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4. 各種構造物への詳細調査と老朽化予測の適用

4.1 鉄筋コンクリート構造物

鉄筋コンクリート構造物は、対象構造物の老朽化要因に対応した適切な調査を行い、

その結果に基づいて老朽化予測等を行うことが望ましい。

【解説】

1.鉄筋コンクリート構造物の主な老朽化機構

鉄筋コンクリート構造物の主な老朽化機構として、塩害、中性化、凍害、化学的侵食、ア ルカリ骨材反応等の環境作用が要因となるものや疲労や過大荷重等の荷重条件が要因となる ものがある4-2)

塩害による老朽化機構について、図-4.2 に示す。

図-4.2 塩害による老朽化機構

38

2.鉄筋コンクリート構造物の主な変状項目と老朽化要因、及び詳細調査項目

鉄筋コンクリート構造物は、主な変状項目に該当する老朽化要因の推定を行い、要因ごと の調査項目の中から詳細調査の選定を行う。主な変状項目と老朽化要因を表-4.1、詳細調査 の主な項目を表-4.2 に示す4-3)

表-4.1 変状項目と老朽化要因

主な変状項目

老朽化要因 塩 害 中性化 アルカリ

骨材反応 凍 害

①コンクリートのひび割れ

鉄筋軸方向のひび割れ ◎ ○ - -

微細なひび割れ - - - ◎

膨張ひび割れ(亀甲状等) - - ◎ -

②コンクリート表面の状況

浮き・剥離 ○ ○ - -

③錆汁の滲出 ◎ - - -

④鉄筋の露出 ◎ - - -

⑤変形 - - ○ ○

注)◎は特に関連が深いもの、○は関連があるものを示す。

39

表-4.2 詳細調査の主な調査項目

調査項目 塩害 中性化 アルカリ骨

材反応 凍害 コンクリートのひび割れ 幅、長さ、深さ、進行状況 ◎ ◎ ◎ ◎

コンクリートの表面状況

浮き・剥落 ◎ ◎ ○ ○

スケーリング、ポップアウト △ △ △ ◎ 鉄筋の腐食状況 露出の程度、内部鉄筋の腐食状況 ◎ ◎ ○ ○ 配筋状況 かぶり厚さ、鋼材位置(配筋状態) ◎ ◎ △ △

コンクリートの物性

圧縮強度、ヤング係数など ○ ○ ◎ ○

配合推定 ○ ○ ○ ○

慘出物、内部組成(生成鉱物) ○ ○ ◎ △

細孔径分布 △ △ ◎ ◎

中性化深さ ○ ◎ ○ ○

含有塩化物イオン量(塩化物イオン濃度分布) ◎ △ ○ ○

残存膨張量 △ △ ◎ △

その他

内部欠陥 ○ ○ △ △

異常な変位や変形 ○ ◎ ○ ○

表面の変色 ○ ◎ △ △

凡例)◎は有効なデータが得られるもの、○は参考となるデータが得られるもの、△は参考とな る場合があることを示す。

出典;平成10年度 設計技術基準検討調査(漁港構造物補修設計の手引きの作成),

水産庁漁港部,財団法人 漁港漁村建設技術研究所,平成11年

40

3.鉄筋コンクリート構造物の老朽化予測

鉄筋コンクリート構造物の老朽化予測は、該当する老朽化要因を推定し、適切なモデルに より行う必要がある。塩害に対する鉄筋コンクリートの老朽化予測例を以下に示す。塩害の 場合は、建設後の経過年数と現況を勘案して潜伏期の老朽化期間を適切に推定し、その値を 用いて、潜伏期以外の老朽化過程の期間を設定する4-4)

○老朽化予測の方法

潜伏期における老朽化予測式

・塩化物イオンの拡散方程式:フイックの第

2

法則

 

 

 

2 2

x Dc C t C

ここに、C:液相の塩化物イオン濃度

Dc:塩化物イオンの拡散係数

x

:コンクリート表面からの距離

t:時間

・鋼材位置における塩化物イオン濃度

C(x,0) t

D 2 erf x -1 C0 t

C(x,   

 

 

) ・

ここに、C(x,t):深さ

x(cm)、時刻 t(年)のおける塩化物イオン濃度(kg/m

3

)

C0

:表面における塩化物イオン濃度(kg/m3

)

D :塩化物イオンによる見かけの拡散係数(cm2

/年)

erf

:誤差関数

C(x,0):初期含有塩化物イオン濃度(kg/m

3

)

D:塩化物イオンの見かけの拡散係数(普通ポルトランドセメントを 使用した場合)

ここに、W/C:水セメント比

C0:表面における塩化物イオン濃度(kg/m

3

)

表面における塩化物イオン濃度

C0 (kg/m

3

)

飛沫

海岸からの距離(km)

