかの例について確認して見よう。まずスピンを含まない場合

r 7→ r = ΘpΘ1 =J(r)J1 =r

p 7→ p = ΘpΘ1 =J(p)J1 = (−iℏ∇) =iℏ∇=p L 7→ L = ΘLΘ1 = (ΘrΘ1)×(ΘpΘ1) =r×(p) =L

と変換する。運動量、(軌道)角運動量は符号をかえることに注意しよう。次にス ピンに関しては

S1 7→ S1 = 1

2(iσ2)(σ1)(−iσ2) = 1

2(σ2)(σ1)(σ2) = 1

2σ23 = i2

2σ1 =−S1 S2 7→ S2 = 1

2(iσ2)(σ2)(−iσ2) = 1

2(σ2)(−σ2)(σ2) = 1

2σ23 =1

2σ2 =−S2 S3 7→ S3 = 1

2(iσ2)(σ3)(−iσ2) = 1

2(σ2)(σ3)(σ2) = 1

21σ2 = i2

2σ3 =−S3 以上合わせて

S 7→ S = ΘSΘ−1 =S

となり、やはり符号を変える。つまり角運動量は常に符号を変えることとなる。

よって,磁場中の系では B·S 及びB·L等の項があるからハミルトニアン は時間反転に対して不変ではないこととなる。対して以下の節で議論するが次式 で表される スピン軌道相互作用 は時間反転に対して不変となり、この項があって も全系の時間反転対称性は保たれる。

HSO = f(r)S·L f :実

HSO 7→ ΘHSOΘ1 =f(r)(S)·(L) =HSO

このスピン軌道相互作用がある系など次の関係式を満たす系を時間反転不変な 系と呼ぶ。

ΘHΘ1 = J HJ1 =H これはユニタリ不変な系にならって

[H,Θ] = ΘH−HΘ = 0 とも書かれる。なお

Θ2 = KJKJ =J2 = [

0 1

1 0 ]2

= [

1 0 0 1

]

02 ==1 である。

以下、スピンをもつ系がこの時間反転対称性を持つときを考えよう。このとき、

スピン軌道関数 に対するシュレディンガー方程式を H(r)|ψ(r)⟩ = E|ψ(r)⟩, |ψ(r)⟩=

( ψ+ ψ

)

とあらわに書こう。ここで時間反転不変性から

ΘH(r)|ψ(r)⟩ = H(r)Θ|ψ(r)⟩

= EΘ|ψ(r)⟩ よって

Θ = Θ|ψ⟩ として

H|ψΘ = E|ψΘ|ψ⟩ と同じエネルギーを持つ。更に

⟨ψ|ψΘ = (ψ+, ψ)(iσ2)K (

ψ+ ψ

)

= (ψ+, ψ) [

0 1

1 0 ] (

ψ+ ψ

)

= (ψ+, ψ) (

ψ

−ψ+ )

=ψ+ψ −ψψ+ = 0

つまり |ψ⟩Θ は直交しているので異なる状態である。これから時間反転不変 な系は縮退することとなる。この縮退を クラマース縮退 と呼ぶ。ここでは一粒子 系の時間反転対称性を考えた。

多粒子系の例としてN個のスピン系の場合を考えよう。このとき、状態は次の ように状態の(テンソル)積として指定される。

1, σ2,· · · , σN = 1⟩|σ2⟩ · · · |σN⟩, σi =± この系に対して時間反転は

Θ = K(iσ21)(iσ22)· · ·(iσN2 ) と定義され

Θ2 = K2(iσ12)2(iσ22)2· · ·(iσ2N)2 = (1)N

となる。一般に反ユニタリ演算子A=UKとユニタリ演算子U であらわされるか ら任意の状態 ψ, ϕ に対して

Θψ|Θϕ = ⟨KU ψ|KU ϕ⟩= [(Uaiψi)](Uajϕj) =UaiψiUajϕj

= (UaiUaj)ψiϕj = (UU)ijψiϕj =δijψiϕj =⟨ϕ|ψ⟩ よって N粒子系の状態 Nに関してNΘ との重なり積分は

⟨ψNΘN = ⟨ψN|ΘψN=Θ2ψN|ΘψN= ()N⟨ψN|ΘψN()N⟨ψNNΘ よって粒子数N が奇数の時は一粒子の場合と同様に⟨ψNΘN=−⟨ψNNΘ から

⟨ψNNΘ = 0

と直交性が示せ、クラマース縮退が生じることになる。

2.4.5 2 つのスピンの作る一重項と三重項

ここでは特に2つのスピンS1,S2を考えよう。ここで異なるスピンは無関係だ からお互いに可換であるとしよう。

[S, S] = 0, i̸=j よって

S = S1+S2

として

[Sµ, Sν] = µνλSλ

S も角運動量となる。状態はS1,S2の状態|m1,(m1 =±) と|m2,(m2 =±) S1z|m11 =ℏm1|m11, m1 =±1/2

S2z|m22 =ℏm2|m22, m2 =±1/2 から 

|m1m2 = |m11|m22

と作られる全4状態であることに注意しよう。具体的には mi =

{

+12 → ↑

12 → ↓ と書けば

| ↑↑⟩,| ↑↓⟩,| ↓↑⟩,| ↓↓⟩

の4状態である。ここで全スピンS に関して一般の角運動量について議論したよ うな次のような状態

S2|SM⟩ = ℏ2S(S+ 1)|SM⟩ Sz|SM⟩ = ℏM|SM⟩

を求めることを考えよう。

まず、| ↑↑⟩を考えるとS+ =S1++S2+ に対して S+| ↑↑⟩= (S1++S2+)| ↑↑⟩=(

S1+| ↑⟩1

)| ↑⟩2+| ↑⟩1

(S2+| ↑⟩2

)= 0

Sz =S1z+S2z に対して

Sz| ↑↑⟩= (S1z+S2z)| ↑↑⟩ = (

S1z| ↑⟩1

)| ↑⟩2+|↑⟩1

(S2z| ↑⟩2

)

