コラム 4 ヒンクリーポイント C
6. 日本の原発輸出政策
経緯
原発輸出とは、ここでは、1. 原子力発電の技術および施設・部品を海外に販売すること、2. 海外 における原子力発電所の建設や発電事業に日本企業が参入すること、3.海外における原発の導入 に、日本(企業・政府)が技術提供することなどを指すこととする。
従来は、原発の部品の輸出や、海外からの研修生の受け入れなど、限定的な意味合いにおいての
「原発輸出」「原子力協力」が主流であった。
2010 年 6 月の「新成長戦略」で、日本政府は「アジアの所得倍増を通じた成長機会の拡大」と して、パッケージ型インフラ海外展開を提唱した。2010 年 9 月には、アジアのインフラ需要に対 応して、民間企業の取組を支援し、国家横断的かつ政治主導で機動的な判断を行うことを目的に、
「パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合」が設立され、この中に、原発も位置付けられた。
これ以降、原発輸出を官民一体となって積極的に推進していくことになる。具体的には、首相など によるトップセールス、実施可能性調査など事前調査への国費の投入、国際協力銀行や日本貿易保 険による融資や付保を想定した財政支援を前提とした相手国との交渉である。
2011 年 3 月 11 日の東日本大震災およびそれに続く東電福島第一原発事故後、国内の脱原発の世 論は一気に高まった。当然、原発輸出に関する批判も強まった。しかし、日本政府の原発輸出をめ ぐる姿勢は、二転三転する。
菅直人総理大臣(当時)は、2011 年 7 月「もう一度議論しなければならない段階に来ている」
と発言。その後、野田政権下で、「他国との関係もあるため、3・11前から継続されてきた原子 力協定は、そのまま手続きを進める。新たな原発輸出については、国内の政策と整合を持たせる」
という論調に転換した。
こうした中、日本政府は、国会にベトナム、ヨルダン、韓国、ロシアの4か国と原子力協定の承 認案を提出。2011 年 12 月 9 日に、造反議員を多く出しつつも、民主党、自民党などの賛成多数で 可決した。
2012 年 12 月に自民党が政権を取戻し、第二次安倍政権になってから、自民党はこの政策を継続 し、さらに強化した。「経協インフラ戦略会議」を内閣府に設置し、「先進的な低炭素技術の海外 展開支援」の一つとして原発を位置づけた。
原発ビジネスの国際展開を行う意義として、① 世界のエネルギー安定供給、温室効果ガス排出削 減、化石燃料依存度低減に貢献、② 日本の経済成長に寄与、③ 国内の技術力・人材の厚みの維持 強化の必要性――が挙げられた。
ベトナム、サウジアラビア、UAE、トルコ、東欧、インドなどで首相や外相による原発に関連す るトップセールスが繰り広げられた。首相の外遊に企業関係者が同行することもめずらしくなかっ た。
このように、原発輸出に官民挙げて取り組んだが、その成果はあがっていない。オール・ジャパ ンで取り組んだベトナムへの原発輸出については、ベトナム国会が 2016 年 11 月に撤回決議を可 決。表向きの主な理由としては、経済的に割が合わないこととされている。日立が原発建設を計画 していたリトアニアは住民投票で原発建設が否決されたのち、2016 年の選挙で、反原子力政策の
「農民・グリーン同盟」が第1党となり、原発計画は凍結された。三菱重工業、伊藤忠商事などが トルコで進める新型原発建設計画は、事業費が当初見積もりから倍増し、伊藤忠商事が撤退の判断 をした。
事前調査に投入される税金
税金を使った調査は、さまざまな形態で行われてきた。たとえば、ベトナムのニントゥアン第二 原発建設計画に関しては、以下のような事前調査が行われ、税金が投入されてきた。
1) 予備的実現可能性調査(プレ F/S)(2002 年、日本原子力産業会議の支援を受け、
日本プラント協会が実施。金額は不明)
2) 原発導入による二国間クレジットの制度化検討・調査(2010 年、東京電力、三菱総 研が受託。金額不明)
3) 2009 年、経産省「低炭素発電産業国際展開調査事業」を日本原子力発電(日本原 電)が採択。ベトナムの原発計画に関する実施可能性調査(F/S)。金額は 19.99 億 円。
4) 平成 23 年度インフラ・システム輸出促進調査等事業(2011 年、日本原電受託、5 億 円):内容的には F/S の追加と思われる。
5) 平成 24 年度インフラ・システム輸出促進調査等事業(2012 年、日本原電受託、3 億 5,000 万円):内容的には F/S の追加と思われる。
このうち、4) 〜 5)の調査内容は不明であり、FoE Japan 等が再三にわたり問い合わせたが、な ぜ追加的な調査が必要であったのか明らかにされていない。報告書は 3)が一部開示されたのみであ
り、4)、5)は不開示である。
これ以外にも、トルコ・シノップ原発における敷地周辺調査を、日本原電が 11 億 2 千万円で、
経済産業省から受注し(平成 25 年度「原子力海外建設人材育成委託事業」)、翌年は原発活断層 の評価・解析という名目で 8 億円の事業を受注している。事実上、日本原電しか入札できない条件 であった。外部有識者による「審査」が行われたというが、有識者の名簿は公開されていない
。
国の「安全確認体制」
3・11 前でも原発の資機材の輸出と公的支援は行われてきた。その際、1件当たり 10 億円を超 える機器について、政府 100%出資の国際協力銀行(JBIC)または日本貿易保険(NEXI)が融資や 付保などの支援を行う際に、経済産業省および原子力安全・保安院による「安全確認」が行われて きた。
