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1、対象

 追指導に関する質問紙調査の結果をもとに,4校の聾学校を選び訪 問調査を行った。聾学校を選ぶ基準としては,次の3点を考慮した。

進路指導の校内体制の進んでいる聾学校,地域の専門機関との連携に 力を入れて追指導している聾学校,一県一校の典型的な聾学校である。

調査した4校の聾学校は,2校が同一県内にあり,3地区に分けられ る。調査対象者は追指導を担当する進路指導部長(主任)である(表

3−1)。

        表3−1対象校のプロフィール

聾学校 地 域 役職名

A B C D

E地区 e地区 e地区 f地区

進路指導主任 i路指導部長 i路指導部長 i路指導主任

皿.手続き

 調査期間は,200X年8〜10月に対面でのインタビューを行った。

調査方法は,追指導の質問紙による実態調査をもとに,半構造化面接 によりインタビューを行った。1人30〜90分程度の聞き取りを行い,

インタビューの内容は全てレコーダーに録音した。レコーダーに録音 したインタビューの内容は文字に書き起こし,KJ法(川喜田1967)で

分析した。

第3節結果と考察

1.全体

 4校の聾学校進路指導部長(主任)のインタビューから得られたエ ピソードはKJ法(川喜田1967)で分析した結果,123のエピソードが 得られ,26のカテゴリーに分類することができた。それを8っの大群

に分類することができた。これらの大群・小群と群数を表3−2に示す。

         表3−2 大群・小群名と噸数

大群 小群 群数

追指導 a。追指導の必要性 3

b.形態 3

c.予算 2

d.卒業生との関係 3

e.相談 3

f.支援の方法 3

9.連携 8

h.その他 4

 追指導の現状と課題について,4校の聾学校の進路指導部長に,対 面での聞き取り調査を行い,得られたエピソードを質的に分類し,カ テゴリー化した。123のエピソードは26の小分類に分けられ,そして 8つの大分類に集約することができた(表3−3)。その関係性を明らか にするために全体の構成図を試作した(図3−1)。

 卒業生かうの相談(e)は,追指導の必要性(a)を意味し,追指 導を実施(b)することになる。しかし,予算(c)が少ない場合,

追指導の実施に影響を及ぼしてしまう。卒業生との関係(d)を保ち ながら追指導は行なわれる。追指導の実施に当たっては,支援の方法

(f)や他の機関との連携(g)が必要になる場合が考えられる。こ のように追指導の実施に当たって方向付けをすることができた。

表3−3 聾学校進路指導主任へのインタビューのカテゴリー分類

大分類 小分類 エピソード

ii追指導の必要性 i追指導の意義3i就職に必要な力 gi Wi

i

…i聴覚障害者の就職

6i 23

 ■

@i実施時期 …3i引き継ぎ : i担当者 4i

Qi2i 8

i予算

3i

i予算 4i   7

i■i卒業生との関係  ■@i連絡があれば会って相談する …3i聾学校の存在 2i Ui

i

=i連絡方法

8i 16

ii 相 談  …@i相談内容 =3i離職理由 11i

Si

…i個別に面談

2i 17

追指導 8i i支援の方法 … i県外への就職 =3i会社からの支援 : i重複障害者の追指導 6i

Qi5i 13

 ■

@i会社 … i保護者の協力 : iネットワーク会議 … i職業安定所81 i障害者職業センター :薩学校 = i聴覚障害者協会 =亜聖機関 6i

Vi7i7i3i4i3i3i 40

iiその他

i騰面接会 i職場体験4i i大学等への進学 = i校内啓発 4i Wi

Si6i 22

合計

8i

26i 123i

8

a追指導の必要性

e相談

。予算

b追指導の形態

       d卒業生との関係

図3−1聾学校の追指導に関する調査の全体図

f支援の方法

9連携

h進路指導

(その他)

∬.各カテゴリーの内容 1.追指導の必要性

 追指導の必要性に関するエピソードは23あり,それを①追指導の意 義,②就職に必要な力,③聴覚障害者の就職の3つ群に分類した(表

3−4)。

      表3−4追指導の必要性

分 類 名 エピソード数

①追指導の意義 A就職に必要な力 B聴覚障害者の就職

986

合 計

23

 以下それぞれの群について述べる。

 追指導の意義のカテゴリーでは9つのエピソードが得られた。主な ものは,追指導は必要でありその意義は大きい,機会があれば職場を 訪問し卒業生に声を掛け励ますと共に企業との顔つなぎを大切にして いる,相談することが甘えていることだと考え我慢している卒業生や,

職場になじめない卒業生は何とか支援したい,卒業生が共倒れしない ように同一企業へは連続して就職はさせていないなどであった。

 就職に必要な力のカテゴリーでは8つのエピソードが得られた。主 なものは,聾学校の小さな仲良し集団では競争しない環境で育ってし まうが,会社の中では競争して勝ち抜いていく力は必要になる,挨拶 ができ積極性があり素直な子は就職してからも伸びていく,自分本位,

自主性がない,文章力がない,コミュニケーションが取れない,挨拶 ができない,その場の状況・空気が読めないなど企業に指摘されたこ とや,人間関係を保つ,マナーなどは在校生に指導しているが,生徒 は自分は大丈夫だと思っている面がある,国語力・文章力を企業から 指摘されることが多い,自分の行動には責任を持つこと,また自分の 行動が周りに影響を及ぼすこともあることなども指導しているなどで

