第 3 章 外部環境の変化と動向
3) IFC のアプローチ
3.4.5 日本・ MDBs 等における「災害の環境影響評価」の取り扱い
日本の災害対策基本法 第二条第一項において災害は、「暴風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、
地震、津波、噴火その他の異常な自然現象又は大規模な火事若しくは爆発その他その及ぼ す被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因により生ずる被害」と定義されて いる。
また、現行 GLの運用面の見直しの過程では、「災害と事故の概念について明確に区分す ることが望ましい」という意見が出されたが、事故については日本の環境影響評価法等に おいて明確な定義はなされていない。世銀ESF及びESS、IFCのPSでは特に両者を明確 に分けて影響評価や対策等における要求事項を示していない。例えば、世銀ESS4の緊急 時対応策に関して「緊急時」に含まれる事象として、自然由来及び人為的由来の両方を含 む災害、例えば、火災、爆発、漏洩などを例示しており、これらは様々な理由(手順書の 誤った運用、異常気象、早期警報の欠如等)により発生するとしている。
日本の環境影響評価法における災害の取り扱いについて
「基本的事項」では、「環境要素の区分」として、基本的事項別表に示す項目が示されて いる。ここには災害(自然災害や事故)は掲載されていない。
表 3-11 基本的事項に示される環境要素の区分
出典:環境省ウェブサイト(http://assess.env.go.jp/files/1_seido/1-3_horei/honbun260627-1.pdf)
法アセスの対象事業種のセクターごとの主務大臣は、ここに示される項目の中から、事業 特性(影響要因の細区分の規定)に応じて、標準的に選定する影響を受けるおそれのある 環境要素の細区分(参考項目)を定めて、事業種ごとのアセスの具体的な実施方法等に係 る省令や技術マニュアルを策定している。なお、運用面においては、「環境アセスメント 技術ガイド 大気環境・水環境・土壌環境・環境負荷分野」(2017年、環境省監修)にお いて、「開発行為による土地の安定性の変化(液状化、地盤陥没といった地盤変状や地す べり、斜面崩壊等の危険度増加等)についても環境影響評価の項目の対象として考慮する ことが望ましい」とされている。
環境影響評価法に基づく環境アセスメントで自然災害が取り扱われた事例
2019年5 月時点で、環境省「環境影響評価情報支援ネットワーク」を含むウェブサイト で公開されている環境影響評価法対象案件の環境影響評価書を検索した結果によると、自
然災害に関連した項目を選定しているのは、下表に示す3例であった1。(ただし、No.1、
2の事業については、環境影響評価法施行後の事業であるが法律が完全に適用される以前 の経過措置案件であり、現在実施されている環境影響評価法に基づく環境影響評価とは内 容が異なる)
表 3-12 法に基づく環境影響評価で自然災害に関連する項目を選定した事業
No. 災害に関連する項目 事業名
1 地形・地質 土地の安定性への影響/土 砂流出量の変化/現況地形 の変化
瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業
2 地形・表層地質・
土壌・特異な自 然現象
地形の改変の程度/法面の 安定性/表土の保全
市原都市計画事業 市東第一特定土地区画整 理事業
3 地形及び地質 土地の安定性 中央新幹線(東京都・名古屋市間)
出典:1、2:環境省環境影響評価情報支援ネットワークウェブサイト http://assess.env.go.jp/2_jirei/index.html
3:JR東海ウェブサイト
https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/assessment/document1408/nagano/
上記表の No.1、2 は面的広がりのある開発事業、No.3は線形インフラ建設事業であり、
大規模な土地の造成や斜面の工事により、斜面、法面の安定が損なわれ、地滑り、斜面崩 壊といった災害の発生を想定して項目を選定している。一例として、No.3 については事 業者ウェブサイトで閲覧可能であったため、以下にNo.3の事例について詳述する。
No.3の環境影響評価書は「中央新幹線(東京都・名古屋市間)環境影響評価書 【長野県】
平成26年8月」である。同アセス書の項目選定では、「地形及び地質」において、影響要 因としてトンネルの工事、切土工等又は既存の工作物の除去に着目し、「土地の安定性」
を選定している。土地の安定性に係る環境保全措置として、「適切な構造及び工法の採用」、
「法面、斜面の保護」、「適切な施工管理」が提案されている。
なお、No.3 の事例では、供用時における自然災害を対象とした影響評価は行われていな い。
<適切な構造及び工法の採用による環境保全措置>
<法面、斜面の保護による環境保全措置>
1 日本の環境影響評価法対象案件は縦覧期間中の環境影響評価書を中心に、一部がウェブサイトで掲載されている。
<適切な施工管理による環境保全措置>
出典:JR東海ウェブサイト