汀線付近

0.1 0.25 0.5 1.0

飛沫塩分が

多い地域

北海道、東北、

北陸、沖縄

13.0

9.0 4.5 3.0 2.0 1.5

飛沫塩分が 少ない地域

関東、東海、近畿、

中国、四国、九州

4.5 2.5 2.0 1.5 1.0

- 3.9 W C 7.2 W C) - 2.5

logD 

( )2

44

2. 鋼構造物の変状項目と老朽化要因、及び詳細調査項目

鋼構造物は、鋼材の腐食を老朽化要因とする鋼材の開孔、変形、及び発錆が主な変状項目 である。鋼構造物の詳細調査は、鋼材自体の腐食調査及び防食工の調査を行うものとし、主 な項目を表-4.3 に示す。

表-4.3 詳細調査の主な調査項目

調査項目 防食工無し

防食工有り 電気防食

(陽極)

電気防食

(外部電源) 被覆防食

①鋼材の腐食調査

目視観察 ○ - - -

肉厚測定 ○ - - -

②電気防食(陽極)調査

目視観察 - ○ - -

電位測定 - ○ - -

陽極調査 - ○ - -

テストピース調査 - ○ - -

環境調査 - ○ - -

③電気防食(外部電源)調査

電源装置の運転状況 - - ○ -

電位測定 - - ○ -

電極電流調査 - - ○ -

テストピース調査 - - ○ -

環境調査 - - ○ -

③被覆防食調査

塗覆装調査 - - - ○

46

【参考文献】

4-1) 水産庁漁港漁場整備部,財団法人漁港漁場漁村技術研究所:効率的な維持更新方策の検 討調査報告書,平成 18 年3月

4-2) 日 経 コ ン ス ト ラ ク シ ョ ン 編 : こ れ か ら 始 め る コ ン ク リ ー ト 補 修 講 座 , 日 経 BP,pp.6-26,2002.

4-3) 社 団 法 人 日 本 コ ン ク リ ー ト 工 学 協 会 : コ ン ク リ ー ト 診 断 技 術 ’09 [ 基 礎 編],pp.67-180,2009.

4-4) 土木学会編:コンクリート標準示方書[維持管理編],2007.

4-5) 森村英典,高橋幸雄:マルコフ解析,日科技連,pp.3-7,1979.

4-6) 古谷宏一,横田弘,橋本勝文,花田祥一:マルコフ連鎖モデルを用いた係留施設の劣化予測 の信頼性評価,土木学会論文集 F,Vol.67,NO.4,pp.Ⅰ_159-Ⅰ_168,2011.

4-7) 藤井哲雄:基礎からわかる金属腐食,日刊工業新聞社,2011.

参 考 資 料

1

参考資料-1

機能診断事例

2

1.機能診断事例

ケーソン式防波堤において、簡易調査(重点項目)による変状規模の把握を行い、老朽 化度の評価を行った事例を以下に示す。

簡易調査結果の考察及び健全度評価結果およびを表-参 1.1 及び表-参 1.2 に示す。

表-参 1.1 簡易調査結果の考察

調査結果・考察等 対策の

移動 水平移動量

隣接ブロックとの間に小規模な移動が 確認 され た。最大で10cm程度(c判定)の移動であり、施設 の機能にかかわる変状ではないが、継続して観察 する必要がある。