= (ℏ 2 +ℏ

2)|↑↑⟩

よって一般論から|↑↑⟩S =ℏs, M =ℏm とかいてs= 1, m= 1 の状態となる。

|11 = |↑↑⟩

m1

m2

m1+ m2

(1/2,1/2)

(-1/2,-1/2) (1/2,-1/2)

(-1/2,1/2)

図 2.1: S1 =ℏ/2, S2 =ℏ/2のスピンの合成

よって、これも一般論から

|10 = 1

ℏ√

(s+m)(s−m+ 1)S|11⟩, s= 1, m= 1

= 1

2S|↑↑⟩

= 1

2(S1+S2)|↑↑⟩

= 1

2(|↓↑⟩+|↑↓⟩)

|11 = 1 ℏ√

(s+m)(s−m+ 1)S|10⟩, s= 1, m= 0

= 1

2S1

2(|↑↓⟩+|↓↑⟩)

= 1

22(S1+S2)1

2(|↑↓⟩+|↓↑⟩)

= 1

2(2|↓↓⟩)

= |↓↓⟩

まとめて

|11 = ψm=1(1)

|10 = ψm=0 1

2 (

1 1

)

|11 = ψm=−1(1) ψ1 = (|1

2,1

2) = (|↑↑⟩) ψ0 = (|1

2,−1

2⟩,| − 1 2,1

2) = (|↑↓⟩,|↓↑⟩) ψ1 = (| − 1

2,−1

2) = (|↓↓⟩)

m=m1+m2 = 0 の状態は 2次元のψ0で張られているから|1,0以外にもう一つ 状態がつくれて、直交した状態をとれば

|t⟩ = ψ0 1

2 (

1

1 )

= 1

2(|↑↓⟩ − |↓↑⟩)

となるが、m = 1 に他の状態は作れないはずだからS+|t⟩ = 0 のはず、これを念 のため確認すれば

S+|t⟩ = (S1++S2+)(|1 2,−1

2⟩,| − 1 2,1

2) = 0 よってこの状態はs= 0, つまり

|t⟩ = |00 一般に

|sm⟩ = |m1m2⟩⟨m1m2|sm⟩ (m1, m2で和をとる) と書けば

⟨m1m2|sm⟩ = 0, m1+m2 ̸=m

|1,1 = |1 2,1

2⟩⟨1 2,1

2|1,1

|1,0 = |1 2,−1

2⟩⟨1 2,−1

2|1,0+| −1 2,1

2⟩⟨−1 2,1

2|1,0

|0,0 = |1 2,−1

2⟩⟨1 2,−1

2|0,0+| −1 2,1

2⟩⟨−1 2,1

2|0,0

|1,1 = | −1 2,−1

2⟩⟨−1 2,−1

2| −1,1

書き直して

|1,1 = ψ1(1 2,1

2|1,1) (|1,0⟩,|0,0) = ψ0

( 12,−12|1,0⟩ ⟨12,−12|0,0

⟨−12,12|1,0⟩ ⟨−12,12|0,0 )

|1,1 = ψ1(⟨−1 2,−1

2| −1,1) 更にまとめて

(|1,1⟩,|1,0⟩,|0,0⟩,|1,1) = (ψ1, ψ0, ψ1)[

⟨m1, m2|sm⟩]

= (ψ1, ψ0, ψ1)



 1

1 2

1 2

1

2 12 1





これらの係数⟨m1m2|sm⟩ を クレブシュ・ゴルダン係数 という。

ここで

⟨m1, m2|m1, m2 = δm1m 1δm2m

2

だから

ここで|sm⟩s = 1,0, m=−s,· · ·, s も完全系を作るから

|sm⟩⟨sm| = 1 よって

|m1m2 = |sm⟩⟨sm|m1m2

また、|m1m2 がそれぞれスピン 12 の状態から構成されていることを明示して 次のように書くこともある。

|1 2m1

1

2m2 = |m1m2=|m1⟩|m2 交換相互作用

2つのスピンとして以下の 交換相互作用 交換相互作用と呼ばれるハミルトニア ンを考えて見よう。

H = JS1·S2, J >0

ここで次の関係式に注意すれば

(S1+S2)2 = S12+S22+ 2S1 ·S2

= 1 2(1

2 + 1) +1 2(1

2 + 1) + 2S1·S2

H = J

[1

2(S1+S2)2 3 4 ]

よってこの系の基底状態は唯一であり、

|s= 0m= 0 = 1

2(|↑↓⟩ − |↓↑⟩)

で与えられそのエネルギーは

E0 = J(1

20(0 + 1) 3 4

) =3 4J 励起状態は3重に縮退していて

|11⟩, |10⟩, |11 であり、そのエネルギーは

E1 = J(1

21(1 + 1) 3 4

)= 1 4J

となる。この前者を(スピン)一重項(シングレット)、後者を(スピン)三重項(トリプレット) と呼ぶ。

ドキュメント内 量子力学3-2013 (ページ 34-41)

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