https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/assessment/document1408/nagano/_pdf/eis2_naganoh08-03-02.pdf
世銀の対応
世銀ESS 4では、次のように規定されている。借入人は国内法規定、EHSガイドライン等
に沿って、第三者や周辺コミュニティに危険が及ばないよう構造物の設計、建設、供用、
解体を行う(ESS 4, para6)。構造物の設計は、気候変動による影響を考慮する。洪水のよう な気候変動による影響に対処するための方策は、EHS ガイドラインや GIIP を参照する
(ESS4 GN6.4)。同ESS 4では、借入人は供用時の事故や自然災害(異常気象を含む)に対
する一般の利用者の安全リスクを考慮する。
3.4.6 気候変動への対応の整理
JICA GL別紙1「検討する影響スコープ」に関連して、世銀、ADB、IFCのセーフガード
ポリシーにおける気候変動への対応にかかる規定を表 3-13にて整理した。セーフガード ポリシー上で、パリ協定(2℃目標)への貢献を具体的要件として掲げているドナーは確 認されなかった。一方、GHG 排出量の予測・定量化、及び技術的・財政的に実現可能で 費用対効果のあるGHG排出量削減の代替案の分析については表 3-14のとおり。
表 3-13 GHG排出にかかる規定
世銀 ADB IFC
GHG 排出量の予 測・定量化の対象 範囲
ESS3 では、以下を除く全ての 案件について、事業のライフサ イクルにおける年間の総 GHG 排出量を予測する(para 16)。二 重計算を避けるためにスコー プ1(注)のみ対象(GN 16.1)。
・排出源が多岐にわたったり僅 かであったりする場合(例:コ
CO2換算でスコープ1と スコープ2の合計が年間
100,000トン以上排出する
案件、年間のスコープ1と スコープ2(注)を定量化す る ( SPS Appendix 1, footnote 10)
CO2換算で年間25,000ト ン以上排出する案件(PS3,
para8)。年間のスコープ1
とスコープ2(注)を定量化 する(GN3, Annex A)
世銀 ADB IFC ミュニテイ開発事業)
・排出量が多くないと想定され る場合(例:教育や社会保護に かかるプロジェクト)
算定の閾値 特になし CO2換算でスコープ1と スコープ2の合計が年間 100,000 ト ン 以 上 (SPS Appendix 1, footnote 10)
CO2換算で年間25,000ト ン以上(PS3, para8)
排 出 量 計 算 の 頻 度
環境社会影響評価の一環とし て、事業実施前に1回推計(ESS 3,para 16)
年 1 回 の 定 量 化(SPS, para39)
年 1 回 の 定 量 化(PS3, para8)
情報公開の方法 プロジェクトのリスク分類に 応じて、ESIAを通じて公表
ESIAを通じて公表 借入人の年次報告書、ま たは国際的かつ自主的な 報告メカニズムの中で年 間排出量を公表すること を推奨
(GN3, para19)
注: スコープ 1 は、事業者が所有又は管理するものから直接排出される GHG、スコープ 2はプロジェクトバウンダリーの外 で発生するが、事業における電力等のエネルギー使用に伴い発生するGHGを指す(IFC PSガイダンスノート)。
出典:各機関のセーフガードポリシー文書より作成。
また、EP3では、GHG排出量の算定は、例えば温室効果ガスプロトコル(GHG Protocol)の ような国際的に認知された方法やグッド・プラクティスに従い顧客が行い、顧客はスコー プ 1 とスコープ 2 の排出量を算定するとされている。スコープ1とスコープ2の排出量 合計が、CO2換算で年間100,000トン以上の場合、顧客は排出量を毎年公開することが義 務付けられ、CO2換算で年間25,000トン以上の場合は、公開が推奨される(EP, p.12) 現行のGLにおいては、検討する影響のスコープに気候変動が含まれており、気候変動対 策支援ツール/緩和策(JICA Climate FIT(Mitigation))をベースラインシナリオからのGHG 排出削減量評価手法として採用している。
技術的・財政的に実現可能なGHG排出量削減の代替案検討については、世銀及びIFCの SGPにおいて関連事項が述べられている。下表のとおり、世銀ESS3は事業に由来する大 気汚染を回避・最小化する代替案について、IFCはPS3にて事業由来のGHG排出削減の ための代替案についての検討を求めている。ADBのSGPでは同様の記載は見られなかっ た。
表 3-14 技術的・財政的に実現可能で費用対効果のあるGHG排出量削減の代替案の分析
世銀 IFC ADB
設計・建設・供用時において、事業 に由来する大気汚染を回避または 最小化するために、代替策を検討 し、技術的・財政的に実現可能で費 用 対 効果 の ある 対 策を 実施 する (ESS 3, para15)
事 業 の設 計 及び 運 用に おい て、
GHG排出を削減するための、技術 的・財政的に実現可能で費用対効 果のある代替案を検討する(PS 3, para7)
記載なし
3.4.7 MDBs 等の不可分一体事業、派生的・二次的影響、累積的影響への対応の整理
JICA GL別紙1「検討する影響スコープ」に関連して、世銀、ADB, IFCの不可分一体事
業、派生的・二次的影響、累積的影響の定義および対応規定を整理した。なお、「個人の