あった。

 聴覚障害者の就職のカテゴリーでは6つのエピソードが得られた。

主なものは,多様な職種の会社に就職しており,仕事内容が合い定着 している者もいる,障害者枠で苦労せずに採用されている場合もある,

聾学校の場合,入社試験を受験できるかどうかも不安定である。地元 の企業は聴覚障害者の雇用を敬遠するところも多いなどであった。

 インタビューした4校の進路指導部長(主任)は,追指導の必要性 は高く,その意義は大きいと感じている。追指導の取り組みは各学校 で若干の違いはあるものの,卒業生を職場など事業所に何とか定着さ せたいという担当者の熱意を強く感じた。相談することを甘えている ことだとか職場になじめていない等は一部の卒業生の事例かもしれな い。しかし,その問題を個人の力で乗り越えられないのであれば,解 決のための援助を受けない限り,その卒業生の職場環境は変わらない。

周りの相談機関に自ら接点を求めない聴覚障害者は多いことは予想で きる。その接点を聾学校の追指導はつなぐことができると考える。

 就職に必要な力ではいくつかのキーワードがある。マナー,態度,

性格,学力の4つである。それは挨拶,協調性,自主性,積極性,素 直さ,文章力,コミュニケーションなど多岐にわたる。また競争意識 も仕事をする上では必要との声もあったが,聾学校のような小さな集 団では,競争意識を育成するのはかなり難しい問題だとの指摘もあっ

た。

 聴覚障害者の就職状況については,都市部と地方の地域的な格差が 生じている。就職状況の地域格差は聴覚障害者に限った問題ではない が,企業の数など地方での就職活動は厳しい。生徒の希望,特性を的 確に仕事に結びつけることが職場定着につながっていることが分かる。

2.追指導の形態

 追指導の形態に関するエピソードは8っあり,それを①実施時期,

②担当者,③引き継ぎの3つの群に分類した(表3−5)。

 以下それぞれの群について述べる。

 実施時期のカテゴリーでは4っのエピソードが得られた。主なもの は,一番仕事が嫌になる頃の5月連休明け,仮採用・研修期間の終わ

表3−5 追指導の形態

分 類 エピソード数

①実施時期

A担当者 B引き継ぎ

422

合 計 8

る6月頃,試行期間が終わる7月から夏休みにかけて,入社後1か月 頃に会社に電話をかけ,卒業生の様子を確認するなどであった。

 担当者のカテゴリーでは2つのエピソードがあった。主なものは,

追指導は進路指導下と旧担任が連携して行っている,相談内容により 進路指導部か旧担任かを割り振っている学校もあった。

 引き継ぎのカテゴリーでは2つのエピソードが得られた。主なもの は,前任の進路指導部長が同校に在職しているので引き継ぎは特に問 題はない,前任の進路指導主任が転勤し進路指導係をしたことがなく いきなり主任になり進め方が分からず大変だったなどであった。

 追指導の実施時期は,研修二三後,試用期間後など各聾学校で工夫 しているが,入社後2〜4か月の間に実施している。予算の関係で就 業体験のある時期に合わせて実施する学校もあった。追指導を担当す

るのは旧担任と進路指導部である。追指導の必要性から考えると進路 指導部の引き継ぎはとても重要な要素になるが,前任者の転出に伴い 回外からいきなり主任になったケースなど,引き継ぎがうまくいくは ずもなく,進路指導係を決める際の配慮が必要であることが示唆され

る。

3.追指導の予算

 追指導の予算に関するエピソードは7つあり,それを①予算,②追 指導と職場開拓と兼ねるの2つの群に分類した(表3−6)。

 以下それぞれの群について述べる。

 予算のカテゴリーでは4っのエピソードを得られた。主なものは,

表3−6 追指導の予算

分 類 名 エピソード数

①予算

A追指導と職場開拓と兼ねる

43

合 計 7

 追指導には出やすいが予算はあまりない,予算をつけてもらいたい が難しく,頻繁には出られない,高等学校のように進路費を在校生か

ら徴収するのは難しいなどであった。

 追指導と職場開拓と兼ねるのカテゴリーでは3つのエピソードを得 られた。主なものは,職場開拓は在校生への活動であるため予算を出 してもらえるので,追指導単独ではなく職場開拓及び追指導というこ とで実施している,進路開拓と絡めて行うことが多く,就業体験の指 導に併せて追指導を行っているなどであった。

 追指導にかかる予算の有無は学校により様々であった。予算があっ ても減額や限度があり課題を残している。在校生の就業体験と卒業生 の追指導を併せて実施するなどの工夫により,予算をどうにか捻出し ている学校もある。学校や行政に追指導の意義を十分理解してもらえ るような働きかけも必要であると考える。

4、卒業生との関係

 卒業生との関係に関するエピソードは16あり,それを①連絡があれ ば会って相談する,②聾学校の存在,③連絡方法の3つの群に分類し       表3−7 卒業生との関係

分 類 名 エピソード数

①連絡があれば会って相談する A聾学校の存在

B連絡方法

268

合 計

16

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