沈下 目地ずれ、

段差

隣接ブロックとの間に段差が確認された。最大で 8cm程度(c判定)の段差であり、施設の機能にか かわる変状ではないが、継続して観察する必要が ある。

上部工

上部工でひび割れが確認された。最大で幅2cm程度

(b判定)のひび割れであり、放置した場合に、施 設の機能が低下する恐れがある状態である。

本体工

本体工でコンクリートのひび割れが確認された。

最大で幅5mm程度(c判定)のひび割れであり、施 設の機能にかかわる変状ではないが、継続して観 察する必要がある。

凡例 対策必要:○、対策不要:-

コンクリートの 劣化、損傷

コンクリートの 劣化、損傷 調 査 項 目

施設全体

表-参 1.2 健全度評価結果

No.1 No.2 ・・・ No.15 a 本 体 の 一 部 が マ ウ ン ド

から外れている。

b 隣 接 ケ - ソ ン と の 間 に 側 壁 厚 程 度 ( 40 ~ 50 c m)のずれがある。

c 小規模な移動がある。

d 変状なし。

a 目 視 で も著 しい 沈下 (1 m 程 度 ) が 確 認 で き る。

b 隣 接 ケ - ソ ン と の 間 に 数 十 c m 程 度 の 段 差 が ある。

c 隣 接 ケ - ソ ン と の 間 に 数 c m 程 度 の 段 差 が あ る

d 変状なし。

幅 1 c m以 上の ひび 割れ がある。

小規模な欠損がある。

c 幅 1 c m未 満の ひび 割れ がある。

d 変状なし。

幅 1 c m以 上の ひび 割れ がある。

小規模な欠損がある。

c 幅 1 c m未 満の ひび 割れ がある。

d 変状なし。

健全度

施設全体

d c ・・・

調 査 項 目 調 査 方 法 変状の程度 スパン毎の老朽化度

d D

d c ・・・ d D

b ・・・ c B

上部工

a 防 波 堤 の 性 能 に 影 響 を 及 ぼ す 程 度 の 欠 損 が あ る。

b b

・・・ d C

本体工

a 防 波 堤 の 性 能 に 影 響 を 及 ぼ す 程 度 の 欠 損 が あ る。

c コンク b

リートの 劣化、損 傷

目視

・ひび割れ、損傷、

欠損

・老朽化の兆候 など

B 移 動

沈 下

コンク リートの 劣化、損 傷

目 視( メジ ャ- 等に よ る計 測を 含む 、以 下同じ)

・水平移動量

目視

・目地ずれ、段差

目視

・ひび割れ、損傷、

欠損

・老朽化の兆候 など

部材毎の健全度が 最 も 低 いも の を 記 入し、施設としての 健全度の参考とす る。

ス パ ン 毎 の 老 朽 化 度を集計し、その割 合 と 施 設 の 安 全 性 に及ぼす影響度(Ⅰ

~Ⅲ)に応じて健全 度を評価する。

3

参考資料-2

詳細調査項目

4

表-参2.1 コンクリート構造物の詳細調査項目

凡 例 ◎ :劣化の程度にかかわらず重要なデータが得られる

○ :劣化の程度によっては重要なデータが得られる 無印:参考になることもある

注)※1:変形,変色,スケーリング,ひび割れの点検を含む 注)※2:中性化とは,コンクリートの中性化による鋼材腐食を指す

注)※3:TG(熱重量分析)・DTA(示差熱分析)とも,水和生成物や炭酸化物などを定性・定量する 分析法である

注)※4:電子線マイクロアナライザーの省略.コンクリート中の元素の定性,定量分析を行う 劣 化 機 構 点 検 方 法 原 理

試験項目等 中性化※2 塩 害 凍 害 化学的侵食 アルカリ骨材反応 疲 労

自然電位法 ◎ ◎ ○ ○ ○

電 気 化 学 的 方 法

分極抵抗法 ◎ ◎ ○ ○ ○

応 力 測 定 法 載荷時のひずみ測定 ○ ○ ○ ○ ○ ◎

変 形 測 定 法 載荷時の変形測定 ○ ○ ○ ○ ○ ◎

目 視 ,写 真 撮 影 双眼鏡,カメラ,変形※1 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

打撃音,波形解析 ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○

テストハンマー強度 ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○

表面の赤外線映像 ○ ○ ○ ○ ○

中性化深さ ◎ ◎ ○

鋼材腐食状況 ◎ ◎ ○ ○ ○ ○

鋼材引張強度 ○ ○ ○ ○ ○ ○

中性化深さ ◎ ◎ ○

外観検査・ひび割れ深さ

錆等の目視 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

圧縮強度・引張強度・弾性係数 ○ ◎ ◎

配合分析 ○ ○ ○

塩化物イオン含有量 ○ ◎ ○ ○ ○

アルカリ量分析

骨材の反応性

膨張量測定

細孔径分布 ○ ○ ◎ ◎ ○

気泡分布

採取したコアによる試験

透気瀬(水)性試験 ○ ○ ○ ○

熱分析(TG・DTA)※3 ◎ ◎

X線回折 ○ ◎ ○

EPMA※4 ○ ○

コンクリートの化学組成

走査型電子顕微鏡観察 ○ ○

超音波法,衝撃弾性波法 ○ ○ ◎ ◎ ◎ ○

弾 性 波 を 利 用 す る 方 法

AE法

鋼材配置 ◎ ◎ ○ ○ ○ ○

空隙 ○ ○

電磁波を利用する方法

( レ ー ダ ー 法 )

部材厚 ○ ○

電磁波を利用する方法

( 赤 外 線 法 ) 表面はく離 ○ ○ ○ ○ ○

電磁波を利用する方法

( X 線 法) 鋼材位置・径,空隙,ひび割れ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○

磁 気 を 利 用 す る 方 法 鋼材位置・径 ◎ ◎ ○ ○ ○ ○

電 気 を 利 用 す る 方 法 誘電率・含水率 ○ ○ ○ ○ ○

載 荷 試 験 ( 静 的 ) ひび割れ発生・剛性 ○ ○ ○ ○

載 荷 試 験 ( 振 動 ) 固有振動数,振動モード ○ ○ ○ ○

(参考;2001年制定コンクリート標準示方書[機能保全編],土木学会,平成13年)

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