しかし、内容としては、設備の仕様や安全基準の整合性など、国内向け設備の場合ならば許認可 の対象となる審査が、輸出向けの場合には行われておらず、簡単な書面審査や聞き取りだけであ り、① 相手国・地域が安全規制を適切に行える体制等を整備していること、②安全確保等のために 整備されている国際取り決め等を受け入れ、それを遵守していること、③輸出する機器等の製造者 が、輸出機器等の品質確保や輸出後長期間にわたる当該機器等の保守補修および関連研修サービス を適切に行っていくことが自らの責務であることの認識のもとにこれに積極的に対応していくこと
--の3項目について、JBIC/NEXI の申請に基づき確認を行っていただけであった。実際の確認を 行うのは、①、②については原子力安全保安院、③については経済産業省製造産業局産業機械課で あった。
しかし、3・11 後、原子力安全保安院が廃止された後に発足した原子力規制委員会が、原発輸出 案件の安全確認を引き継ぐことを拒否していたこともあって、長らくこの「安全確認」体制は宙に 浮いていた。
2015 年 10 月 6 日、「原子力施設主要資機材の輸出等に係る公的信用付与に伴う安全配慮等確認 の実施に関する要綱」が発表された。
同要綱によれば、内閣府、財務省、経産省から構成される「原子力施設主要資機材の輸出等に係 る公的信用付与に伴う安全配慮等確認に関する検討会議」が設置され、原子力の安全に関する条約 の加入または加入意思、IAEA が実施する総合規制評価サービス(IRRS)の受入れ状況に係る情報な どをもとに、政府としての原発輸出の安全確認を行うこととなっている。
またこの制度は JBIC/NEXI の「依頼」によって政府が「情報提供」する位置付けになってお り、安全性等を含めプロジェクトのリスクの確認の責任主体は JBIC/NEXI である。
同要綱の内容は以下の点からきわめて不十分であり、「安全確認」とは名ばかりのレベルのもの である。
同要綱であげられている条約には、NPT や IAEA 保障措置協定、追加議定書が含まれて おらず、核不拡散が担保されない。
15 億円未満の案件が対象外になっている。3・11 前の「安全確認」では 10 億円未満の 案件が対象外であったため、対象が狭まっている。
条約の加入や加入意思、IAEA の IRRS の受け入れだけでは、実際に安全が担保されな い。プロジェクトごとに立地の特性などに即した安全配慮確認がなされない。 ‧
確認した内容は一般に公開されない。事後的な「議事要旨」の公開のみである。
インフラ・システム輸出戦略を所管する内閣府を中心とする体制では中立性は担保され ない。
原子力安全条約(原子力の安全に関する条約:Convention on Nuclear Safety) は、締約国に対 して、原子力施設に関する「国別報告書(National Report)」(第 5 条)の策定およびレビュー 会合(第 20 条)への提出、その検討により指摘・推奨された事項について改善を図ることを求め る条約である。日本も加盟国であり、国別報告書をレビュー会合に提出していたが、福島第一原発 事故を防ぐことはできなかった。
総合規制評価サービス(Integrated Regulatory Review Service, IRRS)は、国際原子力機関
(IAEA)が加盟国に提供するレビュー・サービスのひとつであり、原子力安全規制に係る国の制度 等について IAEA の安全基準に照らして総合的に評価を行うことを目的としている。原子力安全・
保安院によれば、「IRRS を受けた国は、当該 IRRS の評価に拘束されるものではないが、評価結 果やレビューチームとの意見交換を踏まえ、安全規制の更なる高度化や実効性の向上に向けた自主 的な取組が期待される」とされている。 すなわち、IRRS もまた国の制度・体制についての確認で あり、プロジェクトレベルの安全配慮確認ではなく、また義務的なものというよりも、自主的な改 善をめざすものである。 日本は3・11以前から IRRS を受け入れていたが、これもまた福島第一 原発事故を防ぐのには役に立たなかった。
以上のように、国の「安全配慮等確認」では、原発の立地条件や自然災害や テロリズム・紛争、
原子力施設、周辺施設の安全性はまったく確認されておら ず、抜け穴だらけである。
国際協力銀行(JBIC)/日本貿易保険(NEXI)の環境社会配慮ガイドライン
JBIC も NEXI も、形態としては株式会社であるが、政府 100%出資の特殊会社である。日本企業 が海外で行う大規模なインフラ事業に参与する際に、JBIC は投融資、NEXI は保険の付与の形で支 援を行う。
JBIC および NEXI は自らが支援するプロジェクトが海外において環境破壊や人権侵害を起こして はならないという観点から「環境社会配慮ガイドライン」を策定し、その運用を行ってきた。環境 社会配慮ガイドラインにおいては、大規模な事業、もしくは大きな影響が予見される事業について は、環境影響評価の公開(現地および JBIC/NEXI)が義務付けられ、住民との早期の段階での協 議、社会的合意形成、住民移転の際の生計回復などにつき JBIC/NEXI が確認を行い、融資や付保 の意思決定に反映させることなどが規定されている。
2008 年に両機関が環境社会配慮ガイドラインを改定する際、NGO などとの協議会合において、
NGO 側は、原発は、他のプロジェクトにない固有の問題を有していることを指摘し、国内と同等 の安全が担保されているような内容にすべきだと主張した。しかし、このときは、この主張は見送 られた。